9.いと高き者【1】
夜が明けて、二人は森から抜けようとしていた。
「あ〜、マズイな」
「来たのか?」
「ああ、森の外で待ち構えてる」
「戻るか?」
「そうだな、退路も塞がれてるだろうが、多勢に無勢だ。森でゲリラ戦を仕掛けるしかなかろうな」
レッドが手を伸ばすと、ウェスはすんなりと肩車に応じた。
「それにしても、随分早いお出迎えじゃないか」
肩の上で、ウェスが言った。
「そりゃ、魔力も豊富で、バトルジャンキーの集団だぞ。連携プレーも得意だし、索敵担当やら斥候担当やら、きっちり仕事を分けてるに決まってんだろう」
「切り抜けられるか?」
「しっかり囲まれているから、少々骨が折れそうだ」
レッドは細やかに速度を変え、動きも変則的にした。
近付く敵には、ウェスが容赦のない迎撃をする。
「近付いてくる奴が減ったな」
「ああ、囲まれているのは相変わらずだが、近接攻撃が得意な者が減ったっぽいな。ちょっとどっかに腰を据えて、次の作戦を考えないと……」
それまで普通に喋っていたレッドが、不意にバランスを崩して転ぶ。
「うわっ!」
肩に乗っていたウェスは、放り出されて茂みに突っ込んだ。
「どうした?!」
「すまん。ちょっと油断した……かも……?」
レッドの太腿には、矢が刺さっていた。
「レッドに刺さる矢なんて、あるのかっ?」
「魔鉄製か……。中級の幻獣族くらいなら簡単に貫けるシロモノだ。相当な手練れの射手を連れてきたようだ……」
レッドは歯を食いしばり、刺さった矢を引き抜くと、ベルトを抜いて傷より少し上をきつく縛った。
「とにかく、奴らが近づいてくる前に、なんとかこの場を離れないと」
「歩けるのか?」
「どうかな?」
立ち上がろうとするが、すぐにも体が傾いて倒れてしまう。
ウェスにすら、ジリジリと様子を見ながら包囲の輪を縮めてくる魔族たちの気配が感じられた。
「ウェス、治癒の術は使えるか?」
レッドの問いに、ウェスは頭を振った。
治癒の術は、ウェスの魔力があれば当然のように扱えるものと見なされる。
だが、治癒はそれに長けた癒合の蒼の恩恵の瞳を持つ者であっても、扱いが難しい。
きちんと指導をされた者であっても、負った傷を癒やすのは経験を積まねば時間が掛かる。
「だろうな。とはいえ、こうなるとさすがにどうにもならんな。ウェス、キミだけでも……」
「やめてくれ!」
ウェスはレッドにしがみつき、頭を振った。
レッドの顔に、ファビアンの顔が、重なって見える。
瞬間、ウェスは今までの人生で最も後悔し、二度とするまいと思っていた行動を取る決意をした。




