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自由な空の下  作者: 月陽
第六章 決別
53/62

予想外の出来事

 

(疲れたなぁ)

 

 

 リディアーヌはごろんとベッドの上で今日の出来事を振り返っていた。

 試合が終わり観客席に行くとベルトランがいてリディアーヌをねぎらった。

 そこまではいい。

 その後、フロランス達の興奮具合はベルトランが若干引くほどだった。

 

 

『リディ様!! 試合お疲れさまでしたわ! 大公閣下との連携にリディ様の卓越した魔術に敵に対して冷静な対応! 本当にお見事でしたわ! 何よりも騎士を相手に圧倒する歴然の力の差! 恰好良すぎです!! 何故リディ様は男性ではないのでしょう⋯⋯私、直ぐに求婚しておりますわ! けれど女性であれだけ素敵ですとそれはそれでありかもですわね』

『全くですわ! あの凛々しいお姿、恐れることなく相手に立ち向かうお姿、本当に素敵でもっと好きになってしまいましたわ!!』

『リディ様の騎士服を着こなすお姿も乙ですわ』

『本当にそうですわ!!』



 その止まらない饒舌なまでの誉め言葉と言っていいのか分からない言葉の羅列に頷くのはエミリアとアマリアの二人。

 あまりに止まらない舌鋒にサジェス公爵夫人が三人を止めてくれた時、リディアーヌは心底ほっとした。

 あんな風に言われるとは思わなかったのでリディアーヌはどうしていいか分からずに固まってしまい、フェリシエンヌにその場を収めて貰って屋敷に帰ってきた。

 騎士団の方はというとリュシオルが話をつけたらしく、詳細は教えてくれなかったけど、穏便に終わったのならよかったと安堵する。

 自分が原因で面倒なことにならずに済めばそれでいい。

 


(暫く何も起きてほしくないな)


 

 騎士団での出来事もさることながら面倒ごとは嫌だと、平穏で過ごしたいとリディアーヌははぁとため息をついた。


 騎士団の一件から暫くは屋敷でいつもと同じように淑女教育に一般教養と訓練をする毎日を送っていた。

 そして今日も同様に訓練を受ける為訓練場へと向かうといつもと違う光景が目に入った。



「ローラン」

「はい」

「あの四人。何処かで見た気がするんだけど⋯⋯」

「そうですね。見間違えではないですよ」

「何でここにいるの?」

「それは⋯⋯」



 ローランが言う前に大公家の騎士団長、セルジュに声を掛けられた。



「お嬢様、お待ちしておりました」

「団長。今日もよろしくお願いします」


 

 いつものように挨拶をする。

 そして、見覚えのある四人から頭を下げられるも関わり合いたくなくて分かりやすく何も言わずにいると、ローランがくすくすと後ろで笑っていた。

 

 

「お嬢様ったら分かりやすく無視されて。流石ですね」

 


(え? えぇ!? 流石って何!?)


 

 ローランの言った意味が分からず、それよりも口に出して言わないでほしかった。

 笑われている理由も分からないし。

 そしてセルジュも笑ている。

 何で?

 

 

「無視してもよろしいですよ。お嬢様に無礼を働いたのですから」

「無礼っていうほどの事かな?」

「お嬢様はお優しいですからね」

「うっ、ごめんなさい」

 

 

 遠回しに叱られてリディアーヌは素直に謝った。



「それで、宮廷の騎士団であるこの人達はどうして大公家(ここ)にいるの?」

「それは大公閣下と第一、第二騎士団長との話し合いで決まったことでして、暫くの間大公家の騎士団(うち)で鍛え直すことになりました」

「鍛え直すって、どうして? それほど弱くなかったですよ?」

「ぐふっ!!」


 

 同時に噴き出す声が聞こえてセルジュを見ると口元を抑えてふるふると肩を震わせていて、ローランを見れば隠すこともなく声を出して笑っている。



「リディは優しいけれど、たまーに手厳しいことを言うよね」



 この場にいるはずのない声が聞こえた方を向くとそこにはリュシオルが歩いてきていた。



「シオルお兄様? お仕事はよろしいのですか?」

「休憩だよ。今日から来ると手紙が来ていたから様子を見に来たんだけど、リディ良いことを言ったね」

「良い事、ですか?」

「そうだよ。それほど弱くないって、それほど強くないって言っているようなものだしね。その通りだからやはり教育は必要だよね」



 うんうんと楽しそうに頷いているけれど、言われた四人は青褪めていた。

 一体あの後何があったのだろうか。

 それよりも、そのような意味で言ったのではなかったけれど、リュシオルに言われて確かにそのようにも取れると、リディアーヌは密かに反省した。



「リディ、これからこの四人がうちで訓練を行う。その中には騎士としてだけでなく人としても学んでもらうことになっているから、嫌なことを言われたら遠慮なく言い返していいからね。後、お兄様と父上に報告すること。約束、守れるよね?」



(これは絶対約束を守らないといけないやつだ!)



