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第31話 恋愛弱者



 少しずつ磯の香りが強まっている。そろそろ目的地に到着しそうだ。


 メルツィヒを出発してからおよそ1ヶ月。3つの護衛依頼をこなした後、この巨大なライン川を下って移動してきた。


 そしてついに、帝国有数の港町、ブレダにやってきたのである。


 ブレダは河口にある街で、人口は50万人だと言われている。実際には、30万人ぐらいだろうという話だ。


 魔物が少ない航路を使えることから、他国や国内の港町との交易が盛んで商業が発達している。娯楽や観光にぴったりの街である。


 この1ヶ月には本当にいろんなことがあった。一応、メンバーとはうまくやれていると思う。


 しかし、完全に予想外だったこともある。これは、本当に思いもよらなかった。


 「恋愛」である。


 実は、アレク&イザベル、ヘルマン&ニーナというカップルが成立していた!


 しかも、この巨大な船の個室で、毎日のように「している」のである!


 彼ら彼女らは、毎朝つやつやの状態で俺に挨拶をしてくる。別に悪いことをしているわけではないので、怒ることはできない。


 ただ、美男美女の人たちはやることをやっているというだけだ。ど、童貞で悪かったな。


 確かに?俺みたいな不運(笑)な陰キャ男子は依頼中もこの船旅でも女友達1人できなかったけど?


 それがなにか問題でも?ないですよねぇ(確信)。


 俺にはブレダで銀髪美少女が待っているからな。全然寂しくないね!


 ……。


 自分で言ってて、すごく悲しくなってきた。俺の人生っていったいなんだったんだろうか。


 悪い思考を振り払い、俺はもっと建設的なことを考えることにした。


 この1ヶ月の間に、俺たちは互いの経歴やステータスについて説明した。もちろん、俺のは雷魔法Lv.1のステータスとカバーの王国農民の経歴である。


 今の俺のステータスは、少しだけ成長している。と言っても、身体レベルが1上がっただけだが。


 4人は2つとも正直に話してくれたようだ。今のところ、矛盾や隠していることは見つかっていない。


 アレクは歳を取った伯爵と没落男爵家出身の後妻の間にできた子供で、一応正式な貴族らしい。ただ、家では冷遇されていたので、その存在を知るものはほとんどいない。


 他の3人は母親が妾なので、厳密には貴族ではないらしい。ただ、母の実家は騎士や商人で力があるので、家の名前を庶子として名乗ることができるそうだ。


 思ったより、貴族も大変みたいだ。ただ、最初の援助金はあったので、スピード出世できたそうだ。うん、一長一短だね。


 それぞれのステータスを表記してみる。


 アレク Lv. 55

 HP:121/121 MP:36/36

 ジョブ:騎士

 スキル:剣術 Lv.5 


 ヘルマン Lv. 46

 HP:92/92 M P:25/25

 ジョブ:盾使い

 スキル:剣術 Lv.4

     盾術 Lv.4


 イザベル Lv.48

 HP:30/30 MP:146/146

 ジョブ:火属性魔法使い

 スキル:火魔法 Lv.5


 ニーナ Lv.44

 HP:76/76 M P:76/76

 ジョブ:狩人

 スキル:弓術 Lv.4

     盗賊 Lv.4


 レベルの割りにステータスが低い。しかし、これでも高い方だと思う。全員が誇らしげだったからだ。スキルも普通は2個以下で、1個の場合がほとんどらしい。


 だから、俺のステータスを教えたとき、唖然としていた。冒険者歴3ヶ月&Lv.14で、レベル4のスキルを持っている。さらに、H PとM Pも高い。


 おかげで、俺の教会関係者疑惑がますます深まった。実害はないので、放っておこう。


「異世界人って、それだけでチートなんだな」


 俺のつぶやきは風に乗って消えていった。それに応えてくれる人は、誰もいない。




「じゃあ、夕方まで自由行動ということで」


「了解。どうぞお楽しみに」


 俺は社内恋愛に理解のある男だ。当然の気遣いとして、宿の前から立ち去る。


 あんなに熱々でもさらにデートをするわけだから、恋とはとてつもないエネルギーをもたらすらしい。俺には想像できないな。


 人通りが賑やかな道を1人で進んでいく。スリには気をつけないといけない。


 ひっきりなしに馬車が通り、露店や商店、食事店が人を呼び込んでいる。なんだか、社会で習った江戸の街を思い出した。


 そういえば、この国では日本食を見かけたことがない。米がないし、うどんやそばもない。テンプレ異世界だから、どこかにあると思って探すしかないだろう。


「お兄さん、1つどうだ?」


 The海の男という人に話しかけられた。塩バター焼きの匂いがしている。


「えっと、これは何だ?」


 俺はこの世界の海鮮に関する知識はないから、専門家に聞いてみる。


「これは、サザエだ」


 一瞬歓喜したが、よく考えるとサザエではない。この言葉は翻訳スキルによるものだからだ。


 その証拠に、口を見ればサザエという発音とは程遠い。まあ、サザエとほぼ同じということだろう。


「じゃあ、つぼ焼き2つ」


 これは通じるのか?


