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第40話 イザベルとローブ②



 大金が、俺の手元から失われてしまった。うう、ローブ高すぎ。


「ひひ、毎度あり」


 イザベルもローブを買ったので、老婆の声が再び耳に入る。不思議と、しわくちゃな顔が目に浮かぶ声である。


「買わないけど、魔道具を見ていく?」


 まあ、興味はあるな。金はないけど


「せっかくなので、見ていこう」


 金にならない客には対応しないのか、店主は奥に戻っていった。魔道具による防犯は強力なのだろう。


 イザベルは自分の指輪を手に取り、俺に尋ねた。


「魔道具について、どれくらい知ってる?」


「実は、ほとんど素人なんだ」


 さっき嘘をついたばかりだが、潔く白状した。ただで教えてもらえる機会を逃したくない。


「じゃあ、基本の基本を教えてあげる」


 魔道具とは、魔力を使う便利な道具である。


 長い間修行した職人が1つずつ手作りするものとダンジョンで見つかるものがある。


 魔力は、人が注ぐタイプと魔石を交換するタイプの2種類あり、どちらも人気。


 とても貴重で高いので、貴族や豪商、自分で手に入れた冒険者などしか持っていない。


「ここまでは大丈夫?」


 気になったことはすぐに質問しておこう。


「イザベル先生、高いって、どれくらいですか」


 先生は首を傾げた。なにそれ可愛い。


「そうね、最低でも小金貨1枚とか」


 やばいな。間違って落としても弁償できない。俺は商品に伸ばしていた手を急いで引っ込めた。


「ちなみに、その指輪は?」


 今後のための問い。見た目も少し高そうで、俺が恋人からの贈り物と勘違いしていたくらいだ。


「これは小金貨6枚」


 金銭感覚がおかしくなりそう。魔道具は怖い世界だ。


「奮発だ」


「奮発よ」


 腰に手を当てて勝気な笑みを浮かべるのは、イザベルらしいポーズだ。自然と表情が崩れた。


「なんで笑ってるの?」。


「いや、唐突な思い出し笑い」


 まさかラノベのお馬鹿令嬢みたいとはいえない。意味が伝わらなくても、馬鹿にしていると気づかれそうだ。


「続きをお願い」


 イザベルは納得がいかなそうだったが、話を続けた。


 性能や仕様は場合によるので、ピンキリ。


 国宝の中には、国の軍事力や経済力に直結するものがあり、囲い込まれることがある。


 冒険者は一攫千金を夢見てダンジョンに潜る。そして、たいてい得られない。


 言い終わったイザベルは水筒で喉を潤している。


「結局、夢は夢、ということか」


「そんなものでしょ」


 冒険者は、冒険してこそである。普段は日銭を稼ぐために働いているが、みんな心の底では大金をゲットしたいのだ。


「帰るわよ」


 区切りが良いところで、店を出て歩き始める。いつの間にか戻っていた老婆の視線がキツかったからだ。


 静かな店でダラダラ話している客がいれば、他の客が入店しづらいはず。さっさと退散しよう。


「目ぼしい魔道具は見つかった?」


「そもそも金がないんだが」


 諸悪の根源だ。空からお金と美少女が降ってこないかな。


「あら、Dランク冒険者さまは金欠かしら」


 いつものイザベルだ。ついつい嫌味が混ざる。こちらも対応が面倒である。


「Bランク冒険者さまとは貯金が違いますから、しがない貧乏人です」


 報酬はありがたいことに平等な分配だが、今までの稼ぎが違いすぎる。支度金とか0だったし。


「そうね、私も昔そうだった」


 なんだか感傷的な顔だ。珍しい。


「昔の話?」


「そう、昔の話」


 「私はレディよ」と言い返してこないとは、重症である。だって、昔を振り返るほど歳を取ったと言うようなもんだ。


「私ね、可愛い貴族の令嬢だったの」


 直ちに周囲と認識を擦り合わせた方が良さそうだ。枕詞に「じゃじゃ馬」がついていただろう。


「妾の子供だけど、それなりに大事にされて、友人もいて、まあまあ充実してた」


 貴族の生活は知らないが、金持ちの子供と考えればそうだと思う。彼らなりの悩みもあるだろうが、庶民から見れば些細な問題かもしれない。


「でも、どうしても将来に納得いかなくて」


 若者は見えない将来に悩むものだ。俺も若者として悩みまくっている。


「親が決めたあまり知らない人と結婚して、子供を産んで、家を守って、おばあちゃんになる」


