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第5話 実地訓練前夜

 


 それから約2週間。俺はクリストフさんと訓練を進めていった。俺は自分でも驚くほど、集中して訓練に取り組んでいた。


 おそらく、実地訓練が2週間後から(つまり明日から)に行われること、周りのみんながどんどん成長していっていることの2つが関係していると思う。


 実地訓練というのは、魔王・魔神の手先である魔物を実際に討伐する実践形式の訓練だ。身体レベル(スキルのレベルと区別してそう呼ばれる)を上昇させるためには、魔物を討伐するしかないらしい。


 俺も2週間訓練したが、身体レベルは1のままだ。HPとMPもレベルに連動する。レベル上げは魔王討伐に必須だ。


 強力なジョブや初期スキル・ステータスを持つ俺たち日本人組とはいえ、魔物を討伐したことはなく、戦闘能力は未知数だ。


 護衛の騎士の人たちが一人一人に付き、狩場も初心者向けの王国東部の森というが、弱小スキル・ステータスの俺としては全く油断できない。自然と図書室での訓練にも身が入った。


 その訓練だが、大変だった。自分で訓練メニューを決めないといけなかったからだ。


 結局、2日目に考えたことぐらいしか思いつかず、この2週間は地道に訓練した。筋トレ、素振り、瞑想、2つの魔法の練習。


 この訓練を除けば、日本での生活と大きくは変わらなかったぐらいだ。派手なスキルはまだ俺には使えないからだ。


 むしろ、図書室で(クリストフさんはいるが)1人で訓練している分、ぼっち度が上がった気もする。


 この2週間で、この国でも貴族階級は便利な魔道具を贅沢に使って日本並みに生活できるとわかった。


 ちなみにアンナさんによれば、平民の暮らしはテンプレの中世ヨーロッパ風らしい。魔道具が高価で、魔物の脅威があるから生活水準がなかなか上がらないそうだ。


 俺は格差を感じたが、弱小異世界人である俺にはどうしようもない。すぐに使える知識チートも思いつかないことだし。


 さて、お待ちかねの訓練結果だが、2週間の訓練を重ねてステータスはこんな感じになった。


 上田洋介 Lv.1

 HP:10/10 MP:50/50

 ジョブ:雷属性魔法使い

 スキル:雷魔法 Lv.2

     治癒魔法 Lv.2

     剣術 Lv.1

     観察術 Lv.2 


 上々な結果と言えるだろう。異世界人でなければ。賢者ヒカリ以来使われなかった雷魔法をわずか2週間でLv.2にした。


 系統化されていない王国の剣術を騎士から聞いてやった、なんちゃって素振りでは剣術のレベルは上がらなかったが、冒険・戦闘で役に立つ治癒魔法がLv.2になった。


 どれだけ役に立つかわからないが、観察術もLv.2にレベルアップした。


 雷魔法は、Lv.2になって弱い魔物の毛皮に傷をつけられるように進化。


 回復魔法は、Lv.1でささくれを治せたのが、Lv.2で転んだときにできる切り傷・擦り傷なら治せるように向上した。


 観察術は観察が得意になり、頭の回転も速くなった(気がする)。


 MPの消費は発動するスキルレベルの二乗なので、MPが50の俺でもそれなりに訓練でき、戦闘能力は上がっただろう。


 しかし、それだけだ。食堂で(盗み聞きで)入手した情報によれば、小川のステータスはこんな感じだ。


 小川達也 Lv.1

 HP:50/50 MP:500/500

 ジョブ:勇者

 スキル:全武器適正 Lv.3

     魔道の真髄 Lv.3

     HP超回復 Lv.2

     MP超回復 Lv.2


 ひとつひとつ比較するまでもない。明らかに小川の方が上だ。俺の上位交換だ。


 さらに、魔道の真髄とは、全ての属性の同レベル以下の魔法を本来よりも少ない魔力、強い威力で使えるスキルだそうだ。


 わざわざ雷魔法を訓練してはいないだろうが(そもそも周りに教える人がいないだろう)、使い始めればすぐに俺を上回るだろう。


 小川だけではない。俺が勇者パーティになると見込んでいる、和田、木村、山下の3人のステータスもおおよそ把握している。和田が食堂でよく騒いでいるからわかってしまうのだ。


 和田元 Lv.1

 HP:40/40 MP:50/50

 ジョブ:剣聖

 スキル:聖剣術 Lv.2

     体術 Lv.2

     武器修復 Lv.2

     HP回復 Lv.1


 木村洋子 Lv.1

 HP:30/30 MP:300/300

 ジョブ:賢者

 スキル:全属性魔法 Lv.3

     護身術 Lv.1

     MP回復 Lv.2

     魔道具作製 Lv.1


 山下由美 Lv.1

 HP:40/40 MP:100/100

 ジョブ:大盗賊

 スキル:気配察知 Lv.1

     回避 Lv.2

     聖弓術 Lv.2

     弓矢作製 Lv.2


 お分かりだろうか。そう、俺は初期ステータスもジョブもスキルもこの3人に劣っているのに、成長速度は同等なのである。


 他のクラスメイトもこれに同じぐらいだから、俺がみんなに劣っている状況は全く変わっていない。


 ざまぁができないうえ、クラスメイトに勝てる見込みさえ立たない。それどころか、構造的に俺が勝てそうもない。


 俺ができることは、明らかに他の誰かもできる。俺のスキルの組み合わせでは、特殊な効果も発揮できないだろう。


 俺は、自らの境遇を不運と嘆くことしかできない。


 そんなことを考えている俺は今、食堂にいる。


 明日からの実地訓練に向けて宮廷魔術師長のミシェルさんが俺たちに訓示している。俺たちの活躍に人類の運命がかかっているとか、明日からの訓練では焦らずかつ勇敢に戦ってほしいとか、色々なことを話している。


