表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/46

第24話 ゴブリン大発生②



 俺たちのパーティは、担当の南の森に到着していた。この森に来るのは初めてだ。いつもは来ない場所なので、少し緊張する。


 メルツィヒの近郊では、薬草の森がFランクの初心者、北の森がEランクの駆け出し、南の森がDランクの中堅・ベテランの狩り場となっている。


 ちなみに、西の草原には誰も行かない。俺たちが実地演習を行なった王国辺境の森にやってくる騎士たちに殺される場合があるからだ。


 奴らは、遊び半分で冒険者を殺したり誘拐したりするという噂だ。選民思想を持つ王国貴族だから、ありうる話だ。


 スタンピードが起こって奴らは来なくなっているのだろうが、いまだに誰も近づかない。貴族たちの権威と暴力性への信頼は帝国でも健在だ。


「薬草狩りには大変かな?」


「いやいや、勇者様と間違わんばかりの名前。さぞかしお強いんだろう」


 相変わらず、マリオと取り巻きAが俺を馬鹿にしてくる。俺はここでも愛想笑いを披露する。顔が引き攣っているかもしれない。


 俺の反応が面白くないので、取り巻きBが話題を変えた。


「そろそろ、魔物が来ちゃうんじゃね?」


 チャラいが、言っていることはまともだ。ここは従っておこう。


 俺は魔物を警戒して、周囲をよく観察する。観察術のスキルレベルが3になってから、弱い魔物を事前察知できることも増えてきた。


 右前の方に違和感がある。結構な数だな。でも、俺が察知できるのは弱い魔物が中心だから、出てくるのはあいつらだろう。


「右前から、ゴブリンの御一行、参上!」


 へえ、さすがはDランク。きちんと周りを警戒している。言葉遣いは変だけど。


「いくぜっ」


 マリオの掛け声で、役割分担もせずにゴブリンたちに突っ込んでいく。何かいつもの方針や役割でもあるのだろうか?


