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第6話 実地訓練①

 


 ええ、テストテスト。


 フィロール王国の皆様、おはようございます。現在、わたくし上田洋介は、実地訓練へ赴くべく、王都東方へと街道を進行中の馬車の中で1人待機しております。


 この馬車は高性能なもので、振動が軽減されるほか、速度も出るものだそうです。国民の皆様の税金によりわたしたちの魔王討伐は支えられております。


 今後ともご理解とご協力をお願いいたします。


 はあ、暇だ。暇すぎて変なことを言ってしまった。


 俺たちは今日、実地訓練へと出発した。朝の5時に出発したのでとても眠かったのだが、馬車の中で2時間ほど眠ったらスッキリした。


 そして、その後はとても暇になった。技術的な問題なのか、この馬車の窓は外がよく見えなず、1人なので話し相手もいないのだ。


 その上、機密性の維持のため、俺たちはどこの街にも寄っていない。勇者の存在が魔王に知られるのを防ぐ必要があるからだ。


 昼ごろに目的地に到着し、小休止を兼ねた最終確認を行ってから班ごとに森に到達する。


 そう、森だ。俺たちの目的地は森。なんでも、街から離れているので人があまり来ず、騎士団の演習を名目にして封鎖しやすいそうだ。


 難易度も初心者向け。ただ、周囲に川がないので街や村ができなかった。


 だが、俺たちには2つの武器があり問題はない。


 1つは、この高性能馬車。多くの物資を運ぶことができるので、水・食料・武器など多くのものが載っている。


 訓練は1泊2日の予定だ。人も馬も水をたくさん飲む。馬車だけでは足りない。しかし、街から離れているので近くから買うことはできないし、高速で移動しているので荷駄で運ぶわけにはいかない。


 そこで使われるのが2つ目の武器だ。


 アイテムボックス。それは夢であり希望。重さを感じることなく、大量の物資を運ぶことができるという触れ込みだ。ソースはテンプレ。テンプレってソースになるのか?


 この世界では、実用化はされていない。ただ、500年前の勇者たち異世界人がアイテムボックスを使えたことは知られている。この世界の人たちにとっても夢の力だ。


 そして、同じ異世界人である俺たちも使えた。


 訓練開始から3日。俺はアイテムボックスの使用を試みた。実はクリストフさんは初日に俺に言おうとしたそうだが、俺があまりに熱心に訓練をしているので言えなかったらしい。


 慣れないことをすると、思いもよらないしわ寄せが起こるものだ。


 そのときの様子を思い出すのも辛い。だが、ここまで考えたので思い出してしまった。はあ。


 当時、俺はなかなか訓練の成果が出ずに焦っていた。そこで聞いたのがアイテムボックスの話だ。当然、俺は話に飛びついた。


 それまでの流れを異世界テンプレとして捉えていた俺は、このアイテムボックスもテンプレ同様、素晴らしいものだと考えたのだ。俺が、そのテンプレの恩恵を受けていないことを忘れて。


「アイテムボックス」


 そう唱えると、目の前に穴が生まれた。それがアイテムボックスへの入り口だと理解できた。俺は出し入れが行えることを確認すると、早速意気揚々と容量の確認に入った。


 そこでとても驚いた。容量がすごく小さかったのだ。おおよそ、バックひとつ分。


「水やポーション、非常食、お金を盗まれないように大量に保管できるのは本当に役に立ちます」


 そう慰めてくれたクリストフさんのぎこちない顔を俺は忘れない。すごい恥ずかしかったから。


 そして、アイテムボックスの大きさは固有のもので成長もしないと申し訳なさそうに言われた。気を遣われて本当に恥ずかしかった。


 食堂で、小川は家1つ分、そのほかの人も馬車1台分ほどだと誠から聞いたその夜、俺は泣いた。俺って、なんて弱いんだろう、不運すぎるだろうと思ってとても泣いた。


 翌朝、アンナさんとクリストフさんにそれとなく慰められて、その夜も泣いた。俺は泣き虫だとか、メンタルが弱すぎるといった批判・非難は一切受け付けない。受け付けないったら、受け付けない。


 こうした悲しい経緯を経て、俺のアイテムボックスの中には、自分用の飲み水、非常食、ポーションしか入っていない。物資輸送の戦力外だ。当然、小川たちは大量の水や食料を運んでいる。


 悲しいが、これが現実だ。


 それからしばらくして、御者が声をかけてきた。どうやら到着したようだ。外からみんなの喋り声が聞こえてくる。ようやくこの馬車から解放される。帰りも乗らなければならないということからは一旦、目を背ける。


