【短編】追放された「燃費最悪」の重質量聖女、実は規格外の魔力タンクでした。〜変人回路技師に拾われ、物理演算とドーナツで最強の固定砲台へ改造される~
第1章:廃棄された大容量コンデンサ
王都の裏路地。吹きすさぶ冬の風が、容赦なく私の体温を奪っていく。
凍えるほど寒いはずなのに、身体の奥底だけが、焼けるように熱かった。まるで内臓が火事になっているみたいだ。
「……うぅ、はぁ……っ」
私は湿った石畳の上に膝を抱えてうずくまり、荒い息を吐いた。
もう、三日はまともな食事を摂っていない。空腹で目が回りそうだが、それ以上に、体内で暴走しかけている魔力の熱が苦しかった。
(……なんで。なんで、痩せられないんだろう)
朦朧とする意識の中で、私は自分の二の腕を弱々しく掴んだ。
服の上からでも分かる、タプタプとした豊かな感触。三日間の絶食で頬は少しこけたかもしれないけれど、お腹や太もものお肉は、私の身体にしがみついたままだ。
――聖女エレナ。それが私の名前であり、かつての肩書きだ。
女神から授かったとされる膨大な魔力を持っていた私は、期待の新人として勇者パーティに迎え入れられた。けれど、その期待はすぐに失望へと変わった。
『お前みたいなデブ、聖女の恥晒しなんだよ!』
勇者レオの罵声が、頭の中で反響する。
『燃費が悪すぎるんだよ。回復魔法一回で息切れして倒れるくせに、食費だけは三人前とか、笑えないんだよ。荷物持ちにもなりゃしない』
『そうよねぇ。見なさいよ、あの見苦しいお腹。あれで祈りを捧げるとか、女神様への冒涜だわ』
新しく加入したスレンダーな魔導師の少女も、クスクスと笑っていた。
彼らの言う通りだった。私は魔法を使おうとすると、すぐに身体が熱くなり、激痛が走って倒れてしまう。
だから、痩せようとした。彼らのようにスマートになれば、魔法も上手く使えるようになると信じて、必死に食事を制限した。水だけで過ごした日もあった。
でも、痩せようとすればするほど、事態は悪化した。
魔法を使おうとするたびに、身体が焼けつくように痛み、指先から出るのは線香花火のような情けない火花だけになった。
そして結局、「魔力制御不能の無能」という烙印を押されて、着の身着のまま放り出されたのだ。
「……あぐっ、熱い……!」
限界だった。視界が白く染まる。
体の中に溜め込んだ魔力が、行き場を失って暴れている。これは「魔力酔い」なんて生易しいものじゃない。もっと物理的な、身体が内側から溶解するような感覚。
このまま、私はここで野垂れ死ぬんだ。誰にも必要とされず、誰の役にも立たず、ただの燃費の悪い肉の塊として――。
コツ、コツ、コツ。
不意に、規則正しい足音が近づいてきて、私の目の前で止まった。
衛兵だろうか。こんな汚い浮浪者がいたら、蹴り出されるに決まっている。私は恐怖で身体を縮こまらせた。
「……素晴らしい」
頭上から降ってきたのは、罵倒でも、同情でもなかった。
純度100%の、狂気じみた「感嘆」だった。
え? と顔を上げる。
そこに立っていたのは、ボサボサの黒髪に、瓶底のような分厚い眼鏡をかけた男だった。薄汚れた白衣のようなコートを羽織り、片手には怪しげな計測器のようなものを握っている。
彼は、私の顔を見ていなかった。
しゃがみ込み、私の身体から――いや、私の皮膚の下から漏れ出している「魔力の火花」を、まるで未発見の鉱脈でも見つけたかのような、ぎらついた目で見つめていた。
「おい、君。危険だな。『絶縁破壊』寸前じゃないか」
「え……? ぜつえん……?」
「その体格に対して、内包する魔力電圧が高すぎる。魔力を閉じ込めるための誘電体――つまり『脂肪』の厚みが減ったせいで、耐圧しきれずにリークしているんだ」
何を言っているのか、全然分からなかった。
ただ、彼が私の額に当てた手のひらが、ひやりとして気持ちよかった。
「あ、あの……私は、役立たずの聖女で……魔法も使えなくて……」
