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第45話 嘘はよくない①


リアルが忙しいので、しばらく投稿間隔が乱れると思います。



 嘘をついてはいけない。幾らかの良心があるならば。


 俺が保身のために司祭だと名乗ったから、これほどの話を聞いた。聞いてしまった。


 涙を流し、諦めた笑顔をし、無表情になり、縋るような視線を浴びた。ペトラの表情は、実に多彩である。


 日本では、どんな資格を持っていても、どんな家系の出身でも、若い奴がそれだけでこれほど信頼されない。


 長い時間を一緒に過ごして、仲良くなって、初めて相談されるのだ。人柄を知らない人は怖い。


 もちろん、だから相談できるということもある。


 しかし、フラフラした平凡な男が、俺のような人間が、人と正面から向き合うことはない。


 誰だって嫌だろう。俺だぞ?自分ことは自分が1番知っている。


 しかし、それを上回る。


 これが教会の力だ。この世界だ。俺は、この世界のことをまだよく理解できていなかったようだ。


 宗教には縁遠い生活をしていたから、初めて身に染みてわかったんだ。俺は、注意しないといけなかったんだ。


 ペトラは俺をじっと見ている。泣き腫らした顔が痛々しい。


 今更、司祭ではなかったと言うべきではないと思う。俺は、なんとか嘘をつき続ける必要がある。


 どうしてこんなことに。


「ペトラ」


 俺の呼びかけに僅かにうなづいた。外からの音は聞こえず、部屋の中も静寂に包まれている。俺の緊張はますます高くなる。


「キュア」


 白い光を伴って、その赤い顔を元に治す。この光景はいつ見ても幻想的だ。インチキ司祭の俺も神聖さを感じる。


 動きが止まっているペトラの肩に両手を置いた。


「まずは、神々に忠実である信徒ペトラに祝福を与えました」


 冒険者って人種は、人の生き死にと近いからか、罪の告白をする人が多い。ギルドの酒場にいれば、自然と情報が入ってくる。酒を飲むと口が軽くなるからな。


「しゅくふく」


「ええ、祝福です」


 俺は胡散臭いとの評価を得た笑みを浮かべる。自分で意識してやると嫌な気分になる。


 さて、俺の考えを反映させつつそれっぽい助言と赦しを与える必要がある。どうしたものか。


「正しき行いを続ければ、いずれ創造神の赦しと祝福を得るでしょう」


 正しいなんて人それぞれなのに。教会が定める行いこそが正しいことになっている。


「ど、どうすればいい?」


 おいおい、急に元気になったぞ。現金なやつだ。


「胸に手を当てましょう」


 ペトラはそっと胸に手を当てた。


「魔神はあなたの心の弱みに付け込みます。強くありなさい」


「つよく」


 噛み締めるように復唱した。


「神を感じなさい」


「神様?」


 まずい、わかってない感じだ。


「神々は、いつもあなたを見守っています」


 そういうことになっているから、表向きは誰も否定しない。純真だから信じてくれるだろう。


 案の定、聞いたことのあるような話に納得がいったのか、神を感じると復唱した。


「最後、正直にありなさい」


 これが俺からのメッセージ。思いを全部言うんだ。俺だけじゃなくて、親や兄弟やパウロに。どうするかはそれからだ。


「その、むずかしいです」


 知ってた。最初からできていたら俺に頼ってないわな。


「正しき道にはいつも困難があります。しかし、それを越えれば幸いがあるのです」


 歴史を紐解けば、そう述べた後、やれ悪魔や異教徒や異端者などの妨害により上手くいかなくなることが多い。昔の宗教は楽だなあ。


「困難と幸い」


 そうそう。困難と幸い。


「私、誓います!」


 どうやら耳が遠くなったみたいだ。俺も年寄りかな。もう16だから。


そういえば、この世界って数え年、満年齢?俺は15とか16とか適当に言ってるけど。元々自分の年齢にはあまり興味がないし。


 俺の現実逃避は短命に終わった。


「私、誓います!」


 確か、こうだった気がする。


「信徒ペトラよ、何を誓いますか?」


「信徒ペトラは、これから常に強くあり、常に神を感じ、常に正直にあることを誓います!」


 俺には絶対できないぞ。いや嘘でいいなら誓えるけど。日常生活で実践するのは不可能だ。


 一生弱気にならず、一生神様と対話を続け、一生嘘をつかない。人間としてどうかしている。


「信徒ペトラの誓いには、司祭ヨースケ・ウエダが立ち会った。彼の者は、誓いを守る限り、神々から赦しを得るだろう」


 俺の全身が圧迫されている。潰されそうだ。死んだ方がマシなんじゃないか。


 ペトラの人生に責任なんて持てない。俺との嘘の誓いを信じ、これから生きていくんだ。