 地球でも、つい最近までお金持ちの女性の生活はそういう感じだった。女性の社会的・経済的自立は近代以降の話だと、どこかで聞いた。


 金のない庶民は女性も働くけど、イザベルは貴族である。縁の遠い世界だろう。


「思ったわけ。それだけ?私の人生それだけなの?」


 予想よりも重い話だった。この世界、女性で自力で生きている人はほとんどいない。


 未亡人とか親に先立たれた女性ぐらいだ。働いていても、建前では父・夫・兄弟・息子などの支配下にある社会的弱者。


 結婚することも子供を産んで育てることも、重要なことだ。それを大切にする人を馬鹿にするべきではない。


 でも、そうではない人もその価値観も尊重されるべきだ。


「気づいたら、家を飛び出して冒険者になってた」


 そうか、その姿は簡単に想像できる。俺の知るイザベルだ。


「周りの人は?」


 意識的に閉じていた口を開いて、イザベルの様子を見る。さっきよりはマシな顔だ。


「大反対よ。大喧嘩して、まあ最後には支度金はくれたから良かったけど」


 そりゃそうだ。日本で頭が良い高校生が、「卒業後は海外で就職する」と言ったぐらいの衝撃だ。


 せめて国内にしなさいと親はアドバイスしたくなる。どうしても高卒じゃないといけないのか、とも。


「呆れてる?」


 ここは嘘をついてはダメだ。よくわからないが、たぶんそうだ。


「俺はすごいと思う。勇気のあるって感じで、その、すごく尊敬する」


 思ったことを素直に表現して異性の友人を褒めるのは、とても恥ずかしい。見てくれが美人なのでなおさら。


「うん、ありがと」


 あれ、スルーされた。俺の告白(笑)が大人の余裕でスルーされた。空振りである。


「あの頃は若かったのよ、火魔法があればなんでもできるって」


 お願いなので、からかってくれ。そうしないと、俺が馬鹿みたいじゃん。さっき馬鹿にしたのは謝るから。


「冒険者って大変で、成功も失敗もあって、話せる人もいなくて」


 わかるぞ。俺も半ばぼっち冒険者(≠ソロ冒険者)だったので、その気持ちはよくわかる。ツッコミはあきらめた。


「アレクたちと出会って、どんどん自分もみんなも強くなって、大層なパーティー名を名乗ってね」


 やっぱり自分たちでも名前気にしてるじゃん。絶対変えたほうがいいって。


「私、今幸せなのよ」


 いま幸せなら良かったな。めでたしめでたし。


 少し間をおいて、イザベルは言った。


「ごめんなさい、変な話をしちゃって」


 始まりも唐突だったし、イザベルが感傷的になるのも変だ。面と向かって指摘できるような関係ではないから言わないが。


「いや、話しづらいことを教えてくれてありがとう」


 今後のパーティーのために、俺がみんなのことを知るのは大切だ。その1つと考えれば悪くない。


「ヨースケは紳士なのね」


 紳士、なのだろうか。この世界の基準がよくわからない。気の利いたことを1つも言えない残念男な気もする。


「まあ、私にはアレクがいるから」


 結局は彼氏自慢かよ。惚気ともいう。末長くお幸せに!


「あんたの顔を見てるとね、昔の私を思い出すの」


 どういうことだ?


「つまりね、もっと私たちを頼りなさいってこと」


 頼る。俺にはそれが、それだけのことがひどく難しい。


「わかった?」


 はい。そう言えばいい。一瞬で終わる簡単な音。しかし、それはなぜか口から出てこない。


 イザベルは立ち止まり、身体の向きを変え、俺の正面に立った。少し見上げる形。


 じっと目を見て、肩に手を置いた。


 整った顔も息遣いが聞こえる距離にあって、その手は温かさを伝えてくる。


「はい」


 勝手に返事をしていた。返事といえないぐらい、間隔の空いた言葉。


 イザベルはにっこりと微笑んで、俺たちは宿に向けて再び歩き始めた。


 2人の間に会話はない。しっとりとした、心が落ち着く沈黙。周りの音が不思議と小さく聞こえた。


 俺は、この笑顔を忘れたくない。こんな顔ができる大人になりたい。


 宿に着くまで、ずっとそう考えていた。




上田洋介 Lv.32

HP:134/134 MP:319/319

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.4

    治癒魔法 Lv.4

    剣術 Lv.3

    観察術 Lv.4



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