異界の探偵事務所
「ふぁ~あぁ…」
窓から見える空はどんよりと曇っていた
今日は7月25日
相変わらず仕事は来ない…
「はぁ…暇だし筋トレでもするか…」
誰も居ない部屋に独り言が響く
ふんっ!ほっ!ふぬっ!
かれこれ1時間ぐらい経っただろうか
本当に筋トレは気力の回復にぴったりだ
ふん!ふん!ふん!
よし!ラストスパートだ!
と、そのとき乱暴にドアが開いた
「ふっ!とと…」
「先生!また筋トレしてる!」
ガチャガチャと荷物を抱えて、けたたましく入ってくる
「そんな暇があったらビラ配りでもしたらどうですか?!」
彼女は助手の爽
訳あって同じ屋根の下で暮らしている
「いや、ビラ配りはただ立ってるだけだからシンドいんだよ…」
「ならランニングがてらポスティングすればいいじゃないですか!」
"爽やか"で"さやか"なんだが到底今の彼女からは想像できないな
そんな事を考えていると…
「ハイ、これ」
と、5千円を手渡された
「今月のお小遣いです、プロテインも高いんだから控えてくださいね」
まったく、イマドキの高校生はこんなにもしっかりしているものかね…
「ああ、ありがとう。大事に使うよ」
はぁ…俺の稼ぎがもっとあれば高価なプロテインが買えるのだが…
今は爽の学費と生活費でギリギリだ…
「あっ今また変なこと考えてたでしょ!
私がこれで良いと思ってるんだから良いんですよ!」
彼女は進学校を辞め、比較的安価な通信制の高校へ入ったのだ
その為、事務所で勉強をしながら雑用等をこなしてくれている
本当に申し訳ない…
「だいたい高校は卒業はしておけって言ったのは先生じゃないですか」
そうだ、今後の事を考えて最低でも高校は出ておけと言ったのだ
「わかったわかった!ハイ!この話はオシマイ!」
と言った所でドアがノックされている事に気がついた
「あれ、いつからノックされていたんだろう…」
「ボヤッとしてないで早く出てください、私は荷物を片付けてきますから」
そう言い終わらないうちにドアが開いた
「あの、すみません。依頼をさせていただきたいのですが…」
現れたのは30代半ばの男性で、ヨレヨレのスーツを着ている
まだ14時をまわったところでやってくるとは
よほど切羽詰まっているのだろうか…
「はい、ではこちらにかけてお待ち下さい」
そう言ってデスクに書類を取りに行った