第38話 アレクと金属鎧
翌日。俺とアレクはヴォルフの店に来ていた。
「まずは、レナを助けてくれてありがとう」
昨日の話では、クルトとレナは幼馴染。そして、レナの父親があの困っていた友人だった。
「ヨースケが気づいたんですよ」
アレク、気を利かせないでいい。
「あれは、俺が言わなくてもああなってたと思うぞ」
最初の声が聞こえなくても、次の声に気づいていただろう。
「そうか、ありがとう」
ヴォルフのような立派な大人に正面から感謝されるとくすぐったい。まして、偶然の結果ならなおさらだ。
「どうかお気になさらず」
俺はそう言うのが精一杯だった。受け止めるには重すぎる。
「何かお礼をさせてくれ」
お礼と言われても。流石に金はなしだとわかる。ここはテンプレナーロッパ世界。なんでも金で法的に解決できる21世紀ではない。
「俺にはこれしかねぇ。剣を打ってやる」
ヴォルフは腕の良い鍛治師だから大歓迎だ。
「こちらが貰いすぎなくらいです。ぜひお願いします」
1本当たり小金貨数枚でもおかしくない品質。多少俺に合わせて質を落としても大銀貨である。ただは景気が良すぎるぜ。
俺とヴォルフは握手を交わした。
「決まりだな。早速だが、今の剣を見せてくれ」
「じゃあ、俺は店を見てるよ。俺だけまだ見てないから」
一応冒険者の装備は秘密度が高いから、席を外してくれた。スマートな口上と動きに育ちの差を感じる。
アレクが部屋を出た後、俺は愛剣を机の上に置いた。
ヴォルフがじっくりと剣を調べている。俺も改めて見てみると、傷や汚れが目立っていた。まあ支給品だし。
「これは、王国兵の剣だな」
ふふん。誰かにバレた時のために、これには言い訳が用意してある。
「横流しだ」
あれだけ腐っている貴族が上にいるのだ。汚職と不正が蔓延していたに違いない。
「ああ、噂通りだな」
日に日に嘘をつくのが上手くなっている。人として間違った方向に進んでいる気分だ。
「俺はベテランだから剣を見れば持ち主の力もわかるんだ」
見た目でもわかるわけだから、剣も見れば楽勝だろう。俺は次の言葉を待った。
「剣の腕は普通だな。Dランクにいくらでも居そうだ」
あの、もっと言いづらそうにするか、優しく包んでくれない?心にぐっさり刺さったんだけど。
いや、俺の剣術はスキルレベル3だ。むしろ、この期間でこれだけ使えるのは成長著しい。
でもさ、最近、身体レベルもスキルレベルも上がってさ。Bランクパーティーに入ってさ。金も稼げてさ。充実してたんだよ。
うん、忠言は耳に逆らうって好きなラノベにあった。ありがたく受け止めよう。はは、俺ってば器が大きい。
「まあほら、治癒とかの担当だから」
ごめんなさい。むっちゃ気にしてます。なんならしばらく定期的にフラッシュバックして、恥ずかしくなっちゃいます。
「そ、そうだな。剣術よりも治癒魔法の方が希少なんだ。気にするなよ」
これバレてるよ。さらに恥ずかしいやつやん。大人の愛想笑いやん。俺は頑固親父に何させてるんだ。
「うん、普通の剣でいいから。Dランクぐらいの人が使うやつ」
俺たちはどこかぎこちなく会話を進める。身体を記録して、素振りを見せて、戦い方を伝える。
そして話は終わり、俺はアレクの下に向かった。
「早かったな」
それは剣以外の話をしなかったからです。空気が死んでたんです。まあ、そんなことは言えない。
「そうか?普通だろ」
アレクもそれ以上は言及せず、俺たちは店を出た。
アレクが俺の変な態度に気付いたかは定かではない。確認することはないので、一生明らかではない。人生、知らない方がいいこともある。
次にやってきたのは、金属鎧の店だ。アレクが鎧を新調するというので、着いてきた。
金属鎧って騎士の象徴だし、やっぱ憧れるよな。
「アレク様、ようこそいらっしゃいました」
ヴォルフの店と違い、高級店を思わせる丁寧な接客だ。現代日本の高級店の方が動作が洗練されている気もするけど。
「なんでこんなに丁寧なの?」
俺はアレクに小声で聞いた。
「高いからね。騎士以外の客は珍しいんだ」
なるほど。商品単価が高く顧客層が限定的なので、新規さんに飢えているわけだ。さらに、ギルドから紹介されたので金はあると知っている。
「なるほどね」
長々と話すわけにはいかないので、簡潔に理解を示した。世の中、知らないことばかりだ。
「どうぞこちらにおかけください」
そのソファーはいつも泊まるような宿のものよりかなり上等だった。これ、いくらするんだろう。
でも、メジエールの領主邸にあったものには劣る。当然、ニ○リには及ばない。もう1度、ふかふかのベッドか布団で眠りたい。
俺がソファー以外の家具や調度品などを見定めている間に、アレクと商人の話は進んでいく。ここでは、販売する商人と職人は別らしい。
聞き流していた商人のセールスはまだまだ続く。
