第36話 剣の注文
「ここか」
冒険者ギルドで紹介を受けてやってきたが、あの職員の説明が正しければここのはずだ。
俺たちがブレダの街を出てから1ヶ月。直通の護衛依頼を受けてやってきたのがこのヘンゲローだ。
商会が雇っている専属の冒険者に怪我人が出たので参加することができたのだ。一直線にこられると楽なので助かった。
この街に来た目的は、ズバリ装備の調達。向上した能力とランクに相応しいものを購入して戦力アップを目指す。
俺だって、拾い物のマント・革鎧・剣という通常あり得ない装備だ。なかなか交換するタイミングがなくて、今に至る。
懐に余裕が出てきたので上等な装備を買いたいものだ。
「誰かいませんかー?」
まずは剣を探そうとして、Bランク相応の剣を作れる店を紹介してもらった。俺には剣の良し悪しなんてわからないが。
「ったく、騒がしいわ」
そう言いながら店から出てきたのは、髭もじゃのドワーフだった。
ひ、久々のテンプレきたー!
いやね、この街はドワーフがたくさん居て鍛治が盛んと聞いていたし、ギルドでもドワーフだよって言われたんだけど。
それでも生ドワーフに感動している。アレクたちは見たことがあるのか、特に反応なし。
「ギルドに紹介してもらって」
アレクの言葉に納得したようだ。腕がいいのでギルドからの紹介客もそれなりに来るのだろう。
「作るのはあんただけでいいのか?」
俺も剣をぶら下げているから、確認だと思う。いや、イザベルとニーナも持っているけど、俺は剣士みたいな格好をしているから。
「魔法使いの護衛用です。あなたに作ってもらえる実力はありません」
「じゃろうな」
俺の説明に鼻で笑ったような返事をした。腕がある頑固親父は剣士の実力もわかる、ということか。
アレクと店主のドワーフは店の奥の方の部屋に入って行った。剣の注文を調整するらしい。
手持ち無沙汰になった俺たちは店の中を見て回る。別の奥の部屋では作業中みたいだし。お弟子さんがいる感じだ。
「いろいろあるわね」
イザベルは飾られている剣を1本とった。シミター、いやなんて言うんだっけ。アラブの人たちが持ってそうな曲剣である。
「どうやって使うの?」
「こう?」
イザベルはあれこれ振り回すが、彼女の護身術の水準はそこそこだ。よって、剣の実力も並。
少なくとも初見の武器を自由に扱えるほどではない。まあ、魔法使いだし。
「危ないよ」
入り口から注意したのは、子供のドワーフだった。なんか、ちっちゃくて可愛い。
「ごめんなさいね、ぼく」
イザベルは子供には優しいのできちんと謝った。大人のお姉さんみたいな振る舞いは俺にとっては奇妙だ。
「イザベル、変わりすぎ」
一方、耐えきれなかったのがニーナ。付き合いも長いだろうに、まだまだ慣れきっていないようだ。
「もう、笑わないでよ」
気の抜けた雰囲気になったところで子供のドワーフは会話を再開した。
「お客さん?」
「そうよ。もしかして、親方の息子さん?」
こくりと少年はうなずいた。これも可愛い。
「お父さん仕事中なら帰る」
さっと方向を変えて早くも家に帰りそうな気配だ。決断が早いな。
「今日はまだ少し話すだけだから、そんなにかからないよ」
そういうものなのか。ニーナの情報は正確である。
「じゃあ、待ってる」
前言を撤回して、少年は角の椅子に座った。迷いがない動きだったから、いつもの場所なのだと思う。
「俺はヨースケ。君の名前は?」
なんとなく気になって、俺は名前を聞いた。人に名前を聞くときは、まずは自分から名乗るのが礼儀だからな。
このくだり、ツンデレの美少女転校生とやりたかった。
「クルト。ヨースケって変な名前」
子供だと直球である。
「でも勇者様にあやかって名前をつけたんだよ」
実のところ、俺は両親から名前の由来をちゃんと聞いたことがない。だから、一生名前の由来を知らずに生きていくしかない。ダミーだけを話し続ける。
いつまでも、あると思うな、親と金。
「偉いのは勇者様じゃん」
これまた正論。いくら先祖が勇者と関わりがあっても、俺のことではないからな。これ以上、架空のご先祖さまを庇うのは面倒だ。
「そうだな、料理ぐらいしか伝わってないし」
「おい、俺たち聞いてないぞ」
