第29話 冒険者パーティー
少しだけいつもより長いです。
「無茶はダメ」
ニーナが子供を相手するように俺を叱っている。クールなお姉さんにじっと見つめられるのも悪くない。
「でもよ、あの状況じゃ仕方ないって」
「ヨースケもそれなりに戦えるわけだし」
ヘルマンとアレクが庇ってくれる。一方、イザベルは無視を決め込んでいる。
俺たちはオーガキングとの戦いを終えて、メルツィヒに帰る途中だ。確認されているキングは3体だけだったからな。ミッションコンプリート。
「そうか、楽しいのか(キリッ)」などと格好をつけていたが、俺は一瞬でオーガキングに吹き飛ばされ、アレクたちに助けられた。
……。
恥ずかしい!すごく恥ずかしい!
俺の黒歴史の中でも殿堂入り間違いなし。ラノベで雑魚が言っているセリフをリアル雑魚が言っていたのである。
なーにが心地良いだよ。死亡への道を歩んでいるだけじゃねえか。脳内お花畑かよ。
俺が顔を下に向けているのは、ニーナの説教に怒っているわけではない。恥ずかしさから顔が赤くなっているのだ。
謙虚。日本人は謙虚でなければならない。
俺は自分に言い聞かせてなんとか表情を取り繕い、顔を上げた。みんなの顔が視界に入る。
「こいつは、自分で治せるんだからいいじゃない」
イザベルの言葉が地味に刺さる。
回復要員として参加しながら、治癒したのは吹き飛ばされた自分だけ。身体は治ったが、精神は傷ついたままである。
「あはは、ご心配をおかけしました……」
その後は今日の討伐や他愛のない世間話が続き、あっという間に門に到着した。
「カールさん」
「おお、ヨースケか」
ベテラン門番のカールさんが今日の担当みたいだ。この人を見るとなんだか安心できる。
「やったのか?」
カールさんの質問に、俺の隣にいたアレクが反応した。
「ええ、3体ともね」
その声を聞いて、カールさんのペアのハンスさんが喜びの声を上げた。
あまりに大袈裟だったので、パーティー全員が苦笑い。でも、これははじまりに過ぎなかった。
南門から冒険者ギルドに着くまでの道でも、次々に街の人に囲まれて、感謝されたのだ。おかげで、この短い距離に30分もかかってしまった。
人波を超えてようやくギルドのドアを開けると、俺たちは盛大に歓迎された。
普段よりも大混雑の内部でみんなに感謝されながら、受付に向かう。
「ヨースケ、やったね!」
普通のDランク冒険者ということになっている俺には、あまり声がかけられない。
明らかに訳アリだからだ。他の街出身という点もある。移動する冒険者も多いが、故郷などの同じ街にとどまる人も多いのだ。
「俺はちょっとした手伝いをしただけさ」
サラとマルクスは俺の治癒魔法のことを知っているからな。連れて行かれた理由がわかっているのだろう。
「うらやましいぜ」
反対側から会話に参加してきたのは、マリオだ。彼も俺の治癒魔法のことを知っている。
「まあ、ウハウハですね」
依頼の報酬はきっちりもらえるので、Dランクの俺の家計は大助かりだ。しばらくは気楽に生活できる。
「副マスターがお待ちです」
職員の案内で、俺たちは奥の部屋に向かう。依頼達成の報告だろう。
職員がノックをしてから扉を開け、アレクを先頭に部屋に入った。
「かけたまえ」
1週間前に見た副ギルドマスターだ。なんだか、心なしかやつれている気がする。家庭で何かトラブルでもあったのか?
