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第3話 妹の危機を救え!

 それからの俺は部屋に誰も居ない時に飛翔魔法フライトの練習をしていた。


 最初は寝ているベッドから少し浮き上がる程度だったのが、1週間、2週間、そして1ヶ月、3ヶ月と経つうちに部屋の中を自由に飛び回れるようになっている。


 速度も最初は蒲公英たんぽぽの綿毛が風に舞う様な頼りなさであったが、今や時速にしたら10㎞くらいは楽に出せるようになった。


  最高飛翔速度がどれくらい出るかは、狭い部屋では無理なのでやってはいないが、その分、鋭角に飛べるようにコントロールできている。


 まあ、そうなるまでには何度も壁にぶつかって痛い思いをしたが。


 そして、飛翔の魔法スキルのランクがEからDに昇格した。


 あと何度も壁にぶつかったのが、よかったのか何と防御もEからDになっていた。


 やはり魔法をひとつ覚えると道が開ける。


 前世の記憶があって、この状態だと暇で暇でしょうがないのだ。


 ああ、そろそろおっぱいの時間だ。


 俺も1歳半なのでそろそろ完全に離乳食にするようだ。


 そうなるとこの慣れた乳母さんの巨乳ともおさらばであり、少し残念である。


「ジョーちゃん、今日はごはんも持って来ましたからね~」


 ちなみに俺を引き取ったこの屋敷の主人、つまりこの領地を治めている俺の仮名の苗字のザヴィアー男爵夫妻は全くこの部屋に顔を出さない。


 俺を引き取ってから生まれた実の子供に夢中だそうだ。

 

 この乳母さん、名前はボニーさんと言うそうだが、彼女によれば実の子とはシンディという俺にとっては妹にあたる子だそうだ。


 シンディねぇ……


 女の子というのが微妙だが。


 ちょっと話が前後するが、何故、孤児の俺がザヴィアー男爵夫妻に引き取られたかというと俺の出自に関係がある。


 ボニーさんによれば、俺は元々、貴族の出身だそうだ。


 俺の父親は公爵として王都の近郊に城と領地を構えていたらしい。


 そうは言っても俺は5男だけれどもね。


 それが何故か濡れ衣を着せられたらしく、あっけなく断頭台で処刑されてしまった。


 すぐ上の兄も成人して王都の騎士団に所属していたが、この兄でさえ捕縛され、跡継ぎの長男から4男まで全て処刑されてしまったとの事。


 しかし、さすがに赤ん坊で、それも妾腹であった俺の命は許された。


 暫くして父親をはめた奴等(当然貴族だったが)の悪巧みが発覚し、その不倶戴天の仇である貴族も処刑される。


 こうして俺の父親の無実は証明されたが、残された肝心の俺が天涯孤独の身となってしまった。


 家を再興しようにも家臣達も粛清されたりして、殆ど残っていなかったから、それもままならず。


 この状況に王家も不憫と思ったのであろう、僅かな領地と引き換えに俺を養子として引き受ける貴族を募集したところ、名乗り出たのが、このザヴィアー男爵なのである。


 公爵の子という確かな血筋、そしてしがらみの無い男子という事で当初、歓迎していた男爵ではあったが、何と俺を引き取ってから1年後に実子が生まれてしまったのだ。


 実子が生まれるとそちらに愛情を注ぎたいのが人のさがである。


 母親であるザヴィアー夫人も当然、実子である愛娘シンディを溺愛している。


 俺なんかに構っている余裕は無いのだ。


 まあ、良い。


 俺も1人立ち出来るまで育てて貰えば、この屋敷にそれ以上居る必要も無い。


 二択で自分が選んだ道だ、泣きごとは言うまい。


 ボニーさんがおっぱいを飲ませてくれる。


 俺にとっては母親とも言える感触の大いなる双丘だ。


 ただ、今日はもう少しと欲しいという所で野菜スープと差し替えられてしまう。


「ごめんね~、ジョーちゃん。離乳食も食べないといけないのよ」


 野菜スープの後は粥と柔らかい肉団子である。


 普通に美味い。


 もう俺は歯も生えているのでまともに食べられるのである。


 どんどん食べる。


 魔法を使うと腹が減るのだろうか?


 食べ終わると猛烈な睡魔が襲って来る。


 赤ん坊は眠るのも仕事なのだ。


 俺が眠りに落ちるのを見届けるとボニーさんはそっと部屋を出て行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 2年後……


 俺は3歳になっていた。


 何故か、あれから二択の啓示は無く、俺は新しい魔法を覚えてはいない。


 LVレベルも相変わらず1のままだ。


 ただ、飛翔魔法は度重なる練習の結果、魔法スキルのランクがDからCになったし、疾走の特技を屋敷の中で実際に使ってみるなど、やる事は多かった。


 あれから、ザヴィアー男爵夫妻が俺に会ったのはたったの3回だ。


 特にザヴィアー男爵は俺を見る目がしまった感で一杯だった。


 そのあからさまな態度に流石の俺も傷ついたが、割り切るしかなかったのだ。


 ある日、俺は屋敷の庭で遊んでいた。


 俺は庭に出て初めてこの屋敷が王都から離れた辺境の地にある事を知った。


 周りは鬱蒼とした森であり、鳥の囀る声が聞こえて来るのだ。


 森の奥は暗く、見通しがきかない事から危険がありそうなのは明らかであった。


 当然、行こうとは思わなかった。


 俺は武器となる魔法が無い。


 魔族や魔物どころか、獣に出会っても逃げるしか術が無いのだ。


 俺が遊んでいると妹であるシンディが寄ってくる。


 どうやら俺は兄として認識されているらしい。


「お兄ちゃん、遊ぼう!」


 遊ぼうたってなぁ……子供の喜びそうなもの、そうだ、しりとり・・・・でもするか。


 俺がしりとりを教えるとシンディは面白かったらしく、夢中になって言葉を返してくる。


 その仕草がやけに可愛いので俺もつい夢中になってしまった。


「ジョー様、シンディ様、どこですかぁ?」


 乳母のボニーさんの声がする。


 こちらに近づいてくるようだ。


 俺がボニーさんの声で、ふっと我に返った瞬間、後ろに何か恐ろしい気配がする。


「きゃああああああ!」


 ボニーさんの悲鳴が響き渡る。


 俺が後ろを振り返ると、豚のような顔をした魔物が棍棒を持って立ちはだかっていた。


「があああああああああ!」


 それはこの地方に群れで暮らすという醜悪で破壊的な性格を持つ魔物、オークであった。


 俺はゲームでしか戦った事の無い魔物を目の前にして頭が真っ白になってしまった。


 頭が真っ白になれば身体の機能も停止する。


 思うように身体が動かない。


 ボニーさんはへなへなと座り込んでしまった。


 オークは唸りながら、俺の前を素通りしてシンディの方に向かう。


 2歳の幼女とは言え、本能的に女を欲しているのだろうか?


 まずい!


 どちらにしろ、シンディにとっては害が及ぶ結果となる。


 助けたい!


 こいつのおかげで俺は冷たく扱われているなんて思えなかった。


 でも身体が、情けない事に身体が動かないんだ!


「ぐがあああああああ」


 ひっくひっくひく……


 シンディはあまりの恐怖に声もろくに出せないようだ。


 その時である。


 ピンポーン


 ああっ!


 に、二択の啓示だっ!


 俺はひとつ息を吐いてその後に出る選択肢を待つのであった。

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