 さあ、俺も降りよう。


 降りると、俺は昨日のうちに説明された目印の場所に移動する。到着したら、目印を使って班ごとに分かれるように言われていたのだ。


 三角が4つある目印はあっちか。


「こんにちは、マルクさん。今日と明日、よろしくお願いします」


「洋介さん、こちらこそよろしくお願いします」


 マルク・フォン・シャンピオン。フィロール王国近衛騎士団の小隊長。なぜ知っているのかというと、実は、俺に剣の振り方を教えてくれた人だからだ。


 俺は、日本では体育の授業で剣道を少し習ったくらいだから、剣の振り方なんてわからなかった。そこで、クリストフさんに教えてくれる人を紹介するように頼んだ。


 その時に紹介されたのがマルクさんだった。


 マルクさんは腕が立ち、部下にも慕われている小隊長として有名なんだそうだ。


 だが、マルクさんが下級貴族の出身であり、部下の人たちは平民の出身なのであまり上層部によく思われていないらしい。(実際に本人からそのような話を聞いた)


 そんなこの小隊は、勇者の教導役にはやはりなれなかった。魔王討伐を前にそういうことは控えてほしいとは思うが、貴族制のこの国では身分に関することは厳しい。


 だから、実動部隊として忙しいマルクさんたちに剣の振り方を教えてもらえたのだ。そういう意味では俺は貴族制の利益を得たわけだな。


 俺は森での訓練が始まる前の小休止の間に、マルクさんたちの武勇伝を聞いた。盗賊団の討伐や強い魔物の討伐などの話をねだったのだ。


 小隊のみんなと仲を深めたいと思ったからだし、訓練を前に緊張を和らげたいと思ったからでもある。過度の緊張はかえって問題だ。


「着替え終わりました」


「洋介、まさに新人冒険者だな」


 武勇伝の話は大体終わり、俺はテントの中で着替えをしていた。この国では、裸になることをあまり厭わない。


 川で水浴びをすることもよくあるし、そもそも貧しい農民は中古の服を着るので体にフィットしておらず、体を隠しきれていないこともあるそうだ。


 騎士団では、男しかいないとはいえ、野営では敵襲に備えてテントの中で着替える習慣になっていると言われた。現代の一般的日本人の感覚を持つ俺としてはありがたい。


 あ、女子は別だぞ。今までのは男の話だ。女性は普通、あえて肌を晒すことはしない。一定以上の階層では、女性は貞操を守るものとされているからだ。


 マルクさんが俺のことを新人冒険者と言ったのは、俺が支給された装備を身につけたからだ。金属鎧よりも軽くて動きやすい革鎧、普通の鉄剣、魔法の威力を少し強める能力を持った杖の3つが俺に支給された。


 言うまでもなく、ステータスが高い小川たちは、金属鎧やもっと効果の高い剣・杖を身につけている。まあ、装備は有限だから仕方がない面もある。


 俺が呼び捨てにされているのは、この話の中で、俺が小隊の人たちに呼び捨てするように頼んだからだ。


 だって、大したスキルもない俺よりも、この小隊の人たちの方がよっぽどすごい。


「いや、ただの新人じゃないな。金持ちの新人だ。なにせ、装備品が全部新品なうえ、一度も戦ったことがないって感じだ。なあ、ジャン?」


「モーリス。あんまり洋介をからかうんじゃない。それが事実だとしてもな」


「ジャンさん。たしなめているようでさらに俺をからかってますよね」


 ジャンさんはバレたか、モーリスさんはそれは違いないという表情だ。モーリスさんは気のいい人で、偵察を担当する。ジャンさんはあまり喋らない人だが、気遣いの人だ。盾を使って攻撃を受けるタンクをやる。


 この小隊はやっぱりいいチームだな。みんなの息があってるぜ。この隊に当たったのは運がよかった。


 そのとき、騎士の人が小走りでマルクさんのところにやってきた。マルクさんはその人と少し会話をした後、俺たちの方に向いた。


「3人とも、時間だ。準備はいいな?さあ、出発だ!」


「「「はい」」」


 そうして俺たちは多くの馬車が止まった騎士団の野営地を抜けて、訓練のために森の方へ進んでいった。


 ここまで小川たちに追いつけていない俺は、この実地訓練で挽回しようと意気込んでいた。


 だから、クリストフさんのことを忘れていたんだ。


 昨日の夜、俺に見せた、あの顔のことを。




上田洋介 Lv.1

HP:10/10 MP:50/50

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.2

    治癒魔法 Lv.2

    剣術 Lv.1

    観察術Lv.2


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