第35話 ずっと残る感触
ブレダの街に来てから約2週間。いよいよ明日、俺たちはこの街を離れる予定だ。
この間に聖堂や賭博場も楽しんだし、レベリングにも励んだ。おかげで、謎の高ランク冒険者現わるとか、海神の怒りで雷が落ちたとか変な噂が流れてしまった。
旅行の間にパーティーのみんなと仲良くなれたと思う。他の4人のように、とはいかないが。
俺の今のステータスはさらに上がった。
上田洋介 Lv.31
HP:127/127 MP:302/302
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.4
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.4
最初の浜ほどいい狩場はなかったし村人の視線もあり、なかなかレベルをあげることができなかった。残念である。
でも、他のメンバーと並べるぐらいのステータスだ。能力的にはCランク冒険者と名乗れるぞ。
みんなの前で雷魔法を使えないから、その経験を積めたのも良かった。今後は剣術のスキルを鍛えたい。
今日は出発前日ということで、自由行動になっている。すでに記念の品などを買って特に予定がない俺は、街をぶらぶら探索中。
「次に行く街では装備を揃えるからなあ」
装備以外となると、本が気になる。ただ、1冊大銀貨数枚からだしアイテムボックスにしまうしかない。他のメンバーに怪しまれそうだ。
「賭博場?」
俺はみんなで言った賭博場を思い出す。前回は女性連れだったが、男だけで行けば綺麗なお姉さんが近寄ってくるのだ。
下手に入れ込めば破産コースだが、目の保養として楽しむ分には問題ないだろう。腕がなるぜ!
「サイテー」
イザベルがニヤニヤした顔でからかってくるのが眼に浮かぶ。こういうの、なぜかバレるからな。ほんと何でだろう?
「じゃあ、どこに行くか」
俺が考え事をしながら歩いていたときだった。
「ヨースケ様」
声に反応して振り向くと、そこにいたのは今見たくない人だった。
「カリン」
姿をくらましていたから、気まずい。ええと、何を話せばいい?
「少し、よろしいですか?」
予定はないが断りたい気分である。どうせ今後会うこともないし、嘘でもいいか。
「実は、」
それに被せてカリンが近づいてきた。
「よろしい、ですか?」
え、近いしまつ毛長いし顔ちっさいし肌白すぎるし目大きいし肌ツヤツヤだしいい香りするし上目遣いだし、とにかく綺麗すぎない!?
気がつくと、俺は馬車に乗ってカリンと商会に向かっていた。
まあ、うん。
レベルが上がっても精神は成長しないということだ。
「久しぶりだな、ヨースケ」
「ああ、フリッツ」
ニコニコしたカリンを横に座らせて、俺はフリッツと対面していた。うう、気まずい。
「連絡先がわからなくて困ったよ。尾行も巻かれてしまったし」
やっぱりいたのか。念のため気をつけていて良かった。まあ、こうなると完全に裏目に出ているんだけど。
「まあお兄様、ヨースケ様がするわけありませんわ。たまたまです」
笑顔のカリンが追い打ちをかけてくる。わかってやってるだろ、こいつ。
「そうだな。何せ、俺たちの恩人だからな」
おいおい、俺に何を頼むつもりだ?脅しみたいなもんだぞ。
「では、借金返済を祝って食事会といこう」
フリッツの声かけで使用人たちが料理を給仕する。使用人が雇えるようになっているのか。
「それじゃあ、ヨースケの話を聞かせてもらおう」
俺が借金返済の経緯を聞こうとしたら先手を打たれた。正直、俺の話はしたくない。
「そんなに気になるか?」
ダメもとで聞いただけだから、2人ともその笑顔をやめろ。目が笑ってないから。
俺は初対面の人に話す自己紹介をした。王国出身のカバーストーリーと冒険者になってからの話。後者の比重が重めだ。
「貴族たちがいるヘンテコな名前のパーティーって、お前のところだったのか」
普段は忘れるようにしているが、ティラノサウルス。しっくりこない名前である。
「貴族の考えることはわからんからな」
勇者関連はどこでボロが出ないように誤魔化すしかない。俺はのらりくらりと乗り越える。
「教会外の治癒魔法使いは珍しいですね」
「まあ、そうだな」
教会のこともまだまだ謎ばかりなのでこれも曖昧な言い方になる。教えてくれる人がいないんだよ。
「それで、どうやって借金を返したんだよ」
俺の話は十分に話した。食事も後半にさしかかり、早いということはないだろう。
「あの製法を知り合いの商会に売ったんだよ」
「それで足りるのか?」
確かに高く売れるだろうが、大金貨10枚とはいかないはず。何かカラクリがある。
「美食家のご領主様にお願いする必要があったんだ」
