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雪を解いて春を招(よ)べ  作者: 空烏 有架(カラクロ/アリカ)
3時限目 学園祭ラプソディ
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09_世界一周ランチタイム

 ようやく休憩時間になったので、ひとまずジェニンカとオーヨと合流した。

 他のクラスの出し物を見て回るのこそ学園祭の楽しみだ。三人でパンフレットを眺めながら、あてもなく歩き始める。

 そろそろお昼だし、ついでに何か食べておきたいところ。


 食品関係の出し物もないわけではないが、やはりこういう学校では作り手の確保が難しいからか、あまり目ぼしいところがない。

 この中ではリェーチカたちの喫茶店はかなり本格的な部類だ。


 さすがに国立校の学園祭なだけあって、外部からの出店まである。ずらりと並んだ少なくない看板たちがなかなか壮観だ。

 しかも今日は気持ちのいい秋晴れ。せっかくだから三人はそれぞれ移動販売のお店で食べ物を買い、ベンチに並んでピクニック気分を味わうことにした。


「あ、ねえ、わたし二人にちょっと頼みたいことがあるんだけど……」

「なぁに?」

「その……もし良かったらでいいんだけど。ひと口ずつ分けっこ、ってのを、してみたいの」

「あ! 私もそれやってみたい! やろやろっ」


 きゃいきゃいはしゃぐ女子たちを、オーヨが微笑ましそうに眺めている。


「二人とも育ちがいいよね」

「そう?」

「ジェニンカはともかく私はそうでもないよー。単に外食したことないだけだもん。里にお店とかほとんどないし、同世代の子も近くにいなかったから」


 なんて言っても都会育ちにはピンとこないのだろう。相変わらずのリェーチカの田舎話を、二人とも苦笑いで聞いていた。

 本当に、(ふるさと)首都(ここ)では違いすぎて、別の時代か違う国なんじゃないかと思えることさえある。


 ともかく買ってきた軽食(ホットスナック)を分け合うべく、風属性の紋唱で刻んでみる。これも練習になるのでちょうどいい。

 うん……まあ、上手に均等というわけには、いかなかったけども。


「これはおやつ? クリームと果物が挟んであるみたいだけど。なんか珍しい匂いするね」

「ブカクティっていう南の国(イキエス)の料理みたいよ。オーヨのは?」

「これは中央の国(ワクサレア)のサンドイッチ。ハーシのと何が違うのか気になって」

「へー、なんか色んな国のがあるね! 面白いなぁ」

「リェーチカのは?」

東の国(マヌルド)包み巻き(ラップサンド)だよ。なんかお魚食べたくなって」

「ああ、あそこは漁業が盛んだからね」


 なんだかやたら国際色豊かなお昼ごはんだ。

 やっぱり首都の学校だからだろう。ここの生徒には官僚の子女だとかの、将来この国を背負って国内外で活躍することになる人が多いから、学園祭の業者といえども国際交流を兼ねた選定をしているのだ。


 まあ卒業さえギリギリなリェーチカはその後のことなんてまだ考えられないので、今は楽しくて美味しいだけで充分だ。


 ジェニンカの選んだフルーツサンドはおやつに取っておき、まずオーヨのサンドイッチから。


 中央の国ワクサレアは農業大国。だからか具も葉野菜に燻製肉とチーズで、一見するとハーシで食べるのと変わらない。

 が、ひと口かじれば一瞬で己の見識の狭さを思い知った。

 鼻を抜ける芳醇な香りの薬草(ハーブ)のソース、これが決め手だ。パンとチーズがやや薄味なのに対して、ソースと肉にはしっかり塩が効いている。


 続いて自分の選んだラップサンド。オーヨの言うとおり、東の大国マヌルドは広大な海岸線を有する漁業の国だ。

 メニューの名前を聞いてもわからないものが多かったので、リェーチカはとりあえず店員さんのおすすめを買ったのだが、どうやら焼き魚が入っているらしい。

 まるごとではなく、食べやすく砕いてあり、酸味のあるまろやかなソースと和えてある。


 リェーチカはつい癖で「これどうやって作るのかな?」と頭の片隅で考えていた。

 こういう普段は手に入らない美味しいものも、再現できればまた食べられるし、この場にいない他の人にも味わってもらえる。


「ん〜、どれも美味し! それに分け合って一度にいくつも楽しめるのって贅沢よね」

「ね、なんかお得だねっ」

「このフルーツサンド、意外と香辛料が効いてるね……で、クリームもすごく甘いや」

「うん、それが良いよねぇ。お茶がすすむ……あ、オーヨもお茶もっといるよね? はい」

「ありがと、助かるよ」


 のほほんとした空気で異国の味わいを楽しみつつ、ふたたびパンフレットをためつすがめつ。

 楽しい時間には限りがある。このあとどこに行くかを先に決めておかなくては。


「遺跡のジオラマか……これならササッと見に行けそうね」

「劇は時間が合わないとキツいよね」

「んー……」


 三人でもぐもぐしながら額を突き合わせていると、ふとジェニンカが言った。


「そういえば、さっき喫茶店に来てくれた他のクラスの子に聞いたんだけど、お化け屋敷がすごいんだって」

「え、そんなのあったっけ?」

「生徒の出し物じゃないのかもね。……あ、これじゃないかな?」


 オーヨが指し示したのは外部業者の出店内容一覧。

 そこには『体感! ヴレンデールからの戦慄の贈り物〜忌神(いみがみ)の世界〜』とかいう記載がある。移動販売の食事だけでなく、そんなものも外注しているのか。


「そう、それそれ。もうね、す〜っごく怖いんだって!」

「えぇ〜っ」

「あ……その、ジェニンカが行きたいなら、おれは構わないよ」

「え? あ、二人が嫌ならやめるけど」

「うー、んと……」


 どうしようかなぁ、とリェーチカは友人たちの顔をちらちら見比べた。

 行きたそうなジェニンカ。ちょっと顔が引きつり気味で、たぶんあまりそういうのが得意ではなさそうなオーヨ。

 ちなみにリェーチカもオバケとか怖いのは大の苦手だ。


「いや、正直おれもちょっと興味はあるんだ。ただあんまり怖かったら困るなと思って」

「え。なんか意外」

「だってこれ、主題(テーマ)が『忌神』だよ。西の国(ヴレンデール)に伝わる死の国の神々で、現地の人たちですら口外を避けるから、あまり研究も進んでいないんだ。それを余興(アトラクション)で体験できるなんて貴重じゃないかな」

「……うん、めちゃくちゃらしかった。じゃあ、とりあえず行くだけ行ってみよ!」


 リェーチカがにこにこしながら提案すると、ジェニンカも微笑んで頷いた。


 二人も乗り気なら反対するのは気が引けるし、もしかしたらもしかすると、これっていい機会かもしれないし。もちろんオーヨの恋が進展するかも、という意味で。

 なんとかこう、うまいこと二人だけで入ってもらえるように誘導する方法はないかしら?

 ――と、内心こっそり企むリェーチカなのだった。



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