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対決! 熱射団!

 手元の操縦桿をガシャガシャ動かす。なんならトリガーもついてたから引いてみる。握りしめた操縦桿の親指の位置に、赤いボタンもあったから押してみる。

 それでも何も起こりはしなかった。


「華さん! 何も起きないですよ!? これ壊れてませんか!?」

『そんなことはありません。ちゃんと起動しました?』

「え、起動!?」


 社員証入れただけじゃ駄目なのか? 俺は慌ててそれらしきスイッチを探す。右下のほうに、よく見る電源マークが書かれたスイッチを見つけたはいいものの、悲しいかな俺の身長じゃそこに手が届かない。


「華さん、届きません!」

『そんなことはないはずです。私が試乗した時は届きましたよ』


 “私”が試乗した時……。俺の身長から察するに、華さんは一五〇センチちょっとくらいではなかろうか。


「華さん! それじゃ俺、届かないです!」

『小さいことを気にしますね、本当。いいから早く起動してください』

「無茶苦茶だよ!」


 一応言っておくと、自販機の中はそれほど広くない。色んな機械やら操縦桿やらが詰め込まれていて、俺は立ったまま操作をするしかない。アニメで憧れたコクピットは所詮、夢というわけか。


「んんん……! いでっ、関節が……」


 無理な体勢になったからか、肩がゴギリと鳴った気がした。腰も捻ったようで痛い。いや、腰痛は元からだったか。


「そうだ、膝なら……」


 右足を少し上げて膝で押せないか試してみる、が体操選手じゃあるまいし、この狭い中では自分で想像した半分も上がらなかった。


「のおおオォ」


 こうなったら肩や腰がやられても構うものか。後でいい整体にでも行こう、金ならまだある(ゲスい)。

 奇声を上げながら必死に手を伸ばす。中指の先がそれっぽいものに触れた。もう少し、もう少し。


「よし、消えたぞ。再び問おう、熱射団と口にしたか?」


 頭についた火を消した太陽コーが、何度目かの質問を口にした。


「言ってません! だから俺に構わないで!」

「イエスと答えないと同じ台詞ばかり繰り返すことになるが、それでもいいのか貴様!」

「こっちの準備が出来たらイエスって言いますから、ちょっとそこで待っててください!」

「……言ったな?」

「あ」


 しまったと思った時にはもう遅い。

 太陽コーは待ってましたとばかりに高笑いをし、ひとしきり笑い終えると「我は」と声のトーンを一段低くして何か言い始めた。


「熱射団が一人、太陽コー様である。熱さに怯えるひ弱き人間どもよ、我の輝きの前にむせび泣き、助けを乞い、崇めるがよい!」

「もう少し長い前口上をお願いしますよっと……届いた!」


 カチッ。起動音と共に前面に“スタートアップ”と表示される。


「うわ、うわわわ」

『起動できましたね。右の操縦桿の更に下側に、青いボタンが見えませんか?』

「ある! いや、あの、あります! ありますから!」

『ではそれを押し』

「もう押しました!」


 ガシャン、と音がして何かが本体の側面から出てきた。画面に映るそれを見ればU字型の手だ。俺は華さんが何か言うのも無視して(というか耳に入っていなかった)、慌てて左側についている青いボタンも押した。

 両腕が出てきたことで体勢を起こし、俺は改めて太陽コーと向き合う形になる。言っておくと足はまだない。


「き、貴様、それはなんだ!」

「なんなんでしょうね!? 俺にもわかりません!」


 傍から見れば太陽を被った変態と、手の生えている自販機が話すという失笑モノの光景だが、当事者である俺は必死すぎて笑えたもんじゃない。


「はっ。もしや貴様、最近飲料メーカーが合同開発していたという自走型自動販売機、ドリンキングか!?」

「いや、今日入ったばっかの新入社員なんで、そこんとこは何も……」

「こうしてはおれん。仲間に報告せねば!」


 太陽コーが背を向けて「さらばだ!」と手を振り立ち去ろうとする。追いかけたくとも追えない俺は「あ、待って! お給料!」と両手の操縦桿を揺らす。

 U字型の手が面白おかしく上下するだけで、何かしら弾が出たり光る剣が出たりはしないらしい。


「初仕事、失敗……? それじゃ、お給料は? 俺の借金は?」


 サラ金から鳴り止まない電話、実家の両親の悲しそうな顔、してやったりな笑顔の元カノと元親友が浮かんで、俺は「嫌だあああ!」と親指で操縦桿の赤いボタンを押した。

 ガコン、と音がして、取り出し口から大量の炭酸飲料のペットボトルが転がり出る。


「え? え?」


 ブシュッと勢いのいい音がしたかと思うと、ペットボトルのフタは炭酸の勢いで弾け飛び、さながらロケットミサイルのように太陽コーへ向かっていく。


「な、なんだこの技は!」


 勢いが衰えないままペットボトルは太陽コーの頭に直撃し、その変な被り物をふっ飛ばした。中から出てきたのは至って普通のおっさんだ。


「え? 何? 俺、何したの?」


 意味もわからず、俺はU字型の手で自販機の頭に手をやった。


『すごい……。まさか熱射団を元の一般人に戻してしまうなんて』

「えーと、とりあえずこの人、どうすればいいかな?」


 自販機の操作もままならない俺は、とりあえずインカムで華さんに助けを乞うしか出来なかった。

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