 笑顔で圧を掛けてくるリュシオルにリディアーヌは拒否することなく頷いた。

 それからセルジュといくつか言葉を交わした後、仕事に戻っていった。



「お嬢様、大丈夫ですか?」

「うん、なんとか⋯⋯お兄様の圧が怖かったけど」

「確かに閣下の圧は怖いですね。それに睨まれた君達は可哀想だけど、自業自得。うちの自慢のお嬢様をコケにしてくれたからなぁ」

「⋯⋯団長、私別にコケにされてないですから」

「お嬢様?」

「⋯⋯ごめんなさい」



 意味が分からないけど取り合えず直ぐに謝る。

 でなければ何がいけなかったかを昏々とお説教されるからだ。

 今迄の経験上、お説教を逃れるには早々に謝った方がいい。

 セルジュのお説教は始まったら長い、そして地味にツラい。

 それはさておき、時間も勿体ないので早速訓練を始めるのだけれど⋯⋯何故かリディアーヌの体力作りに参加する四人。



「ねぇ、ローラン」

「なんでしょう?」

「私の訓練メニューはあの人達にとっては物足りないと思うんだけど」

「そうですね。ですがセルジュ卿に考えがあるのでしょう。無視してよろしいですよ」

「まぁ、団長が決めたことなら」



 人の事より自分だ。

 今日の訓練課題を次々と消化していく。

 途中休憩を挟んでまた同じ事を繰り返す。

 三セット繰り返したら次は違う練習課題が準備されているのでそちらに移る。

 集中して訓練する事三時間。

 リディアーヌの訓練が終わった。

 大人のように長時間の訓練はただただ体に負担を与えるだけなので、休憩をこまめに挟みつつ三時間と決められている。



「お嬢様、前よりも体力がついてきていますので、暫くは同じメニューで続けましょう。今後の様子を見て回数を少しずつ増やします」

「は、はい⋯⋯ありがとうございます」



 本当に体力が付いているか怪しい。

 まだ呼吸が整わず、肩で息をする。

 


「お嬢様、お迎えが来ましたよ」

「あれ、もう⋯⋯?」

 

 

 ようやく息が整ってきたところにエヴァが迎えに来たようだ。

 今日この後の予定は小一時間の休憩の後、本邸へ行ってエルネストとダンスの練習だ。

 初歩的なことは一人で習っていたけれど、慣れてきたころからエルネストに相手をお願いしている。

 エルネストにしても復習になるので快諾してくれたのだ。

 セルジュと騎士団の皆に挨拶をして屋敷に戻り湯を使い軽く汗を流す。

 身なりを整えてようやく一息ついた。



「今日はいつも以上に厳しい訓練でしたか?」

「え? 訓練はいつもと一緒だったけど、どうして?」

「今日は少しお疲れのように感じましたので」

「訓練は大丈夫。けど、あの四人が⋯⋯」



 その言葉でピンときたようで、「あの四人⋯⋯」と低く呟く。

 けど一瞬いつものエヴァに戻り見間違えかと思うほどだった。

 あの四人に遭うのは訓練の時だけだから気にせず過ごそう。

 さて、少し早いけれど、本邸へと向かった。

 時間より早いけれど、中では既にエルネストが待っていた。



「あ、リディ! 待っていたよ。訓練は大丈夫だった? あの四人に何か言われなかった?」



 どうやらエルネストもあの四人がいることを知っているようで、訓練は大丈夫だったかと心配された。

 エルネストとは訓練の時間帯が違う為心配だったようだ。



「大丈夫です。団長が睨みを利かせていたので何も言われていません」

「それなら良かった」


 

 エルネストと話をしているとダンスの教師がいらっしゃって早速前回の復習から始まり、エルネストに相手をお願いして練習を行う。

 前回注意されたことを思い出しながら集中していると、エルネストが笑っているのに気が付き顔を上げたら可笑しそうに肩を震わせている。



「リディってばその顔! ダンスは楽しむものだよ。そんな敵を前にしたような顔をしていたらダメだよ」

「公子様の仰る通りです。公女様はもう少し肩の力を抜きましょう」



 二人に言われ力を抜こうとするも、ステップがおかしくなってしまいエルネストの足を踏んでしまった。

 

 

「ご、ごめんなさい!」

「いいよ。ね、リディ。僕の顔見て僕の動きに合わせてみて」



 エルネストに言われてエルネストの顔を見て動きに合わせる。

 そうすると、先程まで頭で考えていた事が体が勝手に動いていく。



(あれ?)



