表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/46

第3話 王宮図書室司書

 


 翌朝、俺は爽やかな気持ちで目覚めることができた。昨日はあんなに陰鬱(いんうつ)な気分だったが、しっかりと睡眠をとることで回復した。睡眠の力は偉大だ。


 昨日、部屋で横になってしばらくして部屋に赤髪のメイドさんが来た。夕食を持ってきてくれたのだ。彼女は俺の担当になるそうだ。


 1人につき1人ずつ担当が置かれるので、何かあれば担当のメイドさんに言えばすぐに対応してくれるとのこと。本当に至れり尽くせりだと思う。


 食事は、慣れない料理で腹痛を起こすようなこともなかったし、普通に美味しかった。


 この国・この世界の食事水準が高いのか、それとも王宮だから高かったのかはわからないが、後者であってほしい。


 魔王討伐にあたって遠征した時に食事がまずいのは嫌だ。


 それと、翌日(つまり今日)から俺たち異世界人は食堂で食事をとるように伝えられた。そちらの方が手間を省けるのと護衛の都合らしい。


 俺にとっても食事のときにクラスメイトから(盗み聞きで)情報を得たり、誠と会話したりできるのは助かる。盗み聞きが主な情報源に入る俺って、やっぱりぼっち。


 最後には嫌な現実を直視してしまったが、昨日もらった情報を整理しているとメイドさんが来た。朝食の準備ができたらしい。


 食堂に向かう途中にメイドさんから情報を入手していく。コミュ力が低い俺には、なんでも愛想良く答えてくれるメイドさんは貴重な情報源だ。


 メイドさんの名前はアンナ。王都の中規模商会出身だそうだ。王宮のメイドの仕事は大変らしいが、給金は良くて結婚する際に箔になるという。


 この辺りもラノベと同じだな。あと、同い年ぐらいで可愛い。


「おはよう、洋介」


 どうやら食堂に着いたようだ。誠があいさつしてきた。誠の顔を見ると、この非日常的な王宮でもどこか日常らしさを感じる。


「おはよう、誠。もう朝食を食べたのか?」


「ああ、というか、ほぼ全員食べ終わってるぞ」


 驚いて隣のアンナさんを見た。すると、気まずそうな顔をしていた。


「実は、何度か起こそうとしたのですが、あまりに気持ちよさそうに寝ていらしたので起こせませんでした。昨日はあまり気分が優れていないようでしたし」


 つまり、あれか、俺の快適な起床と寝坊はトレードオフの関係にあったのか。しかも昨日、俺が無双妄想からの弱小現実の直視で狼狽えていたのもばっちり目撃されていた。


 アンナさん、絶対に白い目で見てたよな。俺の将来設計が……。


 アンナさんの俺への評価がガタ落ちじゃないか。いや、待て。冷静に事実を見つめるんだ。アンナさんは銀髪ではない。俺はこの異世界で理想の銀髪美少女・美女を探すって決めただろ。(使命感)


 何を言いたいかというと。つまり、攻略対象外だ。何の問題もない。(謎の論理)


「なんか大変そうだけど、俺は訓練があるからもう行く。洋介もさっさと訓練に行った方いいぞ。今この瞬間にも魔王やその配下に苦しんでいる人たちがいるんだからな」


 そう言って誠はお付きのメイドさんと一緒に食堂から出ていった。誠の対応力はすごいな。俺とは大違いだ。


 俺はアンナさんと今すぐに話す気分になれず、さっさと食事を食べた。


 朝食はパンとスープなどの簡単なものだった。残っていたクラスメイトたちの会話によると、この国では朝食は簡単なもので済ませ、豪勢な夕食をとる文化。お腹が空く場合には昼過ぎに間食をとるらしい。


 朝に弱い俺にとっては朝食が少なくても問題ない。


 食べ終わった頃にはクラスメイトたちは誰も残っていなかった。これが本当のぼっち。まあ、自虐ネタは反応に困るだろうから、アンナさんに言うのはやめておこう。


 アンナさんに訓練場に連れていくようにお願いした。


 数分間廊下を歩いた先には、とても分厚い扉があった。ここが訓練場か。みんなはとっくに訓練を始めているだろう。初日から遅刻は辛い。


「失礼します」


 意を決して扉を開けると、そこにあったのは図書室だった。


 もう一度言おう。分厚い扉の先にあったのは図書室だった。


 どういうことだ。訓練場は?