優雅に座るアレクたちを真似て座ってみる。こうして見ると、イザベルもお嬢様みたいだ。
「では、早速討伐証明を見せてもらおう」
いつもは解体担当の職員2人が緊張しながら前に出てきた。アレクの目配せで、ヘルマンがかばんから3体の成果を取り出す。
「おお、これがあのキングたちの」
副マスターが感嘆している間に、職員たちがじっくりと部位を観察している。さっきまで緊張していたのが嘘みたいな集中ぶりだ。
1人が息を吐いた音が部屋に浸透した。
「間違いありません。これらは本物でしょう」
「私もそう思います」
この意見を聞いて、副ギルドマスターはようやく笑顔になった。
「そうか、これでやっと奴らの圧力も……。本当によくやってくれた」
副マスターは上役からひどい圧力を受けていたらしい。中間管理職の悲しい定めである。
部屋の空気が温かいものになると、執務机の下から何かが出てきた。
「これが5人の報酬と、4人の新しいギルドカードだ」
「それってつまり?」
ごくり。
「おめでとう。今日からティラノサウルスはBランクパーティだ」
「「「「おおー!」」」」
Bランク。それはほとんどの冒険者が届くことのできない、1つの到達点だ。社会的信用度も段違い。まさに成功した冒険者の証。
「さあ、酒場に行くぞ」
副マスターの掛け声で俺たちがいつもの酒場に連れ出された。荒くれ者の賑やかな声が耳に入ってくる。
「聞け、メルツィヒの冒険者たちよ!」
その呼びかけで酒場は静まり返る。やつれていたとは思わせない威厳たっぷりな姿だ。
「今日、我らを悩ませていた3体のキングが討伐された!」
ギルドからの公式発表に喜びの声をあげる冒険者たち。
副マスターの手振りでまた静まり返る。
「新たなるBランクパーティの誕生だ。英雄たちの名は、ティラノサウルス!」
その言葉に続けてアレクたち4人が酒場に姿を示す。
さらに、アレクが一歩、前に出た。
「今日は俺らの奢りだ、乾杯!」
みんながジョッキを抱えて一斉に酒を飲み始めた。飲み食いをしながら、アレクたちの働きを称えている。
これはそういう風習なのか?
人に囲まれるアレクたちを見つつ、俺はこっそりと酒場に入る。モブである俺に注目が集まることはない。
「ヨースケ、俺たちに話を聞かせてれ」
マルクスがサラと一緒にやってきた。まあ、俺にはこの2人がいれば十分過ぎるくらいだ。
「よし、全部聞かせてやるからな」
俺たち3人も、久しぶりの大騒ぎ。最近の暗い雰囲気を打ち壊す勢いで、飲み会をした。
楽しい夜の時間はあっという間に過ぎていった。
宴会が始まって数時間。
「ちょっといいか」
すっかり太陽が沈みきり、多くの冒険者が酔い潰れたり、家や宿に帰ったりしたころに、アレクが俺に話しかけてきた。
俺はサラとマルクス、それに途中から参加してきた2人の友人たちに別れを告げてアレクについていく。
楽しかったが、あまり知らないマルクスたちの友人に話をするのは疲れた頃合いだったので助かった。
案内されたのは少し奥の部屋で、中には他の3人のメンバーがいた。
「お願いして、少し部屋を貸してもらったんだ。さあ、座って」
勧めに従って、席に座る。
「なんだか、すごく真剣ですね。改まって、何のお話ですか?」
俺の問いに、リーダーのアレクが話を切り出した。
会ってからの1週間、一緒に仕事ができてよかったこと。
治癒魔法を使えて自衛もできるメンバーがいることで、いつもよりずっと安定して依頼を達成できたこと。
俺の能力をとても評価してくれていることなどなど。
こんなに褒められると、何だか照れ臭くなる。陰キャはこういうの、慣れてないんだぞ。
「それもこれも皆さんのお働きがあってこそ、ですよ。こちらこそ、大変勉強になりました」
俺の心からの思いだ。俺は単なる、チートなし異世界人。そんな大層な存在ではないのだ。
「それで、とても急な誘いなんだけど」
4人の目がじっと俺に注がれる。
「正式に、俺たちのパーティに入らないか?」
予想外の提案が俺にもたらされた。
「正式に、ですか?」