 リディアーヌは不思議に思っているとエスネストが答えてくれた。



「頭で考えながら動くと逆にちぐはぐになっちゃうから。訓練と同じようにすればいいんだよ。リディも体を動かすとき、頭で考えていないでしょう?」

「そうですね。⋯⋯なるほど! お兄様、ありがとうございます」



 エルネストのおかげで頭で考えるのを止めるとスムーズに体が動くようになった。

 そうすると相手の動きに合わせ足を踏むことなく無駄なく踊れていた。

 教師の手拍子が終わり、ダンスを終えると今迄で一番いい動きで優雅だったと褒めて貰えた。

 ダンスレッスンが終わるとサロンに移動してエルネストとお茶を楽しむ。

 

 

「お疲れ様」

「お兄様、ありがとうございます」

「リディの役に立てるなんて嬉しいよ」



 嬉しそうに微笑むエルネストは初めて会った時よりも成長してさらにリュシオルに似て格好良くなった。

 


(エルお兄様、モテるだろうな)



 実際お茶会やパーティーではかなり同世代の令嬢達から人気があるのだけど、リュシオルと違うところといえば、エルネストはクールに躱してしまうところだ。

 


「どうしたの?」

「いえ。エルお兄様が優しくて素敵だと思っただけです」

「え? えぇ!? きゅ、急にどうしたの⁉」



 エルネストは顔を真っ赤にして慌てふためいた。

 何故彼があんなに動揺しているのか分からずリディアーヌは首をかしげる。

 この部屋にいる侍女二人の心の中は「お嬢様は天然たらし」だと同時に思った。



「ん、んんっ。リディ、今のような言葉を安易に男性に言ったらダメだよ」

「言わないです。お兄様だから⋯⋯!?」

 

 

 ごふっ! っていう大きくお茶を噴き出す音がしたので最期まで言えず今度はリディアーヌ珍しく慌てた。



「お、お兄様!? 大丈夫ですか!?」



 げほげほと咳をするエルネストとテーブルを黙々と奇麗にする侍女達。



「だ、大丈夫。ちょっと驚いただけ」

「私、何か失敗をしてしまいましたか?」

「い、いや! 違うよ! リディは何も失敗してないしいつもに増して可愛い⋯⋯! じゃなくて、あ、いや可愛いのはいつもなんだけど、そうじゃなくて⋯⋯あぁ、兎に角リディは何も失敗してないし大丈夫だから!」



 全くよく分からないエルネストの言葉に、エヴァはそっと「お気になさらなくてもよろしいかと」とリディアーヌの耳元でそっと呟いた。



「エルネスト様、リディアーヌ様。そろそろお時間です」

「あ、もうそんな時間か。リディ、この後父上の所へ行くよ」

「お兄様の所へですか?」

「うん。呼ばれているんだ」



 そう言ってエルネストと共にリュシオルの執務室へと向かった。

 部屋へ着き、来訪を告げると直ぐに中へと通された。

 リュシオルの机には決裁したであろう書類が積まれており、リュシオルの側近であるマティス・ヴェナン伯爵が書類を整理していた。



「二人共来たね。ちょっとソファに座って待っていて」



 此方を見ずに手を動かしながらそう言って書類をさばいている。

 その間、エルネストと静かに待っていると、一段落したのかリュシオルが席を立った。

 

 

「ごねんね。呼んでおいて待たせてしまって」

「大丈夫です」

「今日呼んだのはね、あの四人の事だよ」



 あの四人とは、今日からルヴェリエ家の騎士団で再教育を受けに来ている四人の事だった。



「リディにちゃんと説明していなかったからね。さっきは驚いたでしょう?」

「はい。驚きました」

「だよね。で、あの愚か者達だけど⋯⋯」



 愚か者達って⋯⋯リュシオルはまだ怒っているようだ。

 で、あの四人に関しては騎士団に任せるのではなく、ルヴェリエ家の騎士団できっちりみっちりと訓練に加えて人としての常識を教育を施すのだそうだ。

 騎士団でも再度偏見やらを無くすために教育を施すそうだけど、生ぬるいとリュシオルがうちで預かると言ったのだとか。

 あちらでの教育もルヴェリエ家と一緒じゃないのかなとリディアーヌは思ったが、実際のところ騎士団の教育がどのようなものなのか受けて事がないし話を聞いただけなので、リュシオルがそういうってことは、もしかしたらルヴェリエ家の教育の方が厳しいのかもしれない。



