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第4話 スキルの上げ方

 


 賢者ヒカリの伝記を読み始めてから5時間ほど経った。途中でこの国でいう間食(俺の感覚では昼食)を取ったので、実際に読んだのは4時間半ほどだ。


 ちなみに、四季があり、1年は360日、1ヶ月は30日など、この世界は日本と時間の仕組みは変わらないようだ。


 ラノベで異世界転移物を読んだときは、そんなに都合のいいことはないだろうとツッコミをしていたが、そんな都合が良いこともあり得たのだ。


 作者の皆さん、感想欄で面倒なツッコミをしてしまい、申し訳ありませんでした。まあ、異世界からでは届くわけもないが。


 しかし、4時間以上も読んでわかったことは1つ。


「何にもわからない」


 そう、これだけである。賢者ヒカリの伝記とはいうものの、過度に彼女を礼賛している描写が多く、信憑性が疑わしい。


 その大半は、その智謀で悪徳領主を罠にかけたとか、魔王の手先の手を見破ったとか、頭の良さを伝えているものだ。


 さらに、勇者やその他の仲間など、賢者ヒカリ以外の人物の描写も多い。


 そして、先程、「賢者ヒカリは魔王討伐後、各地の復興に力を尽くしつつ、世直しを続けたのだ。彼女の素晴らしい魔法技術を受け継ぐことができる後継者がいなかったことだけが、わずかな心残りであっただろう」と述べて、伝記は終了した。


 これから、一体何がわかるというのだ。同じ異世界人だからといって、こんな抽象的かつ関係度の低い描写からは何も分からない。


 いや、同じ賢者のジョブを持つ木村ならわかるかもしれないが、所詮は雷属性魔法使いに過ぎない俺にはさっぱりだ。正直にクリストフさんに伝えようと思う。


「すいませんが、さっぱり分かりませんでした」


 すると、本の記録をつけていたクリストフさんは全く驚いた様子もなく頷いた。


「そうでしょうね」


 やはり、ダメもとだったか。木村がここにいない時点で薄々そう思ってたんだ。有望株ではない俺は実験台か。


 そう思いつつも、落ち込んでも仕方がない。俺は、昨日から気になっていた疑問をクリストフさんにぶつけた。


「そもそも、魔法とはどういうものなんでしょう。俺たちがいた世界では、少なくとも一般には魔法は存在しないとされていたのでよく分からないんです」


 クリストフさんは水を少し口に含んだ。


「魔法とは、スキルやジョブ、ステータスに並んで、魔神の脅威にさらされた我々人類に神々がお与えになった奇跡の力です」


 そう語り始めたクリストフさんの話は非常に長かった。長すぎてその全てをしっかり理解できたとは言えないが、俺なりにこのように理解した。


 この世界は創造神が作った。彼はこの世界を管理させるために神々を生み出した。さらに地上での管理を担う存在として人間を作り出した。自らと異なる世界の創造を見るために自分の半神スパークを作った。


 しかし、スパークは創造神を封印し、動物を魔物に変え、支配の拠点としてダンジョンを作った。他の神々は人類に対抗させるため、スキル・ジョブ・ステータスの力を与えた。


 人類はスパークを魔神と呼びこれに対抗しているが、魔神は定期的に魔王を作り出し人類に攻撃を加えている。


 ゆえに魔法・ジョブ・スキルはその管轄の中では強力で、イメージだけで成立する。人々はイメージを確固としたものにするため補助として詠唱を使う。


 うん、思ったね。それって、本当?


 後半はともかく、前半は完全に宗教の話で一般的な日本人である俺にはよくわからない話だ。


 ただ、この世界ではこれが常識みたいだから信じているふりをした方がいいだろう。


「つまり、イメージがしっかりしていれば、スキルのレベルに合った魔法を発動できるんですね?」


「そうです。でも、試してみるのはちょっと待ってください」


 そう言ってクリストフさんは近くの机から照明のようなものを持ってきた。紐を引っ張ると明るくなるタイプに似ている。


「これは、結界の魔道具です。この中に加工された魔石が入っていまして、紐を引っ張ると結界ができるんです」


 それはすごい。こういう面では、日本よりも便利だな。ちなみに、魔石とは魔物から取れる魔力が入った石のことで、さまざまな魔道具の動力源になるそうだ。(ソースはアンナさん)


