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廻る縁の妖剣士  作者: 井田 いづ
肆話 覚悟と願い
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(陸)二人と一振りは今後の話をする

 今後のとなると、やはりミヤトまでの旅路とその間のユキの稽古のことになる。ミヤトへ行くまでに遠回りをすると言っていたし、ユキの稽古のこともある。


「興長さんの旅の方は、大丈夫ですか。今更になっちゃいますけど……」

「今回は目的地も期間も決めずに、気が済むまで揺蕩ってみようと思って出た旅だ。たまにはこういうのも悪くない」


 このお人好しの妖術士は、ユキを何も知らない幼子のように(もっとも比喩ではなく実際に何も知らないのだが)扱う節がある。誰かに似ているのか、彼自身が子供を放っておけない性質なのか知らないが。


(旅の中で、少しでも返そう)


 たまたま助けたユキの世話を焼き、交わした契約にも見返りは求めない。継ぐ家もないと言っていたが、金には困っていなさそうなのは、この数日でよくわかった。それなら何で返せるかなとは悩むところである。話はもとより上手い方ではないし、そもそも芥間以外の人と長く話すのは興長が初めてなのだ。


(話が対価というなら、いっそ話術の練習とか、しようかな。おえんに相手してもらって)


などと明後日のことを考える。

 興長は食べ終えた後を片付けながら、手早く布団を敷いた。もう寝るのかな、とユキは首を傾げる。確かにユキも(おそらく)興長も眠っていないが。

 ユキの視線から疑問を読み取ったらしく、興長はとんとん、と布団を叩いた。


「妖刀殿に対価を払ったあとは、しばらく寝るしかなくなるからさ、今のうちに準備しないとだろう」

「はあ」

「それにこういう雑魚寝をしながらの話も悪くないだろう? きみも奉公人として働いてた頃に経験はないかな、基本的にああいうのは複数人部屋だと思うけどさ、集まって一枚の紙を見ながらあーでもないこーでもないと翌日の予定なんかを話したりさ」

「…………そう、ですね。はい。よくあります」


嘘をつく。ユキはずっと物置で寝起きしていたのだから知るはずもない。「おまえバレバレだぞ」とおえんが言って、興長も小さくため息をついた。


「……知らない時は知らないでいいんだよ、カゲユキ」

「……すみません」

「謝ることもない。僕らはまだ互いを知らない。僕だって友人と呼べる存在が極めて少なくてさ、あんまりこうしたことはないんだけど」

「なるほど……いや、違う、そうですね、でもなくて」

「無理はするな、カゲユキ。今のは僕が悪かった、取り敢えずこちらに来てくれるかな? 妖刀殿もこちらに」


 そう言って、地図を広げた。今いるのがここだ、と人差し指で地図をなぞる。それから指先をするすると動かして、大きな街の上に止まらせる。


「このミヤトが今時点の最終目的地として、ここから主街道沿いに歩けば、そう遠くない。街道に沿えば、いくらのんびり旅をしても大きな障害もなくたどり着く距離だ」


それをすっと脇にずらす。いくつか小さな町や村の上をとんとんと指先で叩いた。


「ただ、今回は途中で道を逸れて、大回りになるが幾つか町に寄ろうと思う。なにもきみの求める情報はミヤトでなければ手に入らないと言うものでもなさそうだしね。路程は嵩むが、軽い依頼を探して交渉して、きみが剣士としてやっていくための経験を積もう」

「わかりました。俺の方は特に期限があるわけでもないので。仇について知れれば、なんでも」

「あたしはユキに従うだけだモン」

「うん、良さそうだね、よかった。それから──」


真っ直ぐにユキを見る。


「きみが仇を斬れるように、僕の教えられることは教えよう」

「……ありがとうございます」

「ただし、僕との旅の間はきみは容易く人斬りの案件は受けてはいけないし、僕もこの先安易な人を斬れと言う依頼は受けないつもりだ。案外喧嘩の代役を頼むとか多いんだよ…………まあ、例外はあるからね、シルバ殿のような差し迫った場合の案件があれば、都度相談して決めようか」

「わかりました」

「きみはなによりも妖刀殿を使いこなせるようになろう。縁切り刀は珍しいし、人を斬らずに妖術の強い縛りも斬れるのならかなりの武器となる。剣士ではなくそちらの方面でというのもアリだろう」

「えんきり──」


 ユキは、そっとえんきりに触れる。

 何も知らない、妖術も使えない、自分の刀も持たないユキの世界を広げてくれた、たった一振りの刀。


「はい。よろしくお願いします、興長さん」

「うん。……きみは前を向き続けなきゃな。その先に斬らなきゃならん仇がいるんだろうから」


興長は満足そうに言うと、広げたばかりの地図をさっさと丸めてしまった。

 荷物から簡単に食べられそうな携帯食と、先ほど食べきれなかったものとを卓上に広げておく。かと思えばおもむろに立ち上がって、部屋のあちこちに紙を貼り付けた。

 妖術を施し始めたのを見て、おえんが笑った。


「正気か? これからおまえ、転移術の対価貰うンだけど」


余計な気力を使っている場合か──おえんの懸念はもっともだが、聞けば大したことない術だとあっさり返された。


「こんなもの誤差範囲だ。人が来たら休めもしないだろ? あとは大人しくしているつもりだしね。これで暫しの休息としようじゃないか。この先は野宿もあり得るし、あまりゆっくり眠られないかもしれないから、今のうちに休めよ」


興長はユキの頭をぐしゃりと撫でた。

 おえんはぺろりと舌なめずりをした。さっきご飯食べたのに、とユキは内心呆れながら、大人しく見守る。


「では妖刀殿。僕からお願いしようか」

「アイヨ、いっただきまーす!」


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