私のおじいちゃん
「ノブオ、仏壇にご飯持って行って」
「はーい、ママ」
ノブオはトコトコとキッチンにやってくると、お猪口によそったご飯を大事そうに持ち上げ、リビングの脇の仏壇に供えた。
「ありがと」
「うん、いいよ」
ノブオはそのまま正座し、目をつむると写真に向かって手を合わせた。高校生のときから今日まで、おじいちゃんにご飯をお供えしている。今では5歳の息子に頼むこともあるが、それでも毎日欠かさずだ。
私はおじいちゃんに会ったことはないが、高校の歴史の授業で「おじいちゃんって凄かったんだな」って思う瞬間があり、その日の夜からご飯をお供えするようになった。母は「どうしたの」と少し困惑したが、「別にいいでしょ」と高校生特有の素っ気ない態度で応えたのを覚えている。
ノブオは手を合わせるのをやめ、目を開けるとキッチンに戻ってきた。
「おじいちゃんとお話できた?」
「うん、できた」
「あら、何て言ってた」
「うんとね、打ち首じゃー、って」
「えー、そんなこと言ってたの」
「うん、言ってた」
おじいちゃんは、気性の荒い人だったらしい。母に聞いても「そうだったのかしらね」と言うばかりで詳しくは教えてくれなかったが、私は自分で調べ大概のことは頭に入っている。
おじいちゃんの名前は織田信長。歴史の授業で好きになり、勝手に「おじいちゃん」と呼んでいるだけだ。今もこうして甲冑を着込み、金箔を貼った部屋で過ごし、おじいちゃんの気分を満喫している。
時計を見ると19時。そろそろ、うちの明智光秀が帰ってくる時間だ。