第34話 チートレベリング
浪費を重ねた翌日、俺は1人でブレダの郊外に来ていた。乗合馬車に乗って2時間ほどで、夜にはまた馬車で帰る。
交通量が多い大都市周辺なので、乗合馬車が大量に走っているのだ。経済が発展している港町らしいことだ。
「海だ」
その通り、海である。
なんの特徴もない浜辺だ。近くの漁村からいらない廃棄寸前の船を買ってここに持ち込んだ。沖には出られないが、浜辺で乗り回すには十分というお墨付きだ。
俺がわざわざ時間をかけてやってきた理由は、あることを確認するためだ。
申し訳程度にある桟橋と小舟をロープで繋いで、いざ出航だ。
「波もないし、風が気持ちいいな」
海の爽やかな雰囲気がよく現れている日だ。
俺は汗をかきながらどんどん船を漕いで、80メートルぐらいだろうか。ロープの限界手前まで出てきた。
「やっぱり、うじゃうじゃいるな」
川と違い、海には魔物が生息している。漁師たちが使っていない海域なので、魔物たちのテリトリーと聞いた。
「チートかな、チートかな」
俺は、久しぶりに大興奮している。だって、あの俺がチート無双できるんだぞ。
よーし、やっちゃうぞ。
「静電気!」
レベル1の雷魔法を放つ。この呪文はカモフラージュになるから気に入って使っている。みんな本当の静電気だと思うからね。
「成功だ!」
弱い魔物が驚いて海から飛び跳ねた。それに釣られて大量の仲間がなんだなんだと一緒に飛び跳ねている。
「ボルト」
その隙を逃さず、レベル2の雷魔法を発動。水飛沫も上がっているし、ずぶ濡れの魔物たちは一斉に電気による衝撃を受けている。
俺はじっと息を呑み、水面を観察する。
しばらくして、息絶えた魔物が浮かび上がってきた。自然と腕が天に突き出される。
「俺の時代、キター!」
実は、海の魔物は討伐が難しいので経験値的なものが相当多めに設定されているらしいのだ。
確かに、海の中で武器は使えないし魔法も効果激減だ。それでいて海運が使えないと商業への悪影響は甚大である。
テバノラ教によると、それを憂いた神々が経験値を増やしてくれたらしい。それが本当かはわからないが、経験値が多いのは本当だ。
実際、漁師たちはレベルが高いことが多いそうだ。
しめしめ、雷魔法というなんちゃってチートにこんな裏技があるとは誰も知らないだろう。
さらに、この魔物は雑魚だし、岸にも近いので安全対策も抜群。念の為、アイテムボックスに避難用具も入れておいた。
俺はゲームでも経験値稼ぎに余念が無いタイプなのだ。
「さあ、経験値を荒稼ぎだ!」
時刻は夕方。1日稼ぎに稼ぎまくった俺は、浜で大の字になっていた。
「へへ、えへへ」
にやけ面が止まらない。知り合いに見られたら、次回からよそよそしい対応されてしまいそうだ。
そうは思っても表情を抑えることができない。
俺は異世界人のチートをすっかり忘れていたのだ。これまでの冒険者生活で感じることが少なかったからだ。
でも、しっかり2つのチートがあるのだ。レベルアップ強化とアイテムボックスという恩恵が。
倒した魔物をアイテムボックスに入れることで、大量の魔物を極めて新鮮な状況で保存できている。
海の雑魚魔物は身体が小さい。それでいて、市場に出回らないので価値が高いのだ。
さらにブレダの街は巨大で、売り先はいくらでもある。普通の街なら、冒険者ギルドに持ち込むしか無いのだ。
「大金貨、行くかもなぁ」
途中から入らなくなって厳選した状態のものだけにしたので、1匹の買取価格も期待できる。素晴らしい。
「レベルも上がったし、むっちゃ強くなった」
これも笑いが止まらない理由。では、俺のステータスをご覧いただこう。
上田洋介 Lv.25
HP:90/90 MP:30/215
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.4
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.4
