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自由な空の下  作者: 月陽
第六章 決別
61/62

マラディ外交官


 誘拐事件の翌日。

 リディアーヌの授業は休みで今日は一日ゆっくりと休むようにとフェリシエンヌから言われてしまったが、珍しく朝から屋敷にいたベルトランに呼ばれて彼の書斎でお茶をいただいている。



「リディ、体調はどうだ?」

「大丈夫です」

「詳細は陛下より聞いたが、顔色も良いようだな。だが⋯⋯」



 そう言ってリディアーヌの手を

 そっと手に取り優しくなでる。

 


「治癒で擦り傷は治ったとはいえ、お前の手に枷が付けられた事に腸が煮えくり返る」



 言葉は苛烈だが、その表情はどこまでも冷静で表情と言葉が合っていない。

 それが余計に怖く感じるが、それだけリディアーヌが傷つけられた事に対して怒っていると言うことでもあり嬉しくなる。



「お父様、私は大丈夫です。それに、私を攫ったかもしれない魔人なのですよね?」

「いや。お前を攫った者と別の魔人だ」

「そうですか」



 聞いておきながらあまり興味なさそうな返事を返すリディアーヌにベルトランはじっとその様子を見つめる。



「あの、やはり私を連れ去った魔人を探しているのですか?」

「あぁ」

「どうして?」

「理由は陛下にお聞きしたのだろう?」

「理由まではお聞きしてないです」



 リディアーヌの言葉を聞いてベルトランは思いっきりため息をついて首を振った。



「リディ。皇女を攫った者をそのまま放置しておくわけにはいかない。宮廷に賊が入ったにも関わらずそれを捨て置くのは皇国の威信に関わることだ。それは分かるな?」

「はい」

「何よりも生まれたばかりの皇女が攫われたなど、他国のみならず、自国の貴族に対しても付け入る隙を与える事となる醜聞だ。お前が戻ったとしても、魔人(あれ)を捨て置くなどオードリックは勿論、俺も考えていない」

「⋯⋯⋯⋯」



 リディアーヌはぎゅっと手を握りしめる。

 何故かは分からないが、とても心がぎゅっと締め付けられるような気がして⋯⋯けど、それが理解できなくて、もやもやとする自分の心が分からなくて何とも言えない気持ちになった。

 その様子をベルトランはじっと見つめている。



「国を背負う者は国を護るためにある。国を護ることはひいては民を護ることに繋がる。上が弱味を見せるわけにはいかない」

「はい」

「エクラタンは強国として名を馳せている。その大部分は皇帝の力が大きい。そしてその下に皇帝を支える貴族達。だが、中には馬鹿で阿呆な奴等もいるのは確かだ。如何に強国といえど、全ての貴族が皇帝支持派というわけではない。中には私腹を肥やす者、皇帝の足を引っ張る者、又は皇帝を追い落とし皇位を簒奪しようとする者がいる。多くの人間がいるからその考えもその数だけあるを否定するつもりはない。だが、皇帝一族を陥れるとしたら話は別だ」



 何故こんな話をリディアーヌにするのか訳が分からず困惑するが、ベルトランは真剣だった。

 だからちゃんと話を聞くも、やはり理由が分からない。

 たひとつだけ分かったことは⋯⋯。



「私が攫われたのは陛下を陥れるために?」

「そうだ。それに魔人が関与している」

「という事は、この国の貴族の誰かが魔人と手を組んでいるのですか?」

「手を組んでいるかどうかは分からんが、お互いに利用し利用されている、といった方が正しいだろうな」



 そういって紅茶を飲む。

 リディアーヌは何故そんなことをするのか、何故自分を攫ったのか、⋯⋯何故こんなに気持ちが悲しくなっているのかと色んな感情が渦巻き胸元を抑える。



「魔人を追う理由は様々ある。だが⋯⋯」



 そこで一旦言葉を切ったベルトランはすっとリディアーヌを見つめる。

 その表情は彼女を思い遣り慈しみ、限りなく優しい眼差しで、見つめられたリディアーヌはぎゅっと胸元の服を掴む。



「魔人を追う一番の目的は、娘を攫いあまつさえ売り飛ばし不遇の時を過ごさせた罪人は全て捕らえて報いを受けさせる。その為に俺達は魔人を追いそれに関わった者すべてを捕らえるまで追い続けるだろう」

 

 

