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人生3周目だけど何か?  作者: カルピスソウダ
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人生3周目のおれが高校で暗躍。


 突然だが、理想の高恋生活と聞いてどのようなことを想像するだろうか。

気になるあの子と夏祭りにいったり。

登校中に食パンを加えた女子高生と街角でぶつかったり。


 きっと誰しもが理想の高校生活を思い浮かべ、今この麗らかな日差しの下で行われてる入学式に足を運んでいるはずだ。


 耳をすませば、こつんっこつんっと軽やかなローファーの音が四方八方から聞こえてくる。

楽しそうな音だと心の中で思う。

ひらひらと行くあてもないように桜が舞い降りている。

自由だなと心の中で思う。

おれは持っていたカルピスをちょびっと口に含んだ。




 「最後に、新入生諸君。これからの3年間を精一杯楽しめ。そして自分の道は自分で示せ。健闘を祈る。本当に入学おめでとう。」


 

 ぱちぱちぱちと拍手が聞こえる。生徒会長の挨拶によって新入生はまたいろいろな想いを巡らせているのだろう。そしてそれはおれにも言えることだ。



 ーおれにとっての“3回目”の高校生活が始まる。


おれは今どんな理想を思い描いてここにいるのだろうか。



 ここ一等大学附属高等学校は、名前の通り一等大学の附属校である。ちなみに一等大学は日本でトップレベルの大学であり、一等大学に入学すれば人生安泰、いやそれ以上に裕福になれる可能性があるというのが世間の常識だ。そんな素晴らしい大学の附属校ということで在校生全員が一等大学への内部推薦を狙っているだろう。

 

 しかし現実はそう甘くない。一等大学への内部推薦を得られるのは学年で1クラスのみ。1学年4クラスあるから25%の生徒しか内部推薦を得られないのだ。そこで、何を基準に1クラスだけ選ばれるのかという疑問が生じる。それについては、先ほどのホームルームで担任の“桜奈々子”からの説明にもあった通り、普段の生活態度(遅刻の数や授業への姿勢)や定期テストの結果、そしてイベントでの活躍などがポイントとして数値化され、3年間で得たポイントが最も多かったクラスに内部推薦が渡されるというものだ。


 

 ホームルームが終わり、軽い自己紹介を行った後、これから3年間を共にする仲間と少しでも親睦を深めるための自由時間が与えられた。ちなみに、明日から2泊3日のオリエンテーション合宿、通称オリテンが始まる訳だが、知り合ったばかりの他人と同じ釜の飯を食うことに不安を感じている生徒がほとんどだろう。まあそうならないための自由時間なんだが…

オリテンは長野県の菅平で行われる。標高高いな。

 

 おれの座席は窓際の1番後ろということもあって前の生徒か右隣の生徒しか話せる相手が居ないわけだが、前の生徒は、なにか考え事をしているのか肘を机につき手で顎を支えている。

右隣の生徒はもう既に仲良くなった近所の生徒と談笑している。ここでいきなり会話に割り込むのは気が引けるからおれはぼんやり窓の外を眺めることにした。


 それから10分くらいたっただろうか。とんとんっと肩を叩かれたから、おれは窓の外から視線を外し振り返ると柑橘系の匂いがふわっと香る。

「“青井瑞稀”くんだよね!これからよろしくね!」

隣の席の”成瀬七海“が手を差し出しながら声をかけてきた。

「よろしくな。」

おれもそれに合わせて握手を交わすように手を握る。

一般的な高校生なら歓喜する場面なのだろうと当てもないことを考える。

成瀬七海。光の束を集めたような輝かしい金髪に、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳を持ち合わせ、サイダーのようにしゅわっと弾ける笑顔をこちらに向けている。さては、その頭のついているリボンで数々の男子を堕としてきたんだな?おれは成瀬はきっとクラスの中心人物になるなとひそかに確信した。


 その後、おれと成瀬は特に会話を交わすことも無く、自由時間が終わったため解散になった。成瀬はもう既に席が遠い生徒とも話してるようで、

「成瀬さんまじで可愛くね?」

「もう好きになっちゃいそう。」

という男子の声もちらほら聞こえてくる。

 おれもそろそろ帰るかと荷物をまとめていると、ふと視線を感じた。顔を上げると、前の席の”黒川渚“と目が合った。そして奇妙な感覚がおれを襲う。この人、どこかであったような…なんて考えていると向こうもおれと同じく考え込んでいるようだった。