空気と化していたヘルマンがツッコむ。お前、いたんだな。もっとしゃべっていいんだぞ。
「よそでは出てこない、謎の料理がたくさんあったな」
そうしないとボロが出そうなので、俺の常識外発言は全て勇者と教会のせいにしてある。ここら辺で噂を増強しておこう。
「たとえば?」
クルトはいくらか目を輝かせている。興味を持ってくれたみたいだ。
「この前ブレダで作ったのは、お好み焼きとたこ焼きかな」
俺はお好み焼きとたこ焼きの説明をする。あの人に説明した記憶はシャットダウン。
「俺には無理そうだ」
「私は、挑戦してみたい」
ヘルマンだって野営の時は料理ぐらいするが、保存食を食べることの方が多いから上達の機会は少ない。
ニーナは料理ができる。というか、この世界では一部の上流階級以外の女性は料理できないと結婚できないらしい。
見るたことはないがイザベルも一応できる、らしい、いや本人がそう主張している、と俺は理解している。
貴族といっても妾腹の2人は料理を練習したそうだ。家庭での女性の役割が大きすぎる時代である。
「ぼくでも作れる?」
「ああ、まあ、お母さんとなら作れるんじゃないか?」
ドワーフの年齢は見分けられないが、喋り方からして5歳ぐらいだろう。1人で作るのはお勧めできない。
「時間もあるし、教えてあげたら?」
イザベルの何気ない提案。暇なら親方の心象を良くしておいて損はないという話かもしれない。
「一応、家の秘伝なんだ」
もしフリッツたちに悪影響が出たら申し訳なさすぎる。ブレダとヘンゲローは商業都市と鉱業都市で関係が深いからだ。
「秘伝じゃあ、仕方ないわね」
貴族に関わりがあるものとして、家の秘伝には口出しできないと思っている3人は納得してくれた。
「けち」
まあ、子供には通用しないみたいだが。
「あっ、お父さん」
「なんだ、来てたのか」
アレクとの話し合いが終わり、親方たちが出てきた。良い商談だったらしく、2人とも満足げな表情をしている。
「構ってもらって悪いな」
意外と素直に頭を下げる親方。家庭では家族思いの良い夫・父親をしていそうだ。
「お父さん、また失敗したってほんと?」
失敗とは聞こえの悪い話である。何の話だ?
「クルト、誰から聞いたんだ?」
「隣のおばさん」
ああーと言わんばかりに頭を抱える親方。どこの世界にもおしゃべりなおばさんがいるようだ。
「何が失敗したんですか?」
アレク、よく聞いてくれた。親方と仲良くなったであろうお前が聞いてくれるとありがたい。
「いや、大したことじゃないが」
そう言って親方は分かりやすく説明してくれた。少々感情がこもっていたので、親方も思うところがあるみたい。
まとめると、鉱山にそこそこ強い魔物が入り込み、討伐に苦労しているらしい。すぐに逃げるので退治できない。
しかし、一般の鉱夫たちには脅威なので放置はまずい。これで何度目かの依頼失敗である。
大部分の鉱山が操業できているので街全体には問題がないのも、いまいち討伐機運が盛り上がらない原因だとか。
それで、最近の街の話題として大注目とのこと。
「ニーナ、できる?」
探索系のスキルを持っているのはニーナだけだ。この能力を持つ高ランク冒険者は珍しい。たいてい、剣士か魔法使いだし。
「討伐に成功したら、値引きしてやってもいいぞ」
「いいんですか?」
アレクの言う通りだ。親方にはあまり得はないのに、景気のいい話だ。
「ああ。知り合いの工房が困っていてな」
優しい親方は少しでも助けになりたい、ということか。本当に良い人である。
「うまくいくかわからないけど」
「なーに、ダメでもともとだ。気にすることはねぇよ」
親方はあくまで軽い話として扱ってくれた。
「そういうことなら」
ニーナも乗り気になったみたいだし、次の依頼は決定だ。
俺たちは店を出て、一路、冒険者ギルドに向かった。
上田洋介 Lv.32
HP:134/134 MP:319/319
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.4
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.4