 その言葉に驚き今度は大きく目を見開きベルトランを見つめた。

 その表情を見てベルトランはやれやれとすっと立ち上がりリディアーヌの隣に腰を下ろした。

 そして彼女を抱きしめた。

 

 

「あ、あの、お父様!?」

 

 

 何故抱きしめられたか訳が分からずに慌てるリディアーヌをベルトランは優しく頭を撫でた。

 

 

「嬉しいな」

「え?」

「リディが大分俺達に心を開いてくれた証拠だろう?」

「お父様?」


 

 リディアーヌはベストランの言葉に困惑する。

 その様子を見てふっと笑った。


 

「分かってないな。オードリックが何故未だに魔人を追っているかの理由を話さなかった事は彼奴の失態だ。だが、今俺がリディに何よりの理由より先に皇族としてどう動くかを話して聞かせたが、それがお前にとって心が痛かったのだろう?」

「心が⋯⋯痛い?」

「そうだ。自分が攫われ、誰が連れ去ったか。魔人が関わっていると聞き、今回も魔人が関わっている事で九年前の一件の手掛かりを得た。奴等を追うその理由がエクラタンの威信の為だと言われて悲しかったのだろう? 自分が連れ去られた事で奴等を追っているわけではないと、そう思ったからそのように落ち込んでいるんだ」

「っ!? ち、違い、ます。私は、ただ⋯⋯」

 

 

 その先が言えずにぎゅっと目を瞑る。

 

 ただ、自分でもよく分からないけれど、心がぎゅっと痛んだのは分かった。

 ただ、自分が落ち込んだのかは分からないけれど、ベルトランが話している内容は理解できるからそれについては何か言うことはないけど⋯⋯。

 けど、そしたら何故痛みを感じたのだろう。

 そして一番の目的は娘を攫った者に対しての制裁が目的だという。

 それを聞いてその痛みが和らいだのも確かだ。

 それが何故なのかが分からない。



「リディ、小難しく考えなくていい」



 その言葉に顔を上げると表情が和らいだベルトランがリディアーヌを見つめていた。

 その優しい父にリディアーヌはまたぎゅっと口に力が入る。

 何故が泣きたくなるような、そんな感情が渦巻き耐える。



「素直じゃないな。そういう所もオードリックにそっくりだ」

「分からないです。初めてだから⋯⋯」

 

 

 そう、こんなに家族から想われるのは初めての事でこの感情がどのようなものなのか、なぜこうも心が揺れるのか、リディアーヌには分からなかった。

 この感情の揺れが心地いいとも言えず、だからと言って嫌だとも思わない。

 

 

「まぁ、おいおいだな。大分感情を出すようになったが、機微なことにはまだ先は長そうだ」

 

 

 ベルトランは自己完結し「さて」と話題を変えた。

 

 

「リディも気になっているだろうから今分かっている事を伝えておこう」

 

 

 それは今回リディアーヌ達が攫われたのはリュシオルの仕掛けた罠に奴等が見事に引っ掛かったのだ。

 避暑地での一件でリディアーヌが奴等に目を付けられたのは調査をしている内に得た情報で、早速餌を撒いた、という事だった。

 リディアーヌがマラディの元侯爵家の養女だという事は奴等にはバレているようだが、皇女だという事まではバレていないという。

 そこまで管理できていない、という事だろうが、ベルトランからしたら杜撰で馬鹿な連中で助かる、という事だった。

 本音で言うとリディアーヌを囮にするような真似はしたくないが、リディアーヌの普段の訓練、彼女の実力を見る限り、多少の事なら対処できると判断している。

 それに影が護衛としてついているので、もしリディアーヌが命の危機に遭えばどんな手を使ってでもその身の安全は護られ、その安心感もありリュシオルはそのような手を使ったのだ。

 今回だけでなく、暗殺者が屋敷に侵入した件に関しても同様なのだから、それだけリディアーヌが信頼されているという事だ。

 ベルトランが詳細を話せばリディアーヌの表情は先程までと打って変わって嬉しそうに、分かりやすく変化させた。

 その様子を見てやれやれと呆れた。 

 彼女が喜ぶのはベルトランを始め、リュシオルやオードリックから頼られ信頼されることなのだろう。

 その証拠に役に立ちたいとオードリックに言ったという。



「困った娘だな」



 ぽつりとベルトランは呟いたがリディアーヌの耳には届いていなかった。


 


