裏側の考察 (12月9日14:00)
――20XX年12月9日 14時00分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
掃除が終わり、班員はミーティングルームに集まった。
幸いにも盗聴器などは設置されていなかった。
話し合いができる時間は残り1時間半。
今のうちに全て詰めておきたかった。
「では、ミーティングを始める」
渦雷は班内会議を開始させる。
「議題は誘拐事件とそれらに関与しているであろう情報、怪しい動きがあった者の報告などだ。恐らく内部も関わっているはずだから、些細な情報でも共有してくれると助かる。また、誘拐に関して新着情報が入った場合は、それについても話し合いたい。――よろしく頼む」
「なら、僕からのほうが良いかもね。ただし、これは秘密にしておいてほしい。秘匿班が絡んでいるし、秘匿情報の一部横流しでもあるし、個人情報だから……」
東雲からの情報は、雨宮の個人情報という爆弾だった。
「……わかった。天道には明かさない様にしよう」
渦雷は了承するしかない。
「ありがとう。雨宮は――本名、西園寺桜子。西園寺グループ社長の娘だよ。今回の誘拐は西園寺家の子ども3名全てが狙われている。多分、今の段階では特捜は関係ないと思う。そして、恐らく誘拐したのは阿久津と関わっていたテロリストだよ。R国スパイも関わっている可能性が高い。……根拠はまだ言えない。ごめん」
「…え。……富裕層だとは思っていたが…まさかの西園寺グループ……」
「あらぁ、ピンポイントねぇ……。しかも、テロリストまで……」
「わぁ……。本当にお嬢様だったんですね……」
「ん!?――西園寺!??」
渦雷をはじめ、班員は驚く。
西園寺グループといえば、知らない人はいない大企業。
それに、前回PNG計画時の安在が働いていた会社である東山製薬は、西園寺グループ傘下の企業だ。
嵐山の言う通り、雨宮はピンポイントで事件に関わっていた。
通常、親族が絡んでいる事件からは外される。警察の暗黙のルールなのに、なぜか雨宮は事件に関わっている。
――知らなかったのか?それともわざとか?
お金持ちは日常的に誘拐の危険があると聞いたことがある。その護衛も兼ねていたのだろうか?
「えっと、僕もはじめて知った時は驚いたし、秘匿班ε――天道のスマホハッキングメンバーと言ったほうがいいのかな?でも、雨宮の正体に盛り上がったよ。だから、晴野も安在との時点で……知っている」
「そう……なのか」
東雲たちが正体を知った時期に驚いた。
――1ヶ月以上前じゃないか。
だが、護衛が目的なら知っていて当然だと思い直した。
「うん。個人情報だから言えなかった。ごめんなさい」
「いや、確かに俺でも言えない。……ただ、天道さんへの伏せ方は少し考えさせてくれ。事件の根幹に関わりすぎているから、言い方を工夫したい」
「わかった。そうして。……えっと、続けるね?」
渦雷は頷き、東雲は話を続ける。
「前回も今回も、僕の居る秘匿班εでは、西園寺3兄弟のスマートフォンの位置情報を利用して、行動を監視していたんだ。決められた時間にスマホの位置情報を見て、おかしな点がないか見守っていた……。だけど――今回、何故か誘拐された」
東雲は一呼吸おいて、再度話し出す。
「今回の誘拐の危険度は低いはずだったんだ。R国スパイの狙いは、テロリストとの接触と……多分、天道だから」
「!」
「確かに雨宮たちも候補には上がっていたけど、天道の方が危険度が高いと思われていた。雨宮たちの監視は、R国スパイとの接触を防ぐためがメインだったんだよ」
「接触……」
「うん。だって、前回の安在で失敗したんだ。なら、直接子どもに行った方が早いでしょ?……裏切者とか余裕で居そうだし、公安が万が一R国スパイを失尾しても大丈夫なようにね。それに、R国スパイたちが新しい協力者作って、雨宮たちに会いに行かせるかもしれない。だからこその位置情報の把握。……それほど、西園寺グループの情報漏洩は、日本にとってエグかったみたい」
失尾とは、尾行中に見失って、尾行の対象者を追えなくなることを指す。警察――主に公安が使う用語だ。
嵐山が考えながら発言する。
「……イプシロン班では、今回は誘拐はそんなに危険視されていなかったのね?R国スパイが、テロリストと接触していたとしても」
「うん。だからこそ違うと思った。そもそも論だけど、外交官の身分があるスパイは誘拐なんてしないからね。前回は西園寺グループが荒らされてたから、念のため」
東雲は頷き、言葉を紡ぐ。
「ただ……考えれば考えるほど、おかしな点があるんだ。秘匿班から回ってきた情報なんだけど、公安が荷物を預かるという形でスマートフォンと対象者が離れているんだ。それも、3人ともね?その直後に誘拐された。だから――僕は護衛していた公安が怪しいと思っている。…繋がってるでしょ、犯人と。さらに、緊急案件をかぶせてまで、晴野の任務を邪魔しに来てた気がするんだ。偶然にしては出来すぎているから、疑うけど。もしかしたら本当に偶然かもだけど……」
東雲は閉口した。
渦雷たちは誘拐された全員のスマートフォンを公安が持っているのはおかしいと思っていた。それに、遠隔で監視がついているのであれば、なおさら手放させないはずである。
――内部が絡んでいる。
確信犯だろう。一気に今回の誘拐が怪しくなった。なら、公安と手を組んだのは――?