「ほら、結界ができました。この図書室は広いですからね、机をいくつか端に寄せればそれなりの広さになります。標的も用意してありますよ」


 標的とは木の板だった。大規模な魔法なんてLv.1では使えないだろうから十分だろう。そこで、俺たち2人は机を動かしてから訓練に入った。アンナさんは俺の部屋の掃除に戻ったからな。


 しかし、オームの法則くらいは知っていても電気の具体的なことはよくわからない。ええい、ものは試しだ。電気、電気、電気。


「ボルト」


 雷魔法は一瞬だった。気がついたときには標的の板が少し焦げていた。


 成功だ。それは間違いない。しかし、言葉を控えなければ。


 ショボい。ショボすぎる。


 まだLv.1だとはいえ。初回だとはいえ。使い方も工夫できるとはいえ。はあ、これは失望されたな。そう思ったときだった。


「素晴らしい。まさか初回で成功するなんて。これは快挙ですよ」


 思わず聞き返してしまった。


「これで快挙なんですか?」


「ええ。今の雷属性魔法使いは、発動しようとしても何も起きずにMPを使うだけです。発動なんて賢者ヒカリ以来じゃないか。これは」


 クリストフさんは小声でブツブツ言い続ける研究者モードに突入してしまった。口調も崩れている。今ので成功になる理由は、ハードルが低すぎたから。


 500年間使えなかったとは、さすがに予想外だ。どうりで昨日、ジョブを伝えてミシェルさんが微妙な顔をしたはずだ。


 とりあえず、雷魔法はこの調子で練習していけばいいだろう。なんとか研究者モードに入ったクリストフさんの注意を引き、他のスキルについての情報を求めた。


「剣術は一般的なスキルです。多くの冒険者や騎士が保有しています。しかし、冒険者は独学がほとんどで、良くても先輩冒険者に習った、引退した冒険者が開いた塾で教わったという程度です」


「この国では、騎士はそれぞれの家で教育され、騎士団の訓練は見て盗むものです」


 やっぱり、冒険者が存在するのか。お約束通りだな。


「つまり、特に初心者向けに決まった訓練方法はないということですか?」


 頷かれてしまった。俺が考えるしかないのか。素振り、筋トレぐらいしかわからないぞ。しかし、ないものはやむを得まい。


「では、治癒魔法は?」


「それも良くわかりません。治癒魔法のスキルを持つ人は、教会が囲い込みます。そこで訓練しているのですから何かやり方があるのでしょうが、教会以外の人間には明かされていないのです」


「教会の協力を得るのは?」


 今度は首を振られてしまった。教会とは、さっきのクリストフさんの話に出てきた創造神などの神々を崇める宗教のことだ。テバノラ教というらしい。


 王国と教会の間には政治的な問題があるのかもしれないが、ことは人類全体に関わる魔王討伐だ。なんとか協力してほしいのだが。


「じゃあ、観察術はどうなんですか。まさかこれもわからないのですか?」


「はいでもあり、いいえでもあります。観察術を持っているような人は学者になります。スキルを研究する学者は、当然、自分が持っている観察術というスキルも研究対象に含めるのですが、全員が持っている分、いろいろな説が出ていて、しかもお互いが譲らないんです」


「私も何冊か研究書を読んだことがありますが、どれも最もらしくて、しかもお互いに矛盾しているんです」


 まともな情報が出てきたので詳しく聞いてみたのだが、確かなことは、スキルレベルの上昇は自分で行った観察の質と量によるということだ。


 とはいえ、これもだいぶ抽象的だ。結局、自分で考えるしかないということか。


 うーん、これは本当に困った。俺はどうすればいいのかわからなかった。俺が読んでいたラノベは無双系が多く、訓練を地道に組み立てるなんて話はなかった。日本での他の知識もあまり役に立たない。


 でも、異世界で引きこもるわけにもいかない。俺はこの異世界で活躍してやるんだ。(主に銀髪のために)


 そう、この日から、俺はクリストフさんと一緒にまさに試行錯誤の訓練を進めていったのだ。




上田洋介 Lv.1

HP:10/10 MP:49/50

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.1

    治癒魔法 Lv.1

    剣術 Lv.1

    観察術 Lv.1 


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