「役立たず? 馬鹿を言え」
彼は眼鏡の位置をくいっと直すと、初めて私の目を見た。その瞳には、侮蔑の色など微塵もなかった。
「君は、自分がなぜ苦しいか分かるか?」
「え……? 私が、太ってて……鈍いから……」
「違う。君の身体の『設計』に対して、『燃料』と『装甲』が足りていないからだ」
彼はコートのポケットから、油が滲んだ紙袋を取り出した。
ふわりと、甘くて香ばしい匂いが漂う。
市場の売れ残りの、砂糖がたっぷりまぶしてある揚げドーナツだ。
私のお腹が、恥ずかしいほど大きな音を立てた。
「き、緊急メンテナンスだ。食え」
「え……でも、私……これ以上太ったら……」
「馬鹿野郎! 死にたいのか! 今の君に必要なのは、魔力熱を遮断するための『断熱材』であり『絶縁装甲』だ! 食え!」
彼は強引に、私の口元にドーナツを押し付けた。
唇に砂糖が触れる。その甘さに、理性が弾け飛んだ。
私は震える手でそれを受け取ると、夢中でかじりついた。
美味しい。涙が出るほど、美味しい。
砂糖の甘さと、油のコクが、枯れ果てた身体に染み渡っていく。
すると、どうだろう。
あれほど身体を焼いていた不快な熱が、すうっと引いていくのが分かった。
摂取したカロリーが、即座に魔力を包み込む新たな組織――彼が言うところの「絶縁層」――へと変換されていく感覚。
熱が収まり、代わりに指先から、ポゥッ、と温かな光が溢れ出した。それは今まで見たこともないほど、純粋で、密度の高い魔力の光だった。
「……美しい」
男は、その光を見てうっとりと呟いた。
「やはりな。素晴らしいキャパシタだ。これほどの魔力を、その柔らかな肉体の中に圧縮して保存できるとは……。君はデブじゃない。『超大容量魔力タンク』だ」
彼はニヤリと笑うと、ドーナツを頬張る私の二の腕を、愛おしそうにムニリと摘んだ。
「俺の名はレイン。王立魔導院を追放された、しがない回路研究者だ。……君をスカウトする。俺の理論を実証するには、君のその『脂肪』がどうしても必要なんだ」
これが、私――エレナと、変人魔導工学者・レインさんとの出会いだった。
第2章:ハイカロリーなメンテナンス業務
レインさんに連れられて辿り着いたのは、王都の外れにある古びたアパートの一室だった。
ドアを開けた瞬間、機械油と、焦げた紙、そして微かに甘い匂いが混ざった不思議な空気が流れ出してくる。
「散らかっているが、気にするな。足の踏み場は……その辺にある」
部屋の中は、まさに「魔窟」だった。床には用途の分からない金属片や、何かの数式がびっしりと書かれた紙束が散乱している。壁には巨大な回路図のようなものが描かれ、机の上には奇妙なガラス管や銅線が山積みにされていた。
「座れ。すぐに詳細な『スペック検査』を始める」
レインさんは、部屋の中央にある座り心地の良さそうな椅子を指差した。私は言われるがままに、縮こまって座る。
彼は白衣のポケットから、古びた金属製のノギスとメジャーを取り出した。
「失礼する。魔力貯蔵層の厚みを計測する」
「えっ、あ、はい……ひゃうっ!?」
冷たい指先が、私の二の腕に触れた。
それだけじゃない。彼は私の二の腕の、一番タプタプとした柔らかい部分を、親指と人差し指でむにゅりと摘み、ノギスを当てたのだ。
「……ふむ。素晴らしい弾力だ。魔力浸透圧が均一にかかっている証拠だな」
彼は数値を記録していく。恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
「次は腹部だ。力を抜け」
「お、お腹はっ……一番見られたくなくて……!」
「馬鹿を言え。そこが最重要パーツだ。君の身体のメインタンクだろう」
レインさんは容赦なく、私のチュニックの上から、座ったことで三段に重なったお腹のラインをなぞった。いやらしさなど微塵もない。まるで、最高級のエンジンのピストンをチェックするような真剣な目だ。