 哀れなモブゴブリン8匹は、一瞬でマリオパーティに討伐された。FランクとDランクの差は圧倒的だ。


 30秒もかからずに戦闘は終了した。マリオたちは俺のところに戻ってくる。一応は俺のことをパーティメンバーと見なしているみたいだ。


「魔石は取らないんですか?」


 俺が質問するとゲラゲラと笑い声を上がった。


「ゴブリンの魔石なんか、儲からないから取らねえよ。新人くん」


 そうか、この人たちはいつもE・Dランクの魔物と戦っている。ゴブリンのクズ魔石は必要がないんだ。


 それに、危ない南の森で呑気に魔石採取をすることはできない。強い魔物に奇襲されたら一大事だ。


 プライドにこだわっているというより、冒険者として合理的な選択だ。


「なるほど、そうなんですね。知らないことばかりで、勉強になります」


 俺は見誤っていたことを素直に表現する。すると、マリオたちは微妙な顔になる。今朝のマルクスたちと同じ、異物を見る目である。


 まあ、こんな喋り方をする冒険者を見たことはない。屋台のおじさんや宿屋の人たちもしない。ギルドの職員が丁寧な話し方をするだけだ。


 俺の顔はこの世界では12歳ぐらいに見えるらしいから、なおさら変だろう。


 疎外感を認識していると、機嫌が悪くなったマリオが話を打ち切って探索を再開した。




 それから俺たちは、休憩を挟んで4時間ほどこの森を歩いた。モブ・ホブゴブリンやコボルトには何度も遭遇したが、いつでも瞬殺だ。


 1度だけ4匹のハイコボルトに遭遇したが、これも瞬殺だ。Eランクの魔物で、コボルトよりしぶといだけなので、当然ともいえる。


 だが、いま終わったブラックウルフとの戦闘で取り巻きBが左手に怪我をした。ウルフ系はEランクの魔物で、本来マリオたちが怪我をする魔物ではない。


 重症ではないので戦闘を継続できるが……。


「今日はもう十分だ。帰るぞ」


 マリオの選択は帰還。こんな強制依頼で無茶をする必要もないというわけだ。報酬もあまり高くないから、他のパーティも同じ感じだと思う。


 俺もいい加減、このパーティから永遠に離脱したい。可能な限り早く。というか、今すぐ。


 俺は戦闘にほとんど参加しなかった。しかし、観察術の経験値貯めと薬草採取をしていたので、思いの外疲れている。


 帰り道でも魔物に遭遇することを考えると、ギリギリかもしれない。マリオパーティには絶対に言いたくないので、撤収を選んでくれて助かった。


 帰ろうとしたそのとき、俺は猛烈な殺気を感じた。


 明らかに魔物。それも、今日会った中で1番強い。


 マリオパーティも気付き、戦闘準備に入る。俺も剣を抜いた。何があるかわからないからだ。


 現れたのは、4匹のオークだった。Dランクが4体。自然と手に力が入る。


「新人、俺たちが倒すまで死ぬんじゃねえぞ!」


「とにかく粘れ!」


「Eランクならやれるだろ!」


 マリオたちは俺を励ましてからオークたちに切り掛かった。


 先ほどまでとは違う、激しい戦闘が始まった。俺は残りの1匹のオークと向き合う。


 美味しいオーク肉の原料。この街のDランクの主な収入源。オークの呼吸音が聞こえる距離で、やつに関するさまざまな知識が頭の中を流れている。


 俺は雑念を振り切り、大声を出して両手で剣を振り下ろした。


「おぉぉぉー!」


 オークは鈍重な身体をしているくせに、剣を上手く使う。むしろ、体重を生かして俺が受け止められない攻撃を仕掛けてくる。


 俺の攻撃は剣しか効かないが、オークの攻撃は単純に殴るだけでも俺には大ダメージ。


 いつも思うことだが、人間は魔物に対してかなり貧弱だ。だからこそ、スキルとレベルを活用しなければならない。


 しかし、俺のレベル2の剣術はDランクのオークには力不足だ。身体レベル5も十分とは言えない。


 ギルドの酒場での盗み聞きでは、マリオの身体レベルは22で、剣術スキルはレベル4である。上から目線になるほどの実力があるのだ。


 思ったより俺の実力が低いことが相手にバレた。オークは醜い顔を変形させて、激しい攻撃を仕掛けてくる。ニヤけてるようだ。


 俺はなんとか剣で攻撃を防いでいく。しかし、剣を受け止めるたびに、ジリジリと後ろに下がってしまう。その場で踏ん張れない。


 深呼吸。3秒息を吸って、7秒息を吐く。思考を整える俺のルーティン。


 状況分析。


 ピンチだ。すぐに死ぬわけではないが、希望が見えない。周りを見る余裕がないが、喜ぶ声が聞こえないから救援には時間がかかるだろう。


 こんなことになるなら、取り巻きBに治癒魔法をかけておくべきだった。そうすれば、今頃は助けてもらえたかもしれない。


 今後の行動。


 後悔しつつ、俺は足りない頭で策を練る。


 オークとは、豚である。そこから、1つの作戦を思いついた。鋭い嗅覚を利用したものだ。


 豚は鼻を地面に近づけて餌を探している。メスの豚がトリュフを見つけられるという話も聞いたことがある。つまり、鼻が良いのだろう。


 そして、俺のアイテムボックスの中にとっておきの物が入っている。


 ゴブリンの焼き肉である。


 少しでも資金を節約しようとして、俺は多くの先人たちと同じようにゴブリン食に挑戦した。異世界人ならなんとかなると思ったのだ。


 しかし、結果は惨敗。ひどい臭いがするとてもまずい肉が残されたのである。


 街の中では処分はできないので森に捨てようと考え、アイテムボックスに入れたままになっていた。非常食を食べ切って、収納スペースが余っていたからだ。


 物は試しだ。俺は互いに隙を見つけようとしているときに、左手から一気にゴブリン肉を投げつけた。右側のマリオたちからは見えないだろう。


 突然現れた謎の物体を避けることはできず、オークは直撃を受けるしかなかった。その直後、剣を手離して大声を出して苦しみ始める。


 作戦成功だ。


 俺はこのチャンスを逃さず、攻撃を仕掛けた。がら空きの足元にダメージを入れ、倒れたオークにとどめを刺す。オークは死んだ。


「やったんだ」


 思わず声が出た。格上の相手を倒せたことに、大きな達成感を覚える。ちょうど右の方からも喜びの声が聞こえる。倒せたのかな?


「やるじゃねえか」


 急いで近寄ってきたマリオから褒められた。相手がマリオであっても、先輩の冒険者から褒められると嬉しい。


 取り巻きたちの話からすると、全員あまり苦戦はしなかったようだ。いつも戦っている相手だから、慣れているとのこと。確かに新しい傷はなさそうだ。


「報告会はギルドの酒場で、だろ?」


 取り巻きAの言葉で落ち着いてきた。まだ俺たちは危険な森にいるのだ。魔物相手に油断はできない。


 気を取り直して帰り道を歩き始めた。30分もあれば森を出て、そこから1時間以内には帰れるだろう。日が沈むまでにはギルドで飲み会だ。


 俺が少し浮かれていると、先頭を歩いていたマリオがひどい顔で帰ってきた。トイレか?


「急いで逃げろ。こっちに振り返るな!」


 焦りが感じられる声だった。マリオほどの冒険者が焦る相手。そんな魔物はこの森に存在するのだろうか。


「ヨースケ、いいから逃げろ。死ぬぞ!」


 マリオの声で思考が遮られた。取り巻きたちはとっくに逃げ出している。全速力だ。そこそこ前にいたマリオが今や俺の隣にいる。


 俺が一緒に走り始めると、正面から取り巻きたちが急いで帰ってきた。連絡事項?


「こっちにもいるぞ!」


「すぐには突破できない!」


 取り巻きたちの報告は最悪だ。敵のリーダーには知性がある。そうでなければ、ゴブリンたちは戦術的な行動を取れない。


「囲まれてたんだ……」


 俺の言葉にマリオが叱る。


「諦めるな!」


 俺はマリオを見た。


「生きて帰る!」


 その言葉に、俺はなんとか首を縦に振る。ただ縦に振っているだけで、言葉の意味を本当にわかっているわけではない。


 考えがまとまらないのだ。震えが止まらないのだ。弱いのだ。それを克服する心も持っていないのだ。


 俺はそれを、知っている。


 俺が打ちのめされている間にも、事態は進行する。時間は常に進んでいるのだ。世の中はいつも俺に優しくない。


 目の前に現れたのは部下を大勢連れた大物。


 Cランクのゴブリンジェネラルだった。


 この戦いは、今までにない苦しい戦いになる。


 俺たちは、息を呑んだ。

 



上田洋介 Lv.5

HP:20/20 MP:70/70

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法 Lv.2

    治癒魔法 Lv.3

    剣術 Lv.2

    観察術 Lv.3


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