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青空と夏みかん

 年々暑くなる地球。その原因は、地球温暖化だと思っていた。つい一週間ほど前までは。

 どうやら、地球外生命体とでもいうのか、ある時“熱射団”なるモノが現れ、人類を洗脳しようと画策するようになったというのだ。

 信じられない話ではあるが、確かにここ近年の気温の上昇はおかしいし、暑さでやられた人間は奇怪な行動を取ってしまうのも事実。それを間近で見せられれば、信じないわけにもいかず。

 そんなわけで、俺は、この一週間、熱射団についての知識や、自走型自動販売機の操作を一通り頭に叩き込んでいた。


「うぅ……ぎづい……」


 先週金曜日に就職。土日は社宅(1LDKのアパート)への引っ越しやら手続きで潰れ、さらに分厚い書類にも目を通し、本日、金曜日を再び迎えたわけだが。

 元々、ああいった乗り物系は得意ではないのだ。ジェットコースターはもちろんのこと、メリーゴーランドでさえ酔うというのに。酔わないために飲んでいる酔い止めもなくなりそうだ、土日で買ってこないと……。


「食堂行こ……」


 ヨタヨタと席を立ち、簡単な手荷物だけ持って部署を出る。といっても普段“熱射団対策課”にいるのは俺と華さんくらいなので、誰かとお昼なんて食べることはほぼほぼない。

 最初こそ、パートナーである華さんと仲良くなろうとしたものの、鋭い眼光で睨まれ「は?」と言われてからは、もう誘わないことにしている。

 部署のある四階から食堂のある一階までは階段を使う。本当はエレベーターとかエスカレーターを使いたいのだが、体力をつけてくださいと言われてからは使っていない。


「はぁ……、やばい、疲れ、が……」


 途端、視界がぐらりと傾いた。階段を踏み外したと気づいた時には既に遅く、俺はこのまま床に倒れるんだと、衝撃に備えきつく目を閉じ――


「っと! 大丈夫かい!?」

「ぁえ!?」


 倒れかかった俺を、誰かが階下でキャッチしたらしい。

 目を開けると、いかにもモテそうな二重の目の、穏やかなそうな青髪の男の人が俺を支えていた。


「あああ!? すんませんすんません!」


 飛び跳ねるように慌てて離れると、男の人は「ははは、元気そうだ」と笑顔を見せてくれた。目元の泣きぼくろが印象的な人だ。


「えぇと、君は……“熱射団対策課”の赤川くん、だね。オレは“営業課”の青田ナツキです。こんなところを人が通るなんて珍しいね」

「あ、あ、いえ、あの、体力作りの一環というか、筋トレというか……」


 自分でも下手な言い訳だなと思うし、苦笑いしたつもりの口からは「ぅへへ」と気持ち悪い声しか出ないし、本当に最悪である。俺がこんな奴を見たなら、引き気味でそそくさと逃げるだろう。

 だけど青髪のその人、青田さんは、その綺麗な青い目を曇らせることなく、


「オレもそうなんだよ。子どもたちと遊ぶには、体力が資本だからね」


と爽やかに口元を緩めた。


「あ、お子さん、いらっしゃる、んですか」

「そうだよ。ほら」


 青田さんは胸ポケットから定期入れを取り出すと、そこに入っている写真を見せてくれた。可愛らしい奥さんと、男女の小さな子供が微笑んでいる。撮ったのは青田さんなんだろう、そこに青田さんは写っていなかった。


「可愛い、ですね」

「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。家族がいるから、色々頑張れることってあるからね。あ、じゃ、時間に遅れるから、これで。また会おうね、赤川くん」


 定期入れをポケットに仕舞い直し、青田さんは終始笑顔のまま、階段を上がっていった。それをしばらく見送りながら、俺も、ああいう普通の生活を送りたかったなぁなんて、漠然と思っていた。


「あ! ご飯ご飯!」


 そうだ、休憩時間は有限なのだ。食べないと午後もやっていけない。早く食堂へ向かわないと!

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