へぇー、ここの領主は美食家なのか。港町だから食材を仕入れやすいのかもしれない。
「それに、父とも仲が良くてな。まあ、友情価格ということさ」
「私も、会長の息子さんに頼みましたから」
なるほど。長く商売をしていれば仲の良い経営者はできるからな。ただでは無理でも、対価があれば何とかなるのか。
「出資もしてもらえて、経営も何とかなると思う」
それは大胆な話だ。乗っ取られなる可能性がある。
「大丈夫か?」
ついそのまま聞いてしまった。無神経かも。
「問題ないよ。実力不足の俺では従業員を養えないから」
つまり、体面より実利、自分より従業員ということか。俺なんかと違って立派なことである。
「お前がいいなら、俺が口を挟むことじゃないな」
商会の代表としての決断を尊重したい。その重さはフリッツ方がよく知っているのだ。
その後はブレダに関する話をしながら食事を終えた。美味しいお店や穴場の観光スポットなど。もっと早く聞けば良かった。
明るい雰囲気の中で会話が途切れたとき、カリンが口を開いた。
「ヨースケ様、上の階にご案内しますよ」
それは食事中の会話に出てきたお誘いだった。
この建物は5階立てで周りの建物より少しだけ高い。その最上階からの眺めがいいですよ、という感じの話だ。
「フリッツいいのか?」
この家の家長に許可を求める。というより、一緒に行こうと誘っている。
「いや、高いところは苦手だ。遠慮する」
そうなのか。高所恐怖症の人は結構いるよな。俺もバンジージャンプとかは無理なタイプだ。
「ヨースケ様、行きましょう」
カリンのエスコートで部屋を出て階段を登っていく。男女が逆だが、俺には道順がわからないからな。
それに、女性をエスコートする方法は知らない。学校で教えてくれなかったし、ラノベに載ってなかった。
悲報、ラノベ知識が異世界で役に立たない件について。
俺が脳内でしょうもないことを考えていると、目的地に着いた。同じ建物なので時間はかからない。
「ふふ。結構綺麗でしょ」
今までより砕けた口調でカリンは自慢した。
道路に面した家からは明かりが小さく漏れ、遠くの繁華街は煌々と輝いている。
しんと静まり返る目の前の通り。どこからか聞こえる酒呑たちの声。コントラストの効いた絵画のように思える。
「いい景色だな」
社交辞令ではない。日本の夜景とは違う夜景で、ブレダの特徴をよく捉えているいい景色だ。
「私、この景色が大好き」
昼間より気温が下がり、海に向かって吹く風を浴びながらカリンは言った。月明かりに照らされた顔は普段より幻想的だ。
「きれいだね」
自分のことなのに、何に対して言ったのかがわからない。ただ、打算や理性じゃなくて、感情が言わせた言葉だった。
それをどう受け止めたのか、カリンは軽く笑っただけだった。
いつの間にか使用人たちはいなくなっていて、2人きりの空間で時間が過ぎる。これは、どういうことだ?
静寂を切り裂いたのはカリンだった。
「だから、それを守ってくれて本当に嬉しかった」
具体的に言わずとも、俺に対する感謝だ。そんな、褒められるようなことじゃない。あれは、上から目線の施しだった。
「気まぐれさ」
自分の愚かさを人に伝える勇気がない。だから、いつも俺は誤魔化す。「現実」を無視するんだ。
「私、知ってますから。本当は優しい人だって」
やめてくれ。ここからは逃げ出せない。俺に感謝なんかするな。
「可愛い女の子限定だよ」
これ、違うな。キザなチャラ男が言いそうなセリフ。解釈違いだ。
いつの間にか俺の方を向いていたカリンが、俺の腕を取って自分のものと絡める。
あ、当たってますよ!?
「ヨースケさまぁ」
女の子がこんな顔をするなんて知らなかった。知る必要がなかった。今朝まで会いたくなかった子だぞ?
それでも胸がキュッと引き締まり、身動きが取れなくなる。もうカリンの顔しか見えない。
「カリン」
イケボとは程遠い、少し変な声。雰囲気ぶち壊しだよ、お前。
そう悩んでいた瞬間の不意打ち。初めての感触。
「えへへ」
頭が真っ白になる。
「その、しちゃいましたね」
「した、ね」
俺にとって初めての経験。することなんて予想だにしなかった。
告白なんてことはしない。別れることが決まっているんだ。それは、2人の思い出にそっとしまわれるだけ。
言葉を交わすこともなく、街の夜景を眺めていた。夜の衣は、俺たちを隠すのに十分だった。
上田洋介 Lv.31
HP:127/127 MP:302/302
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.4
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.4




