第22話 薬師の護衛③
「どんどん進んでいくね」
「いつゴブリンに囲まれてもおかしくないぞ」
ルイーゼを見送ってからしばらく。
マルクスとサラのパーティに偶然会った俺は、2人に事情を話し、護衛に加わってもらった。
ルイーゼは俺の尾行を警戒してしきりに後ろを気にしていたから、距離を取る必要かあったのだ。
こういうとき、サラの探索スキルは便利だよな。魔物の察知以外にも使える万能スキルだ。
あと、いらないと言われたが、報酬を分けることにした。金で揉めて友人を失いたくない。
「ルイーゼは、自分の行動の危険さを分かってない。ババアが護衛をつけるのも納得だ」
俺たちが話し合っていると、前の方から戦闘音が聞こえてきた。どうやら、動きがあったようだ。
俺たちがバレないように近づくと、やはり戦闘が始まっていた。
「うさぎのくせに、ちょこまかしやがって」
ルイーゼは、10匹ほどのボーンラビットに囲まれていた。1匹1匹は弱いが、こいつらが群れると結構強い。
俺も命からがら逃げ帰ったことがある。ウサギに追い払われたのは、恥ずかしかった。
「そんな単調な突進に当たるわけないだろ」
こんな風に油断していると?
「痛い!」
このように、避けた先に、死角から別のボーンラビットが突進していることに気づかない。
まあ、所詮はウサギ。1回当たったくらいで重い怪我をすることはない。痛いものは痛いが。
「ヨースケ、助けよう」
マルクスが俺に訴えてくる。このあたりが限界かな。
俺は2人に合図を出し、ボーンラビットに奇襲攻撃を仕掛けた。
「「はぁー!」」
マルクスたちの気合の入った声の後、俺たちは難なく3匹のウサギにトドメを刺す。
さらに流れるようにして、俺とサラが攻撃を繰り出す。この2匹も重症だ。
なお、マルクスは木の根に引っかかって転んでいる。すぐに立ち上がったし、奇襲は成功したので見逃してやろう。
ボーンラビットたちは輪を乱して逃走していった。逃げるは恥だが役に立つというわけだ。
「俺よりも強いんじゃなかったのか?」
俺たちのことを見つめているルイーゼに問いかける。苦しいところを助けられて、居心地が悪そうだ。
「あ、ありがと。あと、その、ごめん」
「お、おう」
まさか素直に対応されるとは思わなかった。からかおうとしていたので、正直、こっちの方が悪者の気分だ。
「思ったより、素直ね」
「悪い奴じゃないよ」
サラとマルクスは事前にじゃじゃ馬と教えていたせいか、この発言はむしろ好印象みたい。
もしかして、ヤンキーが捨て猫の世話をして好感度爆上がり現象か。普通にずるいぞ。普段から真面目にしている陰キャにも救済が必要だ。
俺もチヤホヤされたい。(切実)
「これに懲りて、無茶はしないことだな」
またしても捨て台詞になってしまった。ヒーローっぽい言葉なのに、俺がこの状況で言うと安っぽい。上から目線すぎたかな?
「わかった」
ルイーゼは、何も言わずに首を縦に振る。大人しいと、単なる可愛い女の子だ。
いや、物分かり良すぎだろ。歯応えがなさすぎるぞ。
もっと、こう、反発というか、自分が弱い事実を認められないというか、思春期特有のものを期待してたんだ。
そして、それを俺が見て昔を振り返るのだ。
「あのころは若かったなあ」と。
もしくは決闘。あれはまぐれだ、本当の私は強い、勝負しろという展開でも良かった。俺が実力を見せつけて勝利するところまでお約束だ。
まあ、俺とルイーゼの実力はそこまで大きくない。本当に決闘していれば負けていたかもしれない。
やるせない気持ちを抱いて行動不能になっている俺を差し置いて、サラ・マルクス・ルイーゼは足早に現場を去る。危険を避けるのは冒険者の基本だ。
俺は、ゆっくりと3人の後ろについていった。
3人が仲良く話している。後ろから見ていると、仲の良い友人みたいだ。サラがあれこれと世話を焼いている。ルイーゼもまんざらでもない様子で、それを受けていれている。
俺が受けた依頼で俺が立てた作戦を行った結果、サラとマルクに美味しいところを持って行かれた。依頼は達成できたので問題はないはずだ。
街までの道中に、こっそりとルイーゼに治癒魔法をかけてみた。ルイーゼは何事かと周りを見渡すが、当然何もないし、俺たち以外に誰もいない。
視線を感じた俺は、知らないふりをしておいた。ルイーゼは首を傾げながら再び歩き始めた。
MPを9も使った。
むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
ルイーゼは、婆さんのところに着くまで、借りてきた猫のように大人しかった。出会う人みんながびっくりだ。
森からの帰り道に、護衛依頼のことを話しておいたことも効いたみたいだ。
婆さんに1人前として認められていなかったということだからな。
とりあえず家に届け報酬を受け取った俺たちは、ギルドの酒場の席に座っている。冒険者は、続々と依頼から帰ってくる時間帯だ。
「あの子、あのルイーゼなんでしょ?」
サラの元にもルイーゼの噂は届いていた。この狭い街ではあっという間に噂は広がるからな。
「あの、じゃじゃ馬ルイーゼだ」
俺はエールを一口飲んでから返事をする。
「噂とは、いろいろ違ったけどね」
今度はマルクスだ。なんとも言えない顔をしている。ほんとに12歳か?