 一方宮廷ではマラディの外交官から直接報告を受ける為、オードリックはマラディの外交官と対面していた。

 応接室の一室にマラディからは二人とエクラタンからは皇帝と当事者の兄であるルベリエ大公が対面し、皇帝の側近であるアルシェが後ろに立つ。


 皇帝は目の前の二人をじっと観察すると、彼の鋭い視線に努めて冷静にいようとマラディの二人は膝の上に置いた手に力がこもる。



「この度はこちらの調査が遅れたことにより、ご報告が遅くなりましたこと、誠に申し訳ございません」



 潔すぎる謝罪に潔く頭を下げる二人にオードリックは表情を動かすことなく見据えている。

 リュシオルはというといつもの柔和な笑みを絶やすことなく、二人に共通しているのは目の前の二人を見定めている。

 エクラタンの皇帝と皇帝を支える大公を目の前にして緊張が拭えない様子だ。

 それでなくとも、今は既に囚人ではあるが元マラディの侯爵が大公家に対してやらかした事を思えばそうなるだろう。

 そして目の前の皇帝と大公の機嫌を損ねたとなるとどれ程の制裁が待ち受ける事か。

 その心中は今回の訪問を失敗するわけにはいかないと、その重圧もあるだろう。

 だが、今の所はこちらの顔色を伺うだけの無能な連中とは違うように見受けられることにましな後任だという感想だ。

 カルロ・リヴァ・フラミア伯爵とフェリオ・ヴォルペ子爵令息。

 二人が大国エクラタンの皇帝と話すにはまだ経験の浅い部類だ。

 特にヴォルペ子爵令息はまだ二十になりたてと若く地位の上の者達とのこういった場も今まで無いだろうが、しっかりとした意思を持っているような目をしている。

 リュシオルは彼等二人に頭を上げ座るよう促すと、「失礼します」と席に着いた。



「早速だが報告を聞こう」



 オードリックは雑談をするまでもなく、本題である報告をするように促す。

 マラディと雑談を行うほど暇ではないと言っているようなものだ。

 いや、それよりも雑談を行う仲ではない、の方が正しいか。

 マラディ側も友好的に話し合いが進むとは思っていないので、すっと表情を引き締めた。



「改めまして、この度は我が国の者がルヴェリエ公女様に対し重大な罪を犯した事、誠に申しわけございませんでした」



 そう言って二人でさっと頭を下げる。

 改めての謝罪に対し、二人は対照的な表情で目の前の二人を見据える。



「謝罪は結構です。先ずは報告を聞きましょう」

「はい。では先ずは元ヴィルヘン侯爵の件ですが⋯⋯」



 事前に報告を受けているので然程目新しい情報はなく、元侯爵夫妻は目の前の二人がこちらへ出立する前日に刑が執行されたとのこと。

 あの二人は服毒死の刑だったという。

 それももがき苦しむタイプの毒だ。

 ただ首を落とされて終わりという一瞬の痛みや恐怖より、長く悶え苦しむ毒を与えられたというのだから、まぁまずまずな刑だとオードリックは思う。

 だが、娘の苦しみを思ったらそんなものではまだ生ぬるい。

 もっと拷問し恐怖を与え続けなければ気が済まないと心情はあるが、それはその根源となった者達へ与えればいい。

 オードリックが考えている間も報告は続く。

 元侯爵の罪状、マラディ国内の現状を続ける。

 マラディの外交官にとっては国内の恥を晒している事へ内心苦々しく思っているだろうに、目の前の二人は淡々とし余計な言はなく、潔い内容で纏められていた。



(この二人は中々有能のようだな)



 オードリックは新たにエクラタンの外交を担う二人をそこそこ好印象を持ったようだ。

 まぁ普通それは当たり前の事なのだが、その当たり前が出来ない者が多いのも事実。

 それが出来ている時点で、そこそこの好印象なのだ。

 言葉を選ばずに言えばマラディの評価が底辺に近いからこそだったので、この二人を選んだのはあの王太子の采配が良かったと言えるだろう。

 報告は続き、肝心の人身売買へと移っていった。



「未だ国内全てを調査し終えてはいないのですが、現段階で分かっているだけで五か所を特定し、何れも孤児院、教会を隠れ蓑にしている事が判明いたしました」

「そこで暮らしていた孤児達を一端王都の孤児院へ移し子供達の様子を見ながら話を聞いている段階です。怯えている事もあり、少々難航しております」

「ここからが本題なのですが、元ヴィルヘン侯爵が引き取り、現在はルヴェリエ公女様の件ですが、彼女が暮らしていたという協会は既に焼失しているのはご存じの事。こちらでも再度調査をしたところ、侯爵邸の隠し金庫より書類が見つかりました」