 みんなは、いよいよ来たかと不安と希望が半々みたいな顔をしているが、俺にとっては不安でしかない。


 俺は実地訓練では騎士団の護衛の人たちと一緒に行動する。クラスメイトとは一緒に行動しない。


 クリストフさんは言葉を濁しながら話してくれたが、要は俺の実力が低いのでみんなとは別メニューだということだ。


「元気出せよ、洋介。お前、悲惨な顔をしているぜ」


「誠、そうは言ってもな。俺の実力では。な、わかるだろ?」


 誠は俺のことをわかろうと頑張ってくれる。だが、誠も「持っている」側の人間だ。


 誠のステータスはこんな感じだ。これは直接聞いたぞ。


 まあ、ステータスは他人には名前・ジョブ・身体レベルしか開示できず、それ以外を調べるには特殊な魔道具が必要だから、直接言われただけでは真偽を判断できないが。


 山口誠 Lv.1

 HP:30 MP:100

 ジョブ:騎士

 スキル:状態異常無効 Lv.3

     剣術 Lv.2

     馬術 Lv.1

     盾術 Lv.1


 誠は状態異常無効のスキルを重点的にあげたと言っていた。いいよな、このスキル。勇者パーティに同行して毒味をすれば暗殺を防げるし、特定の相手にはとても有効だと思う。


 その第一印象は変わっていないどころか、日々の訓練の様子を聞いて強まってすらいる。


 それに、他の3つのスキルは王国の騎士になる人はほとんどが持っているそうだから、騎士団と一緒に訓練していればスキルレベルも上がるだろう。


 成長が早い、特殊技能付きの騎士様だということだ。


「わかるなんてことは言えねえ。けど、そんなに自分を卑下する必要はねえだろ。この世界に来て2週間だぞ。まだまだこの先、わからねえじゃねえか。元気出せよ」


 はあ、本当に俺には過ぎた友達だよ、誠は。


「そうだよな、誠。悪いな、心配かけて。帰る手段もわからない以上、前を向いてこの世界で生きていくしかないんだ。一緒に魔王討伐まで頑張ろうな」


 そう言うと、誠は右手の親指を立てた。いわゆるいいねのマーク。


 誠は前を向いていこうみたいな話のときに決まってこれを出す。小さい頃、父親にそう教わったと高校で会ってすぐのときに聞いた。


 そういえば日本は今頃どうなっているんだろう。


 俺たちが急にいなくなって大騒ぎか。それとも、神様の超常的な力が働いて問題なく動いているとか。こちらの世界の時間の進みが地球世界よりもとても早いという説もあるな。


 いずれにしろ、日本での生活が早くも懐かしい。


 帰りたいな。帰れないけど。


 この後、たわいもない話をしながら夕食を食べた。


 普段、あまり話をしないようなクラスメイトとも話をした。お互い明日の実地訓練に向けて落ち着かなくて、当たり障りのない話題で長く話した。


 もし訓練で死んでしまったら、これが相手との最後の会話になるかもしれないと、ふと頭によぎった。


 夕食後、誠に別れを告げて、部屋に戻る前に図書室に向かった。訓練前にクリストフさんと話をしておきたかったのだ。


 廊下を歩きあの分厚い扉を開けると、クリストフさんはいた。俺の指導をしている分、仕事が夜にずれ込んでいるのだ。


 本当に頭が下がる思いだ。


「クリストフさん、改めまして。この2週間お世話になりました。実地訓練ではこれまでの訓練の成果を出して、死なないようにします。そして、必ずもう一度戻ってきます」


 クリストフさんは読んでいた本を閉じて俺の目を見た。


「洋介さん。実地訓練ぐらいで大袈裟ですよ。護衛の騎士の方々もいるのですから、滅多なことは起きません。過度の緊張はかえって問題ですよ」


 クリストフさんはいつでもクリストフさんだった。落ち着いていて、合理的で。でも、そのクリストフさんが実地訓練の話をすると、いつも少し憂いを含んだ表情になる。


 この訓練の話を最初に聞いてから、ずっと気になっていた。


 明日からその実地訓練が始まってしまう。俺は直接聞いてみた。


「クリストフさん、なんでこの話のとき、いつも少し変な顔をするんですか。何かを憂えるような」


 クリストフさんは、俺の質問を聞いて少し動揺したようだった。ただ、すぐに穏やかな表情に戻った。


「私は、あまり魔物と戦ったことがありませんから、ちょっと心配しているだけです。顔に出てあなたを心配させていたとは気づきませんでした。本当に、それだけです」


 その後は、俺の戦い方について2、3個質問をして会話は終了した。特に変わったことはない、普通の会話だった。


 部屋に戻ってベッドで眠る前、俺はどうしてもクリストフさんのあの質問のときの顔が忘れられなかった。


 だって、あのときの顔は。まるで。


 悪事が露見した悪者みたいだったから。


 俺はその考えを否定する。クリストフさんは、冷静で、理性的で、でも人の感情がわかる人間だと知っているから。


 ベッドでそんなことを考えているうちに、俺は深い眠りへと入っていった。




上田洋介 Lv.1

HP:10/10 MP:50/50

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.2

    治癒魔法 Lv.2

    剣術 Lv.1

    観察術 Lv.2 


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