第41話 ニーナと小道具
「イザベルと何かあった?」
今日はニーナと出かける。1人ずつ一緒に外出するのは、みんなで申し合わせているのだろうか。
「別に」
俺のそっけない反応に、何かあったという疑念を深めているようだ。
実際のところ、特別なことがあったわけではない。
昨日のイザベルはちょっと変で、意味深な言動をしていたので、俺も少し変な気分になっていた。
宿に着くと、夕食の時間にはイザベルはいつも以上にアレクに甘えていたけど、よくあることだ。
夜にいつもよりやや大きい聞き慣れた音が近くの部屋から聞こえてきたのも、よくあることだ。
よく朝のアレクとイザベルがいつもよりツヤツヤでバカップルをしていたのも、よくあることだ。
決して、自分の境遇を振り返って血の涙を流していたわけではない。ないったら、ない。
俺は、強く生きる。なんか、前にもこんなことがあった気がする。
「着いた」
今日訪れるのは、雑貨屋のようなところだ。ニーナの小道具を補充するそうだ。
弓使い兼斥候という珍しい?担当なので、いろいろ準備は大変だと思う。狩人というジョブで、盗賊と弓術のスキルを持つからだ。
店の中に入ると、さまざまなものが雑多に置かれていた。金物屋というか、雑貨屋というか。よくわからない店だ。
「どこもこんな感じ」
へぇ、こういう店もあるのか。勉強になった。
ニーナはナイフが置かれている場所に立って、いくつか解説してくれた。
魔物の大きさ別に解体ナイフがあり、料理用や軽作業用などいろんな種類がある。専門家だけあり詳しい。
この手の知識はニーナの担当なので、自分でできるように準備している。みんなのために道具を準備するのも仕事である。
「どれくらい違うの?」
やっぱり切れ味が全然変わるのか?
「あんまり。安物だから」
そうか、あんまりか。事実だとしても、店の中では言わないでほしい。追い出されたくないからな。
「これ、いい」
俺には同じに見えるけど、左よりも右の物の方が良いそうだ。コスパ的に。
ニーナは小さい魔物の解体用のナイフを俺に渡し、買い物を続ける。
「ナイフは手入れが重要」
研ぎ。研鑽を積んだ職人の手作業による神業。そんなイメージが頭に浮かんでくるが、血がついたらしっかり水で流す、というレベルだ。
それ、効果あるのか?
「いくらぐらいかかるの?」
ボロ布や手入れ用の油には、値札がついていない。それに限らず、すべての商品に値札がついていない。値段はどうするんだ。
「1か月で小銀貨数枚かな」
今となっては大した負担ではないが、昔は大変だったはずだ。
「なんで自己負担なの?」
みんなが恩恵を受けるのに、1人で負担を背負うのはおかしい。
「?そういうもの」
この世界の常識、というものだろうか。納得いかない。
「だから、斥候とか弓使いは成り手が少ない。知識が必要なのも大きいけど」
長文なので気持ちがこもっている、と予想する。いつも無表情だから感情が読みづらいのだ。
弓矢が自己負担とか酷い。剣や鎧と違って消耗品だから金が湯水のようになくなるぞ。
「控除とか積立とかやればいいのに」
「コウジョ?ツミタテ?」
久しぶりに、翻訳スキルが機能していない。この世にない概念かもしれない。素人だし、1から説明するのは難しいな。
「簡単に言えば、控除は報酬分割のときに各自の装備にかかる費用を差し引くってこと」
「積立は、装備の耐用年数と費用を計算して、共同資産として貯金するってこと」
これでおおよそはあっている。細かい定義は知らないので、悪しからず。
「ヨースケは神学者?」
進学者。いや、神学者か。俺の訳アリの元聖職者という設定から出てきた発想だろう。
「いや、本で読んだだけだよ」
経済系のラノベ(=本)で読んだだけだ。嘘ではない。
「頭いいね」
その、頭を撫でるのはやめて。いや、やめないで。どっちだよ、俺。
「は、恥ずかしい」