「その書類というのがこちらになります」



 そういって書類を差し出す。

 しかも写したものではなく原本のようだ。



「おや。この書類を私達にあっさりと渡してよかったのかな?」

「我々が貴国に対し、敵意なく良き関係を続けていきたいとの誠意の証です」



 それは心からの言葉のように、緊張しながらもおどおどしたりせず、しっかりと目を見て伝えてきた。

 その目からは誠実さが見える。

 ふっと口角を上げ、書類に目を通すが、程なくしてオードリックは冷ややかに言い放った。



「⋯⋯これ程愚かだったとはな」

「言葉もありません」



 オードリックは隣にいるリュシオルへと書類を渡し、彼も書類書かれた内容を目で追う。

 そして笑った。



「いやー、面白いね。これ本当に元が付く侯爵が行った事なのかい? ふふふっ、こんな愉快で並外れた才能の持ち主に私の可愛い妹が扱き使われていたなんてね。まぁそっち方面の才能はあったという事かな」



 リュシオルの言葉に目の前の二人は顔色を無くした。

 一見褒めているように聞こえるが、言い換えると、こんな馬鹿で並外れた無能の持ち主だと言ったのだ。

 そっち方面というのは無能は無能なりに狡賢く、子供をいい様に使う事しか出来ない最低の人間だというあたり、彼の怒り具合が知れる。



「これは貰っておくが良いか?」

「はい。お渡しした書類がお役に立てればよいのですが」

「これは役立つ」

「それはようございました」



 国内の元貴族が残した重要書類をこうも簡単に渡すとは、何かあるのではと勘ぐるが、目の前の二人は最初からそのつもりだったらしく、何かを企む者特有の表情もなくその目に揺るぎもなかった。



「それよりも、貴公らに聞きたい。マラディはどのような方向へ進むのか、国王はどのようなお考えだ?」

「それに関しましては、国内の恥を更に公にするようでお聞き苦しいかと存じます。陛下はこの件に関して関与しておりません。全て王太子殿下が中心となり、第二王子殿下が兄王子を支えていらっしゃいます」

「それはまた⋯⋯。国王はそれほど年ではなかったはずだが、そろそろ王位を譲るおつもりか?」

「いえ。それがそうでもなく、陛下は恐れていらっしゃるのです。王太子殿下が優秀でいらっしゃるため、その地位を脅かされるのではないかと」

「王太子が優秀なのは良い事だろう? 何故そう思うのか理解できんな」

「陛下。人というのは周囲に優秀な者がいると妬むもの、その地位を奪われるのではと思う者が一定数おりますから、マラディの国王もそうなのでしょう。一介の貴族ならばまだしも、一国の王がそうだと苦労しますね」



 悪びれもなくニコニコと微笑みながら言い放つリュシオルにマラディの二人はぐっと押し黙る。

 だがその様子を見ればリュシオルに言われた事を屈辱に思っているのではなく、現状を憂いているようだ。

 だからと言ってマラディ国内がどのような道を行こうが、エクラタンに害が及ばないのなら自国でどうにかすればいい。

 そこまで介入するつもりは毛頭ないしどうでもいい。



「では、王太子殿はどのようにお考えだ?」

「殿下はこの件を重く捉えており、更に調査を進めておりますが、未だ国内全てとなりますと、時間がかかるかと。人身売買に関わった者を捕らえるも、自害され情報が得られない状況で未だ国内の全てを把握できていないのが現状です。殿下におかれましては、国民の安全を最優先に、行方不明届が出ている地域に対し、調査団を派遣し対応するよう動いておられます」

「王太子殿は重大な案件と捉え動いているようだな」



 オードリックは特に表情を変えず満足そうに呟く。

 国王が頼りにならずとも次期が賢明な判断が出来るなら言うことはない。

 この後も有意義な報告を聞きマラディとの面会を終えた。

 


ご覧頂きありがとうございます。


いいね、をいただき嬉しいです。

ありがとうございます(ꈍᴗꈍ)


次話も楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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