「この鎧の軽量効果は、さらに高まっているのです」
驚いたことに、金属鎧というのは最新技術の塊なのだ。金属加工と魔道具が大量に使われている。
少しでも防御力を強めるために金属が研究され、少しでも軽くするために魔道具が研究される。
最重要軍事物資の1つなので、最先端品は騎士団にしか販売できない。
グレードが落ちた品でも、有力な商人やアレクのような貴族関係者しか入手できないのだ。日本での銃火器を考えれば、その扱いは理解できる。
そして、とんでもなく高い。もう1度言うが、とんでもなく高い。
大規模騎士団用でもないと多く作られないし、そもそも工場などなく職人の手作りだ。
惜しみなく金属と魔道具が使われているため、その費用と研究開発費も上乗せ。
軍事品として価格が抑えられ儲ける機会が少ない商人の取り分も、もちろん上乗せ。
「この商品でしたら、大金貨3枚でいかがでしょう」
俺たちのパーティー全体の純利益をおおよそ計算すれば、数ヶ月分になるのだろうか。額が高すぎてよくわからない。
アレクはこのためにずっと貯金してきたらしい。予算は教えてくれなかった。俺の顔からバレたら洒落にならないからだ。
ちなみに今の鎧は中古品とのこと。
「うーん、試着してもいいですか?」
「お気に召すまでお試しください」
他に客もいないし、試し放題だ。アレクは着替え部屋に下がり装着している。
「お連れ様はいかがですか?」
装着は他の人がやるみたいで、2人きりになった俺に話しかけてきた。俺は買わないからな。
「いや、魔法使いです」
最強のことわり文句だ。馬鹿ほど高い金属鎧なんて普通は買わない。
「作用でございましたか。本日はご見学ですか?」
俺がこれまで適当な反応しかしていないから、まるで会ったばかりの会話である。
「使いすぎないように他のメンバーに頼まれまして」
アレクには内緒だが、これは本当だ。特にイザベルからは念入りに頼まれた。結婚前からうまく監視されている。
「それはお手柔らかに頼みたいものです」
お互いの愛想笑いが部屋に響く。はっはっは、特に面白くはない。
「ヨースケ、どうだ?」
金属鎧を見にまとったアレク。新品の輝きが正統派騎士の雰囲気を強めている。
「騎士様だな」
感想をそのまま伝える。テンプレで出てくる金髪碧眼の騎士である。
「騎士、ね」
もしかして地雷だったかも。だって、ジョブが騎士だから間違いではない。
「お客様、動いてみてはどうでしょう」
アレクはあれこれと動きを試している。それに満足したのか、機嫌も戻ったようだ。
「うーん、どうしよう」
悩んでいる。チャンスと見た商人が攻勢をかけようとしていた。俺はその機先を制す。
「みんなに相談だろう」
こんな高い買い物を即決する必要はないのだ。商人はニコニコしている。これは、苦笑いを誤魔化していると思う。
「そうだな。今日は持ち帰ってメンバーと話し合います」
アレクへの説得は成功した。
「まったく問題ございません。またのご来店をお待ちしております」
まあ普通は何度も調整するのかも。というか、だから秘密度の高い装備品の購入に俺を突き合わせたのか。
オーダーメイドは謎ばかりである。
俺は、鎧の店から出てきたアレクと宿に向けて歩いていた。
「俺さ、騎士になりたかったんだよ」
唐突にアレクが切り出した。俺の発言のせいだよな。
「でもさ、そういうのできる環境じゃなくて」
後ろ盾のない後妻の子供の立場は不安定。いじめだってあったかもしれない。
「それで飛び出して、冒険者になってみたんだけど」
コネを活かせば色々な選択肢があったはずだ。でも、アレクはそれを選ばず、わざわざ冒険者になった。
その裏には俺なんかが想像できない葛藤と苦労があっただろう。
「運よく成功して、いいパーティーができて、恋人もいて」
そうだな、今の状況だけ考えれば、冒険者として最高の結果だ。これだけの成果を得られる人は1%以下だと思う。
「俺、幸せ者だよ」
そう言ったアレクの顔は見たことがないもの。幸せそうで、優しくて、どこかに諦めがあって。それは、俺の記憶に深く刻み込まれた。
「人生、何があるかわからないんだ」
異世界に召喚されて、1人で冒険者やるやつだったいるんだ。それでも、なんとか楽しくやっている。
人間万事塞翁が馬、である。
そう思った矢先。
俺たちは急な雨に降られて、宿まで走った。服はびしゃびしゃで、しんみりした雰囲気が台無しだ。なんとも締まらない。
神様、もう少し手加減してくれ。
上田洋介 Lv.32
HP:134/134 MP:319/319
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.4
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.4




