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自由な空の下  作者: 月陽
第六章 決別
50/62

模擬戦


「お兄様は今度の騎士団の模擬戦に参加されるのですか?」



 エミリア主催のお茶会から数日後、リディアーヌは休みで屋敷にいたリュシオルへ尋ねた。



「唐突だね。今回は参加はしないよ」

「そう、ですか⋯⋯」



 ちょっと残念だと肩を落とすリディアーヌを見てリュシオルは何故か罪悪感にかられた。

 


「リディ、急にどうしたの?」

「この間エミリア様のお茶会に参加したときフロランス様から聞いたのです。お兄様がたまに騎士団の模擬戦に参加されていると。それで、お兄様の戦う姿が見てみたくて⋯⋯」

「あぁ、そういう事。リディは見学に来るのかい?」

「はい。エミリア様達に誘われて見学に行きます」

「そうか」



 リュシオルはそれきり黙った。

 今のでもしかしたら参加してくれるのだろうかと淡い期待を持ったけれど、そうではないらしく、リディアーヌはやっぱり残念だなと目を伏せた。

 それから四日後、騎士団の模擬戦を観戦する日となり、リディアーヌは公女らしく品の良いドレスに着替えさせられた。



「あの、今日は騎士団の模擬戦を見学するだけだからこんなドレスはちょっと⋯⋯」

「あら、いけませんわ。模擬戦の観戦には色んなご婦人や令嬢方もいらっしゃるのです。お嬢様は公女というお立場上、周囲の目は厳しいのですよ。身なりを整えて侮られないようにしなくてはなりません」



 謂わば戦闘服です、とエヴァにピシャリと言われてしまい、黙ってされるがままで仕上がりを待つ。

 リディアーヌは模擬戦の観戦だから簡素なワンピースドレス位の気持ちでいてたのが、仕上がったら華美ではないものの動きやすさを取り入れかつリディアーヌ的には「これで行くの?」と言った感想が出るような華やかさもある装いとなった。

 最後にドレスと同じデザインのボンネットを被ったら仕上がりだ。

 すべて整った後、玄関ホールへと降りると、そこにはフェリシエンヌが待っていた。

 今日は保護者たるフェリシエンヌも一緒に行くことになっている。

 行き先が宮廷の騎士団ではあるが、成人もしていない子供だけで行ける場所ではなく、フロランス達も彼女達の保護者が付き添ってくれることになるので、結構な大所帯となった。


 馬車に揺られること暫く、騎士団入口の門を潜り暫くして馬車が止まった。

 馬車を降りると、そこにはフロランス、エミリア、アマリアの三人と彼女達の母親であるご夫人が優雅に私達を出迎えた。



「皆さんお揃いでしたのね」

「ルヴェリエ妃殿下。ルヴェリエ公女様。お待ちしておりましたわ。本日は娘共々ご一緒させていただく事、光栄に存じます」



 代表してエミリアの母親である、サジェス公爵夫人が挨拶を述べた。

 エミリアとよく似て優しい金髪に奇麗なブルーサファイアの瞳が印象的だった。

 挨拶を交わした後、早速会場へと向かったが、思ったよりも人で溢れかえっていた。



「こんなに観戦者がいるのですね」

「そうねぇ。ここには騎士団の雄姿を一目見ようと令嬢達だけでなく、彼等の家族や将来騎士団を目指す若者まで多種多様の理由で人が集まるのよ」

「私、令嬢はこういった催しは忌避するのだと思っていました」

「リディの言う通り。少数だけれど騎士を粗暴だと嫌がる者もいるわ。けれどそれは考えの足りぬ者達で、この場にいる令嬢の大半は非日常を味わいたい、戦う姿に憧れる者、 結婚相手にと狙う令嬢もいるわね」

「そういうものなのですか」

「ふふ。リディには少し早いわね」

 

 