「えっと__」

「あ___」

おれと黒川渚の声が重なる。どうぞどうぞと言うようにおれは手を出した。

「いや、その、特に用件があったわけではないのだけど…。と、とりあえず一緒に帰らない?」

「そうだな。席も近いし話しながら帰ろう。」

お互いが恋に落ちたとかそういう運命的なことではないことだけは確かだった。


 うむ。ちょっと、いやかなり気まずいな。

黒川との帰り道におれはふと思う。向こうもそういった様子を見せている。ちなみに、おれも黒川も電車登校だが、学校から最寄駅まで2kmはある。多くの生徒はバスを使って登下校するようだが、おれは歩くのが好きだから歩ける範囲だったら頑張って歩くときめている。

凄まじい夕焼けを背景に、真っ黒なカラスが何匹か羽ばたいている。

どこまでも遠くに羽ばたいていくカラスを眺めていると、黒川が口を開いた。

「急に誘っちゃってごめんなさい。今ちょっと気まずいでしょ?」

こういうとき、どう答えてあげるべきか迷うな。

「家族でドラマを見ている時に、いきなりキスシーンやベッドシーンが始まったときの気まずさに比べれば全く気まずくないぞ。」

我ながらよくやった。と思う。

「そ、それは確かに気まずいね…。」

黒川が妙に納得したように呟いた。

また変な間ができないように、冗談はさておきとおれが続ける。

「おれたちどこかで会ったことあるか?」

普通ならビックリするような質問だが、黒川は指を顎に当ててジッと考えている。

「実はね、私もそう感じていたの。でも、私は青井くんみたいな人に会ったことはないよ。」

やはりそうか。なら、この違和感はどこから来たものなのだろうか。

黒川渚。カラスのような、いや影のような艶やかな黒髪でセミロング。大人びた顔立ちとは裏腹に、青い可愛げのあるヘアピンをつけている。第一印象は大人しいっといったところか。成瀬とは真逆に位置する女子だな。

「もしかしたら、小さい頃にどこかですれ違ったりしたのかもしれないね。でも考えてもしょうがないかも。」

「まあ、そうかもな。」

一応そう答えておいたが、何か引っ掛かる。部屋に戻ったらじっくり考えるとするか。

それから、おれたちはお互いの趣味や好きなことについて軽く話し、エントランスで別れた。

もし何か思い出したときいつでも連絡をとれるようにと黒川が連絡先を教えてくれた。

この携帯に初めて追加される連絡先が女子とは…



 翌日。おれは設定しておいたアラームの1時間前に目が覚めた。いつもと違う部屋、いつもと違うベッドで寝ると大体早めに起きてしまう。二度寝する気にもなれなかったおれはシャワーを浴び、コーヒーを淹れてトーストを食べ、おろしたてのブレザーに着替えた。今日からオリテンが始まるのだが1時間も猶予ができてしまったな。おれはなんとなく散歩をすることにした。


 4月の朝はまだ肌寒く、冷たい風が吹いている。だが、雲ひとつない空と心を温めてくれるように太陽が燃えているため、とても心地よかった。

とりあえずコンビニにでも行くかとアパートから1番近いコンビニに向かって歩き出すと、成瀬七海の姿が目に映った。こちらに気づいた成瀬は、手を振りながら小走りでこちらにやってくる。

「おはよう!心地の良い朝だね。青井くんもお散歩?もし良かったら一緒に歩かない?」

成瀬はきっとクラスの中心人物になるであろうから仲良くしておいて損はないか。

「おれも話し相手が欲しかったところだ。」

そう答えると、昨日と同じような弾けるような笑顔をこちらに向け、

「決まりだね!」

とおれの横に並んで歩き始めた。


2人で他愛もない話をしてると、成瀬がそういえばと切り出す。

「青井くん、連絡先教えてよ!こうやって散歩したのも何かの縁だし!」

現在、クラスの男子の中で最も欲しいものランキング堂々の1位に君臨する成瀬の連絡先。

特に断る理由もないのでおれは承諾する。


 それから40分ほど雑談をしながら歩き、おれと成瀬はエントランスで別れた。

成瀬の話によると、もう既に無数の男子から遊びの誘いなどが来てるらしい。まあ当然のことだよな。

部屋に戻り、ふぅとため息を吐きながらソファに座る。あ、そういえばコンビニいくんだった…


 それからおれたち1年生は、全員学校に集合しそれからクラスで分かれてバスに乗った。

バスの座席は昨日プリントとして配布されていて、左2列が女子、通路を挟んで右2列が男子で、横4列、縦11列の計44人席と1年4組、つまりうちのクラスの人数分用意されている。男女で席を分けたのは賢明な判断だ。ただでさえ、初対面の相手が隣に来るのに、その相手が女子だったら参ってしまうという男子も少なくないだろう。ちなみに、おれの隣は“村上春樹”。