「それなら……テロリストが犯行に絡んでいると思うか?」
渦雷は以前の阿久津の一件を思い出しながら問う。
誘拐にフラッシュグレネードを使う点で犯人は素人ではないと考えていた。共産主義系のテロリストなら、R国から何らかの支援を受けている可能性だってある。
「分からない。けど……可能性はあると思う」
「犯行手段……フラッシュグレネードで、か?」
「それもあるね。だけど、テロリストの格言……というか、合言葉を思い出してほしいんだけど。テロリストはいつも【全ての富を貧しい者に。団結せよ】と言ってるよね?……これってさ、西園寺グループが富の象徴として狙われたっていう事を示す証拠じゃないかなって、僕は思うんだ」
「なるほど……」
「だから、この誘拐の目的は、あくまで西園寺グループの子どもたち。R国スパイが関わっているのは、あくまでコミンテルンの支援と、西園寺グループの情報欲しさ。特捜は関係ない――そう、思っているよ」
東雲は雨宮が【特捜関係者だから】ではなく【西園寺家の娘だから】狙われたと主張した。そして、テロリストとR国スパイを切り離して考えた。
「なるほどねぇ……」
「確かに、分けて考えるのは一理ありますね」
嵐山と雪平が同意する。
「東雲。……晴野の緊急案件に関して、何か知っていること、もしくは推察できることはあるか?」
「晴野の緊急案件は本当に知らないんだ。εでの監視のターゲットが同じじゃなかったから、多分絶対別の指示系統でしょ。だけど――裏切者がいる前提で動いたんじゃないかなって思ったかな」
「……そうか」
「うん。【今日、3人が誘拐される】ってわかっていたから【発信機を本人の衣服か何かに着けて、武装して、追いかけた】が正解だと思うよ」
東雲の言葉に班員は頷く。
「晴野は……もしかしたら、秘匿班の仲間と雨宮たちとともに、数日潜伏するかもね。……裏切り者を潰すために。だから、今回の誘拐については僕は楽観視している。危険なのは次の天道。1課2係7班の情報が漏れるのも、このタイミングだと予想しているよ。拷問とかで吐かされるんじゃない?――僕からは以上かな」
東雲は話し終え、口を閉じた。
「渦雷リーダー。次、僕でも良いか?東雲の予想を聞いたからこそ、今一度、考えうる最悪な状況を共有しておきたい」
「あ、はい。霧島サブリーダ、お願いします」
霧島は少々ピリついている。
渦雷は驚きつつも霧島に意見を言ってもらうことにした。
「まず――お前ら楽観視しすぎ。晴野の実力、誰も正確に把握してねぇだろうが。だからこそ、晴野についての考察と、成功・失敗双方の最悪パターンを見ていくぞ」
霧島は一旦言葉を区切る。
「晴野についての考察だが――僕は、晴野裏切り者説を推すね」
「えっ」
「R国スパイと繋がっているというよりかは第三勢力寄りだとは思うし、そうであって欲しいが。……理由は実力が不明なのと、タイミングが良すぎる上に、事前にわかって動いていた節が散見されるから。ポイントは7つ」
霧島はグーにした状態から左手の親指を開く。
海外風の数え方だ。日本ではあまり見かけないから、違和感を覚えてしまう。
「1、晴野は実習後神社に立ち寄った。……なぜだ?普通、安全の問題で許可なんて下りない。なのに、神社に行ってお守り受けて帰ってきたんだぞ?おかしくないか?……何者かが司令を出すために立ち寄らせた可能性が高い。アナログな接触方法をする必要性、あるのか?スマホでいいだろ。それに――物理的な接触方法はスパイが良く使う手段だ。……疑ってしまうんだよ」
霧島は人差し指を開く。