 リディアーヌ達の席は既に確保され、一番いい席に案内された。

 他の人達は空いている席を見つけてはそこに座っているようだけど、何故かと疑問に思っていると、爵位の問題もあったけれど、ベルトランが確保してくれたようだった。



「ここからですとよく見渡せますわ」

「今日はフェリシエンヌ様もご一緒ですから良い席で観戦できますわね」



 どうやらフロランス達だけでなく、ご夫人方も観戦するのを楽しみにしていたようだ。

 模擬戦、と言っても騎士団全員が参加するわけではない。

 今日は第一騎士団と第二騎士団の参加者希望の中で勝ち抜いたそれぞれ上位十名で行われる。

 因みに第一、第二の団長は、今回の勝者と戦うことになっていた。

 副団長二人は模擬戦の監督を行っている。



「楽しみですわね」

「今日はリア様の応援されている方は出場されるのですか?」

「はい! あの方は第二騎士団の方で、本日参加されますわ。先程トーナメント表を確認しましたら、三戦目でしたので、とても楽しみです」



 アマリアは目をキラキラとさせてそれはもう嬉しそうに語った。

 リディアーヌはというと、ベルトランからよく見て勉強してくるようにと言われているので彼女達みたいに純粋に誰かを応援する、という事はなく、勉強の一環だった。



「もうすぐ始まるみたいですわ」



 フロランスの言葉に会場へと視線を向けると、審判を務める騎士が中央で私達に一礼した。

 大会とかではないので特に言葉もなく、早速第一試合に出る二人の騎士が中央へと進みでる。

 応援している騎士が出てくると黄色い歓声が飛び交う。

 といっても、淑女らしく控えめだから歓声、というほどのことではない。

 流石貴族令嬢、といった感じだ。

 審判の合図で試合が始める。

 模擬戦といえど、使っているのは普通の剣なので怪我は当たり前で彼等も本気だ。

 半端な気持ちでは怪我では済まないから真剣に戦っている。

 ただ剣がかすりぱっと血が飛ぶと今度は悲鳴が聞こえる。

 令嬢たちからすれば血を見るなんてないだろうから恐怖なのだ。

 中には気分が悪くなり卒倒する者もいるので、下位の騎士達は彼女たちを解放し、医務室へと連れていく。

 リディアーヌからしたらそこまでして観戦する必要あるのかと思うのだが、彼女達はそう思わない。

 応援する騎士がいるから、非日常、興味本位、同じ派閥の令嬢に誘われて、色んな思惑で見に来るので騎士達にとっては迷惑なことだろう。

 リディアーヌと一緒にいるフロランス、エミリア、アマリアの三人は臆することなく観戦している。

 試合は進み、第三試合のアマリアが応援する騎士、レヴリー・ウルス・エトランゼ卿が中央へ進み出る。



「エトランゼ様だわ!」

「あの方がリア様が応援する騎士なんですね」

「はい! あぁ。今日も凛々しいお姿、素敵ですわぁ」



 うっとりと見つめる先のエトランゼ侯爵令息は茶色い髪色に濃い緑の瞳、精悍な顔つきで男らしい方だった。

 アマリアはもっと貴族らしい男性が好みなのかと思ったらそうではないみたいで意外だった。



「この子ったら⋯⋯」



 呆れた呟きをもらしたのはアマリアの母、イレール・リシェス伯爵夫人だ。

 


「あらあら。可愛らしいではありませんか。リディはそういう事に関してはまだまだですもの。今日は勉強をしに観戦しているようなものよ」

「まぁ」

「けれど、公女様は騎士団の模擬戦は初めてですものね。今日の観戦で応援したくなるような方が現れるかもしれませんわね」

「どうかしらね」



 フェリシエンヌは絶対ないだろうと確信している。

 何故なら、リディアーヌの観戦する姿はそう言ったことからは程遠く、食い入るように試合を見ているからだ。

 夫人達が話しているさなか、第三試合が終わった。

 勝敗はアマリアが応援しているエトランゼ卿が勝利したので、彼女の喜びとうっとりそする姿は可愛らしく余韻に浸っていた。

 それから試合が進むにつれ段々と見応えのある試合になってきた。

 エトランゼ卿は第四試合で優勝候補と対戦し善戦したけれど破れてしまい、アマリアは残念そうに思うのかと思いきや、怪我はないかと彼の心配をしていた。

 試合は進み準決勝前に小休憩を挟む。


 