村上の昨日の自己紹介は今でも忘れられない…。


 「こんちゃーっす!村上春樹でーっす!出身中学はピカチュウでぇす!おなしゃーす!」

なんだこいつは。地球に氷河期が来たのはこいつのせいなんじゃないのかと疑ってしまうほどのギャグだった。春樹はクラスのお調子者として君臨するのだろうな。おれは強く思った。


「君、青井瑞稀くんだっけ?俺は春樹!よろしくな!相棒!」

案の定、バスに乗り席についたら早速話しかけられた。相棒ってなんだ?おれたち初対面だぞ。

おれも口を開く。

「相棒かどうかはさておきよろしく。」

やんわりと相棒じゃないことを否定しといた。

「いやいや、俺たちはもう相棒だって!楽しくいこうぜ!うぇーい!」

村上の騒がし、いや大きな声がバス内に響く。

あれ、おれらの席だけ浮いてね?


 バスが発車してから1時間。おれには分かったことがある。それは“村上春樹”は決して悪い奴ではないということだ。

おれが話すときはちゃんと話を聞き相槌を打ったり質問をしたりとこっちとしても話しやすい。ただギャグは面白くない。もう少し仲良くなったらハッキリと教えてあげよう。


 そんなこんなでサービスエリアに着いたおれたちは20分ほどの休憩が設けられた。

ほとんどの生徒がトイレで用を足し、各々自由に好きなものを買っていた。入り口付近には屋台もあり、たこ焼きや牛串の匂いが食欲を増進させる。

おれは適当に回ることにした。

当てもなく歩いていると、あるメロンパン屋の前で己の欲と葛藤している黒川の姿が映った。

自分の財布をぎゅっと握りしめて、メロンパンをじーっと見ている。なんだかその姿が面白く見えておれは黒川に話しかける。

「そういえば昨日、メロンパン好きって言ってたもんな。」

「ひゃっ!」といつものクールな声からは想像できない叫び声をあげた。

すると、ちょっとムッとしたように口を尖らせて、

「うるさい」

と呟いた。

申し訳ないことをしたなと思う反面、黒川の様子が可笑しくてよくやった自分と自画自賛をした。

バスがもうすぐ出発するため、おれはその場を離れようとすると黒川がちょっと待てと呼び止めてきた。

きょとんとおれが首を傾げると、

「あ、青井くんも買いなさい。1人で食べると欲に負けた感じがするけれど、ふ、2人で一緒に食べれば罪悪感はなくなるから…。多分…。」

と顔を赤らめながら言った。

よくわからんと思いながらも、小腹も空いていたからおれも買うことにした。

2人で外にあるベンチに座り、時間ギリギリまでメロンパンを食べた。隣の黒川は幸せそうに頬張っている。黒川渚。外見は大人っぽく、固い印象があるが実は結構子供っぽいところもある。

外はカリカリ、でも中はホクホク。

まるでメロンパンみたいなやつだ。とおれは意味のわからないことを思った。


 おれはギリギリバスに駆け込み、席に座った。ちなみに黒川は勘違いされたら嫌だという理由で、おれより先にバスに乗った。さすがのおれでも傷つくよ。

まだ半分残ってるメロンパンをゆっくり食べていると、担任に桜からオリテンの詳しい説明がなされた。

初日、つまりこれからおれたちは宿に着いたら軽い筆記試験を受ける。国数英の3教科で各20分の計60分だ。それが終わったらお風呂に入り夕飯を食べ、ホームルーム(主にクラス委員長決め)をやり自由時間といったところだ。

予想外だったのは2日目。

ここでは早速クラス対抗で“ゲーム”が行われるらしい。詳しいゲームの内容は2日目の朝礼で説明するそうだが、これからの3年間の激戦の前哨戦といっていいだろう。

桜が一通り説明を終えたところで、”柳澤晴人“が挙手した。

「桜先生、テストを受ける理由を教えてください。」

きっとほとんどの生徒が気になっていたことを聞いてくれた。さらにその自信のある声。おれの経験上、柳澤もクラスの中心人物になると確信した。

柳澤の質問に桜が答える。

「いちばんの理由はみんなの現状の位置を把握することかな!4クラスのなかでどれだけ頭が良いのかを知るためにやるの。まあ、勉強だけが全てじゃないんだけどね。」

そしてその勉強以外の分野を2日目の”ゲーム“で必要とするのか。

要するに学校の方針を理解するために行なっているのがこのオリテンということだ。


何はともあれ、”これまで“と違う日常に、おれは少しワクワクしていた。


 宿につき、テストを受け、入浴、そして夕飯を終わらせたおれたちは宿のミーティングルームに集まっていた。案の定、クラス委員長は柳澤か成瀬の二択に絞られ、成瀬が譲ったことで柳澤が委員長になった。成瀬は副委員長だ。