「2、お守りを雨宮に渡していること。ただのエールのつもりなのかもしれないが、好みを把握したうえで用意し、常に身に着けるように言っていただろ?僕はこのお守りの中に発信機が入っていたと考えている。理由は6で話す」
霧島は中指を開く。
「3、今朝の晴野の行動がおかしい。雨宮の衿は曲がっていなかった。それに…衿を直しながら、衿の裏に何か仕込んでいた。恐らくこれも発信機だ。これも6で話す」
霧島は薬指を開く。
「4、晴野の手際が良すぎる。発信機は用意周到すぎるし、衿に着ける時の手際が良すぎた。アイツ、情報班員だろ?何でスパイのような動きができるんだ?僕と同じように公安系に鍛えられているならわかるが……実力を隠している理由がスパイ技術持ちで、特捜に入り込んでました、とかだったら笑えないぞ。……本当にR国スパイと繋がってないだろうな……。別の国だとしても、怖すぎるから辞めてくれよ……頼むから日本であってくれ。マジで」
霧島は小指を開く。
「5、晴野が武器を持って行こうとしていたこと。誘拐を企てているテロリスト相手に、カーチェイスしながら特攻かけに行く気満々だっただろ、絶対。ハリウッド映画かよ。……大体な?事前に戦闘が予測できる、時間指定の発信機だらけの護衛って何だよ。そんな仕事こっちが知りたいわ」
霧島は右手の親指を開く。
「6、晴野のパソコンに表示されていた点の数が、スマートフォンと発信機と思われるものを足した数と一致する。これほど仕込むのは異常だろ。普通は発信機を仕掛けても1個だ。バレる危険性が増えるのに複数仕込むとか、狂気の沙汰だわ。しかも、端からスマートフォンを頼りにしていない感じじゃないか!どう考えても、誘拐前にスマートフォンと離されることを知っていた可能性が高いだろ」
霧島は人差し指を開く。
「7、音信不通で、帰ってこねぇ!!発信機の情報も綺麗に隠蔽しやがって!!絶対テロリストの代わりに、別の目的で誘拐してんだろが!!違うなら無事とか何か一言寄こしやがれ!!言えなくても、せめて渦雷リーダーには何か連絡入れろや!」
霧島の考察は、どれもごもっともだった。
やはり、今朝の雨宮の衿は曲がってはいなかったようだ。渦雷たちが感じていた違和感は正解だった。
「次に、晴野が――というより、【晴野が所属しているチーム】が【雨宮たち】の奪還に成功したパターンだが……最悪を想定するために晴野裏切り者説で行くぞ。まず、雨宮を奪還後、堂々と拉致すると思う。行く前にウエストポーチを持って行っていた。あの中に銃以外の武器は入れているだろうから、スタンガンが入っていてもおかしくはない。……そして、第三勢力の所に雨宮を連れていく。目が覚めた雨宮は抵抗し、晴野の裏切りを知り――口を割らずに死ぬ。兄弟が解放されていない場合は、兄弟を人質に取り、口を割らせようとするだろうな。……特捜の情報は晴野を通してバレているだろうから、雨宮から引き出す情報は【所属している秘匿班の情報】と【西園寺グループ】関係がメインだろう。情報が手に入った後は、僕たち特捜を狩り放題になる。天道や僕らだけで済むとは到底思えない。組織ごとやられる可能性もある。……仮に晴野が2重スパイとして敵に潜り込んでいたとしても、こちらの情報は渡さざるを得ないだろう」
霧島が一呼吸を置き、続ける。
「……晴野はいつも適当に振舞っていて、本性が見えない。今回の案件が始まる前までは、そういうヤツだと思っていたが……もし、晴野の本性が血も涙もない冷酷女だったら、更に最悪だ。特捜の個人データをハッキングして、持ち出している可能性だってあるからな。晴野は東雲とネフィリムと同等の実力を持つ、ハッカーだぞ。……今回の件で、一番敵に回したくないって思ったわ。天道がいつも晴野に苦手意識を向けてんのが理解できた。……マジで怖いわ、晴野」