「そうだ、教会で誓いを立てて、パーティに入って欲しい」
教会で誓いを立てると、魔物の経験値的なものがパーティで分配される。社会的にも、1つの共同体とみなされるもので、宗教上も非常に重視される。
「出会って1週間。早過ぎると思うのも無理はない。でも、4人の決断だ」
ヘルマンが立つ。
「お前には才能がある。1人でやっているのにすごい成長速度だ。剣術でもっと高みにいける」
ヘルマンの次はニーナ。
「あなたには臆病という才能がある。たまに無茶するけど。でも、生き残るには1番大事。それがわかっていない人が多い」
少し顔を赤らめるイザベル。
「あんたみたいに治癒魔法が使えて、頭が良くて、優しくて、剣もできて、おまけに16歳とか、……そんなの反則よ!」
最後までデレを維持できなかったようだ。ツンデレに理解がある俺は、ついついにっこり。
「もう、その笑顔やめなさいよ!」
この言葉にみんな笑ってしまい、真剣な雰囲気が台無しだ。
最後にリーダーのアレクに出番が戻ってくる。
「返事は数日なら待てるから」
その優しさが嬉しい。でも、俺の気持ちはもう決まってるんだ。
「入らせてください」
俺の即答ぶりに、4人は驚いた様子だ。こんな重大な判断をすぐにするのは予想外だったのだろう。
「いいのか?俺が言うのはおかしいが、ちゃんと考えたほうがいいぞ?」
気遣いに、俺は少し笑みをこぼす。
「実は、俺の方から頼もうと思っていたんです」
俺はこのパーティの居心地が好ましいのだ。
この世界の人たちの価値観は、俺には受け入れ難い部分がある。食事の食べ方、清潔に関する考え方、他人への思いやり。
ほとんど全てが日本とは違うのだ。理解不能なぐらい違う。毎日、そのギャップに苦しんでいる部分があった。
サラやマルクス、宿の人など、俺に優しくしてくれる人もいる。でも、大部分の人は俺に冷たいままだ。それは今後も変わらない。
アレクたちは違う。貴族出身の彼らは優しく、礼儀正しく、他者を受け入れることができる。計算ができ、文字も当然書ける。
日本にいたときは考えなかったが、これらは生まれ持っての能力ではないのだ。
もちろん、彼らにも打算がある。さらなる飛躍を目指す彼らには、治癒魔法を使うフリーの俺は黄金みたいなものだ。
でも、俺にも打算がある。彼らと一緒になれば、もっと強くなれる。もっと稼げる。もっといい思いができるという打算。
それでいいじゃないか。アレクたちがどう思っていようと、俺が知る機会がなければそれは無いのと同じ。
世の中、利害で結びつくのがもっとも強固な関係だ。自分の利益で動く。それが「現実」だろう。「現実」は直視しなければならない。
こんな内心を言うわけにはいかない。俺は別の思いを口にする。
「強くなりたい。強くなって、この広い世界を見てまわる。そのために、私は飛び出してきたんだ」
4人が優しい顔をしている。
俺は訳アリで抜け出した、王国教会の関係者だと思われている。治癒魔法のスキルを持っていれば、すぐに教会に取り込まれるからだ。
共感力の高いアレクたちは、詳しい事情に触れず、ただ受け入れてくれる。俺にはその自信があった。
「そうか。ちゃんと考えているならいいんだ」
やはりな、思った通りだ。
「これから、一緒に頑張ろう」
「こちらこそ、よろしく」
俺は4人と1人ずつ握手を交わす。
真実を全て語らず、自分に有利に話を運ぶ。これは、詐欺師と同じである。
温かい、頼り甲斐のある4人の手。その1つ1つの感触を、俺は一生、忘れない。
夜は深い。
暗い夜道を歩き、俺は1人で宿に帰った。
真っ暗な食事場。キッチン。階段。そして、見慣れた俺の部屋。
ベッドに入る前に、ふと木窓を開ける。
……。
「夜明けは、まだ先になりそうだ」
上田洋介 Lv.14
HP:42/42 MP:101/119
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.3
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.4




