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自由な空の下  作者: 月陽
第六章 決別
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囚われの身

 

 謁見を終えたオードリックは執務室へと戻ってきていた。

 今ここにいるのはアルシェと謁見に同席していたリュシオルの三人だ。

 マラディの二人は今頃こちらの外交官と歓談している事だろう。

 オードリックが会うのは明日だ。



「シオル。あの二人はどうだった?」

「調査した通り、生真面目そうでしたね。元侯爵(あれ)と比べるのは可哀想ですけど、断然好感が持てます」

「同意見だ」

「お二人にそう言わせるならば、今回の人選は良いようですね」

「それも国王ではなく、あの王太子が行ったのだろう。今の王はダメだな」

「それも分かっていた事ですけどね」

 

 

 リュシオルが肩をすくめて言うと、オードリックも頷く。

 彼等を判断するにしても明日の会談次第だ。

 軽く明日の打ち合わせをしたのち、リュシオルは執務室を後にした。

 オードリックは黙々と書類に目を通し決裁していく。

 そしてふと窓の外に目をやればすっかりと夕焼けに染まっていた。

 

 

『我が君』

 

 

 ふと声が響く。

 オードリックに声を掛けたのは皇帝の手の者だ。

 


『どうした?』

『姫様が攫われました。大公閣下の思惑の一環だと思われますが、その中に魔人がおります』

『⋯⋯赤子の時エレンを攫ったやつか?』

『それは分かりかねますが、可能性ならば同一の組織かと』



 禁術を躊躇いなく使うような奴はそう多くいるはずがないだろう。

 影か言った通り可能性の問題だが、同一組織の連中とみていいだろうか。

 それらも捕え尋問すればいいだけの事。



『シオルにあれは生かして捕らえる様に伝え、エレンに傷ひとつ付けぬよう護れ』

『御意』



 影との会話が終わりはぁと背にもたれる。

 安全圏で護りたいが、結局娘の実力と肝の座り方に彼女に頼ってばかりだ。

 当の本人もそれを良しとしている。

 


「思うようにいかないな⋯⋯」

「何がです?」

「いや、何でもない」



 聞き留めたアルシェに応え、ふと考える。

 


「アルシェ。急ぎの仕事はないな?」

「そうですね。本日分はもうありませんが⋯⋯」

「ではあとは任せる」

「え? 陛下、どちらへ!?」



 それに答えることなく颯爽と執務室を後にした。

 


 暗闇の中、ふわふわと浮いている。

 此処はどこなのか、真っ暗で何も見えない。

 その暗闇の中で急にバシッと何かに叩かれて痛みが走る。

 目を開けるとそこは見覚えのある部屋で目の前には家庭教師が鞭をもって佇んでいた。



「何をさぼっているのです? 寝ている暇なんてありませんよ。ただでさえ出来損ないの役立たずだというのに。一体いつまで床に這いつくばっているのですか!?」



 そう言ってまたバシッと鞭を振るわれる。

 痛い、声が出ない、ぐっと唇を嚙みしめる。

 違う。これは夢だ。もうあの侯爵家はない。

 だからこれは夢だ。

 それなのに鞭で打たれる感触が嫌に鮮明で体が竦む。

 打たれた太腿や腕の痛みが現実的でジクジクとしている。

 体が竦むのは条件反射だ。

 あの頃の出来事がトラウマになっている。

 これは大公家の医者である彼女に聞いたから間違いない。

 早く起きなきゃ。

 そう思っても金縛りにあったように動かない。

 どうにか金縛りを解こうとしても虚しくぐっと体が動かない。



『姫様⋯⋯起きてください!』



 ギーの声が聞こえる。

 そしてバシッとまた打たれた。

 今度は頬だった。



(頬⋯⋯? 鞭、じゃない⋯⋯これ、は夢じゃない)



