第25話 ゴブリン大発生③
俺たちを見て不気味な笑い声をあげる。戦う前から勝利を確信しているのだろうか。人類に魔物と会話する能力はないから、そんな気がするだけだ。
「俺がジェネラルだ」
いち早く冷静さを取り戻したマリオがパーティに呼びかけた。突進していくマリオに合わせて、取り巻きたちも攻撃を開始する。
マリオがCランクのジェネラル1体。取り巻きたちがペアを組み、Dランクのジェネラルとマジシャンを2体ずつ相手にするようだ。
森を移動しながら戦っているマリオたちを前に、俺は呆然としている。この人たちはどうしてこんな厳しい状況で諦めずに戦えるんだ?
「ヨースケ、お前はホブとモブを相手してやれ!」
激しい戦闘をする間に、マリオが俺に指示をしてきた。見渡せば、Eランクのホブ4体とモブ2体が俺を囲い込もうとしている。
死にたくない。俺はその一心で剣を構え、ゴブリンを観察する。正攻法では勝てないからだ。
弱点が見つからないまま、モブ2体が切り掛かってきた。俺は剣で剣を受け止め、すぐにもう1体の攻撃をかわす。
「くそっ」
俺が強くないのがまたしても即座にバレて、ホブたちが声で威嚇している。マリオのように、強い人はモブゴブリン程度、瞬殺できるからだ。
これは出し惜しみをしている場合ではない。
俺は雷魔法と治癒魔法を積極的に使うことにした。M Pはまだまだ余っている。まあ、なんとかなるだろう。
あれから10分は経過した。しかし、状況はあまり良くない。
マリオはジェネラル相手にかなり苦戦している。格上なのだから当たり前だ。目立つ傷を負っていないだけ、善戦しているだろう。
かなり危ないのは取り巻きAだ。避け続けていたマジシャンの魔法をついに1発くらってしまった。次の攻勢で戦闘不能になるかもしれない。
取り巻きBも厳しい。もともと左手に怪我をしていたから、明らかに攻撃が弱い。気付かないうちに、オークとの戦闘で怪我が悪化していたようだ。
そして俺。雷魔法の奇襲でホブゴブリンを1体倒した。おとりの攻撃でモブも1体倒したが、足に大ダメージを負った。
当然、レベル3の治癒魔法をかけた。戦闘は継続できるが、足に痛みが残る。状況は一進一退である。俺が1番マシな状況なのが、マジで笑えない。
身体の動きにやや疲れが見える、俺の目の前のゴブリンたち。お互いに剣を構えたまま、戦闘は小休止だ。
やれやれ、ようやくか。ついに与えられたわずかな時間に、俺はずっと考えていた作戦を実行する。
「見ろおおぉぉー」
俺が突然大声を上げたので、みんな驚いて動きが止まる。予想通りだ。
俺が待っていたのは、取り巻きたちとの距離が縮まるタイミングだ。
「キュアー」
出し惜しみなしだからな。俺は2回連続して治癒魔法を行使する。MPは40を切るが、勝つのが最優先だ。
「左手が動くぞ!」
「体の痺れがない!」
どうやら上手く行ったようだ。カッコつけてキメ顔を作ると、俺はゴブリンたちと向き合う。
「お前ら、いくぞ!」
流れが来たと感じたマリオの声に応じて、俺たちは戦闘を再開した。
それからは一方的に攻撃を仕掛けることができた。動揺するモブゴブリン1体を片付けると、残りのホブゴブリンたちは防御に終始した。
観察術の成果でマリオパーティの連携法を一部見抜いていた俺は、彼らと連携してマジシャンやリーダーも攻撃した。
治癒魔法から5分ほどして戦いは俺たちの勝利で幕を閉じたのだ。
「乾杯!」
そして、俺たちは約束の冒険者ギルドの酒場で飲み会をしている。ゴブリン狩りから帰ってきた他のパーティも段々揃ってきている。
「それにしても、ヨースケが治癒魔法を使えたとはなあ」
マリオが小声でつぶやく。すでに俺がスキルを隠していることを伝えており、3人とも必ず言わないと誓ってくれた。
「まあ、いろいろありまして……」
まさか、異世界から召喚された勇者だとは言えない。話しても信じてもらえないだろうけど。
「そう固くなるなよ、ヨースケ」
