最強の助っ人 (8月31日0:30)
――20XX年8月31日 00時30分 青少年特殊捜査本部 3課1係4班オフィス
エレベーターが上昇し、渦雷たちは3課があるフロアまで移動する。
青少年特殊捜査本部の3課は【情報捜査部門】である。
1係はハッキングやクラッキングなどの攻撃型、2係はセキュリティー対策などの防御型での特化型のバケモノ養成所となっている。この2つの係は研修と称し、毎月架空のサーバーで鬼畜なバトルを楽しく繰り広げている。
噂では設立や運用には、警察のサイバー犯罪対策課だけでなく、陸上自衛隊情報課、別班などの組織も関与しているらしい。
3係は比較的一般的なホワイトハッカーの育成や、情報収集、情報分析を主に行っている。
どの課も1、2係に比べて3係は穏やかであることが多いようだ。
エレベーターが到着し、渦雷たちは籠から降りて廊下を進む。しばらくするとネフィリムたちのオフィスのドアに辿り着いた。
コンコンコン。
渦雷はドアをノックする。その後、霧島とともにネクタイピンで第一ドアロックを開錠して3課1係4班のオフィスに入る。短い廊下を進んだのち、同じように第二ドアロックを開錠する。曇りガラス製のスライドドアが開き、渦雷たちは目的の3課1係4班のオフィスに足を踏み入れた。
渦雷たちの目の前には近未来的なオフィスが広がっていた。
情報捜査班と言うだけあって、たくさんのパソコンが目に入った。個人用の広めのデスクに、複数台のディスプレイが並ぶ。椅子は長く座っていても疲れにくいと有名なゲーミングチェア。班員が仕事をしやすいよう、環境が整えられていた。
また、この班では昼夜問わず全ての窓にはブラインドが下ろされている。昼夜逆転している班員が多いからなのだろう。
機材を冷やすためなのか、それとも熱がこもるからだろうか。室内の冷房はきつめに効いていた。
入り口(第二ドア)左手側にはウォーターサーバーと、インスタントコーヒーや紅茶、ラテなどのフレーバーが置かれているミニデスクが設置されていた。ミニデスクの下にはゴミ箱が置かれている。
渦雷の班では入ってすぐはミーティングルームで、パーテーション挟んで奥がデスクになっている。
だが、ネフィリムの班では入ってすぐはデスクになっており、奥に行くと休憩できるスペースになっていた。
課や班によって部屋の作りが違って面白い、と来るたび思う渦雷だった。
「夜分遅くに失礼いたします。お疲れ様です」
「渦雷氏!――霧島氏も!お疲れ様ですぞ!」
渦雷が声をかけると、すぐにネフィリムリーダーが応えてくれた。
ネフィリムは長めの前髪とショートヘアにしては少し長さのある、黒髪の男性だ。
髪はいろんな方向にはねており、アホ毛もある。要はボサボサヘアだ。カチューシャよろしくアイマスクを頭の上に上げ、瓶底眼鏡をかけている。
制服は着てはいるが、かなり着崩しており、ネクタイは1回巻いただけで結べていない。シャツは第三ボタンまで空いており、中に着ている青色のTシャツが見えていた。ネクタイピンは胸ポケットに差している。
ネフィリムの喋り方はネットスラングを多用する、ヲタク喋りだった。
3課は外に出ず、パソコンにひたすら向き合うのが仕事だ。なので、私服でなければ怒られることは無い。他の班員も結構着崩していた。
特捜自体、公務員に比べたら着こなしは相当緩いが、3課は特に服装ルールが緩い職場だった。
「あ、渦雷リーダーだ!乙でーす。霧島サブリーダーも乙でーす」
「渦雷リーダー氏。霧島サブ氏、乙っす!」
「1-2-7リーサブ乙乙!!」
その他の班員も声をかけてくれた。乙はおつかれさまですを意味するネットスラングだ。渦雷たちはお疲れ様です、お邪魔してます、と1人1人に答えていく。
青少年特殊捜査本部では、基本的に役職付けで呼ぶことになっている。なので、リーダーとサブリーダー、オペレーターは名前にくっつけて呼ばれることが多い。
渦雷はネフィリムの事を、ネフィリムリーダーと呼んでいる。ただ、自班内では色々あり、1課2係7班員同士で役職名で呼ぶ人は未だに少なかった。