 不思議に思ってアンナさんに聞いてみた。


「訓練は、武道場みたいな場所でやるんじゃないのか?」


 すると、アンナさんは困った顔をした。


「ええと、ブドウジョウなるものが何かはわからないですが、勇者さま方には一人一人、ステータスにあった形で訓練を受けていただくことになっています。洋介さまはこの図書室で間違いございません」


「そう、この図書室で間違いありません。あなたが上田洋介さんですね。私があなたの教官を務めます司書のクリストフ・フォン・オリオールです。どうぞよろしく」


 あいさつしてきたのは、金髪長身の男性だった。顔立ちは普通。30代半ばに見える。まあ、フィロール人の年の判別の仕方はわからないが。


 昨日のミシェルさんに及ばないものの高そうな服を着ているし、名前からしても貴族だろう。それに人の良さそうな雰囲気をしている。


 ひとまず、ハズレではなさそうだ。


「上田洋介です。こちらこそ、お願いします。早速で悪いんですが、俺はなんで図書室で訓練することになったのでしょうか。訓練は外でやることが多いと思うのですが」


 返ってきたのは、昨日、部屋で俺が分析したことと重なるものだった。


「洋介さんのステータスは昨日のうちに教えられました。4つのスキルのうち剣術・治癒魔法・観察術の3つは、一般人でも持っている人も多く、高いスキルレベルの者もいます。一方、雷魔法はスキルを使いこなしている物は少ない。賢者ヒカリのことはご存知ですか?」


 賢者ヒカリか。確か、ミシェルさんにステータスを伝えて気まずくなったときに、隣にいた少年が出した名前だ。


 あのときのミシェルさんの顔は今後も夢に出てきそうだよな。


「はい、昨日少し教えてもらいました。なんでも雷魔法を巧みに使われたとか」


「そうなんです。賢者ヒカリが雷魔法をうまく使い、魔王討伐に貢献した。このことは事実ですし、有名です。一方、それまで、そして賢者ヒカリ以降も、雷魔法を実用レベルで使った人物はいないんです。だから、彼女の伝記を読めば、同じ異世界人の洋介さんも雷魔法を使いこなせるのではないか。そう思ったのです」


 言い終わると、目の前に大きな本が飛んできた。分厚い本だな。どれくらい読むのに時間がかかるだろうか。


 というか、本が飛んできたな。これがスキルってやつか?


「今、本を運んできたのは司書のスキル、図書管理です。司書は、図書記憶のスキルで本の概要を覚え、図書管理のスキルで本を出し入れするんです。といっても、どちらもMPを使いますから、1日にそれほど使えないんですがね」


 なるほど。司書のジョブを持っているのか。そんなスキルがあるなら、司書の仕事は捗るだろう。まさに天職だ。


「そのおかげで、知識は多い方です。スキル、ジョブ、この世界に関することにわかりやすく答えられると思いますから、気軽に質問してください。さあ、早速、読んでいきましょう。異世界人でもこの国の文字を読めるようになっているはずです」


 さすが、勇者召喚だ。今まで不都合なくこの国の言語を話せていただけでもすごかったが、読む方もできるのか。神様の力はすごいな。


 よーし、弱小となめられないように雷魔法の謎に迫っていきますか。俺にはやっぱり雷魔法を極めるしか道がないようだからな。


 そう思って、俺は、賢者ヒカリの伝記を読み始めた。




上田洋介 Lv.1

HP:10/10 MP:50/50

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.1

    治癒魔法 Lv.1

    剣術 Lv.1

    観察術 Lv.1 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