霧島は苦々しい表情だ。
「最後に、晴野が奪還に失敗したパターンだが……晴野が味方だった場合、最悪だ。待ち構えているのはテロリストとR国スパイ。秘匿班の仲間が倒されていた場合、応援もないまま拷問されるだろう。女性の場合はより酷い目にあう。位置情報もわからないため、誰も助けに行けない。そのうえ大使館内で行われていたら、最悪だ。治外法権の関係で、居場所がわかっても助けに行くことができない。……雨宮の兄弟が一緒に攫われていた場合は、雨宮の口を割らせるために、兄弟を痛めつけるはずだ。晴野は使命感から命に代えても守り抜くだろうが、先に雨宮の精神が壊れるだろう。向こうが雨宮が特捜と知っていたとしても、知らなかったとしても……兄がこんな目にあうのは自分のせいだと思うだろうから」
霧島が一呼吸を置き、続ける。
「それに、拷問に耐えきるのは雨宮では無理だ。――兄たちの無事と引き換えに、素直に吐くだろう。だが、向こうはそんな優しくないから、手のひらを返して殺されるか一生利用されるかのどちらかだろうけどな。晴野は情報がばれた時点で、知らぬ存ぜぬが通用しなくなるから、終わりだ。恐らく、晴野自体には価値を見出さない可能性が高いだろう。ごく普通の一般庶民っぽいし。ハッカーの実力も隠しそうだし。……生かされたとしても、晴野なら気力さえあればどこかで復讐するだろう。そして――次は僕らだ。アレクセイのPNG発行に関わっているということもバレるだろうから、初っ端から拷問祭りだろうよ。スパイに協力するか死ぬか選べって感じだろ。相手の目的によっては、芋づる式に関係者が殺されていくかもな」
霧島の予測はゾッとするものだった。
だが、現実味が薄い部分もあるのでは?と渦雷は思ったので、聞いてみることにした。
「霧島サブリーダー……本当に拷問までやるのか?この現代で?殺しも……現実であり得るものなのか?」
「渦雷リーダー……敵に情けを求めんなよ……」
霧島は渦雷の発言に引いた。居る場所の【裏】の違いかもしれない。
「……あー、強いて言えば、天道との仕事の都合で――見たことがある、し……気分悪くなるから、これ以上は言わない」
「えっ……」
「だが、拷問も殺しも過去の遺産ではない。現在も使用されているお話しの手段だ。……僕が軽く実体験済みだ。……これ以上は聞かないでくれ……」
――は?
――霧島サブリーダー、まさかの拷問、実体験済み!?
「ど、どんだけ死線かいくぐってるの……!?こ、こここ怖すぎなんだけど!?よく生きてたね!?」
東雲は震えながら発言した。
嵐山も雪平も顔色が悪い。俺もぞっとした。
……霧島サブリーダー、よく生きてたな……。
何かの拍子で、霧島の体に傷を見つけることがあったとしても、絶対に触れないでおこうと思う。
「あー……まぁ、その.....。もし、楽観視していいなら――晴野たち秘匿班?がそれぞれ暴れて、裏切り者を狩りまくって、明日明後日くらいに笑いながら雨宮とこの班に戻って来て、天道に車の件で怒られて大喧嘩をする。……これが一番平和で安心できるんだけどな。……世の中、そんな簡単には行かないだろ。最悪のケースまで行くかはわからないが、東雲の話を聞いて、一方的に安全だと判断して構えるのは違うと思う。あと、さっき気付いたんだが――悪いが、僕も狙われるかもしれない」
「え……?霧島サブリーダーも?」
渦雷は驚く。
――なぜ霧島さんが狙われるんだ?