「確かに森に着くまではじゃじゃ馬だったんだが……」
俺は直接会話したからな。それは断言できる。なにがルイーゼを変えた?
「それだけ、驚いたんだよ。初めての森は、人の人生を変えられる」
「それは間違いない」
サラがマルクスにうなづいている。初めての森は大変だったが、それほどのものとは思えない。
何かまぶしいものを見るように、2人は俺に話し始めた。
10歳で正式に冒険者になり、初めての森。そこで少なくない人が命を失うこと。
重傷を負い生活ができなくなり、盗賊になる人もいたこと。
恐怖に体が動かなくなり、臆病と笑われながら、故郷に戻り畑を耕す人もいたこと。
2人はこの2年間にこのような人を何人も目の前で見て、それ以上に話に聞いてきたこと。
……。
完全に俺の認識が甘かった。冒険者の世界は予想以上にシビアだ。
俺はこれから依頼をこなしていく自信がなくなってきた。
「でも、ヨースケは大丈夫だよね」
マルクスが話の終わりに切り出す。
そして、サラが小声で続けた。
「だって、あの治癒魔法が使えるんだから」
俺が隠して欲しいといったから、わざわざ小声で話してくれたようだ。気遣いがありがたい。
それにしても、治癒魔法か。教会が独占しているから、誰もが囲い込みたくなるのだろう。王宮司書のクリストフさんが教えてくれたな。
「まあ、怪我をしても安心ではあるな」
俺は2人に無難に答えた。パーティを組むつもりがない以上、自分を治せることが最大のメリットだ。
「ヨースケさん、よかったら俺たちとパーティを組みませんか?」
サラが大胆な誘いをしてきた。
パーティ。
宗教上の意味もあるものに誘うことは、大きな意味を持つ。経験値を分け合うということ以上の意味だ。
それは、社会的に一心同体とみなされること。俺がやったことにマルクも責任を負い、サラがやったことに俺も責任を負う。
俺がこの街に来て2人と知り合ってからおよそ1ヶ月。人生を左右する決断を行うには、短い時間だと思う。
でも、2人が真剣であることは目を見ればわかった。子供の顔の中に見える、強い意志を持った目だ。
そのとき、俺の頭をよぎったのはあの実地訓練でマルクさんたちだった。
教会で手続きしていないから、正式なパーティではなかった。マルクスとサラとは関係のない話だ。
しかし、彼らに裏切られた記憶は生々しく残っている。
トラウマを克服していない臆病者が取れる選択は1つだけだった。
「悪いが、いまは無理だ」
俺の微妙な顔と返事を聞いて、2人は黙った。テーブルには沈黙が広がる。
マルクスが話そうとするが、きっかけをつかめずにいる。
俺は話題を変える。これでわだかまりを作ってはいけない。そんな気がする。
「2人の関係をからかいすぎるからな。2人のゆっくりとした進展を見守りたい」
2人は俺の言葉をすぐには飲み込めなかったが、理解が追いつくと顔を真っ赤にする。
「「そんな関係じゃありません」」
言葉が綺麗にハモったので、ついつい笑ってしまった。
「説得力0だ。このバカップル」
こうして俺たちはもう一度打ち上げを始めた。それまでと変わりなく、会話を続けられたと思う。取り繕うのは、得意なんだ。
マルクスやサラとは住む世界が違う。
お前たちは眩しすぎる。
俺は、自分にはどうしようもない「現実」を突きつけられて、頭がどうかしそうだった。
その日、俺は初めて安物エールのおかわりを頼んだ。
いつも通り、エールはまずかった。
上田洋介 Lv.3
HP:16/16 MP:53/62
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.2
治癒魔法 Lv.3
剣術 Lv.2
観察術 Lv.2