「そうそう、お前と俺らの仲じゃねえか」
調子が良いことを言うのは、取り巻きたちだ。街の直前でもう1度俺の治療を受けて、完全に回復してから、こんな調子だ。
まあ、俺も俗物なのでずっと褒めてもらえると悪い気はしない。
ちなみに、俺のステータスはこんな感じだ。
上田洋介 Lv.6
HP:22/22 MP:26/75
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.2
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.3
身体レベルが1上がり、治癒魔法がレベル4、剣術がレベル3になった。1日としては驚異的な成長だ。
今日のとても濃い経験を反映しているのだろう。それだけ新人の俺には厳しい戦いだったということでもある。生き残れて良かった。
俺たちがお互いの健闘を褒め合いながら食事を進めていると、受付嬢のヒルデさんがみんなの前に立った。
「では、これから今日の依頼の報告をしていただきます」
すると、先ほどまでの和気あいあいとした雰囲気は一気に消え去り、冒険者たちから殺気が向けられる。ヒルデさんに執心のマリオですら、険しい表情だ。
「じゃあ、俺から報告しよう」
その言葉から各パーティの報告が始まった。報告の間に何度も唸り声が上がる。どこのパーティも強力な魔物に遭遇したようだ。
幸いなことに死者や重症者はいなかったものの、軽傷者は多数。装備の損失も甚大。魔物が多すぎて素材も採取できず、大赤字。
冒険者たちの不満が次々とギルドにぶつけられる。職員たちの顔色は真っ青である。
ただ、朝に挨拶をしていた貴族のギルド長やその側近たちはいない。面倒な仕事は下っ端の現場に丸投げということか。
発表の最後に、俺たちの番がやってきた。報告者は、マリオ。なんだかんだで冒険者たちから信用がある。強いだけではDランクには成れないのだ。
「俺らの冒険譚を語らせてもらうぜ」
その言葉から始まったマリオの報告は衝撃を持って迎えられた。大量のゴブリンやコボルト。そしてオーク。ここまでは他のパーティでもあった話だ。
驚いたのは、やはりゴブリンジェネラルたちとの戦い。詩作の才能でもあったのか、情感たっぷりに話したので、冒険者たちの強い共感が得られたようだ。
そんな彼らを唖然とさせたのがオーガ2体との遭遇である。
オーガ。
Cランクの魔物である。その上位種たちはBランク以上で、この街の冒険者ではとても手に追えない敵だ。
俺たちはゴブリンジェネラルたちを倒した後の帰り道で、オーガたちを発見した。もう終わりかと思ったが、見つかることなく隠れ続けることができた。
この幸運には、神に感謝するしかない。オーガたちを見送ってから、俺とマリオたちはあみに祈りを捧げたくらいだ。
マリオの発言が終わり、酒場を沈黙が支配する。誰も、言葉を発することができない。物音を立てることもない。
「ありがとう」
誰かが振り絞ったように言葉を発した。みんなが前を向いた。
「生きて帰ってきてくれて、ありがとう」
ヒルデさんが話していた。他の誰でもない、ヒルデさんが話していた。俺はマリオを見つめる。
「ヒルデを泣かせるわけにはいかねえな」
そうこぼして、マリオはエールを飲んだ。豪快な飲みっぷりに、酒場は少しずつ喧騒を取り戻す。
俺はこの依頼を通して、マリオたちを見直した。彼らは強い。彼らは見識のある冒険者である。彼らはこのギルドに欠かせない存在である。
今日、そのことを俺は実感した。みんなが、そのことを実感した。
彼らの名前はこのギルドで受け継がれるだろう。
俺にはそれが、ひどくうらやましかった。
上田洋介 Lv.6
HP:22/22 MP:26/75
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.2
治癒魔法 Lv.4
剣術 Lv.3
観察術 Lv.3