レベルアップでM Pが上昇分得られ、それを使ってさらにレベルアップに近づくという好循環に入ったのが大きかったと思う。
Dランク冒険者として見栄えするステータスになった。というか、思い出してもらいたい。
イザベル Lv.48
HP:30/30 MP:146/146
ジョブ:火属性魔法使い
スキル:火魔法 Lv.5
アレク Lv. 55
HP:121/121 MP:36/36
ジョブ:騎士
スキル:剣術 Lv.5
アレクとイザベルのステータスがこれである。いかにレベルアップ強化がチートなのか分かるだろう。
でも、もう1つの残酷な事実を思い出してしまった。
小川達也 Lv.1
HP:50/50 MP:500/500
ジョブ:勇者
スキル:全武器適正 Lv.3
魔道の真髄 Lv.3
HP超回復 Lv.1
MP超回復 Lv.1
たった2週間練習しただけの勇者さまがこれである。たぶん、今の俺よりも強い。本当のチートはジョブということだ。
おまけに、アイテムボックスとレベルアップ強化は異世界人共通なのだ。お手上げというほかない。
まあ、これは金メダリストと県大会ベスト8を比べるようなもの。俺という一般人は、おもしろおかしく生きていければいいのだ。
まさか、俺が勇者のような仕事をする日が来るはずないのだ。
「もう何回か、別の場所に行こう」
別にここでやる必要はない。普通の漁村はいくらでもあるので、他のところに行って経験値を貯めよう。何もない漁村に何度も来るのは怪しいからな。
「帰るか」
眠たいけど、宿に帰ればふかふかの布団が待っている。1度慣れると、もう離れられない。まあ、野営のときは地面だけど。
「最後にでかいのかましとくか」
ちまちま魔法を使い続けて、ストレスが溜まっていたんだ。誰も見てないし、大丈夫でしょ。
「サンダー!」
海面に稲妻が落ちる。やっぱり、上から落とした方が見栄えがいいな。レベル4の魔法は威力が強いな。
驚いた鳥たちが一斉にいなくなった。あいつらの鳴き声はうるさかったから地味に嬉しい。
「はあー、すっきりした」
街道に戻ろうとしたそのとき、水面に巨大な魔物が浮かんできた。いや、でかいな。
「なんだこいつ?」
気になって近づくと、でかいカメだった。水族館でみたことあるやつだ。
「うわ、死にかけだよ」
身体に傷がある。弱っていたところに、先ほどの魚の退避の流れで浜に着いたようだ。運のないやつである。
「そうか、お前も不運なのか」
俺も不運だから仲間だ。俺が原因なんけど、それは気にしてはいけない。それはそれ、これはこれを都合よく解釈しよう。
「おーい、大丈夫か」
魔物だが、見た目が愛らしいのでついつい気を遣ってしまう。このブサかわなルックス、たまらないよな。
「ヒューヒュー」
おいおい、カメの鳴き声なんて初めて聞いたぜ。感動もんだよ。
「くぅー、泣けるぜ」
なんだか疲れているせいでテンションがおかしくなっている。よーし、俺が助けてやるか。やりたいもんは仕方ない。
「キュア」
レベル3の治癒魔法を大盤振る舞い。どうだ、気持ちいいだろう?
「ピーピー!」
元気になったカメは俺に感謝を伝えている(気がする)。素晴らしい善業をした気分になり、嬉しくなってきた。
「こいつもくれてやるよ」
俺はアイテムボックスから魚の魔物を取り出し、カメに与える。すげー、勢いよく丸呑みだよ。
「ピー」
えっ、いま、足を上げたよな。俺へのメッセージ?こいつ、知性があるのか?
多くの謎を残してカメは海へと旅立った。自分の住処に帰るのだろう。
「帰るか」
俺も乗合馬車に乗って帰った。治安の問題で眠れないので、疲れてしまった。
ちなみに魚の魔物は全部で小金貨5枚になった。
……。
カメにあげたことを少し後悔した。
上田洋介 Lv.25
HP:90/90 MP:5/215
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.4
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.4