早速と言わんばかりに柳澤が口を開いた。

「明日のために早く寝て体を休めることも大事だけど、ゲームではクラスの団結力が必要だと僕は考えている。だからもっと仲良くなれるようにレクを考えた。」

クラスのみんながおーっと控えめに歓声を上げた。いくら貸切とはいえども、夜に騒ぐにはマナー違反だ。

レクか。妥当な判断だとおれは思う。

「レクの内容は、宿全体を使った宝探し。客室や一般の客が入れないようなところにはもちろん宝はおいてないよ。制限時間は45分。ちなみに、宝は1等〜5等までのくじだよ。大体20枚くらい配置させてもらったけど1等が入ってる保証はできない。あと、これから“男女”2人ペアになってやってもらうから。みんな楽しもう!」

おい今さらっととんでもないこと言ったぞ。

それに1等はグワム旅行券か…

2等も中々にすごいものだ。景品が豪華だと必然的にみんなのやる気も上がっていく。

さて、ペアをどうしたものか。残念ながらおれにはまだ友達と呼べるような存在が誰1人としていない。

おれはしばらくその場で待機することにした。


 それから10分くらいがたっただろうか。気づけばミーティングルームにはおれと黒川しか残っていなかった。普通に考えれば、あまり物として2人が組むわけだが、なぜか2人とも自分から声をかけれないでいた。おれたちはメロンパンの仲だろ。


 そんな沈黙を破ったのは、おれのスマホの着信音だった。ポケットからスマホを出し、ディスプレイに目をやるとそこには「成瀬七海」の名前が表示されていた。

『もしも〜し、青井くん』

「何か用か、成瀬」

黒川が不思議そうな顔をしている。

『急に申し訳ないんだけど青井くんペア決まってる?』

「恥ずかしながらまだ1人だ。」

『そっか、じゃあ私と組んでくれない?いやさぁ、私のペアの子が腹痛で部屋に戻っちゃって。このまま1人で宝探しするのもなんかなーって感じで。』

「わかった、なら“グループ”を組もう。ロビー集合でいいな?」

おれは言葉に含みを持たせて言い放った。

『了解した!』

成瀬は気づいていなさそうだな。

さてと、

おれは一息ついて、さっきからこちらを見つめてる少女に近づく。

少女は、なぜか口を尖らせながら、こちらより早く切り出した。

「青井くんがもうすでに異性と連絡先を交換しているとは…。なんだか裏切られた気分だわ。」

「いつからおれが仲間だと錯覚していた?」

ちょっとふざけてみる。

しかし黒川はそれをガン無視して続ける。

「私と青井くんと成瀬さんで“グループ”を組むんでしょ?早く行こ。」

おれが成瀬と“ペア”を組んでたら、どうするんだよ…と心の中でボソッと呟く。

おれと黒川はミーティングルームを後にした。


 ロビーで待機していると成瀬がやってきた。

成瀬はおれ“たち”をみてキョトンと首を傾げている。

「言っただろ、“グループ”を組もうって。」

「いや分かるかーい!でもいいや!人数多い方が楽しいもんね!よろしくね、黒川さん!」

「う、うん。よろしく、頼む。」

よろしく頼むってなんだ。

真逆に位置するような2人だが、交わったらどうなるのかおれはずっと気になっていた。

成瀬の出発進行〜!という掛け声と共におれたちの宝探しがスタートした。

ちなみにおれは、3等の「人をダメにするソファ」がめちゃめちゃほしい。


 それから30分後、おれたちはミーティングルームに再び集まっていた。結局おれたちはくじを一つ見つけたものの収穫は5等の「メモ帳」のみ。

おれはそのメモ帳を適当にポケットの中にしまったが成瀬は元々ペアだった“近藤翔”にあげていた。

そんなものプレゼントされても困るだけだろ…と密かに心の中で呟く。

結局1等を当てた生徒もいなかったようだ。

他のペアも結局は自分たち以外のペアと一緒に回ったりして仲良くなったようだ。

結果的には大成功だな。


 