「……完璧だ。この下腹部の厚み。これこそが、高電圧の魔力を受け止める『絶縁体』であり、魔力暴走時の熱を吸収する『ヒートシンク』の役割を果たしている」
彼は満足げに頷くと、部屋の隅にあった黒板に、チョークで難解な図式を書き殴り始めた。
「いいか、エレナ。よく聞け。君がこれまで魔法を使えなかったのは、君が無能だからじゃない。出力端子が貧弱すぎたんだ」
彼は黒板をバンバンと叩いた。
「君の魔力容量は、王都の発電所並みだ。それを、既存の細い杖や、君の未熟な制御回路でちまちま出そうとするから、抵抗熱が発生して身体が焼ける。ダムの水を細いストローで吸おうとしているようなものだ」
「は、はぁ……?」
「君に必要なのは、太いパイプ(高出力回路)と、高電圧に耐えうる分厚い絶縁体……つまり、もっと太ることだ」
私は耳を疑った。
「ええっ!? も、もっとですか!? これ以上太ったら、お嫁に行けなくなっちゃいます!」
「世界の真理を解き明かすのと、結婚と、どちらが重要だ? ……まあいい。とにかく、俺の計算では現在の質量ではまだ安全マージンが足りない。目標、プラス10キロだ」
レインさんが机の上に広げた布を、バッと取り払った。
そこには、ホールケーキ、クッキーの山、脂の乗った肉料理が、所狭しと並べられていた。
「報酬だ。俺は金がないからな、研究費と食費にすべて突っ込んでいる。さあ食え。君のタンクを満タンにするんだ」
私はゴクリと喉を鳴らした。こんなご馳走、見たこともない。
恐る恐る、フォークでケーキを一口食べる。
……美味しい。
食べれば食べるほど、身体の奥に力が満ちていくのが分かる。魔力が安定し、肌艶が良くなり、二の腕の張りが戻ってくる。
「いいぞ、その調子だ」
レインさんは私が食べる様子を、記録用紙片手にニヤニヤと眺めている。
「摂取カロリー良好。皮下脂肪の充填率も上がってきた。見てみろ、噛むたびに揺れるその頬のライン……完璧な正弦波を描いている。美しい」
変な人。でも、この人は私が「食べて太ること」を、才能だと肯定してくれる。
その日から、私たちの奇妙な同居生活が始まった。
◇
私たちの仕事は、「魔導コンサルタント」――平たく言えば便利屋だ。
レインさんの奇抜な理論と、私の規格外の魔力タンクを使った解決方法は、すぐに一部で話題になった。
最初の依頼は、「幽霊屋敷の除霊」だった。
毎晩、誰もいない部屋で窓がガタガタと鳴り、ラップ音が響くという。普通の聖女なら浄化魔法で戦うところだが、レインさんは鼻で笑った。
「霊? 非科学的な。これはただの『気柱共鳴』だ。隙間風と部屋の固有振動数が一致しているだけだ」
そして、私に指示を出した。
「エレナ、仕事だ。この部屋の真ん中に座って、この特製プリンを食ってろ」
「へ? 食べてるだけでいいんですか?」
「ああ。君の仕事は、そこでリラックスして、その柔らかい身体を床に密着させることだ」
言われた通りに、部屋の真ん中でプリンを食べ始めると、不思議なことに、あれほど激しかった窓の振動がピタリと止んだ。
「な、なぜだ!?」と驚く依頼主に、レインさんは得意げに解説した。
「簡単な理屈だ。振動体の中央に、巨大な『質量』と『粘性』を持つ物体……つまりエレナを置いたんだ。彼女の脂肪が振動エネルギーを吸収し、熱に変えて拡散させた。要するに、震える鐘を手で押さえたのと同じだ」
私はスプーンを咥えたまま、恥ずかしくて身を縮こまらせた。
「あ、あの……私、ただ座って食べてただけで……」
「それがいいんだ。君のそのタプタプとした肉体は、最高の生体制振装置だ。胸を張れ、エレナ」
依頼主は涙を流して感謝し、報酬として山盛りの追加プリンをくれた。
座って食べているだけで、感謝され、報酬をもらえる。
レインさんは私の二の腕の揺れを計測しながら、「いいぞ、充電完了だ」と満足げに笑う。