 司祭との誓いは冒険者のパーティーの誓いと異なり、超常の効果はない。教会が作ったシステムだ。


 そうであっても社会に根付いた制度だ。適当なものではない。


 条件付きの赦しを得て、ペトラは泣き崩れてしまった。ほっとして緊張が解けたのだろう。


 俺はベッドから降りて、床に座り、そっと抱きしめた。理由はわからないけど、そうすべきだと思ったのだ。


 一瞬ビクッとしたペトラはしかし、涙を拭っていた手を俺の背中に回し、肩の上で泣き続けた。


「ありがとう、ありがとう」


 泣き声と感謝の言葉が個室にじんと残った。




「あれ、わたし」


「起きたか」


 あれから寝落ちしたペトラをベッドで寝かし、俺はベッドを背もたれにしていた。


 その1時間、確かな証拠を感じつつ、自分の罪を自問自答していた。誰にだって、この心境を知られたくない。


 ペトラは上体を起こした。


「ぐっすりでした」


「ぐっすりだったぞ」


 すやすや眠るもんだから、俺の方が焦ったぞ。俺のことを信用しすぎだ。


「男の前で、女性が無防備に眠ってはダメだ」


 何をされるかわからない。その露出度の高い服を着ていると、女性が誘っていたと見做されて誰も助けてくれないはずだ。


 俺も賢者モード(笑)でなければ、胸やお尻や変な寝言に大変な思いをしただろう。これまで売れなかったのが嘘みたいだ。


「もう、ヨースケ様だからだよ」


 相変わらず心臓に悪い言葉を。


「だって、司祭様だから」


 そして、安定の教会信仰。テバノラ教の未来は安泰だ。


「わたし、赦された?」


 寝る前の話だ。


「条件付きだぞ」


「わかってる」


 たとえ俺が嘘つきでも、罰を受けるのは俺だけだ。彼女は、強くあり、神を感じ、正直であるのだから、その人生は良いものになるだろう。


「村に帰るよ」


 突然の静かなる宣言。でも、その決心は素晴らしい。そして、予想していたことでもある。だから、決めていたことをする。


「私からの餞別です」


 贈り物は持っていないから現金だ。いいだろ?実用性重視で。


 適当な袋に入った中身を見て驚いている。ふふ、大人の特権だ。


「こんなにたくさん、いいの?」


 俺はDランク冒険者だ。大銀貨2枚程度、なんてことはない。剣代も浮いたことだし。


「帰ってからを考えても、いるでしょう?」


 いくらパウロが助けてくれても、実家は貧乏なわけだし。一緒に農民をするにも街に出るにも金がかかる。というか、実家に帰る費用もある。ほぼ1文なしだから。


「うん、ありがとう」


 なんだよ、ちゃんと笑えるじゃん。


「いい顔ですね」


 俺の言葉が意外らしく、自分の顔をペタペタ触っている。


「久しぶり。普通に笑ったの」


 死ぬことを考えていたぐらいだ。それほど余裕がなかったのだ。


「そちらの方が可愛いですよ」


 それができていれば、お客さんもついていた。そう思える素敵な笑顔だ。俺も少しだけ見惚れてしまった。


「からかわないでよ」


 敬語も抜けている。誓いと赦しを経て、距離が縮まった。ただし、両想いらしき幼馴染がいる商売女性と。そう考えるとちょっと虚しい。


 ぽんぽんとベッドを叩く音が聞こえた。登れってことかな。俺は大人しくペトラの前に座る。


 正面から見れば、すっかり素敵な女の子。告白して振られる未来まである。


 あっ。


「ぎゅー、です」


 ニーナとは違う、俺を俺と認識して抱きしめられた。ペトラの匂いが鼻腔に広がる。


 どうやら俺は女の子匂いに弱い。いや、笑顔にもお願いにも弱い。童貞の悲しき業である。俺もぎゅっと抱きしめる。


「ど、どうしたの?」


 拡大された顔は真っ赤である。目を瞑り、ブルブルしている。俺はなんとか質問した。


 口調は、決して動揺したからでも、タメ口で雰囲気を作りたかったわけでもない。偶然、敬語が崩れてしまったのだ。司祭様、ウソツカナイ。


「は、恥ずかしいよ」


 俺も嬉し恥ずかし。これ、意外とあるぞ。身体も柔らかくて軽くてふわふわだ。


「じゃ、じゃあ、やめれば?」


 行動の理由が謎すぎる。女の子は身体を安売りしないのだ。まして初対面の好きでもない男に、好きな人がいる子が肌を晒す必要性は皆無。


「だって」


「だって?」


 ごくり。


「司祭様が言ってたもん」


 あれれ、どゆこと?



上田洋介 Lv.32

HP:134/134 MP:313//315

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.4

    治癒魔法 Lv.4

    剣術 Lv.3

    観察術 Lv.4



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