 -翌日。

“ゲーム”の日がやってきた。おれは起床時間の1時間前に起きてしまった。やはり慣れない環境で快眠はできなそうだな。

他の生徒を起こさないようにしてそっと洗面台にいき、顔を洗い歯を磨き身だしなみを整える。

それから外の自販機でカルピスを買い、ぐびっと飲む。乾いた喉にキンキンのカルピスはたまらない。


 その後おれたちはミーティングルームに集まり朝礼が始まった。

「これから“ゲーム”の説明を始めるよ〜。よく聞いておいてね!」

桜の言葉でクラスが引き締まる。

「今回のゲームは、簡単に言えば陣地を守りながら得点

 

 おれたちは長い間ルール説明を聞いていた。

ルールを簡単にまとめてみる。ゲームの制限時間は180分。

まずはエリアについて。エリアには「陣地」と「チェックポイント」の2種類がある。

「陣地」はこれからゲームが行われる山をABCDの4つに分けたもので、Aが1組の陣地、Bが2組の陣地、Cが3組の陣地、Dが4組の陣地だ。

「チェックポイント」はAとB、CとDの間にあるポイントである。ちなみに陣地とチェックポイントには中心に「マーキングポイント」というものがある。


 次に得点の稼ぎ方だ。得点を稼ぐ方法は主に3つ。

1つは「チェックポイント」に行くこと。

チェックポイントでは、そこに行った人数分だけのポイントが手に入る。例えば、AとBの間のチェックポイントに20人でいき、20人全員が装着している腕時計をチェックポイント中心にある「マーキングポイント」にかざし”15分“その場にいると、20ポイント貰えるという仕組みだ。しかし1度腕時計をかざした生徒は1時間チェックポイントでのポイントは得られなくなってしまう。


2つ目は、他クラスの陣地の「マーキングポイント」で「バトル」をすること。

この「バトル」では人数を競うことになる。

例えば、おれたち4組の30人が2組の陣地のマーキングポイントに行き、そのとき2組の生徒が30人より少なかった時4組の勝ちとなりこちらに50ポイント入り、2組は50ポイントマイナスされてしまう。逆に2組の生徒が30人より多かった場合は2組に50ポイントが入り、4組は50ポイントを失う。

人数が同じだったときは、バトルを仕掛けた側が負けとなる。チャレンジャーは負けることが許されないってことか。

このバトルは1度しか仕掛けることができないため、慎重に行う必要がある。

 

 最後に「スパイ」についてだ。スパイは簡単に言ってしまえば「裏切り者」だ。スパイ本人には昨日の”どこか“のタイミングで自分が何組のスパイであるか教えられたそうで、ゲームが終わると必然的にその組に移動する。うちのクラスからも1人入れ替わるということだ。

難易度は高いが、ゲーム終了時に、他のクラスに紛れ込んでいる自分たちのスパイを言い当てられたら50ポイントを獲得できる。

さらに自分たちの組に紛れ込んでいる別クラスのスパイを言い当てることができたら50ポイント獲得できる。

きっとスパイになった生徒はなんとかして、自分の本当の組に接触するだろう。

 これでゲームの説明は終わりだ。


 ミーティングルームを後にして山奥までバスにいき、おれたちはそれぞれの陣地に着いた。

すると、装着した腕時計からゲーム開始の合図がでた。

 まず俺たちは柳澤の指示で、円になり話し合いを始めた。

最初に口を開いたのは柳澤だ。

「とりあえずスパイが自由に動けないように昨日の宝探しのペアで行動しよう。相方が怪しい行動をしたと思ったらすぐに報告するように。といっても僕がスパイの可能性もあるんだけどね。」

柳澤の言葉で、クラスのみんなは自分のペアの元に移動する。

落ち着いたところで成瀬がそうだなぁーと続ける。

「バトルについては今は後回しにして、とりあえずチェックポイントに何人配置するかを考えよう!」

成瀬の意見に、そうしよ!という声がクラスのあちこちから聞こえる。

しかし、柳澤は「いや」とクラスの声を遮断する。

「確かにそれも大事なんだけど、無闇にチェックポイントに行くとかえって危ない。チェックポイントに行った人は15分も動けなくなってしまう。1人でもチェックポイントに行ったことが他の組にバレれば、相手は44人全員でバトルにしに来るだろうからね。」

