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第33話 ブレダ観光



 今日は、パーティー全員でブレダ観光だ。ブレダは活気のある港町で、観光都市としても有名である。


 この世界でも、貴族や豪商は旅行をすることがあり、金持ちの娯楽として受け入れられている。


 アレクたちは貴族の家の出身なので、羽休めとして旅行をすることになったのだろう。


 今日は手配した馬車で移動する。ブレダは徒歩で観光できるような大きさでは無いのだ。


「ちゃんとした観光なんて初めてね」


 馬車の中で、イザベルがみんなに言う。


「ランク上げのために、依頼ばっかりだったからなあ」


 ヘルマンはしみじみとした様子である。これまでの激動の日々を振り返っているようだ。


「やっぱり、忙しかったの?」


「Bランク以上じゃないと、貴族的にはいない人扱いだから」


 俺の素朴な質問に、ニーナは当然という感じだ。俺の知る限りでも、Bランク以上と未満では世間の扱いが違うからな。


「今までみたいに暮らすと、めちゃくちゃ金がかかるし」


 アレクのぼやきに全員がうんうんと首を大きく縦に振っている。パーティーで共有する思いだったみたい。


「今日は観光なんだから、明るく行こう」


 俺が努めて元気に振る舞うと、場が和らいだ。正解の反応をできたと思う。


 御者の合図に従って降りると、その場には船が泊まっていた。隅田川に浮かんでいそうな観光船だ。


「本で読んだことあるぜ」


「私もある」


 ヘルマンカップルが特にテンション爆上がりだ。ニーナの目がキラキラしているのは初めて見た気がする。


「ニーナ、かわいいでしょ」


 イザベルが答えにくいことを小声で囁いてくる。くぅ、俺にはハードルが高いぞ。


「綺麗ですよね」


 俺はキラキラした顔で社交辞令を述べる。イメージは、ニーナと同じ顔である。


「敬語になってるよ」


 アレクに指摘され、苦笑いになってしまう。俺の動揺は、2人にバレバレである。


 からかわれた俺は、4人に先んじて船に乗った。船はそれなりに混んでいたので、場所取りという名目だ。


「ここなら綺麗に運河がよく見えるな」


 俺たちは、船でブレダの街に張り巡らされた運河を見てまわるのだ。


 ブレダは水の街。地球でいう、ベネツィアみたいな特徴を持つ。


 俺が綺麗な水面を覗き込んでいる間にみんなも席について、船も動き出していた。どうも、熱心に見すぎていた。あはは。


「こんな立派な運河は、維持も大変そうだ」


 貴族らしい視点の感想だな。俺も、インフラのコスト計算は難しいと思う。


「アレク、そんなに金がかかるのか?」


「ああ。これは絶対にそうだ」


 アレクの話は予想外に長かったので、途中からみんな外の景色を眺めていた。完全に自分の世界に入ってしまった。


 荷物を運ぶ小舟。石造りの丈夫な橋。忙しなく沿道を行き交う住民。


 日差しを綺麗に反射する運河。遠くから聞こえる水夫たちの掛け声。


 すべてが新鮮な体験で、俺たちは観光船を満喫した。


 一応、アレクの話をまとめてみる。


 水路の治安維持。船の通行管理。インフラ整備。揉め事の解決。


 それらを独自のノウハウで運用する領主一族は、換えが効かない貴重な貴族ということだ。


 今後使うことはないだろうが、心の隅の隅に留めておこう。


「いつの間にか、元の位置に戻っていた……」


 アレクが言葉を失っている。珍しいアレクに、全員で慰めてあげた。みんな、優しいね!