この世界では幼く見えるが、俺は16歳。夏真っ盛りでもあり、顔が熱くなる。
「そうだ、16歳だった」
手が離れてしまった。温かい感触が名残惜しい。やっぱり、子供扱いされていた。
「子供じゃないから」
俺のセリフに、緩んでいた口元が戻り、元の無表情になってしまった。レアな光景だったのに。
「残念」
俺も残念だよ。ヘルマンには悪いけど、2人きりならいくらでもやってほしい。新しい扉を開けそうだ。
ニーナは会計に向かったので、俺も自分の手入れ用に少し買っておく。
神様の設計とやらで簡単な手入れで切れ味を保ってくれるのはありがたい。剣はたくさん買えるほど安くないからだ。
「これでお願いします」
俺は小銀貨2枚だった。最近は散財しすぎだ。この街を出たらまた節約しよう。
俺たちは店を出た。ニーナは宿とは逆の方向に向かう。
「そっち?」
「外で試す。臭いから」
ああ、油は臭いから宿ではできない。野営のときにすることが多いから、あまり気にしてなかった。
無言で先を行くニーナの後についていく。歩くのが速いので、テンションが上がっていると思う。
門を出て、川の側までやってきた。この街を支える川の上流にあたる。
腰を下ろして、俺たちは1人で作業を行う。ニーナの目がキラキラしていて、さっきの予想が当たっていた。なんだかんだ、この手の作業が好きなのだろう。
俺も好きで、ついつい丁寧にやってしまう。悪いことじゃないけど、結構時間がかかるので気をつけている。
俺よりも手入れする物が多いニーナはまだ作業をしていて、俺はその様子を眺めていた。いつ見ても美女は目の保養になる。
昼を過ぎて開始から2時間ほど経った頃。手が止まったのを見て声をかけた。
「終わった?」
俺はニーナの道具の数を把握していない。
「うん」
どうやら満足がいったようだ。俺も何故か嬉しい。
すると突然、ニーナが上着を脱いで一枚の薄着姿になった。この世界の下着だ。
えっ、どゆこと?
俺の疑問は解消されることなく、ニーナは川の中に入っていく。
「よーすけもはいる」
いや草原の真ん中ですよ!?確かに誰もいないけど、女性が下着になるところではないですよね!?
しかし、俺は謎の圧力に負けて、薄着1枚になり川に入る。今日は2人とも、冒険者スタイルではなく普通の服を着ていた。
夏の暑さの中で冷たい川は気持ちいい。イザベルの横に並び、風呂のようにくつろぐ。プールなんて中学校以来だ。
これ実質、プールデート?いや、混浴?木陰とはいえ、何時間も暑い屋外にいたので頭が働かない。軽い熱中症だ。
身体に染みついた油の臭いを取るということらしい。
10分ほど涼み、俺たちは川を出た。出たのは良いのだが。
「どーしたの?」
どうしたのじゃない。その破廉恥な格好をどうにかしなさい。薄着が肌にピッタリくっついて、身体のラインがはっきりわかるんだ。
ニーナは着痩せするタイプだった。知らなかったな。俺の視線にそっと手を胸に当てる。余計強調されてないか。
「もう、おませさんだね」
いや、俺16歳だから。つい数時間前には覚えていたよね。まさか、忘れてる?
混乱する俺に近づいてきて、座らせた。目の前にニコニコしているニーナの顔がある。
「ぎゅーして」
女神かな。ここは地上に現れた楽園だったのだ。俺はそういうことにして、後先考えずにニーナを抱きしめた。
「えへへ、あったかい」
全身が柔らかい。全身を預けられていることに、信頼されているという感覚がある。
そう思っている間に、ニーナは眠っていた。ぐっすり、眠っていた。
えっと、どうすれば良いと思う?
上田洋介 Lv.32
HP:134/134 MP:319/319
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.4
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.4




