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時の伝書鳩  作者: 夜光哉文
第二編
31/54

二十五 作戦実行

 レオ院長が、院内の自分の部屋に入った。

 「こんにちは。レオ院長」

 イタリア語はよくわからないので、英語で挨拶をした。

 「だ、誰だ!アジア人?」

 「日本から来ました。Kです」

 何を考えているか悟られないように、言った。

 私の名前はけい。仮名としてKというのはすぐに思い浮かんだ。

 「ちょっと、誰か……」

 レオ院長が部屋を出ようとした。

 「誰も来ませんよ」

 ちょうどそういう時間を狙ったんだ。

 「どうやって入ったんだ」

 その質問には答えなかった。

 外から内からずっと観察して、どうやってドアを開けるか、周りに見つからない時間はいつか、監視カメラをどうしたら回避できるか、色々方法を模索して、見つかったら時間をリセットして、ようやくここに立っている。そんな努力を晒すわけにはいかない。

 「なら、何をしに来たんだ」

 「教えて欲しいことがあるんです。あなたは、裏社会と関わりがありますね?」

 「……」

 彼は答えなかったが、私は構わず続ける。

 「私の父は、マフィアの汚い策略により、臓器がなくなりました」

 「だったらなんだ?私に報復を?その前にもっと他に行くところがあるだろう。私は無関係だ」

 「自分は何も罪がないって言うんですか。まあ、それでもいい。別のところへ行くために、あなたから知っていることを教えて欲しいんです」

 「ふん……」

 彼は携帯を持って、警察を呼ぼうとしていた。

 「今を凌いでも無駄ですよ。私はまた現れます」

 私は近くの窓から飛び降りた。ちょうどクッションを上に装着した車がやってきて、無事着地した。それからすぐにタイムトラベルを始めて、そこから消えた。

 怖かったけど、映画みたいでドキドキしたな。

 「これで、向こうは突然消えたように見えますね」

 「うん。次は……今日の夜か」

 「はい」

 レオ院長が、自宅の自分の部屋に入った。

 「こんばんは。レオ院長」

 彼は悲鳴をあげて部屋を飛び出して行った。

 その隙に、私は窓を開けて逃げた。

 次の日、レオ院長は病院や家の警備を強化し、私のことを完全に警戒していた。

 彼が仕事中、窓際に立った時、私は彼の視界に入るように立って、にんまりと笑った。彼は息を呑んだ様子で、周りに声をかけようとしたが、私はすかさず姿を消した。

 同じようなことをして、一週間粘着した。

 レオ院長が部屋へ入ってきた。

 「だいぶ疲れた様子でしたね。レオ院長」

 この一週間で、彼は見るからにやつれていた。

 「ど、どこだ!」

 「なあに、ただの通話ですよ」

 私はあらかじめ、机の上に無線機を置いていた。

 「そろそろ、話してくれてもいいんじゃないですか?」

 「断る。警察に言ってさらに警備の範囲を広げることにした。お前はもう終わりだ」

 「マフィアの次は警察と癒着ですか。ずいぶん顔が広いんですね。別に、何かしようって言っているわけじゃないのにな」

 「だが、お前は間接的に私の邪魔をしようとしてるのだろう?」

 「何か勘違いをしていませんか?私はテロを計画しているわけではないですよ?私はただ、知りたいだけです」

 「し、しかしだな……」

 「明日午後十時、再び病院を訪ねます。開けておいてくださいね」

 そこまで話したところで、私は通話を切った。

 「さて、そろそろ仕上げですね」

 「うん。かなりはまっているみたいでよかった。さすがだよ」

 「ありがとうございます」

 「狂人を演じて、情報を引き出す。なかなか面白い案だ。しっかり君の強みを押し付けられているね」

 「結構楽しいもんですね。タイムトラベルとタイムリープを使えば、ストーキングも楽ですし」

 「大人になったら役に立つかな?」

 「それって私が将来ストーカーになるかもってことですか?あいにく、あたしは真っ直ぐ行くタイプなんです」

 「ええ?それは冗談だろう?君、佑さんには絶対自分から行かないって感じじゃなかったかい?」

 「……この話はなかった事にしましょう」

 軽口を少し挟んで、私は明日のために休憩をする事にした。


 翌日、私はあるホテルへ入った。

 レオ院長が病院にいないことは事前に確認済みだ。このホテルに入ったことも。

 従業員の家を特定して、制服を一つ盗んだ。もう立派な犯罪者だ。一応、うまく行った後はタイムリープをして全て元に戻す予定だから許してほしい。

 トイレで着替えて外に出た。すぐにエントランスを超えてエレベーターに飛び乗った。私は背が高めだから、客に見られてもそこまで疑われないが、従業員にはすぐにバレてしまう。もう三回タイムリープした。

 レオ院長が泊まっている部屋の階層へ着いた。もちろん、彼を追跡して特定した。見つかってはタイムリープしてを繰り返して。それは、なかなかに時間のかかる作業だったが、同時にやりがいを感じた。張り込みよりは何倍も楽しかった。

 今日は演技というより、どれだけスムーズに出来るかだ。失敗したら身の危険さえある。心してかからないと。なんだかワクワクしてきたな。本当に狂人になっちゃったのかも。

 私はレオ院長の部屋をノックした。

 「レオナルド様、お食事をお持ちしました」

 いつもより清楚な声で、イタリア語で言った。発音に関しては、修の監修のもと、ほぼ完璧なものにした。

 レオ院長がドアを開けた。私は今できる精一杯の不気味な笑顔をを浮かべた。彼の顔はすぐさま真っ青になった。

 ああ、やっぱり私は演者に向いているらしい。

 「ひ——」

 彼が悲鳴を上げる前に口を塞いでスタンガンを押し当てた。日本にいた頃に一度やられたこと、それを思い出してこの行動を計画した。

 思ったよりも声は漏れてしまったが、ここは高級ホテル。防音性能もバッチリだ。廊下には誰もいないので誰にもバレずに済んだ。

 これで作戦は成功。あとは話を聞くだけだ。

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