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まっしろなまっくろ その二

2


 「灼弾のエア」、ぼくが大好きなアニメ。

 真っ赤なツインテールに、白とオレンジのセーラー服、同じく真っ赤なプリーツスカート、そして、真っ黒なデザートイーグル。


 ぼくみたいに小柄な女の子が、銃を使って悪の組織と戦う物語。

 主人公の名前は篠崎・エアリエル・フレンディ。通称はエア。エアは様々な銃を使いこなして、仲間と一緒に先陣を切って敵に向かっていく勇敢な女の子だ。


 画面の前で、まっしろなぼくはそんなエアに何度も憧れた。

 ぼくは色のある世界に行きたかった。


 渡されたのは、エアと同じデザートイーグル。さしずめ、「エアの銃」。「エムラの銃」じゃなくて。

 ぼくは初めて、色を手にいれた。


 まっしろなドレスを脱ぎ捨てる。

 現れるのは、やっぱりしろいぼくの裸。

 おっぱいはエアよりも大きいけれど、ぼくはエアになることに決めた。


 鏡に映るのは、真っ黒な銃をたくましそうに構える女の子。


 これがぼく?

 信じられなくて、ぼくは鏡をマジマジ覗き込んだ。


 それが、ぼくがぼくの中のもう一人のぼくを見つけた瞬間。

 この姿ならなんでもできる。このまっしろな世界を壊すこともできる。

 ぼくは、両手で銃を構え、


「ずきゅぅぅぅん!」


 エアが銃を発射する真似をした。


――ガラスが粉々に砕け散る。


 エアの銃から放たれた弾丸は、やすやすとぼくを捕え続けてきたまっしろ地獄を撃ちぬいた。

 堪えきれず、ぼくはさらなる弾丸を所構わず撃ち込む。


 お父さんが大事そうにしていた抽象的な絵画も、高そうなシャンデリアも、おっきな薄型テレビも、とにかく全部を粉々にしていく。


 これ以上、引鉄(ひきがね)を引いても弾が出なくなった時、ぼくはガラスの抜け落ちたサッシから吹き込む冷たい風に気が付いた。


 ボロボロのしろに、まっくろな闇が口を開いている。

 ぼくは引き寄せられるように、この檻からまだ見たことのない外へと歩いていった。


「綺麗だなぁ……」


 窓越しに見るのとは違う、紫色の空と、空を泳ぐ星たち。

 外は本格的な夜を迎えようとしている。

 ぼくは新しい弾丸を補充したあと、全身を覆えそうな、江村先生が隠した大きめの黒いコートで頭まですっぽりと覆った。


 夜は更に深くなる。

 ぼくは大きく息を吸い込むと、


「さっさと失せろ、ベイビー!」


 特に誰に向けた訳でもない未来の暗殺者みたいな言葉を残し、住み慣れた大きな家に最後の一撃を食らわせた。


「5時頃、あいつは大学の研究発表の準備のためにこの家を開ける。日が暮れるを見計らって、君はその銃でガラスを破壊して家を飛び出せ。そして闇夜に紛れてここを離れ、俺の学校まで逃げるんだ。そこまで逃げきれば我々の勝ちだ。だが、君が逃げた後で、俺がまっさきに疑われては君を守りきれないかもしれない。だから、俺は学校で君を待つことしかできない。もちろん、近隣の住人に見つかれば面倒なことにもなりかねない。成功率は低くはないが、様々なリスクが伴うのは間違いない。それでも君は、やるか……?」


 脱出する準備をしている時、江村先生はそうぼくに念を押した。


 大丈夫だよ。ぼく、上手くやったから。

 あとはこのまま、このまま逃げるだけだから。


 不意に、ぼくのケータイが鳴った。

 家にいる時は、お父さんや江村先生との連絡以外で使われることのなかったケータイが、今、ぼくのスカートのポケットの中で震えている。


 胸のドキドキがひどくなる。

 相手は、ぼくのお父さんだ。出てはいけない。出たら、何もかもが失敗してしまう気がする。

 それでもぼくはなぜか、吸い寄せられるように"通話"のボタンを押してしまった。


「……お、お父さん……?」

「ダメだなぁ、こういうことしちゃ。シャロットは、あの人とは違うって思ってたのに、まさかこんなことしちゃうなんてなぁ……」


 いつも以上に気の抜けた声。

 でも、ぼくは声が出せない。


「何度も言ったじゃないか。もしシャロットが外に出たら、肌が紫に変色して、肺が破裂して、脳漿をぶちまけながら死ぬって……。残念だよ、私は、お前のそんな惨い姿、見たくないんだけどなぁ……」


 これ以上、聞きたくない。

 聞きたくないのに、電話を切ることができない。


「悪い子はお仕置きだよ。絶対に、私はお前を許さない。あの人と同じように、報いを受けさせてやる」


 最後にそう、お父さんは言ったのだった。


続きます!

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