だから、と柳澤が続ける。

「まずは敵情視察からかな。クラスで1番足の速い人に頼みたいんだけど、この前の身体測定の結果で1番早かったのは”河村快斗“くんだよね?お願いできるかな?」

待ってましたといわんばかりに河村が、

「任せとけ!」

と息巻いている。

「ありがとう、河村くん。河村くんのペアは、“花園千秋“さんだけどいけそう?」

柳澤の言葉に花園が反応する。

「私運動はちょっと苦手だからパスしたいかも…」

「そっか。じゃあ2番目にクラスで足が速かった近藤くんに行ってもらってもいい?」

近藤が返事をする。

「俺は構わないぜ。」

決まりだな!と河村がいい、2人で軽いウォーミングアップを始めた。

山道を走るのはかなり危ないからな。


 それから2人がこの場を去って、10分くらいが経っただろうか。

おれたちはスマホを没収されているため連絡する手段がないからただ待つことしかできない。

ぺきっと枝が折れる音が聞こえ、ふと音の方向をみる。

河村たちが帰ってきたのかと思ったが、どうやら違うようだ。

そこには他の組の生徒が5人立っていた。クラスの警戒が少し強まる。

5人のうち、真ん中にいた生徒が前に出る。

「こんにちは。1組の“緑川晴久”です。別に警戒をする必要はありませんよ。5人しかいないのでバトルしたところで負けてしまいますから。」

緑川はニコっと笑っているが、どうにも胡散臭い。

緑川が続ける。

「とりあえず一言だけ言いたくて来ました。残念ながら”僕“はあなた達4組を敵とはみなしていません。”1組“は今回2組との直接対決をする予定なので邪魔しないでいただければと思いまして。」

緑川が見下したような声で言い放った。

やけに含みを持たせてるな。とおれはそっと思う。

クラスの何人かが前に出ようとするのを柳澤が手で抑えて口を開く。

「言いたいことはわかったよ。僕たちからしてもCとDの間のチェックポイントに行くには1組と2組の存在がどうしても邪魔になっていたからね。だからこちらからは絶対に干渉しないよ。その代わり、2組のことを頼むよ。」

そう言い、柳澤が手を差し出す。

それを緑川は握り、交渉成立といった感じだ。

それからすぐに緑川たちは去っていった。


 緑川が去ってから10分で、河村と近藤が帰ってきた。2人ともほとんど息切れしていない様子。流石としか言いようがない。

どうだった?と柳澤が聞くと、少し申し訳なさそうに河村が口を開いた。

「チェックポイントにはすでに3組のやつらが44人いたんだ。しかも、おれらが着く頃にはもうあとちょっとでポイントが入るっていう状況だったんだ。多分今頃44ポイント入ってウキウキしてるだろうな。」

時間的に3組は開始直後にチェックポイントに行ったことになる。先手必勝ということか。


 こうなると、流石にクラスに焦りが生じてしまう。1組対2組の構図が誕生した今、おれたち4組は3組の相手をしなきゃいけない。しかし、その相手が早くに44ポイントをゲットした訳だ。

話し合いの結果、タイミングを見計らって44人全員でバトルをしに行くことになった。だが、悪い予感しかしない。焦って出した結論じゃどうにもならない。残り時間は、1時間半、ちょうど半分だな。

柳澤の指示で、とりあえず第二回の敵情視察に河村と近藤を向かわせた。


 それから20分くらいして2人が帰って来た。2回目だから少し疲れているようだ。近藤は少しグラついたのか一瞬おれの前で倒れる。おれが駆け寄ると近藤のそばに昨日宝探しで当てた「メモ帳」の姿が現れた。しかも1枚破られている。近藤はばつが悪そうな顔をし急いでそれを隠すように手で抑えてポケットにしまう。おれはそっとその場を離れる。

柳澤が河村に結果を聞く。

河村によると、3組の生徒が4人いて2人がつくとちょうどポイントが入ってしまったらしい。

3組は合計48ポイントになったわけだ。

あと、と河村が続けようとしたがなんでもないと思いとどまって口を閉じた。

おれはそれを不審に思い、誰も見てない隙を狙って河村と2人で話をすることにした。

「さっきまだ何か言おうとしてただろ?なんでも報告しろ。」

おれがそう言うと、そうだよなと小さく呟き河村が言った。

「大したことじゃないっつーか、近藤に申し訳ないんだけど話すぞ。

俺たちがチェックポイントについたとき3組の生徒4人が俺たちに絡んできたんだ。『お前たち一回もチェックポイントに来てないけどビビってんの?』みたいな感じでな。俺は安い挑発だと思って聞き流してたんだけど近藤はカッとなったみたいで1番前にいたやつの胸ポケットあたりを狙って張り手をしてぶっ飛ばしたんだ。もちろん相手は怒り、一斉に4人で近藤を囲み殴りかかった。俺も参戦しようと思ったら近藤が来るな!といって相手の殴りを受けたんだ。大体1人1発近藤を殴ってから相手は引いていった。って感じだな。近藤にはダセーからみんなには言うなって言われてたから言い出せなかったんだ。」