こんなに幸せな職場が、他にあるだろうか。私の自己嫌悪は、カロリーと共に少しずつ溶けていった。
第3章:ガス欠の勇者と、満タンの聖女
そんなある日。私たちはギルドからの緊急依頼で、「暴風の渓谷」と呼ばれるダンジョンの調査へ向かった。
常に風速30メートル以上の強風が吹き荒れる危険地帯だ。
「エレナ、今回の作戦コードは『ダウンフォース』だ。直前に摂取したカツ丼特盛の約1200キロカロリーをすべて質量に変換し、地面との摩擦係数を最大化しろ」
「よく分かりませんが、飛ばされないように重くなればいいんですね!」
私はタプタプとしたお腹を揺らしながら、一歩ずつ踏みしめて進んだ。強風が吹き付けるが、レインさんに「宝物」だと言われたこのお肉が、錨のように私を地面に繋ぎ止めてくれる。
私の後ろを歩くレインさんは、私の背中を完璧な風除けにして、呑気に計測器を眺めていた。
岩陰を曲がったところで、私たちは数人の冒険者がうずくまっているのを見つけた。
ボロボロのマント。傷だらけの鎧。そして、見覚えのある金髪。
「……あれ? レオ?」
私が名を呼ぶと、その剣士――かつて私を追放した勇者レオが、驚愕の表情でこちらを振り返った。
「え、エレナ……!? なんでお前がここにいるんだ!?」
そこにいたのは、元パーティの皆だった。だが、その姿は悲惨だった。
レオは頬がこけ、目の下に隈ができている。新しい聖女の少女も、魔力切れで青ざめ、自慢のスレンダーな肢体はさらに細くなり、今にも風に折れそうだ。
「なんでって……依頼を受けて……」
「馬鹿な! 俺たちでさえ、この風と魔力消耗で進めなくなってるんだぞ! お前みたいな鈍臭いデブに、しかもさらに太ったお前に、何ができる!」
「ふん。効率が悪いな」
私の後ろから、レインさんが鼻で笑いながら前に出た。
「だ、誰だお前は!」
「俺か? しがない回路技師だよ。……見て分からないか、勇者くん。君たちは『燃料切れ』だ」
レインさんは冷ややかな視線を彼らに向けた。
「君たちの魔力タンクは小さすぎる。ポーションという高価な『水筒』でちまちま補給しなければ戦えない、燃費の悪い旧式だ。だが、エレナは違う」
レインさんは私の肩に手を置いた。
「彼女は身体そのものが『ダム』なんだよ。君たちが捨てたその脂肪の中に、国家予算並みの魔力エネルギーが蓄積されている。君らとは基礎設計が違うんだ」
「なっ……なんだと……! そんなハッタリを!」
レオが激昂したその時。
――キェェェェェェッ!!
頭上から、空気を切り裂くような咆哮が響いた。巨大な影が雲を割って降りてくる。この渓谷の主、暴風のワイバーンだ。
「くそっ、来た! 迎撃だ!」
レオたちが慌てて杖や剣を構える。だが、魔力不足の彼らが放ったファイアボールは、ワイバーンが羽ばたいた風圧だけで簡単に消し飛んでしまった。
「だ、駄目だ、魔力が足りない! 防御結界も張れない!」
「逃げられるか! ブレスが来るぞ!」
ワイバーンが大きく息を吸い込む。圧縮された空気の塊が、今まさに放たれようとしていた。
今の彼らに、それを防ぐ術はない。
「レインさん!」
「ああ。見せてやれ、エレナ。君が蓄えたカロリーの真価を」
レインさんが私の背中に両手を当てた。
彼の手を通じて、私の体内の奥深くにあるリミッターが、カチリと音を立てて解除されるのが分かった。
「ターゲット、ワイバーン。出力制御、解除。……放て!」
第4章:超高電圧・絶縁破壊砲
私は、お腹の底に溜め込んだ莫大な魔力を、一気に練り上げた。
普通なら、身体が焼き切れるほどのエネルギー量だ。かつての私なら、練り上げる前に気絶していただろう。
けれど今は違う。
私には、レインさんに食べさせてもらった、分厚くて、柔らかくて、頼もしい「脂肪」がある。
このお肉が、高電圧の負荷を完全に遮断し、発生する熱を優しく吸収してくれるのが分かる!
