0話 旅立ち
今から8年前、少年──時不知圭児の住む町が、魔物に襲われた。
近くにある自衛隊基地の人々も頑張って抗戦したが、やはり火器のない自衛隊員では厳しかった。
もう駄目かと皆が諦めかけたその時、1人の男が現れた。
その男は風の魔法を使い、魔物を次から次へと空に打ち上げ、地面へと叩き落していく。
最初何が起こったかわからなかった住民だが、それが助けとわかった途端、息を吹き返すように抗った。
その戦いは数時間に及んだが、人間側の勝利で終わることができた。
町の人たちはその男を救世主とし、歓迎した。
話を聞くと、その男は秋葉原から来たらしい。
飛行機はおろか、電車も車も使えない。
船は手漕ぎか帆船だけだ。
幼い圭児はその男にたずねた。どうやってここまで来たのかと。
その問いを待っていたとばかりに、その男は親指を立て、笑顔でこう言った。
『チャリで来た』と。
最近自転車に乗れるようになったばかりの圭児は、そんな遠くから自転車で来たその男にあこがれた。
それだけではなく、魔法を使い魔物を倒していく姿にも。
ぼく、おおきくなったらまほうつかいになる!
そんな少年に、その男は笑顔で頭を撫でた。
魔法使いになるのは大変たぞ。そう言って、少年に贈り物をした。
小さな女の子のフィギュアだった。
これを持っていれば、いつかはなれるかもしれないよ。そう言い残してその男は町を去った。
少年はフィギュアを大事に握り、その時を待った。
そして圭児がその男と別れた7年後、つまり去年。
15歳になった圭児は、魔法が使えるようになっていた。
本来ならば30歳にならなければ使えない魔法が何故?
圭児は考えた。そして1つの結論を出す。
ひょっとしたら自分には勇者の素質があるんじゃね? みたいな。
それから1年の後、彼は自転車に乗って走り出した。
その男からもらったフィギュアを持って。
この果てしなく続く国道40号を。