一 始まり
私、鴉田圭は源甲斐修という人間の意識があり、タイムマシンの機能がある自動車に乗って、真夜中を走っていた。
「じゃあ早速、タイムトラベルをしましょうか」
「うん。ただその前に、タイムトラベルについて説明したいことがある」
修が答えた。
「なんですか?」
「まず、もうわかっているかもしれないけど、一度タイムトラベルをして過去を変えると、未来が変わり、もう元の未来には帰れないということだ。程度にもよるけれど、小さな改変でも未来への影響は大きい」
「でも、あたし達はタイムトラベルをして世界を変えたじゃないですか。未来は変わってないですよ?」
「あれは未来から手が加わるというのがありきの過去だったからだよ。特異点というのはそういうものなんだ」
「なるほど。じゃあ、慎重に行動しないと、失敗したらえらいことになっちゃいますね」
「うん。だけど、それの対策というか、有効なものがあって、それがもう一つの時間遡行方法タイムリープだ」
「タイムリープ、ですか?」
「そう、どんなことをしても、それをなかったことにしてある一時点に戻る機能だ。これを実行すれば、未来に影響を与えないで済むんだ」
「じゃあ、何かやらかしたり、満足いかない結果だったりしたら、タイムリープを使えばいいんですね」
「うん」
私達は人気のない海岸沿いに移動した。タイムトラベルを見られないようにするためだ。
「さて、まずはどこの時代に行って、何をしましょうか」
「一つ、お願いがあるんだけど」
「はい」
「寄り道なんだが、私の生まれた日に行って、両親を見に行ってもいいかな?」
「もちろん、親が恋しくなったんですか?」
「いいや、実は私は物心ついた時から両親がいなくて、施設暮らしだったんだ。一度くらい、顔を見ておきたいと思ってね」
「いいじゃないですか。すごく人間らしくて。なんか、修さんのやりたいことを手伝えてすごく嬉しいです」
「ありがとう。では、行こうか」
周りが光に包まれた。何度見ても、こんなことができるなんて、と感心してしまう。
タイムトラベルが終わった。周りの風景は変わったように見えたが、地形自体は変わっていなかった。
「無事成功したね。もう千年前だよ。正確にはもう少し前だけど」
千年前、か。あんまり想像できるものじゃないな。
ことの雄大さに圧倒されていると、あくびが出てきた。辺りは夜で、今日(タイムトラベルする前の時点だが、それを今日と呼ぶかはわからない)はかなり忙しかったので、その疲れが出てきたんだと思う。
「一旦、朝まで寝てもいいですかね?」
「ああもちろん。気を遣えなくてすまない。タイムトラベルする前に休憩を取ればよかったね。佑さんのところに泊まってもよかったんじゃ?」
「いいや、大丈夫です。別れが惜しくなっちゃいますから」
「君は強いね」
「弱いのを隠そうとしてるだけですよ」
そう言って、私は座席を倒して眠りに入った。
目を覚ましたのは、朝日の見える明け方だった。
「うまく寝れなかったな……」
私は外の空気に触れようと思い、ドアを開けた。
人が誰一人として見当たらない、でこぼこした道を歩く。木が多く生い茂っていて、風が木の葉を揺らす。欠けた太陽の光を浴びながら、胸の中は期待と不安がどっこいどっこいで入り混じっていた。
深呼吸をしようとした。しかし突然、背中に強烈な衝撃が走った。あまりの痛さに悲鳴をあげてしまう。
なに……これ……電流?
私の意識は落ちていった。