霧島は、天道が持つ秘匿班に所属しているため、敵と面識があるのだろうか。それだとかなり厄介だ。
それとも天道が狙われることによる、ただの考察か?
「え。なぜ。天道の弟子だから?それとも誘拐の犯人知ってるの??」
東雲も同じことを思ったようだった。
「弟子じゃねぇ。誘拐の犯人も知らん」
「あ、違った……」
「その……My mother……あー、僕の母親が西園寺グループ社長の姉なんだよ」
「えっ!?」
「僕の母親は、僕の父親と駆け落ち同然でイギリスに行ったから、日本の血縁者とは今まで関わりが無かったんだ。……東雲の話ではじめて知ったけど――雨宮、まさかの従妹だったわ…。僕、今、従兄妹が揃いも揃って誘拐されているのかよ。感情がもうわからんわ……」
霧島は両手で顔を覆い、俯いた。
――どんな確率だ。
雨宮の本名を聞いたとき、霧島だけ反応が微妙に違ったが――どうやら、血縁者だったから驚いていたらしい。
霧島は感情の整理が追いついていないようだった。
「……戻ってきたら、『雨宮の従兄のお兄ちゃんだぞ☆』とか言ってみたら?和むかもよ?……多分」
「いらないだろ。それに、言う必要もないんじゃないか?特捜は本名禁止のルールだし。まぁ……今回は雨宮の本名と家を知ってしまったが」
「えー。言わないんですか……。まぁ、確かにそうですけど」
「ご両親が何かの拍子に日本に来て、雨宮の家族と会ったときが見物ね」
「……まさかのドッキリ企画になってる……?」
「あー。万が一そうなることがあったら、事前に明かすことにするわ……。んで?他のメンバーは、今回のことをどう思ってんの?」
霧島は班員に切り返した。
雪平が答える。
「僕は――晴野さんは味方で、奪還成功後に潜伏する説ですね。晴野さん自身に裏切者特有の【色】は見えていませんでしたし。そもそもですが、雨宮さんたちは端から誘拐されるよう仕組まれている可能性があると思います。それが【表】で、晴野さんたちが【裏】を担当しているのかと。そう考えると、こんな大掛かりな作戦にバックアップを用意しないなんて、あり得ません。だから、晴野さんは成功してるし、雨宮さんと一緒に居ると考えます。ただし、秘匿班の特性上、恐らく数日は行方をくらますのではないでしょうか。発信機の信号を消すのも、スマホが音信不通になるのも用意周到ですし。車も潜伏先も用意しているでしょう。楽観視かもしれませんが、現実的ではあると思います」
続けて、嵐山が答える。
「私は晴野は味方で、今日明日で戻ってくるか連絡がつくかのどちらかね。情報共有後にこちらから味方を通して仕掛けたほうが、秘匿班の存在も伏せれて色々と都合が良いでしょうし。……あと、晴野の秘匿班だけど――私は一般的な公安警察系ではないと思っているわ。関わっているのって、もう少しダークな組織っぽくない?……例えば公安ゼロ課とか、別班とか。事前に誘拐がわかっていたということは、それだけの情報収集能力があるということ。しかも武器まで必要になるって相当な荒事専門じゃない?……結構闇が深い秘匿班だと思うわ。訓練ではそんなに実力があるように思えなかったけど、単に天道の件でやる気なかっただけじゃなく、実力を隠す必要があったのかもしれないわね」
最後に渦雷が返答する。
「俺は雪平と同じように、晴野が味方で奪還後に潜伏する説を推す。そして、秘匿班については嵐山と同じ意見だ。秘匿班が動いているから、サポートがあって欲しい……。霧島さんの話を聞いた後では、本当に……切実に、サポートがあって欲しい」
渦雷は少し涙目だった。
霧島の話で誘拐のリスクを軽めに見積もっていたことに気付き、晴野たちの状況にかなり不安になっていた。
渦雷自身が誘拐に無縁だったこともあるだろう。
だが、天道さんのあの一瞬の切り替わりの意味を、上辺だけでもわかった気がする。
「……えーと、渦雷リーダー……大丈夫か?その、怖がらせたかもしれないが、リスクを把握する意味で言っただけだから。晴野ならきっと笑いながら雨宮と戻ってくるだろ?……うん。そうに違いない。大丈夫大丈夫。アイツ、いっつもノリに任せて行動する、適当なヤツじゃん」