 そう思ったら体がふっと軽くなり動けるようになったので目を開けると、目の前には先程の黒づくめがしゃがんでリディアーヌをねっとりとみていた。



「暢気なものだな。この状況で眠りこけるとはな。まぁ泣き喚かれるよりはましか」



 独り言ちて立ち上がる黒づくめにぎゅっと口を結んで見上げると、今度はリディアーヌの足をガンッと踏みつけていた。



「っ!!」



 痛い。これは骨が折れたか、ひびが入ったかもしれない。

 リディアーヌがぐっと痛みに耐えていると、声ひとつあげない事が面白くないのか、苛立ちの表情を浮かべていた。



「声が出ねぇのか? それとも恐怖で声を忘れたか⋯⋯ガキらしくないガキだな。まぁお前はただの餌だ。そうやって餌は餌らしく大人しくしておけ」



 一体何がしたかったのか、ただ様子を見に来ただけなのか、あっさりと去っていった。



「姫様、今治癒いたします」

「うん、ありがとう」



 ギーはリディアーヌの足を治癒した。

 ということはやはり骨が折れていたみたいだ。



「あっ! ギー、私が怪我したことは陛下とお父様には言わないで⋯⋯、後、陛下の影の人も⋯⋯」

『お約束出来かねます』



 即答だった。



(やっぱり無理か⋯⋯)



 ちょっと期待して言ってみたけどやっぱり駄目だった。

 ギーは一応リディアーヌに付いてくれているからある程度は彼女の融通を利かせてくれるが、オードリックの手の者にはやはり通用しない。

 けれどリディアーヌが怪我を負わされたというのにその前に助けに入らず我慢してくれたのは、敵の事を知る為もあるので二人から窘められることはなかったけれど、だからこそそこは黙ってほしいと思ったリディアーヌだが、それとこれとは別だと目で言われた。



「姫様、近くにローラン卿とエヴァ殿がいらっしゃいました」

「ローランは分かるけど、エヴァも? 危ないのに⋯⋯」

「姫様がそれを言いますか。エヴァ殿は侍女ですが、そこそこ戦えます」

「え? そうなの?」



 驚いた。エヴァは普通の侍女だと思っていたのでまさか自分の護衛を兼ねていたとは想像すらしていなかった。

 

 

「後、大公閣下がもうすぐおつきになります」

「お兄様も?」

「はい。それと⋯⋯」

「ギー?」



 急に言葉を切ったギーは「奴らが来ます」と「お気をつけて」と言って姿を消した。

 それと同時にバンッと乱暴に扉が開き、入ってきたのは二人の人身売買人だ。

 けれどギーの情報では、もう後五人この家にいるらしいから、そいつ等は上にいるのだろう。

 そして今入ってきた者達は最初に会った三人の内の二人だ。

 リディアーヌの他にも違う部屋で数人の子供が攫われ閉じ込められているのも分かっている。

 奴等はリディアーヌに近付き机に繋いでいた方の鎖を外し、「立て!」と乱暴に立たされた。

 腕についた鎖をぐっと上に上げられたので必然的にリディアーヌは無理やり立たされたので腕に嵌められたとこと手首が擦れ切れてじんわりと血が滲み出る。



「元々売られたガキのくせに全く怖がりもせずだんまりか」

「違うだろ? 恐怖で声が出ねぇだけじゃないか?」

「まぁいいさ。こいつはまだ利用価値はあるだろう。売り飛ばしてもいい金になる」



 どうやらリディアーヌを使って何かを企んでいるらしい。

 そしてそれが失敗したとしても売れると思っているのか⋯⋯。

 リディアーヌは鎖で繋がれたまま引き摺られこの暗い部屋から移動させられた。

 次に連れていかれたのは他の子供が繋がれている部屋だった。

 同じ地下でここもまた薄暗い汚い部屋だった。

 


「此処に入ってろ」



 そう言って部屋へ放り込まれてしまった。

 両手は鎖で繋がれたまま。他の子供達も両手を鎖で繋がれうずくまり泣いてる子や不安で怯えている子など、リディアーヌで六人目だった。

 


