決行前
黒服の男がいなくなっても俺はしばらく唖然としたままだった。
俺が外崎を殺す。
いや、たしかにあいつは言葉遣いもできてなくて、仕事もいい加減で、いちいち癪に触るが…
俺も多少は恨んでいるが、殺してやるってほどでもない。
でも、外崎を殺さなかったら俺が死んでしまう、やるしかないのか…
俺は悩みながらも鞄に包丁をいれた。
翌日会社にいくと珍しく外崎が俺より早く出勤していた。
「辻さん、おはようございます、今日も仕事がんばりますよ!」
今日殺されると知らずに呑気なことだ…
今日本当に俺が外崎を殺すんだよな、こいつを俺が?
他になんか手段はないのか?
本当にこれしか方法は…
そんな事を考えると後ろ首が少し疼いたような気がした、だがそんな小さなことでも俺の考えを改めるのには十分過ぎた。
いや、そもそも外崎が悪いんだ、ちゃんとミスをせずに仕事をしていれば目をつけられることもなかったのに、これはあいつの身から出た錆だ、俺が悪いわけでもない。
「辻さん、大丈夫ですか?」
気がつくと河合が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「なんだか辻さん顔怖いですよ、もしかしてまた外崎君のことですか?
何かあるなら話し聞きましょうか?」
「いや、大丈夫ありがとう」
まずい、いつの間にか顔に出ていたのか、気をつけなくては。
外崎には感づかれないようにしよう。
そうと決まれば外崎を殺し易いようにしよう。
まずは二人っきりになりやすいように飲みに誘うか。
「外崎、今日飲みに行かないか、最近がんばってるようだしな」
そう言うと外崎は嬉しそうに目を輝かした。
「行きましょう!
わかちゃいますか、俺最近頑張ってるんですよ。
飲みに行くならいい店知ってるんで、俺に任せてくれませんか?」
「ああ、任せていいかな」
よし、順調だこれで外崎を酔わせて、帰り道で殺せばいい。
会社が終わり外崎が紹介した店は何処にでも有りそうな居酒屋だった。
「一回先輩としてみたかったんですよ。
ここ実は俺の彼女が働いていて、辻さんにも紹介しておきいんで」
自分のミスした仕事は俺に放り投げて、自分は彼女と楽しそうしてんのか!どんだけお前は俺をコケにしたいんだよ。
居酒屋の中は結構雰囲気が良かった。
外崎が注文をすると奥から元気そうな女の子がパタパタと走ってきた。
「あっくん、今日も来てくれたの、嬉しい。
こっちの人はいつも言ってる上司さん?」
「そうだよ、お前に紹介しようと思ってな」
「始めまして、あっくんの彼女の仁美です、以後お見知りおきを。
で、あっくん注文は?」
いい彼女さんだな、出来ればこの子を悲しませたくないが、仕方がないんだ。
その後目論見通り外崎が居酒屋を出る時にはベロベロに酔っ払っていた。