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自由な空の下  作者: 月陽
第六章 決別
54/62

成長

 

 (あー⋯⋯大公家の訓練を完全に舐めてた)

 

 

 大公家の宿舎に与えられた部屋のベッドに転がりながらガルニエは昼間の訓練を思い返していた。

 舐めていたのは何も自分だけではない。

 他の三人も同様で訓練後に四人そろって地面と友達状態に、そして文句を言う気力さえなかった。

 あの公女は体力がないと言っていたが、あの基礎訓練を泣き言も言わずにこなしている所を実際に目にしたら嘘だと言いたくなる。

 厳密には体力がないのではなく、持久力がないのだろう。

 兎に角、あのとんでもなくハードな基礎訓練を早々に最後まで終わらすことが出来なければ、あの鬼のような団長は更に厳しい訓練を課してくるだろう事は昼間の言動で予想される。

 そして地味に心をえぐるような言葉の数々が精神をすり減らしていく。

 

 

(あの娘、本当に一言の泣き言も言わずにあれをこなしていたな⋯⋯)

 

 

 公女と同じ基礎訓練を行ったが、彼女はあの小さい体で基礎訓練を終わらせていた。

 

 

(そういえば、謝罪が未だだ⋯⋯)

 

 

 今日はまだ謝罪する気分じゃなかったが、個々の騎士や使用人を見ていると、公女として慕われているのが目に見えて、肌で感じた。

 あの団長も相当気に入っている様子で自分達四人を敵視しているに等しかった。

 だから今日の訓練では冒頭だけ、ほんの少しだけ顔を合わせただけで結局その後接する機会は無かった。

 はぁと大きなため息をつく。

 まだ心の中は穏やかじゃないが、その内落ち着くだろうか。

 そんな事を考えながら眠りに落ちた。

 

 

 

「今日はリシェス家でお茶会だったわね」

「はい、お母様」

 

 

 騎士団での模擬戦を観戦に行った日から二週間が経った今日は、アマリアに招かれてお茶会へ行く日だ。

 今日を楽しみに勉強と訓練を頑張ってきたリディアーヌは、楽しみで気分が高揚していた。

 けれど少しだけ気になっていることがある。

 この間の模擬戦の事で質問攻めにならないか、そこは少し不安だった。

 あの勢いで来られるとどうしていいか分からなくなる。

 

 

「楽しんでいらっしゃい」

「はい、行ってきます」

 

 

 フェリシエンヌに見送られてリシェス家へと向かった。

 リシェス家までは少し離れているので、リディアーヌは馬車の中から外の景色を楽しんだ。

 流れゆく景色を楽しむのも好きで馬車に乗ると必ず外を眺めている。

 リシェス家に着くと丁度フロランスが到着したところで、リシェス夫人に挨拶をした後、フロランスと共にサロンへと案内された。

 

 

「こうして集まるのは騎士団へ行って以来ですわね」

「リディ様、あの時は興奮してしまい、申し訳ありませんでした」

「帰ってからお母様に叱られてしまいましたの。いきなりあのような場で魔術を披露されお疲れなのに、思ったままに迫るのは淑女として失格だと。何よりリディ様の負担になるでしょうと」

 

 

 エミリアとアマリアの二人から謝罪されリディアーヌは驚いたけれど、いつも明るい二人のしょんぼりした表情を見ると心が痛む。

 

 

「エミリー様、リア様。私は大丈夫ですから気にしないでください。あの時は少し驚いただけですから」

「まぁ! リディ様はお優しいですわ」

「お二人はリディ様が戦う姿を見るのは初めてでしたものね」

「リディ様にとっては災難な日でしたのに⋯⋯。けれど本当にお強くて格好良くて素敵でしたわ」 

 

 

 その時の光景を思い出してはうっとりしている三人に、リディアーヌはなんとも言えず、ケーキをぱくりと食べた。

 

 