なるほどな。

「確かに報告するまでもないかもな。とりあえず話してくれてありがとう。」

そう礼を言い、みんなの元に戻る。

みんなはもうすっかりバトルしに行く気満々で、C地点への最短ルートを考えている。


 さてと。おれは思考を巡らせる。おじさんが世界を変えるか。

おれは成瀬を呼び出し、ある頼み事をする。


 

 俺は3組の生徒、烏山狗山。さっきは、チェックポイントで少し挑発しただけなのにいきなり突き飛ばされたてビックリしたぜ。あの時はカッとなっちまって反撃をしたが、胸ポケットにはある紙切れが入っていた。その紙切れにはこう書いてあった。

『俺は近藤翔。お前達のスパイだ。4組はこれから全員で3組にバトルしにいく。だからすれ違うように1人だけ4組の陣地でバトルしにこい。3組の陣地ではバトルする直前で俺が抜けて43人にする。そうすれば100ポイントゲットだ。』

つまり、3組の陣地でのバトルは同じ人数、つまり3組の勝ちで終わり4組の方では1人対0人で3組が勝てるということだ。

正直信用はしかねる。だが、俺たちに反撃されるリスクを背負ってまでも胸ポケットに紙切れを届けたことは評価したい。48ポイントを獲得した俺たち3組はもうこれ以上動かないだろう。しかし本当に48ポイントで足りるのか?相手が「裏切り者」と別クラスに紛れているスパイを当てたら一気に100ポイントだ。対してこっちは誰が裏切り者なのかわかっていない。しかも、もしこのメモがデバフだったとしたらあと1時間、4組はチェックポイントで荒稼ぎできてしまう。…



 俺は3組の陣地から少し離れた場所で待つことにした。もし4組が全員で来るならかなり目立つだろうし、急いで俺が陣地に戻ればいい。

しかし、いくらたっても来る気配がない。今頃もしかしたらチェックポイントで荒稼ぎしてるんじゃないのか?やはりいった方がいいのか?額にじんわりと汗が生じる。と、とりあえずチェックポイントに行くか。


 チェックポイントについたがそこには誰もいなかった。もちろんすれ違ってない…はず…

いや、実はすれ違っているんじゃないのか。だとしたら今頃バトルで負けてマイナス50ポイントだ。不味い。冷静な判断ができなくなっている。ゲームの残り時間はあと20分。流石に4組はそろそろ動かなきゃダメなはず。

俺が、俺が世界を変えるんだ。


 俺は不穏な空気を感じつつも4組の陣地に入った。冷静に考えてみれば、4組はこの状況で絶対に動かなきゃ行けない状況に立たされている。そもそも裏切り者が誰か分かっていないのかもしれない。どのみちチェックポイントかバトルに行くはずだ。だから俺は今からバトルを仕掛ける。

とても静かだ。やはりすれ違ったのだろうか。この静けさがおれの不安を掻き立てる。大丈夫だ。落ち着け。今ここにいるには俺1人だ。

俺はマーキングポイントに腕時計をかざし、「バトル」の準備を始める。

勝つんだ!俺は勢いよくバトルスタートボタンを押しに行く。世界を変えるのは俺だ!

ピコンという効果音と共にバトルが始まる。陣地にいる人数差を競うバトル。

俺の“理想”は0-1と表示されること。

俺はディスプレイをみる。

44-1。

思考が停止する。瞬間、ゾロゾロと4組の生徒達が出てくる。

「いやーまじでくるとはなー」

「やったねみんな!」

「すげーよ成瀬さん!」

歓声が聞こえる。

が、今の俺には雑音にしか聞こえない。


無惨にもゲーム終了の合図が鳴る。


 こうして“おれ”たちはゲームを終え、配布されたタブレットに裏切り者の名前とスパイの名前をそれぞれ入力した。

裏切り者は“近藤翔”。

おれは最初、緑川が接触して来たときに前に出ようとした数名のうちの誰か、もしくは緑川と握手を交わした柳澤を疑っていたのだが、引っかかったのは緑川の言葉。

『”ぼく“はあなた達を敵とはみなしていない。』

一見当たり障りのにような発言に思えるが次の発言。

『”1組“は2組と直接対決ーーー』

”ぼく“と”1組“で言い分けたことに違和感を覚えたおれは、敵とみなしていない、つまり味方であるという意味を含んでいると考察した。

うってつけは、近藤の3組の生徒との接触。それに1枚破れたメモ帳。恐らく”筆談“を使ったのだろう。

近藤が倒れてポケットからメモ帳がでてきたときに確信したが、おそらくそのアクシデントが無くても近藤が裏切り者で間違いなかっただろう。その根拠に、おれは成瀬に「バトルをせず、この場所に待機して、いずれ来る3組を迎え撃つ」とみんなを説得してほしいと頼んだ。おれより影響力があるやつがいった方がみんなも納得できるだろう。

