首の焼印
手元のカップ麺の容器を見ると潰れてしまっていた、恐らく倒れたときに潰したんだろう。
「さっきのは夢じゃないだよな?」
思い出せば出すほど不思議な体験だ、だが実際に起こったことなのだろう、あの首の痛みは夢とは思えない。
それはそうと、人を十人も…俺はやれるのか?
いや、出来るのかじゃない、やらなくてはいけないんだ、いやでも…
「辻さん、早いですね。
もしかして家帰ってないんですか?」
声のする方を見ると今年外崎と同じく新卒で入社した河合がいた。
外崎と違って優秀だ、羨ましい。
「外崎君の指導で仕事が終わらなくて、納品期限が近いものもあったから」
「ああ、確かに辻さんって外崎君の教育係だったですもんね、それにしても大丈夫ですか?
最近残業が多いみたいですけど」
そう言いながら河合は心配してくれている、なんていい子なんだ、外崎と交換してほしい。
「大丈夫だよ、誰でも通る道だよ河合ちゃんも将来やってあげてよ!」
そうすると河合はこれでもかというほど元気よく返事をしてくれた。
「はい!」
ああ…なんていい子なんだ…こんなおじさんのお小言をちゃんと聞いてくれるなんて。
そんなふうに感動し涙が出そうになっていた頃、俺の感動に水を指すように外崎が出社してきた。
「おはようございます、辻さん早いっすね、河合となんか喋ってたんですか?」
お前のことだよ!
「しっかりしなきゃだめだよ外崎君、辻さんは君の指導のせいで仕事が終わらなくて、今まで残業していたんだから」
「そうなんすか、すいません俺のせいで」
外崎が珍しく素直に反省しているようだし、今日のところはゆるしてやるか…
「そんなに、謝んなくていいから、頑張りなさい」
その後珍しく外崎が問題を起こさず一日を終えたため幾日ぶりに残業をしくてすんだ。
あいつも反省するんだな。
家に帰り落ち着くと昨晩の事を思い出して考え出していた。
あれは夢だったのかなぁ、それにしては痛みが強すぎるような、だってまだ首の痛みが鮮明に思い出せる。
そもそももう生き返ったんだから、契約なんて無視して人なんか殺さなくていいんじゃないか?
そう思った瞬間後ろ首に猛烈な痛みが走った。
声も出せずその場でもがいていると黒服の男が現れた。
「まったくも〜契約をないがしろにしようとしたでしょ?
わかるよ〜、君の首に押した焼印は便利なんだよ、君が変なことを考えたらすぐ分かるんだ。
そんなこと言ってもいきなり人を殺せって言ってもできないよね。
ああ、後処理のことは気にしなくていいよ、俺がやるから君が殺したってわからないから。
まぁでも踏ん切りがつかないことってあるよね、仕方がないから背中を押してあげる。
明日君の部下の外崎を殺しなさい、手段は問わないそれが出来なかった時には君は死ぬ。
頑張ってね!」
そう言うと黒服の男は去っていった。