十七 休息
「ついたよ。ここがリヨンだ」
「やっとですね」
私は外に出て、伸びをした。ちょうど、朝日が昇っていて、街が綺麗に見渡せた。
「うーん、綺麗な街ですねぇ」
「だろう?あの頃のままだ」
「あの頃そのものでは?」
「確かに。この時代の私は……他の都市に移っていたかな」
「どうしてですか?」
「働いていた病院が閉院してしまってね。それから大学で研究をすることにしたんだ」
「ちょっと待ってください。修さんって医者だったんですか?」
「あれ、言ってなかったか。私は元々医者で、途中から時間に関する研究を始めたんだ。で、そのきっかけっていうのが病院の閉業ってわけさ」
「そうだったんですね。後でその病院も見にいってみましょうよ」
「うん。いいよ。おそらくただの廃墟になっていると思うが」
話しているところで、周りに人が見えてきた。ひとまず、車を目立たないところに止めてから、私は少し街を歩いてみることにした。
「よし、ここで試すんだ!勉強の成果を!」
意気揚々と、すれ違った人に挨拶をしてみた。
「ボンジュール」
話しかけたお兄さんは、気さくに返してくれた。
「よっしゃ!」
続いてもう一人、話しかけてみた。
「ボンジュール」
話しかけたおばあさんは、黙り込み、怖い顔で睨んできた。
「ええ……なんで?」
「ここでは君が異端だからね。君をよく思っていない人もいるだろう。まあ、基本的には大丈夫だと思うけどね」
「それでも、あの対応はメンタルにきますね……」
「人間だれしもだが、年齢が高くなればなるほど他を受け入れづらくなるものさ。逆に、若い人は受け入れてくれる人が多いはずだ」
「そういうもんです……か」
向こうが人を選ぶのと同じく、こちらも選ばなければいけいないということか。
歩みを進めていくと、時間も程よく経ってきて、かなり人通りが増えてきた。観光地ということもあってか、かなりにぎわっており、来年にはここが戦地なるということが想像できなかった。
「なんか、全然平和ですけどね、ここ」
「昼間はそんなものだろう。兆候が見られるのは夜だ。だから、調査するのは基本夜になるね」
「最近夜ばっかりですね。今のうちにお日様いっぱい浴びとこっと」
その意見には修も賛同したらしく、今日のところはお休み、というのが暗黙の了解になっていた。
近くのオシャレな喫茶店に入り、カフェオレとクロワッサンを頼んだ。注文も難なくこなすことができ、勉強の成果をさらに実感できた。私の知らない難しい単語やわからなかった言葉は修がそこで直訳してくれるため、そこも安心だ。
「クロワッサンはカフェオレに浸して食べるのが地元の食べ方だよ」
言葉の通りにした。食感や味わいが変わってなかなか良い。そこでふと、疑問が浮かんだ。
「あの、クロワッサンってフランスが発祥なんですか?」
「どうだったかな……確か、発祥自体は他だったはず。しかし、ソウルフードであることは間違いないね」
「でも、あたし達の時代にもクロワッサンってあったじゃないですか。フランスがなくなったのに、どうしてクロワッサンみたいなフランスのものが残ったんでしょう」
「私がフランスをなくした後、世界は天道都市を作るということを決めた会議を行ったんだ。その際に、フランスという存在を抹消するという決定がなされたんだけど、おそらくその時にフランスが関係しているものの認識及び記録を全て塗り替えたんだろう」
「なるほど」
その後は、修の案内で観光名所を一通り回った。終わる頃には、すでに日が落ちていた。