「へいよ。小銅貨3枚ね」


 今や安定した稼ぎのある俺は、数百円の出費は痛くもかゆくも無い。


 それに、キング討伐や護衛依頼の報酬で、俺の手元には小金貨がある。にわか小金持ちである。


 俺が店の前で出来立てのサザエを食べていると、突然、大声が聞こえてきた。


「10日後にはぜーんぶ、俺たちのものだからな!」


「覚えとけよ!」


 その言葉に続いて、いかにもヤクザという格好をした男たちがその店の中から出てくる。周りの人たちは目をひそめながら、知らない振りである。


「親父さん、あれは?」


 食べ終わった俺は、ちょうど列の途絶えた店主に聞いた。


「ああ。ベーメン商会か」


 親父さんの話によると、食品卸業の中堅商会であったベーメン商会は会長夫妻が急死して若い息子が跡を継いだそうだ。


 ただ、直後にアイケン組合というヤバイのところからの借金が発覚して経営が破綻しかかっているとのこと。


「その借金が本物かはだいぶ怪しいな」


 俺の意見に親父さんも同意する。


「ただ、返さない限りは暴力を振るわれるから、返すしかない」


 俺は、昔はやった暴力団系の闇金を扱う漫画を振り返る。確かに、なんでもありだろう。奴らに話が通じるとは限らない。


「まあ、俺たちには関係ない話だ」


「違いねぇ」


 そう言って、俺たちの会話は終わった。俺は親父さんに感謝を伝え、港の方に向かった。




 大きな帆船を見て満足した俺は、早めに宿に戻ろうとしていた。


「港町に来た甲斐があった」


 でかい船。積荷を下ろすいかつい男。それらをまとめる商人。帝国を支える海運業のダイナミズムを感じることができた。


 ちなみに、船の積み下ろしは専用のギルドが仕切っているので、冒険者はいない。この国では、ギルド(利権)の細分化が進んでいるのだ。


 アレクたちによると、日々貴族や大商人が利権を求めて争っているそうだ。どこの国もこういう事情は変わらない。


「誰か助けて」


 俺の思考を遮るように、女性の叫び声が響いた。一斉に、辺りから人がいなくなる。


 どうも、荒事が多いこの辺りではヤクザが幅を利かせており、住民は危険を察知する能力が高い。彼らは、絶対に自分の身の安全を最優先する。


 考え事をして逃げ遅れた俺も同じように考えている。安全第一だ。しかし、身体の向きを変えようとしたとき、路地から女性が出てきた。


「そこの方」


 先程のような大声で俺が呼ばれている。その女性を引っ張ろうと男たちがその手を掴んだ。


 俺と男たちの目が合う。おいおい、完全にやくざだぞ。勘弁してくれ。やっぱり俺は、異世界でも不運である。


 ただ、意外にも男たちは女性から手を離して逃げていった。安堵した女性が俺に近づいてくる。


「大変助かりました。なんとお礼を言ったらいいか」


 間近にみると、相当な美人である。長く艶のある黒髪は、手入れができる経済力があることを示している。着ている服は、少し汚れているが上物だ。立ち姿や言葉遣いからも教養が感じられる。


「いえ、お構いなく」


 俺は意思を持って断る。だって、完全に訳ありじゃないか。もしかしたら美人局かもしれない。


「いえ、これも神々のお導きです。遠慮なさらずに」


 女性は粘ってくる。こちらも折れるわけにはいかない。


「宿に戻らないといけませんから」


 これなら大丈夫だろう。


 その後も何度かやりとりを繰り返すが、俺は断固とした態度で臨む。俺もやればできる男なのだ。


 相手が顔を下に向けたかと思うと、素早く動いた。もしや、刺客?


「お礼しちゃ、だめ、ですか?」


 え、近いしまつ毛長いし顔ちっさいし肌白すぎるし目大きいし肌ツヤツヤだしいい香りするし上目遣いだし、とにかく綺麗すぎない!?


 気がつくと顔を真っ赤にした俺はその女性の提案を受け入れて、家でお礼を受けることになった。


 釈然としない気持ちもするが、美人の笑顔を見ると許せる気分にもなってくる。


 まあ、うん。


 男子高校生って、そんなもんだよ。




上田洋介 Lv.15 

HP:45/45 MP:125/125

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.3

    治癒魔法 Lv.4

    剣術 Lv.3

    観察術 Lv.4


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