「はぁ。いつ見てもドキドキしてしまいますわ」

「エトランゼ卿は残念でしたわね」

「負けてしまいましたけど、応援している方の雄姿を見る事が出来て嬉しかったですわ」



 負けた本人は悔しいだろうが、応援している側は勝敗よりもその人の雄姿を見るのがいいみたいだ。

 勿論勝ってほしいと思っているだろうが、それだけではないのが彼女から伝わってくる。



「女性の騎士は一人だけなのが意外でした」



 リディアーヌはそれよりも女性騎士が二十人中一人だけというのが気になっていた。

 その一人は次の準決勝へと駒を進めている。



「そうですわね。女性騎士は少ないですけれど、魔術師の方は多くいらっしゃいますよ」

「剣を扱う、という事が難易度高めですものね」



 サジェス公爵夫人、ミシェル・ミラ・サジェスは嫁ぐ前の職が魔術師団所属だったのだと教えてくれた。

 どういう経緯で公爵と婚姻することになったのか少し気になるが、公爵夫人が魔術師だという事にも驚かされた。



「そろそろ準決勝が始まるみたいですわ」



 エミリアが会場を見てそろそろだと声をかけてくれたのでみんなで会場へと意識を向けると、準決勝の最初の試合は今回模擬戦に出場している唯一の女性騎士だった。

 相手は体格の良い彼女よりも頭二つ分背が高かった。

 


「まぁ。あれだけ背の高さが違ったら不利ではないかしら」

「⋯⋯私は女性騎士が勝つと思います」



 リディアーヌがそう言うと「え?」と不思議そうな声が右から聞こえてきた。

 


「リディ様、どうしてですか?」

「見た目で言えば女性騎士が不利だと思いますが、今迄の動きを見ればそれを逆手に相手を翻弄すると思います。何より相手の方は少し動きが雑⋯⋯」

「リディ?」



 その声にドキッとしてそっとフェリシエンヌを見るといい笑顔でリディアーヌを見ていた。

 

 

「えっと⋯⋯相手の動きが少し荒いので隙が生じやすく、その隙をつけると勝ちます」

 


 リディアーヌはフェリシエンヌの一言で言葉を選び直し言い切った。

 その様子を見ていた二人の夫人は「あらあら」と暗に言葉遣いで指摘され気まずそうに言い直したリディアーヌを見てそれも微笑ましいといった風に微笑んでいた。

 それが少し恥ずかしくてリディアーヌは目の前の試合に集中した。

 準決勝だけあり双方とも冷静に打ち合っていたが、痺れを切らせた騎士が先に動く。

 そして⋯⋯。



「まぁ! リディ様が仰ったとおり女性騎士が勝ちましたわ!」

「最後の鮮やかな剣捌き、まるで舞っているようで奇麗でしたわ」

「けれど女性に負けたからか、相手の騎士のあの表情はいただけないわね」

「えぇ。実力主義のこの国でまだあのような者がいるなんて」

 

 

 あの男性騎士は女性騎士を憎々しげに睨んでいる。

 あれは負けた悔しさではなく、女に負けたというような言った視線だ。

 女性を下に見下している視線。

 過去にもあの視線を受けたことがあるのでその時の事を思い出し不快感でいっぱいになった。

 

 