「いっけぇぇぇぇーーっ!!」
私の身体全体から、極太の閃光が放たれた。
杖の先から出るような、細い光じゃない。私の全身のシルエットと同じ太さの、圧倒的な魔力レーザーだ。
――ズドオオオオオオオオッ!!
光の奔流が、ワイバーンの放ったブレスごと、その巨体を飲み込んだ。
大気が焼け焦げる匂いと、轟音が渓谷を揺るがす。
凄まじい反動が私を襲う。だが、私の重たい体重がアンカーとなり、地面にめり込みながらも耐え切る。
もし私が痩せていたら、反動で吹き飛んでいただろう。この「重さ」こそが、最強の砲台の証!
やがて光が収まると、そこには黒焦げになったワイバーンが転がっていた。
そして私は――少しお腹が空いて、息が上がっただけで、無傷だった。
「……な、なんだよ、今の威力は……」
静寂の中、レオが腰を抜かしながら呟いた。聖女の少女も、信じられないものを見る目で私を見上げている。
「お前……そんな力、持ってたのか……?」
「持っていたさ。君たちが『デブ』だと馬鹿にして、捨てた脂肪の中にな」
レインさんが、埃を払いながら私の隣に歩み寄ってきた。
「彼女の魔力運用コストは高いぞ? 今の一発を撃つのに、カツ丼換算で10杯分のエネルギーを消費した。……ポーション代をケチって食事を抜く君たちには、到底扱えない代物だったな」
レオたちは、何も言い返せなかった。
ただ、圧倒的な「容量の差」を見せつけられ、惨めに俯くことしかできなかった。彼らの背中は、以前よりもずっと小さく、そして頼りなく見えた。
「……行くぞ、エレナ。長居すると、貧乏神が移る」
「あ、はい! ……元気でね、レオ」
私たちは呆然とする彼らを残し、風の止んだ渓谷を後にした。
◇
帰り道。馬車の荷台に揺られながら、私は盛大にお腹を鳴らした。
「うぅ……お腹空きました、レインさん……」
「だろうな。あれだけの出力を出したんだ。かなり『燃料』を持っていかれたはずだ」
レインさんは、少しげっそりした私の顔を見て、慌てて荷物の中から包みを取り出した。
「緊急補給だ! 街まで持たない。ここで食え!」
現れたのは、特大の板チョコと、蜂蜜たっぷりのパンケーキだった。
「わぁっ! いいんですか!?」
「当たり前だ! 早くその美しい丸みを取り戻さないと、俺が落ち着かない!」
「ふふ、レインさんは心配性ですね。……いただきまーす!」
私は大きく口を開けて、甘いご褒美を頬張った。ん~っ、幸せ!
夕日の中、幸せそうにチョコを頬張る私を、レインさんはノギス片手に満足げに眺めている。
「……よし。二の腕の張りが戻ってきた。これで次の実験も万全だな」
「もう、実験ばっかり! でも……」
私は食べかけのチョコを差し出して、ニッと笑った。
「レインさんの実験なら、私、いくらでも付き合いますよ! だって、ご飯が美味しいですから!」
痩せたいと願っていた聖女はもういない。
ここにいるのは、太らせたい科学者に愛された、世界一燃費が悪くて、世界一幸せな「重質量聖女」だ。
私たちの重厚でハイカロリーな日常は、これからもずっと続いていく。




