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第26話 貴族の冒険者①

 


「依頼に行けないと、なんだか気詰まりだ」


 そう不満を表に出したのはマルクス。


「早く自由になりたいよね」


 同意を示しているのはサラ。


「危険だから仕方ないんだけど……」


 俺も重ねて同意を示す。


 俺たち3人がいるのは、メルツィヒから5分ほど離れた野原だ。気分転換をするために、最近はこの場所で時間をつぶすことが多い。


 あの強制依頼から2週間が経っていた。


 冒険者たちの報告を受けたギルドはBランク以上の応援を呼ぶことを決定し、周辺のギルドに協力を依頼した。


 そして、応援の冒険者が強力な魔物を呼ぶまでの間、この街の冒険者に郊外の依頼を受けることを禁止した。安全対策である。


 これにより、冒険者は日々の稼ぎを失い、わずかな蓄えを少しずつ取り崩して生活していた。


 この2、3日は、金がなくなった冒険者が森に強引に入って大怪我をして帰ってきたり、友人に借金をしたりする様子も見かけるようになった。


 さらに、護衛依頼の受付も制限されたことにより物流が停滞。嗜好品や付近の村からの食料が輸送困難になり、住民の不満も高まっている。


「昨日、知らない冒険者を見たって奴がいるらしいな」


「わたしもその話を聞いた」


 マルクスとサラが話を切り出した。


「俺も聞いたな」


 聞いたも何も、昨日の夜から街はこの話で持ちきりである。至るところでひまな住民がうわさ話をしているので、俺も盗み聞きで入手した。


 ……。


 もちろん、宿の人たちからも聞いたぞ。決して知り合いが少ないとか、ぼっちだとかそういうわけではない。嘘じゃないよ、信じて。


「でも、前回みたいに違うかもしれないからな」


 そう。前回は普通の商隊の護衛だったのだ。遠い街からやってきて、受ける人がいなかった依頼を受けただけの冒険者。街中の人が落胆した。


 そのせいで、冒険者たちは2度と来ないと言って帰って行った。彼らからすれば勝手に期待されて、勝手に失望されたわけだから仕方ない。


「それはそうなんだけど」


 いつもはハキハキ喋るサラも、最近は歯切れが悪い。気分が落ち込んでいると喋り方にも影響するからだろう。


「俺、マリオさんたちに呼ばれているから帰る」


 俺はあれから、マリオたちとお互いに見直して仲良くなったのだ。Dランクの中でも実力者である彼らは、森の外側で稼ぐことができ、懐に余裕がある。今日も飲み会だ。


「マリオさんたちはいいよなあ」


 マルクスが完全に愚痴モードに入ってしまった。こうなると機嫌が戻るのには時間がかかる。


 俺はその相手をサラに任せて、街へと戻ることにしたのだった。




「おお、ヨースケ、もうやってるぞ」


 俺がギルドに着くと、マリオたちはすでに酒を飲み始めていた。森から早めに切り上げると、こういうこともある。


「今日はどうしたんですか」


「オーガたちがうじゃうじゃいてな。帰るしかなかった」


 俺の質問にマリオが不機嫌そうに答えた。その分では、今日の稼ぎはあまり良くなかったのだろう。


「食事の値段も高いしよー」


「まじそれだよな」


 取り巻きたちも相づちを打つ。テーブルの雰囲気はどんよりとしている。


 商品が少ないのに買いたい人が多ければ、値段が上がる。新しく商品を運び込みづらい今は、値段が上がる一方だ。


 悪いとは思ったが、俺は初日にすぐさま買い込んでアイテムボックスに入れておいた。もしものときは、1人で隣の街までの移動できるだろう。


「商人も儲かってるわけじゃないから、やるせないですよね」


 商人も売れる数が減っている上、生活費が上がっているから値段を上げているのだ。別に儲けようとしているわけではない。


 ちなみに、俺はマリオのパーティメンバーを心の中で取り巻きA・Bと呼び続けている。名前はもちろん知っているのだが、取り巻きとしての印象が強すぎるからだ。


 彼らのことを嫌ったり見下したりしているわけではない。心の中だけでのあだ名である。


「それで、何か進展があったんですか?」


「進展って言われても」


 俺はマリオにヒルデさんとの関係を聞く。実は、単に俺様冒険者が美人受付嬢に面倒をかけているわけではなかったからだ。


 ヒルデさんとマリオの出会いは子供の頃。広場で友達の女の子と遊んでいたヒルデさんにマリオが強引に混ざったのが始まりだ。


 初めて見た、年下のかわいくて大人っぽい商家のお嬢様に一目惚れしてしまったのだ。


 ガサツで女の子に受ける話題も特技もないマリオは煙たがられていたものの、子供なので大人たちもそこまで目くじらを立てなかった。


 しかし、それなりの商家のお嬢様と冒険者の子供では、この国ではかなりの身分差である。


 当然のように、マリオが10歳に近づくと普通に喋ることもできなくなってしまう。


 マリオは冒険者となり、取り巻きたち(その頃から取り巻きだった)とパーティを組み、少しずつ実力をつけていった。


 そんなとき、15歳になったヒルデさんは冒険者ギルドに就職し、受付嬢になった。


 偶然の再会。喜ぶマリオ。


 しかし、マリオは素直になれるほど大人ではなかった。


 受付でしつこく話しかけて冷たくされる。虚勢を張ってしまい、苦笑される。そんなことを繰り返していた。


