第1話 運命の女神
気がついたら雲の上に居た。
雲は雲、空に浮かんでいるあの雲だ。
水滴の塊に何故、俺達が乗っているのか?
それより、俺ってどうしたのか?
突っ込みどころ満載だが、脇に誰か居る。
見るとゲーム屋のバイトの女の子が微笑みかけていた。
何故、ここに居る?
しかし、よく見ると髪の毛の色が違っている。
今の彼女は美しい金髪だ。
しかもそれがまた更に彼女の美しさを際立たせている。
「ようこそぉ!」
「ようこそぉ! って 全く状況がわかんないままなんですけど」
「ふふふ、簡単に説明するわね。あの二択の勇者ってゲームは魔道具なの」
「まどうぐぅ?」
「そう、魔道具。あれを起動すると自動的に異世界に勇者として転生することになっているのよ」
「て、転生って、もしかして俺、死んだ!?」
「安心して! こういう場合、大抵が不遇の死を遂げた主人公が転生するってパターンなんだけど」
「お、俺は死んでいないの?」
「ええ、毎度毎度死んでいたら救いがないから。君の元居た世界はあの瞬間に時間が一切止まっているわ、魂だけがこの世界に来て誰かの身体に入り込むのよ」
「で、ここは?」
「私はマリアンヌ、この世界を管理する女神よ。世界に不均衡が生じそうだからって、大神である私の父があの魔道具を授けてくれたの」
「話がまだよく見えないけど、どうして俺なの?」
「それが全くの偶然、私は運命を司る女神の1人なんだけど、あのお店に行って世界の不均衡を正す勇者に魔道具を渡せって、御神託が出たのよ。たまたま来たのが君ってわけ」
「御神託って、誰の?」
「私のよ、当然! だって運命の女神なんだから」
俺はそれを聞いて大きな溜息を吐いた。
何か凄く適当だ。
俺のそんな顔を見ても彼女は微笑を絶やさない。
「ふふふ、全くの偶然ってわけでもないのよ。何せ、二択の勇者なんですから」
二択の勇者って、さっきから出てくるけど何だろうか?
俺は聞いてみることにした。
「さっきからマリアンヌが言っている二択の勇者って何?」
「まず、君はあの店に来る、来ないからして二択をしていたのよ。その二択をした事が、君の運命を変えたの。つまり二択の勇者になるのは君の必然だったわけ」
「はぁ、運命であり、必然ですか?」
「何か気の無い返事ね。まあ良いわ。二択の勇者について説明するわ。君は元の世界でRPGと言われる勇者が出てくるゲームを散々やっていたわよね」
「ああ」
「ゲームでは勇者ってステータスとか使える魔法とか呪文とか、大体決まっているじゃない」
「まあ、そうだな」
「二択の勇者はね、最初からステータスとか覚える呪文が決まっていないのよ。そう、さっきみたいに何かの節目に選択肢が出るの、それも基本はランダムにね」
「ランダム?」
「強制的に起こるイベントもあるから、一概には言えないけど。その時の選択で最終的に君がどんな勇者になるか決まるのよ、ちなみに今までの二択の勇者達は全てタイプが違う勇者になったわ」
成る程、そしてエンディングはやはり、その……
「ふ~ん、で、最後は魔王を倒して終わりなのかよ?」
「それがね~、魔王が出現するどころか、不均衡が生じてそれを正すとしか分らないのよ」
「はあ? 何か頼りないな~、それでも運命の女神?」
「なんですって! って怒りたいところだけど、今回は君をこんなふうに連れてきたのは私だし、最初のチュートリアルはしっかり説明させて貰うわ」
「で、俺は最終的には元の世界に戻れるの?」
「う~ん、わかんない!」
マリアンヌは首をちょっと傾げて可愛く呟く。
お前はどっかのCMタレントかよ!
しかし、マリアンヌはその某タレントより俺のストライクゾーンだから、そう言われるとつい許してしまう。
「まず、女神の加護を差し上げるわ。自分のステータスを見てくれる。ステータスオープンと念じれば見れる筈よ」
ステータスオープン!
すると出てきた、出てきた。
称号:【二択の勇者】LV.1
名前:タイセイ・ミフネ
HP:100 / ? 、MP:50 /?、スタミナ:E、防御:E
……って俺、すんごく弱くね。
多分、こんなんじゃ魔王どころか、その手下の、それも下っ端にだって瞬殺されるだろうよ。
「ふふ、LV.1だったら、そんなものよ。HPとMPは君が思っている通りの物ね。上限が見えて無いのは多分、二択によって上限が変わるからだと思うわ、防御も分るわね?」
「あ、ああ」
「よろしい! HPとMP以外はスキルレベルの表示になるわ。ランクは下がEから上はSよ。Eが入門者、Dが見習い、Cが1人前、Bが熟練者、Aが達人、Sが英雄ってとこね、スキルが無い物は全て素人って事」
「成る程」
「ゲームと同じように戦いの経験をつんだり、イベントが起こればレベルアップのチャンスなの、そんな時に二択が起こることもあるわ」
だったらゲームと同じ、戸惑いは無い。
俺は忘れられないうちにマリアンヌに尋ねてみる。
「それで加護って……何かくれるのかい?」
「ええ、HPかMPをどちらか若干増やすのと、スキルEを1つね」
「ええっ! たったそれだけ!?」
「贅沢言わないの! 要らないのなら別に良いのよ」
「ごめん、マリアンヌ様、ぜひください! お願いします!」
「ふふふ、じゃあ、これが候補よ。HPとMPはランダムだからね」
頑健E、疾走E、魔法耐性E、毒耐性E
マリアンヌが提示してきたのは基本的とも言えるスキルだった。
「武術系は無いの?」
「贅沢言わないって言ったでしょ!」
ここでまた俺の優柔不断さが出る。
どうしても決められないのだ。
「は~い、あと30秒よ!」
「ええっ!」
「申し込みが無ければ全て無し! よろしい?」
ええい! もうやけだっ!
「MPと疾走でお願いします」
「おおっと! ぎりぎりだったわよ、あはははは!」
畜生! 弱みに付け込みやがって!
「何か言った~?」
「いいえ、何も!」
「よろしい~! じゃあMPからね。スタートで開始、ストップで停止、簡単でしょう?」
どこのくじ引きゲームだよ、それ?
「スタートォ!」
ぴぴぴぴぴ……
何なんだ、この電子音は?
よし、そろそろかな!
「ストップゥ!」
ぴっ!
「ど、どうかな?」
「あら? 大当たり」
「ええっ!?」
「意外ね、このクジの最高の当たりを引いたわよ、君の現数値の倍の量を増やせるわ」
おほっ! ラッキー、じゃあMPは一気に150か!
「じゃあ、次に疾走ね、はい! って、あら?」
「こ、今度はどうしたの?」
「さっきのクジの大当たりのボーナスポイントが出たみたい。疾走のランクがEじゃなくてCになっているわよ」
な、何! これは本当にラッキーかも!
「はは、マリアンヌ、あ、ありがとう!」
「いいえぇ! これは皆、君の引きの強さよ。今後も頑張りなさい。そうそう最後の仕事をクリアしたら貴方は最後の二択を選べるわ」
「最後の二択?」
「さっきのわからな~いは、冗談。この世界に留まるか、本来の君の世界に帰れるかを選べるのよ」
もしかして、元居た世界に帰れる!
俺はマリアンヌのその言葉に最後の希望を見つけた気がしたのであった。
『無敵☆転生 俺は異世界で無双する!』
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『信長に学べ! 俺の異世界生き残りライフ』
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