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余命48時間  作者: 葉加多錬一朗


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3/5

どうでもいい


 今日もおれはゴミくずの山の中から起き上がった。カラカラ音をたてる辺りの空き缶がおれの目覚まし時計。

 だが、働いているわけではないので特に起きなければ行けない時間とか、行くべき場所があるわけではない。

 毎日嫌な視線を向けられながら近所をほっつきあるいて、たばこと焼き鳥と酒とパックご飯をコンビニで買って、それをすぐ横の公園で食って飲んで吸って、家に帰ってテレビを見て、眠くなったらたばこを吸って寝る。年金をもらい始めてから毎日毎日このスタイルだ。

 たまには気分転換をしようとか、たまには家をきれいにしようとかもめんどくさいから考えたこともないし、そんなことができるほどの金もない。

 だが、それでいいと思っている。犯罪をしているわけでもないし、今の生活に文句を言ってくる家族もいない。大家ものろまだからおれに家に来て何かしら言ってくることもない。

 とりあえず、今の生活が続けばいい。それ以外考えていない。誰にも迷惑をかけない、自分だけの暮らし。毎日が同じことの繰り返しだとしても、別に不満はないのだからそれでいいと思っていた。

 その次の日もゴミくずの山の中から起きた。そしていつものようにコンビニへ向かったときだった。

「すみません、ちょっとお話いいですか?」

背が高い黒い帽子を被って黒いスーツを着ているやつが話しかけてきた。

「ああ…あ…」

なんの用だよって言おうとしたが、最近まともにしゃべっていないせいか、声を出せても言葉が出せない。

「突然すみません、私、シノと申します。今回はあなたに重要な報告がございますので参りました」

「ああぅあ、ああぁ……!」

まともに口から言葉を出すことができない。だか、だがそれでも、やつは話し続ける。

「これからあなたは48時間以内に命を落とします。悔いのない人生をお送りください」

そう言い残して、やつは去っていった。一体あいつは何だったんだと思い、おれはいつもの足取りでコンビニへ行った。

 家に帰り、テレビをつけてゴロゴロしていると、ふとさっきの

黒スーツのやつのことを思い出した。

(48時間以内に死ぬとか、本当にあいつはなんだったんだ…)

そう思って、たばこを吸おうとライターの火をつけた。だが、なぜかたばこを出そうとせずに、ずっとライターの火を眺めていた。ぼんやりと、ぼんやりと揺れる火を見ていたとき、ボーッとしていたおれは目覚めた、いや、思い出したというべきか

(そうだ、そうだよ、シノだよ。あいつだ、あいつだったのか)

おれがガキのとき、まだ実家でじいちゃんばあちゃんと暮らしていた頃だ。


「わしはどうやらそろそろ死ぬようじゃ」

「あなた突然どうしたんですか。なんの病気もないのに死ぬわけないでしょう」

「いや、シノっていう中々高そうな背広を着とったのが目の前におったじゃろ、そいつがわしに48時間以内に死ぬとかいうてきたんじゃ」

「あなた寝ぼけてるんですか?今日は家にお客さんは一人も来てませんよ、寝ぼけてるんじゃないですか?」

「いやあ、間違いなくみたと思うんじゃが…」


 こんな会話を遠い昔にしていたことを思い出した。その後本当に

じいちゃんは突然の脳梗塞で死んだ。さらに、ばあちゃんも似たようなことを入院中に言って、容体が悪くなって死んだ。

 まさか、

自分にもついにそのときが来たのか。実家は一人暮らしを始めてから仕事の忙しさなどもあり、就職してから今日に至るまで帰ったこともないし、冠婚葬祭にも足を運んだことがない。誰が死んだとか、誰が結婚したとかも全く聞くことがなかった。

 だがきっと、母ちゃんも父ちゃんもとっくに死んだだろうし、兄貴や姉貴ももう生きてるか怪しいだろう。そうか、遂に次は自分の出番か。



 なんだがとても怖くなってきた。今までの生活で満足していた自分が醜い。いざ自分がすぐ死ぬとわかってしまうと、ここまで死というものが怖くなってしまうものなのか。死に方もその後どうされるかもわからない恐怖に襲われた。

 その日は眠れなかった。殺されるのか、内側から急な病に犯されるのか、怖くて仕方がなかった。家の外を出ようにも、家の中で留まろうとも、どちらを選んでも「死」という未来が必ず付きまとう。

 そして、恐怖と共に、後悔の念が湧いてきた。仕事を抜け出してでも実家の母ちゃんや父ちゃん、家族と交流しておけばよかったとか、

もっと長生きできるようにたばこも酒もやるんじゃなかったとか、家をきちんと整理しておけばよかったとか、やり直せるなら一年でもいいから時間を巻き戻してほしかったとか、とにかくやるせない思いで一杯で、服がびしょ濡れになるほど泣いた。だが、どこまで泣いても時間が巻き戻るわけでもなければ、家族にあえるわけじゃない。夕方になるころまで泣いて、おれはようやく落ち着いた。

落ち着いたというより、空っぽになったというべきか。

 もうすべてがどうでもよくなってきた。おれの命も、未来も、家も、この後どうなるかも、後悔も、すべてすべてどうでもよくなった。だが、死ぬ前でもやっぱりたばこが吸いたくなってきたので、外にでることにした。死ぬ前になって今更たばこをやめようとしても手遅れだし。

 家中のゴミをかきわけておれは玄関へ行こうとした。だが、体が動いてくれない。足が以上にむくんでいて重たい。

 それと同時に激しい悪寒が降りかかってきた。カサカサとゴキブリ寄ってきて、ブンブンといくつものハエがおれに飛んでかかってきた。次第に視界がぼやけてきて、あっという間に倒れてゴミ山の中に埋もれてしまった。息ができない、そして、体も動いてくれない。こういうときには救急車を呼ぶべきだが、もう思考も記憶も何もかもがおかしくなり、遂にはぼやけていた視界も真っ暗になった。確か、最後に必死に叫ぼうとして、

「うーー、ああーううう!(救急車、早く呼んで!)」

叫んだが、帰ってくるのはゴキブリの音とたかってくるハエの音と、


「救急車は119ですよ。いまさらですけど」


やつがそう呟いたのが聞こえたあと、おれは死んだ。だが、どうでもよかった。どうでもいい人生だった。本当に、ひどい人生だ。


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