「それにしても、あの無礼な騎士ときたら!」

「リディ様に謝罪されませんでしたものね」

「大公閣下が怒って当然ですわ」

「大切になさっている妹君が危険な目に遭ったのですもの。他の皆様もリディ様に無礼を働いたらどうなるか、身をもって知ったのではないかしら」



 エミリアの言葉にどういうことなのか首をかしげるリディアーヌにふわりと笑って答えた。


 

「あの場にいた淑女の皆様が噂を流しているでしょうから」

「噂ですか?」

「えぇ。その場にいらっしゃった方々はこうしたお茶会などを開き、見聞きしたことを噂話をするのがお好きですの。それに、お母様が騎士団での出来事が既に社交界で噂されていると言っていましたわ」

「まぁ⋯⋯」



 フロランスは心配だとちらりとリディアーヌの様子を見るが、それほど気にしていないように見える。



「多分、その内容はお母様から聞いたことと同じかもしれません」

「「「え?」」」



 仲の良い三人は声を揃えリディアーヌを驚いた表情でパッと見た。

 三人の視線を一気に集めたリディアーヌはびっくりした。



「噂がされていると⋯⋯」



 あれからフェリシエンヌに今社交界で流れている噂の事を聞かされた。

 自分の事だから知らなくていいのだが一応先に知っておくように、との事だった。

 内容は、リディアーヌを軽視した者、無礼を働いた者は大公から報復される。

 大公は妹を溺愛しているから公女は調子に乗って好き放題している。

 元々孤児の為権力者に媚びを売るのが上手い。

 元が孤児だとしても、実力があるから将来有望で見目はそれ程悪くないから息子の嫁にありかもしれない。

 他にもまぁ色々とあるのだが、噂したければ勝手にすればいいとリディアーヌは思っているが、それでベルトラン達に迷惑が掛かることだけは避けたい。

 


「本当にくだらないですわ!」



 声を上げたのはフロランスだった。

 けれど、怒っているのはフロランスだけではなく、エミリアとアマリアの二人も同様で、可愛らしい顔に怒った表情はそれほど怖くなく、それも可愛いと思ってしまったリディアーヌだったが、そっと心にしまった。



「フロー様?」

「もう! リディ様はもっと怒ってもよろしいのですよ!」

「ただの噂ですから」

 

 

 ただの噂なら何を言われても平気だ。

 言わせておけばいいと思う⋯⋯そう思っていたのでけれど、リディアーヌの発言に他の三人は顔を曇らせた。

 

「いけませんわ。社交界の噂程怖いものはありませんのよ」



(怖いかな⋯⋯?)



「リアの言う通りだわ。リディ様、たかが噂と見過ごしてはいけません。噂は時には武器になりますの。嫌いな者や陥れたい相手等に対しては時には有効な手段です。それに、相手を焦らせて真実を導き出す時に噂を利用する事もあります」

 


(それは何となくわかる気がする)



「社交界で流れる噂はあっという間に広がりますから色んな手段として用いられます。たかが噂と侮ってはいけません」


  

 エミリアは真剣に話す。

 


「今回はリディ様をよく思わない者、大公家を敵視している者の仕業でしょう。表立って大公家に喧嘩を売る者はいなくとも、噂を流し大公家に恥をかかせようとする者はいますわ。まぁ大公様方には全く響かないでしょうけれど、リディ様が関わっているとなると別ですわね」

「どうしてですか?」

「あら。それは大公様にとってはうんと年の離れた妹君ですし、実際可愛がってらっしゃいますもの。勿論公子様も大切にされていますが、それとこれとは別なのですわ」

 

 

 エミリアの話を聞いて考える。

 第三者から見るとそう見えるのかと不思議に思った。

 リュシオルに可愛がられているのはそれなりに自覚していたけれど、大公家の皆は仲が良いので普通の事かと思っていた。

 けれど、他から見ると過剰な可愛がりなのかと、そう見えるとしたらリュシオル達に控えめにしてもらった方がいいのかと真剣に考える。



「あっ、誤解なさらないでくださいませ! 私は純粋にリディ様の友人ですわ!!」

「え?」

 