成瀬はやはり中心人物だった。みんなもなんやかんや納得してくれたが近藤は違った。

反論を唱え続けたが、どうしようもなかった。

しかし、なぜ成瀬はおれの言葉を信用してみんなを説得したのだろうか。

おれは成瀬にそっと近づき理由を聞く。すると成瀬がいつものように弾けるような笑顔を向け言った。

「青井くんは…なんでもな〜い!」

そして別クラスに紛れているおれたちの味方は緑川、と入力する。


 「結果発表を行う。1位は1組の172ポイント。2位は4組の150ポイント。3位は3組の98ポイント。4位は2組の50ポイント。ちなみに、このポイントはこれからの3年間で競っていく”得点“にそのまま換算される。以上で結果発表を終わる。」

1人の生徒が嘆く。

「こ、今回のゲームは得点とは関係ないんじゃ?!」

すると、ちっちっちっと桜が人差し指を左右に動かす。

「ペナルティはないと言ったが、得点に関係ないとは一言も言ってないぞ!」

「そ、そんなぁ…」

こうしてゲームが終わりおれたちは宿に戻った。


 宿に戻り、おれは自販機で買ったカルピスソーダを一口飲み、ロビーのソファに腰をかける。

まだ待ち合わせ相手は来ていないようだ。

おれはふと考える。

おれは高校生活を既に2回経験している。

いや、青井瑞稀としての人生を2回経験しているのだ。

しかし1回目と2回目は、普通の進学校に通い、それなりに楽しながら高校生活をおくっていた。

1回目は平凡に生きたから2回目では後悔しないように全力で全てに取り組んだ。

だが、1回目も2回目も明らかに今の人生より簡単だった。

なぜおれが人生を何周もしているのか、なぜ1回目と2回目は断然簡単だったのか、一体誰がこんなことをしているのか。


 今のおれには希望が一切ない。唯一の楽しみはこのゲーム感覚で進められる高校生活だけだ。

もしかしたら永遠に人生を周回し続けることになるかもしれない。じゃあ今のおれは一体なんなのだ。

そしておれが出会った時から感じている違和感の正体。


「ごめんなさい。少し待ったかな?」

おれは思考を止め、待ち合わせ相手である黒川渚の方をみて答える。

「1人の時間も悪くないものだ。」

これは本心だ。

「そっ。とりあえず今日はお疲れ様。みんなには成瀬さんが作戦の説明をしてたけど、どうせ考案したのは青井くんでしょ?」

「その根拠を出すんだな。」

おれはなんとなく理由が気になった。

「直感ってやつかな。」

キリッとキメ顔をしている黒川。

「で、本当の理由は?」

おれは容赦なく聞く。

すると黒川がはぁとわざとらしくため息を吐き応える。

「青井くんが河村くんや成瀬さんと話している姿をたまたま見ちゃったの。それで確信したって感じ。」

面白くなさそうな顔をしている。

「もしかしておれのことが気になってずっと目で追ってたのか?」

おれはからかうようにきく。

「当たらずとも遠からず…って感じかな。うん。」

黒川がボソッと答える。

きっとこれは恋愛感情とやらでおれのことを目で追っていたわけではないのだろう。

おれも“そうしていた“からな。

おれは少し考えてから切り出す。

「おれとお前はどこかで会ったことがあるか?」

入学式と同じように問う。多分向こうも同じことを考えているだろう。

「言ったはずだよ。そのことについては、考えても無駄。追求しても意味ないよ。」

言葉とは裏腹に黒川も諦めきれないって顔をしている。

おれは飲み干したカルピスソーダの缶を捨て、もう一度ソファに座り、ただ前を向く。


ー今この人生で何をやっても、何かを成し遂げたとしても、おれはまた新たな青井瑞稀として4回目の人生がスタートするのだろうか。

なら、おれは今どこに向かっているのだろう。

ふと、黒川をみる。

うっすらと香るガーベラの匂いがおれの鼻をくすぐった。



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