霧島は渦雷を安心させるよう、寄り添う。
渦雷は感情があまりなく、恐らく感情面の発達(感情の豊かさに関して)が人より遅いのだろう。それとも知覚が上手くできていないのか。
霧島は渦雷のメンタルケアに務めることになった。
対して、東雲は今後のことを考えて唸っていた。
嵐山が切り出す。
「さて、これ……天道にどこまで話す?――どこ切り抜いても地獄よね」
「禿同。話が全て秘匿班関わってるし、何なら個人情報駄々漏れだからね。……僕が天道を追い払いたかった理由はこれだよ。勝手に話していいもんじゃない」
「僕は天道を信用しても良いと思っているが、余計な行動が多いからそこが心配。大事な部分はしょって言ったとしても、つぎはぎだらけで意味通じそうか?」
東雲が嵐山に同意した。霧島も説明に悩んでいる。個人情報が流出して判明しました、とは口が裂けても言えない。
雪平は渦雷に聞く。
「伏せ方が厳しい部分がありますよね……。どうしますか?」
「……雨宮に関してはご家庭の事情で狙われた。晴野は多分、天道の車で雨宮を奪還しているはずだが、秘匿班が絡んでいるから身を潜めていると思う。阿久津の一件で関わっていたテロリストとR国スパイが繋がっていて、誘拐は彼らの犯行の可能性が高い。また、雨宮の誘拐が成功するよう、公安にまぎれた裏切り者が居るから、探して〆たい。また、緊急案件が重なった件もあって、上は一切信用できない。情報がどこまで漏れているかは不明だが、恐らく天道さんはアウト。次は天道さんが狙われると思うし、天道さんが終わったら俺らだと思う。また、霧島も危ないかもしれない。詳細は秘匿班経由の情報だから言えない。――隠しながら要約するとこんな感じか?……どこまで知らぬ存ぜぬで行けるんだろう……」
「綺麗にまとめたなー。根拠聞かれても答えられないが」
「そうね。これで行きましょう。これ以上言えないわ」
「良い感じですね。あ、僕、調査部に雨宮さんたちの護衛をしていた公安の人の名簿を送ってもらえるよう、頼んでみますね」
霧島、嵐山、雪平は説明に賛同した。雪平は更に裏切者を制裁すべく、リストを手に入れる気のようだ。
「そう言うしかないと思うよ。――あ、僕から別件で補足。1課2係7班オフィスに侵入した犯人はまだ捜査中だけど、かなり絞れているっぽい。だけど――確実な証拠確保のために泳がせているだろうから、気を付けてほしい。これからも朝の掃除と、人の出入りの都度の掃除、必ず2人くらいはオフィスに残るのを続けよ?」
東雲も賛成だったが、他に持っていた情報を公開してくれた。
候補は絞れているらしい。
「わかった。十分気を付けるようにしよう。知らせてくれてありがとう」
「んー。僕からは特にないですが、最近スパイやテロリストの入国が多いみたいです。どこで繋がっているかわかりませんので、気を付けておくに越したことは無いでしょうね。……まぁ、いつもの通りなのですが……」
雪平は公安の情報を伝えてくれた。
元々入ってきていたようだが、最近は公安が尾行する入国者が増加しているようだ。
アレクセイの仲間も入ってきている可能性がある。気を付けたい。
「私からの補足や情報はないわね」
「僕もないな」
「俺もない。――他になければミーティングを終了するが、いいだろうか?」
嵐山と霧島、渦雷は共有できるような情報は持っていなかった。
「なら、天道が戻る前にお昼ごはんにするか。武装待機で食べれていなかっただろ」
「そうね。昨日の残りの鍋にを温めてくるわね」
「嵐山さん、お願いします。僕は調査部にメッセージ送ってきます」
「確かにおなかすいたね。緊張感で忘れてた。……僕、机拭くね」
「そうだな。武装は夜までこのままにしておこう。俺もデスクでメッセージを確認してくる。――解散」
やることを決め、各自解散する。
天道が来るまでの間に、遅めのお昼ご飯を食べる渦雷たちだった。