「リディ、どうしたの?」



 呼ばれて振り向けばフェリシエンヌが心配そうにリディアーヌを見ていた。



「何でもありません」



 リディアーヌは心配をかけまいと微笑んだ。

 といってもきっと後で聞かれるのは分かっているけれど、この場で話すようなことでもない、というよりも過去の事は話せない。

 歓声があがり会場へ視線を戻すといつの間にか次の試合が始まっていた。

 


「いつの間にか騎士の方が増えていますわ」

「負けた騎士を始め、訓練の合間で見学に来たのでしょう」



 会場の席はほぼ満席となっていて、騎士達が真剣に試合に見入っていた。

 一際大きな歓声が上がったと思ったら決着がついていた。

 この後十分ほどの休憩を挟み決勝戦が行われる。

 先程の女性騎士と今勝利した騎士との戦いだ。

 


「今日はどちらが勝つかしら」

「私はガルニエ卿が勝つと思いますわ。前回の優勝者ですもの」

「メルシエ様もお強いわ。今回初めて出場されて決勝まで勝ち進んでこられたのですもの。優勝なさってほしいわ」



 エミリアとアマリアは二人のどちらが勝つか、また勝ってほしいかを話している最中、リディアーヌは今までの試合を思い返していた。

 人の動きを見ているだけでも勉強になるので、自分にも出来るかと考えていた。

 考えていたが、どう考えても今の筋力と体力をつけないとどちらにしてもダメな気がすると、結局一番の問題はそこにあった。

 


「どうやったら体力が付くんだろう」



 ぼそりと呟く。

 もっと体力をつけて剣の腕を上げてベルトランを始めリュシオル達、大公家の役に立ちたい。

 強くなることだけでなく、勉学に関しても手を抜くことなく頑張っているが、強くなるためには体力をつけることは必須だ。

 持久力がなければいざというとき役立たずで足を引っ張ってしまう。

 それは避けたい。

 リディアーヌがうーんと唸っているとパンっ! と乾いた音がしたのではっとして顔を上げる。



「お母様?」



 乾いた音、手を打ち鳴らし困ったような顔で彼女を見ているフェリシエンヌが「やっと顔を上げたわね」とやれやれと呟いた。



「皆と一緒にいるのだから考えに没頭するのはおやめなさい」

「あ⋯⋯」



 やってしまったと周囲を見ると、誰も怒ってるう風はなく、どちらかというと笑いを堪えているように手や扇で口元を隠して少し肩が揺れているご夫人方に心配そうにこちらをうかがうフロランス達が目に入る。



「皆様、申し訳ありません」



 リディアーヌは素直に謝った。

 


「公女様は何をお考えになられていたのです?」

「強くなるためにどうしたらいいのか、体力をつけるために何をしたらいいのかを考えておりました」

「まぁ。公女様は勇ましくていらっしゃいますのね」

「もう、リディったら⋯⋯」



 リディアーヌが本音を言ったものだからフェリシエンヌは呆れたため息をついた。

 これはあまり褒められたことではなかったようだ。

 けれど、サジェス公爵夫人とリシェス伯爵夫人は特にそれを指摘することなく、微笑んでいた。

 休憩が終わったようで、決勝戦で対戦する二人、ガルニエとメルシエの二人が会場内に姿を現す。

 

 

「いよいよ始まりますわね」



 模擬戦といえど決勝戦の場の雰囲気に令嬢達は固唾をのんで見守る。

 審判の「始め!」の合図で緊迫した試合が始まる。

 会場内に響く剣と剣がぶつかる甲高い音。

 気合の入った声。

 誰もがこの試合に魅入っている。

 試合が始まり五分が経ち、メルシエが少し押され始めた。

 そして十分が経過したころになるとそれが顕著に表れた。

 やはり力で男性には敵わないこともあり、それをカバーするだけの技術があれど相手が一枚上手だった。

 そして⋯⋯。

 会場内に一際甲高い音と、悲鳴が上がった。


ご覧いただきありがとうございます。


次回も楽しんていただけると嬉しいです。


よろしくお願いいたしますm(__)m

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