「こんな時間にすみません。これ、差し入れです」
渦雷と霧島はミーティングルームの机の上に、複数のエコバッグに入れてきたものを出していく。
中身は様々な種類のカップ麺、お菓子、エナジードリンクだった。
これらは渦雷が事前に用意していたものだ。
渦雷は夕食後、天道との待ち合わせまで30分以上時間が空いてしまった。なので、この隙にスーパーやコンビニに立ち寄り、ネフィリムたちへの協力のお礼の品を購入していたのだ。ちなみに、天道と会う際には近くのコインロッカーに押し込んでいた。
今回の案件でもネフィリムたちにはかなり頼ってしまっているので、渦雷なりの礼だった。
「おおー!ありがたや、ありがたや!!いつもお気遣いいただき感謝ですぞ。みんなでいただきますぞぉ!……まぁ、3課1係4班は基本、昼夜逆転時々徹夜ありで勤務していますのでww時間はお気になさらずいつでも何でもどうぞどうぞwww」
ネフィリムは席を立ち、積まれた中からエナジードリンクを取り、また自席へ戻る。
渦雷と霧島はネフィリムについてデスクまで移動した。
「ネフィリムリーダー。先ほどメッセージでも伝えましたが、急ぎでお願いしたいことがありまして」
「ヴォイド……ああ、東雲氏から聞いておりますぞ。だけど本当に良いんっすかぁ?両方上司を追放した方が良くないっすかぁ?まあ、拙者等の恨みもあるんすけどwwww」
ネフィリムは笑う。だが、渦雷は笑うどころではない。
――ちょっと待て。天道さん、あんた他所で一体何をやったんだ。
渦雷と霧島は同じことを思ったが、時間が無いので詳しく聞かないことにした。今はテロ事件の解決と、冤罪を防ぐための証拠が必要なのだ。
「……冤罪で追放はできませんよ。それに……次の担当が、ちょっと……」
「あー……。なるほどなるほど一理ある。では、今回の件も両方に使えるようにしておきますぞww」
「ネフィリムリーダー、ありがとうございます。助かります」
「いーえー。7班に幸あれ!」
ネフィリムは会話を切り上げたのち班員に向き直り、大きな声で告げる。
「者ども!調査と工作の時間ですぞ!詳細はメッセ転送済!緊急案件RTA終わり次第開始オナシャス!!」
「イェーwwww!!」
「Fooooo!wwwww」
「りょwwww」
班員は楽しそうに、テンション高く返事をした。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
渦雷は頭を下げる。霧島もそれに倣った。
幸いにも緊急案件を抱えている班員はいなかったようで、班員は手分けして調査を始めた。 3課1係4班総力挙げてのお祭りだ。
渦雷と霧島は再度礼を言い、3課1係4班から退室した。
帰りの廊下。霧島が立ち止まる。渦雷が疑問に思っていると、霧島は渦雷に振り向き、声をかける。
「よし、戻って打開策考えるか。――よろしく、渦雷リーダー?」
「――!」
渦雷は一瞬驚き、すぐさま言葉を紡ぐ。
「霧島サブリーダーも、協力お願いします」
霧島と渦雷はお互いを見て役職名で呼び合った。
今まで渦雷も霧島も役職名で呼ばれるのを嫌っていた。特に霧島を役職名で呼ぶのは地雷だった。
二人は見つめ合ったまま、何となく笑ってしまう。
互いが打ち解け、始めて呼んだお互いの役職名にはどこかむず痒さがあった。……次第に慣れていくだろう。
渦雷はエレベーターホールに向かって歩き出す。
霧島は立ち止まったまま、進む渦雷に視線を向ける。
――やっぱり、渦雷がリーダーだよ。
渦雷は他の班からも慕われていた。その現実を正しい意味で見たからだろうか。霧島は今まで悔しくて言えなかったが、やっと渦雷のことを【リーダー】を付けて呼ぶことができた。
「……いつか絶対超えてやる」
霧島は小さく呟いた。その後、渦雷の背を追いかけるかのようにエレベーターホールへと足を進めた。
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