 待たせていた馬車に乗って、港の方に向かう。そろそろ小腹が空いてきたから、軽食を取るのだ。


「いい匂い」


 日本人の魂が騒ぎ、つい本音が漏れてしまった。


「出た、食道楽」


 平均的な日本人である俺は、この世界の人たちから見ると食道楽だ。俺も、パーティーで食いしん坊だと思われている。


「ヘルマン、俺はちょっと味にこだわるだけだ」


 無駄だとわかりつつ、弁明しておく。やれやれという顔をされるだけで、何の効果もなかった。


「あそこの店にしない?」


 イザベルが海鮮を食べられそうな店を指した。昼前に少し並んでいるので、人気店だろう。


「ごめん、昨日食べた」


 俺は嘘をつく。だって、そこの店はベーメン商会と関わりが強い店なのだ。昨日のフリッツの話に出てきた。


 俺はメンバーのことや滞在している宿などをフリッツたちに説明していない。万が一でも身バレするような事態は避けたい。


「そう、じゃあやめときましょ」


 食品卸のベーメン商会は、いろんな店と繋がりがある。その近くを避けて、少し離れたところの店に入ってもらった。


 やたら口を出して遠くに誘導したので、やや不自然だったかもしれない。


 しかし、必要なことだし、俺は食いしん坊なのだ。大丈夫だろう。




 お腹を満たした俺たちは再び馬車に乗り、大通りに向かっている。


 ちなみに、食事はとても美味しかった。滞在中に、ぜひもう1度訪ねたい。


「何を買おうかしら」


 大通りでの買い物は、女性陣の強い主張だった。観光と買い物は当然の組み合わせ、とのこと。


「昨日も行ったけどな」


 ヘルマン、それは失言だぞ。たとえ、小声でも女性は聞き逃さない。


「ふーん」


 ほら、ニーナの機嫌が急降下。ヘルマンは、すぐにパラシュートを装着させないといけない。ダメージコントロールである。


 見ろ、アレクの仏の笑みを。自分に被害が及ばないように、全力で無関係だと主張している。


「着いたね」


 馬車が停まっても誰も何も話さないので、やむを得ず俺がみんなに告げる。なんか、嫌な予感がする。


 楽しそうな2人をよそに、男性陣はしょんぼりとした気分である。もちろん、表には出さないようにしている。


「「宝石」」


 店の内部を見れば、確かに宝石店だ。


 アレクの目が死んでいる。それ以外の部分はいつも通りなので、かえって不気味だ。


 一方ヘルマンは、この世の終わりのような顔をしている。これはこれで露骨過ぎる。


 俺はイザベルとニーナとは深い仲ではない。そう安心していると、2人が揃って俺を見据える。


「買ってくれる?」


「仲間、だよね?」


 え、いや、ちょっと、そういうのは無理というか、その、はい。


「もちろん」


 本音とは真逆の建前がいつの間にか。口が勝手に動いたというやつである。


 ますますうなだれた3人を店の前に残し、より楽しそうな2人が中に入っていった。


 何でこうなった。解せぬ。




 あの後、服と小物の買い物に付き合った俺たちは、カフェでスイーツを堪能している。もう、やけっぱちだ。


「もう、こんな高いもの買ってもらっちゃって」


「そうそう、気持ちだけでいいのに」


 まったく悪びれていない。これでも、2日連続でデートした後なのだ。貴族の女性は、誰もがこんな感じなのか?


「ニーナのためなら、小金貨1枚くらい」


 1日に100万円単位で消費するのだ。この世界では、職人の手作業で作られる手工品は異次元に高い。


 なお、アレクはもっと使わされた模様。


 自分の金でも買っていたので、今日のパーティー全体の消費額は日本での数百万円に相当するだろう。


 まあ、Bランク冒険者なら1週間もあれば十分に稼げる金額さ。気楽にいこう。


 絶品パフェを食べていると、話が進んでおり、俺の話題になっていた。


「やっぱり、ヨースケは普通の人なのよね」


 そうです。普通の人です。なので大銀貨3枚も使わせないでください。


「教会だと、真面目な人ほど贈り物のセンスが悪い」


 これ、ディスられてるよな。俺のプレゼントはお気に召さなかったらしい。経験値0だから許してくれ。いや、どうかお許しください。


「シンプルなハンカチ、ちょっと羽織れる普通の服、ありふれた銀のネックレス」


 そう言われると、なんか悪い気がしてきた。単純すぎたかな。


「あなた、農民でしょ。よく無難なのが分かったわね」


 そんな設定だった。いつも気にしてないから忘れてた。


「マリオがヒルデさんに言われたらしくて」


 ごめん、マリオ。たぶん迷惑はかけないので使わせてもらうぞ。


「ああ、あの受付嬢」


 俺の言葉に理解が及んだようだ。便利だから、今後も使おう。


「初回だし、これで許してあげる」


「うん」


 え、次回もあるの?


 あまりのことに、明日からの倹約生活を心に誓った。


 お金が欲しい。


 新進気鋭のBランクパーティ、ティラノサウルスに属する男性陣の心からの願いであった。


 叶うかどうかは、イザベルとニーナのみぞ、知るところである。




上田洋介 Lv.15

HP:45/45 MP:125/125

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.3

    治癒魔法 Lv.4

    剣術 Lv.3

    観察術 Lv.4



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