 

 エミリアが急に慌てて声を上げたのも驚いたが、その内容も直ぐに理解できずに聞き返す。

 

 

「リディ様、エミリー様が先程話したことは社交界全体からのお話であって、エミリー様だけでなく、私とリア様がリディ様と友人なのは打算があっての事ではなく、純粋にリディ様と友人なのだと言いたいのですわ」

「打算⋯⋯そのように思っていません。皆さんの目を見たら分かりますから」



 私の言葉を聞いて何だか光が差したような輝く笑顔を浮かべた三人は嬉しそうに頬を染めていた。



「嬉しいですわ! リディ様の友人代表としまして光栄ですわ」

「フロー様のお茶会に出席して良かったですわ。私もリディ様と友人になれてとても嬉しいんですの」

「私もですわ。これからもよろしくお願いしますわ」



 三人から嬉しい言葉を聞き、リディアーヌは珍しく照れたように微笑み、「私もです」と答えた時の三人の表情は身悶えるような、悩ましい声を上げていた。


 お茶会から数日後、リディアーヌはフェリシエンヌと共に本邸を訪れていた。

 今日は冬に向けてのドレスを仕立てる為だ。

 子供は日々成長するので採寸から始まる。



「公女様はこの間よりも少し背が伸びていますね」

「本当ですか!?」



 背が伸びたことが嬉しくて思わず声を上げると、マリアンヌは「はい」と優しく返事をして微笑む。



「ふふっ。リディは毎日頑張っているものね」



 背が伸びるようにとバランスの良い食事と睡眠をとり、訓練も頑張っているかいがあって年相応の背丈と体系になったのだ。

 これは喜ばずにはいられない。



「リディ、こちらへいらっしゃい」



 採寸が終わりフェリシエンヌの元へ行くとデザイン集を渡された。

 今日の授業はドレスを仕立てるデザインの勉強と実習を兼ねている。

 大公家の令嬢ともなれば流行先端を行き、自ら流行を生み出すことにも努める。

 そして今日はリディアーヌがデザインを考え、アレンジし、素材や色までも考えることがフェリシエンヌから与えらえた課題だった。

 ソファへ座りでデザイン集へじっくりと目を通す。

 パラパラとめくっていたが、気になるデザインが目に入った。

 リディアーヌは考える。

 シンプルで好きだけど、シンプルすぎて少し物足りない。

 


「リディ、眉間の皴は止めなさい。可愛い顔が台無しよ」

「ごめんなさい。⋯⋯あの、お母様は少しよろしいですか?」

「えぇ。何かしら?」



 リディアーヌは目に留めていたデザインをフェリシエンヌに見せて自分で考えたデザインを話してみる。

 その間にアリアーヌはフェリシーのドレスをどんどんと注文していた。

 


「あら、リディったら知らない間に勉強でもしたのかしら。いいわ。それで注文をしましょう」

「ありがとうございます!」



 何とか合格点を貰えたようだ。

 マリアンヌにデザインを伝えると、彼女からもお褒めの言葉を貰った。



「どのようなデザインにしたの?」

「お義姉様、それは出来上がってからのお楽しみにしておいてください」

「あらあら。焦らすのね。いいわ。仕上がったら着て見せて頂戴ね」

「はい!」



 注文は勿論一着だけではなくて、何着も注文を入れる。

 途中着せ替え人形にされたけれど、最近は少し慣れてきたので疲れることも少なくなった。

 それはリディアーヌ自身が楽しんでいるからに他ならない。

 最初のころよりも大分淑女らしくなってきたとフェリシエンヌとアリアーヌは暖かい目でリディアーヌを見守っていた。


ご覧頂きありがとうございます。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いいたします(ꈍᴗꈍ)


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