 思うように関係が進展しない中、突然現れたのが俺だった。


 丁寧な喋り方は育ちの良さを示す。ヒルデさんを女性として尊重し、仲が良い俺はマリオが目指していた姿。


 それを見て、マリオは嫉妬していた。だから、マリオパーティは俺に厳しかったのである。


 まさか、他人からそのように見られていたとは思いもしなかった。喋り方と低姿勢も勇者マモルと関わる古い家の出身という設定に説得力を与えていたのだ。


 3人曰く、「勇者様の影響で、昔からある立派な家系(=余裕がある家)は利害が関わらない限り、本当に優しい」とのこと。


 まあ、良い人と結婚できるように優れた教育を受けたヒルデさんの受け売りらしいけど。しつこいマリオを撃退させるときに言われたそうだ。


「本当に脈があるんですか?」


 マリオパーティはあると言い張るが、俺には自信がない。女性の考えることは、俺にはUMAぐらい未知数である。


「絶対ある」


「俺には結婚している2人の姿が見えるね」


 取り巻き2人はなぜか異様に強気である。いつも通り、根拠はなさそうだが。


 俺がマリオを見ると、めずらしく顔を下に向けてうつむいている。こちらを見ている取り巻きたちはそれに気づいていない。


 マリオ自身が、1番、複雑な思いを抱いているのだろうか。真剣に恋をしたことがない俺にはまだわからない。


 マリオの気持ちに思いを馳せていると、取り巻きたちが急に黙った。どうした?


「ヨースケさん、少々よろしいでしょうか」


 やってきたのはヒルデさんである。うわさ話をしているときに本人が来るのは1番気まずい。


 俺は無言で席を立ち、ヒルデさんの後についていく。コンコンと、廊下に2人の足音が響く。


「慣れてますから。気にしないでください」


 ヒルデさんは俺を気遣ってくれる。俺たちが悪いのに優しい人だ。


 人の恋路で馬鹿騒ぎをしていた俺たちの浅ましさが心に大ダメージ。でもまたやっちゃうと思う。人間だもの。


「慣れていても、嫌なことは嫌でしょう。私たちの女神よ、どうか愚かな冒険者の戯言をお許しください」


 俺がそれらしく謝ると、ヒルデさんは驚いた顔になった。やはり、おかしかったのか?


 ヒルデさんは扉の前で立ち止まり、俺の方に振り返る。


「エラニ様はスパークも慈しんでおられます」


 その言葉を残し、ヒルデさんは部屋の中に入っていく。どういうことなのか。翻訳スキル、仕事しろよ。


 俺は頭を悩ませながら歩き始め、別の人の気配を感じて顔を上げた。


「座りなさい」


 見覚えのない中年男性のギルド職員に促されて、俺は一礼してからソファーに座る。


 見たことがないということは、偉い人なのだと思う。そんな人がただの冒険者である俺にどんな用事があるのだろう。


 ちなみにヒルデさんはもう部屋を出てしまった。


「そう固くならないでいい。君にとってはいい話なのだから」


 裏があると言っているようなものである。偉い人が優しいときは部下に無茶な仕事を押し付けるときなのだ。


 俺が何も反応を示さないので、職員さんが話を続ける。


「副ギルドマスターとしての権限で君をDランクにしようと思う」


 ランクの昇格。それはかなりおいしいエサだが、その分無茶振りである確率が高まった。


 政治的な動きになってきて、俺はもう逃げ出したい気分だ。


「完全に関係ない一般論だが、ギルド下積みの経験を重視している。素晴らしい方針だ。急な昇格で早死にするのは望ましくない」


 関係ないわけあるか!


 つまり、この「お願い」に応じない場合、俺が後悔するほど長い間、Eランクのままになってしまうということだ。


 いや、いっそ他の街で登録し直すという手もあるな。Dランクに昇格するのにそれほど時間はかからないだろう。


「実は、応援の冒険者を呼ぶのは大変だったよ。普段から周りのギルドは強欲だからね。東部の伝手を使うところだった。まったく関係ない話だが」


 関係大アリだ。


 これは、お前の登録を認めないように各地のギルドに頼めるんだぞという脅しである。


 もはやこれまでか……。


「Dランクへの昇格できるのは、ぜひお願いしたいと思います」


「おお、自発的にお願いしてくれてこちらも嬉しいよ」


 こいつ、いつか○す。


 副ギルドマスターはスラスラと何かを書くと、俺が渡したギルドカードのランク欄がDに変わった。何度見ても不思議な技術である。


「では、Dランク冒険者ヨースケ。あなたに強制指名依頼を依頼します」


 強制だから、それは依頼ではなく命令である。


 俺が自分の運の無さを再確認していると、俺たちが入ってきた扉から冒険者らしき人たちが近づいてきた。


「君が組んでもらう応援のCランクパーティ、ティラノサウルスです」


 応援の冒険者と組んで高ランクの魔物討伐。


 死んだな。


 そう思った俺は、自分の運の無さをすぐさま下方修正したのだった。



上田洋介 Lv.7

HP:24/24 MP:80/80

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.3

    治癒魔法 Lv.4

    剣術 Lv.3

    観察術 Lv.3


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