『ギー、シオル兄様達はどうするつもりなの?』

『大公閣下でしたら表から堂々と入ってらっしゃいますよ』

『えっと⋯⋯正面から?』

『はい』



 聞き間違いかと聞き返すと聞き間違いではなかった。

 正面から堂々と入ってくるならそれを待って動いた方がいいかなとリディアーヌは大人しくしていよう。

 この部屋の中にいる子供達を注意深く見ると平民が殆どだが一人身なりの良い子供がいた。

 リディアーヌより少し年下だろうと思われる子供はぐっと口を引き締めて耐えているが、その目にはうっすらと涙が滲んでいた。



『ギー、あの子は⋯⋯』

『裕福な商家の子、あるいは男爵家あたりの子息かと』

『何を基準に拐ってるんだろう』

『はっきりとは言えませんが、人身売買で売れるような子供や金銭目的でしょう。奴等の言動からは人身売買が目的であろうと推測します。今回姫様が拐われたのはその両方の意味合い若しくはルヴェリエ大公家に対し何かしら要求するものと推測します』

『という事は、相手はそれらしい話をしていないんだね』

『はい』


 

(今度来たら突っついてみようかな)


 

 割と本気でリディアーヌは考えたが、あまり余計なことをするのも良くないかと思ったり悩んだ。


 その頃、外ではローランとエヴァが合流して先程の出来事をローランに報告していた。

 

 

「⋯⋯成程。あの子供は陽動で使われただけ、ですね」

「その子供はどうされたのですか?」

「勿論ちゃんと捕まえていますよ」

 

 

 にこりと微笑んで答えるローランは怒っているようだった。

 それもそうだろう。

 小さな主が攫われてしまったのだから怒るのは当たり前だ。



「先程また一人、子供が攫われてきたようだし、お嬢様以外にも子供がいる事を念頭に動かねばなりませんね」

「お嬢様だけならこちらの思惑を理解して動いてくださるだろうけど、流石にか弱い子供が一緒となるとお嬢様とてそう簡単な動けないでしょう」



 ローランはエヴァと話しつつも注意深く周囲に目を配る。

 目の前の家には人の気配がするものの、それ以外の何かしら人外の気配が混じっている。

 なんというか、魔獣の気配に近い。



(厄介な奴がいるかもしれないな)



 完全に魔獣の気配というわけでもない。

 人の気配に交じっている感じは⋯⋯魔人。

 人によって人と魔獣を掛け合わせた禁術であり、人を人で失くした魔の者。

 そしてリディアーヌが赤子の頃に皇宮から攫ったのも魔人だと言われている。

 同一人物だと、そんな可能性が無きにしも非ずで、攫った赤子がリディアーヌだと結びつけはしないかと焦る。

 


「此処にいたんだね」



 考え事をしていると急に声がしたのでぎょっとして警戒し振り向くと、そこにはリュシオルが立っていた。

 リュシオルの後ろには二人、漆黒の騎士団の制服に身を包んだ人物が付き従っていた。

 


「閣下⋯⋯。驚かさないでください」

「はは。ごめんね。で? 様子はどう?」

「お嬢様の他に子供が捕われているようです。少し前に袋に詰められた子供が中へ入っていきました」

「どうしてリディが攫われたんだい?」



 報告がいっているだろうに態々ローランに話を聞くのはその場にいた彼の意見が聞きたいと思うのと同時にリュシオルが大分怒っている証拠だった。

 見た目も気配もいつも通りだけど、そう感じるのは長年大公家に仕えてきたが故に感じ取る事が出来る些細な違い。

 ローランはリュシオルに詳細を語る。

 その間も注意深く目の前の家を注視することを緩めない。

 


「⋯⋯成程ね。まんまとその子供にしてやられたわけだ」

「ですがお嬢様があまりにも落胆されていましたから⋯⋯」

「ふふっ。大公家の皆はリディに甘いからね。さて⋯⋯」

 

 

 リュシオルは目の前の変哲もない家に目をやる。



「入口は正面の玄関と裏に勝手口があります」

「では、私が正面から堂々と入るからローランとエヴァの二人は勝手口から子供達の救出へ。二人はあくまで子供の安全を最優先に。リディに会ったらそう伝えて」

「畏まりました」



 すっかり夜の帳が下りこの周辺一帯は明かりも少ない闇夜に包まれていた。

 リュシオルはふっと口角を上げ「さぁ、行こうか」と扉へと一歩を踏み出した。

 

ご覧頂きありがとうございます。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いいたします(ꈍᴗꈍ)


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