「お兄様、理由は分かりましたけど、私と同じ訓練はあの人達には物足りないのではないでしょうか」

「そうだねぇ。リディの訓練は現段階では体力づくりがメインだけど、果たして彼等はそう思っているかな?」



 リュシオルが黒い笑みを浮かべたのでリディアーヌは驚いた。

 彼の笑みに驚いたのではなくて、彼女の体力づくりに関してだ。

 彼女自身は結構きついメニューとなっているけれど、大人からしたらそうでないはずだと思っているだけに、リュシオルの言葉が引っ掛かる。



「あの、お兄様。私の訓練って、きついのですか?」

「うん? リディはどう思う?」

 


 どうって、今やっている体力づくりは、先ずは体を慣らすための基礎運動から始まり、十キロを走り腹筋、腕立てを十回一セットとしたらそれを十セット。

 その後素振りを同じくらいこなした後は軽く対戦を行う。

 勿論その間に休憩をこまめに挟み、リディアーヌの体に負担なく行っている。

 


「私は普通だと思います」



 過去ルーセル時代に訓練と称して魔物の巣に放り込まれた時の事を思ったら全然ましだと思ったのだけれど、エルネストは呆れていた。



「リディ、普通の令嬢からしたら拷問に近いよ」

「けど、あの人達は令嬢ではありませんよ」

「それはそうだけどね。そのメニューは大人でもきついと思うよ」

「そうなのですか?」

「休憩は多いけれど、通常の大人とほぼ同メニューだからね。そして騎士団の訓練は優しいよ」

「そうなのですか?」



 それだと宮廷の騎士団は大丈夫なのかと少し心配になった。

 そしてうちの訓練メニューと大きく違うところは、走っている時に邪魔されること。

 余計な動きをしてしまうので地味に疲れる。

 それは腹筋や腕立てをしている時も同様だった。

 騎士団ではそういったことはないらしく、普通に走り普通に腕立てや腹筋を行うそうだ。



「成程。それはあの人達にとってはしんどいかもしれませんね。けど、大人でれっきとした騎士なのですからそれくらいで根はあげませんよね?」

「あ、あっはははは!」



 リディアーヌの言葉を聞いてリュシオルは大笑いした。

 リュシオルの後ろではヴェナン伯爵がくぐもった笑い声を発し、エルネストもお腹を押さえて笑っていた。



「あの、何か変な事を言ったでしょうか⋯⋯」



 どこか不安げなリディアーヌに、未だに笑いを収める事が出来ずにいるリュシオルが答えてくれる。



「ふ、ふふ、リディは本当に、可愛いくて愛らしくて無害なのに、たまーに可愛らしくきつい事を言うよね。そ、そんなところも好きなんだけどね」



 笑いながら何を言うかと思えば褒められているのか褒められていないのかよく分からない内容だった。



「父上、それではリディが拗ねてしまいますよ」

「エルお兄様、別に拗ねたりしません。ただ質問をしただけです」

 

 

 若干ムッとしながら答えるリディアーヌは拗ねてないと言いながら拗ねているような答えになり、二人から「可愛いなぁ」と嬉しくない褒められ方をした。



「ちゃんと質問に答えるよ」



 漸く笑いを引っ込めたリュシオルが教えてくれたのだけど、今日の訓練は途中でばばててしまい基礎訓練を終えた後の対戦は使い物にならなかったようで、昏々と団長から説教をされたいたのだとか。

 そういえば途中から姿が見えなかったなとリディアーヌは思っていたがそれも一瞬だけの事で自分の訓練に集中していたから忘れていた。

 けれどまさかれっきとした騎士があの訓練でばてるなんてありえない。



「騎士、なんですよね?」

「あれでも一応騎士だよ。残念ながらね。だから団長達に訓練をもっと厳しくするように進言しておいたよ」



 そう言ったリュシオルの顔は笑顔だがうすら寒いものを感じたが、彼がそう進言するのも頷ける。

 


「まぁ、今回あの四人を引き受けたのは身をもって知ってもらう為。リディが公女として申し分ない事を見てもらう為。いかに噂が馬鹿げているか分かるだろうね」


 

 あぁ、まだリュシオルは怒っているんだとリディアーヌは知った。

 それはエルネストも一緒でリュシオルの言葉に頷いている。

 そしてただ預かるだけではなく、ルヴェリエ邸で訓練を行っている間は宮廷騎士団は休暇扱いで、一時だけルヴェリエ家に所属扱いとなり、訓練中に何が起こっても宮廷騎士団から何かを言われることはない。

 何よりも、 あの四人がやらかせば容赦なく手を下す事が出来るという事。

 リュシオルはにこりとリディアーヌに笑って見せる。

 その笑顔を見て自分の考えが当たっているのだと確信し、リュシオルの事もまた怒らせるといけない人リスト上位に名を連ねたのだった。



ご覧頂きありがとうございます。


読んでいただいている方が増えとても嬉しいです。

ありがとうございます(ꈍᴗꈍ)


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いいたします。


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