第21話 薬師の護衛②
婆さんの家を出た俺は、ルイーゼを追って東門に向かっている。ご機嫌な様子のルイーゼは足取りも軽く、後をつけている俺に気づいている様子はない。
尾行の経験もない俺に気づかないのは、少し心配だ。メルツィヒは人口も少なくて治安がいいから、危機察知能力が低いのだろう。
あれこれ考えているうちに、ルイーゼは東門に着いた。今日の門番は、ライナーさんのようだ。
ライナーさんはハンスさんの幼馴染で仲が良い。2人で一緒に酒を飲んでいるのをよく見かける。ハンスさんの情報では、イケメンでモテるとのこと。くそ、イケメンめ。
それにしても、俺もこの街に来てから1か月ぐらい経つから、知り合いが増えてきたな。メルツィヒにも慣れてきた感じだ。
2人は、何やら話し込んでいる。年もそこまで離れていないし、もしかすると友人なのかも。確か、ハンスさんは隣街の出身だから、ライナーさんもそこの出身だろう。
ゲル婆の顔は結構広いらしいから、ルイーゼも知り合いが多いってことかな。わからないけど。
あれ、なぜかライナーさんが手招きをしている。誰を呼んでいるんだ?
周りを見渡すが、俺とライナーさんの間には誰もいない。後ろを振り返ってみても、当てはまりそうな人はいない。
もしかして、俺?
俺が自分を指すとうんうんと頷かれたので、仕方なく東門に近づいていく。こっそり護衛するというのが依頼だからな。面倒ごとは避けたいんだが。
「ライナーさん、何か御用ですか?」
ライナーさんは少し気まずい顔をしている。
「こちらのルイーゼさんが、あなたにつけられていると……」
なんだと!
「お前、最近来たっていう新人だろ。私のこと、つけるのをやめろよ」
完全にバレてるな。とはいえ、正直にいうのは無理だから、言い訳を考えなければいけない。
危機察知能力が低いとか、俺の尾行に気づかないのは心配だとか、フラグを立てまくっていたのがよくなかったんだろうか。
「別につけていたわけじゃないんです。ご存知の通り、私はいつも薬草の森に行ってますからね。たまたま道が一緒になっただけだと思いますよ」
「私もそう思うんですが」
よし、ライナーさんが信じてくれたぞ。俺が毎日のように薬草の森に行っているのは事実だからな。
それに、ルイーゼはこの性格だ。問題児という意味では、あまり信用度は高くないだろう。一方、俺は新参者だが真面目に冒険者をやっている。その点では有利だ。
ちなみに、冒険者の社会的信用度は低い。多くの冒険者は、金なし・余所者・実家に居場所なしの上、気が短く武力だけは持っているわけだ。日本でいうと、ヤクザよりはマシという程度の信用しかない。
依頼状を持っていない低ランク冒険者は都市や村で宿泊拒否されることもあるらしい。俺が帝国に来てからいい人ばかりと出会っているのは、まさに幸運だろう。
なお、ゲル婆とルイーゼを除く。
「いや、絶対つけてたね」
謎の自信をもってルイーゼは断言する。特に根拠はないと思う。
いや、こんなに自信があるということはもしかして依頼のことに気づいているのか?
「とにかく、私の後についてくるんじゃねえぞ」
ルイーゼは形成不利と見たのか、そう言い残して東門を出て行った。
いや、だからここから街道は1本しか伸びてないし、目的地が同じ薬草の森というのは会話の流れで分かったはずだろ?
これは、前言撤回だ。ルイーゼは、ただのバカだ。
俺はライナーさんと顔を見合わせた。自然とため息も重なる。
「さすがじゃじゃ馬のルイーゼ」
なんだそのあだ名は。不名誉すぎる。
ゲル婆が有名な分、ルイーゼの性格も知れ渡って2つ名みたいになっているのだろうか。
ライナーさんが慌てて付け足してきた。
「今のあだ名は、本人にはどうか内密に頼む」
だろうな。
俺は了承の返事をしてから、ルイーゼと間隔をあけて薬草の森に向け出発した。
ようやく薬草の森が見えてきたな。いつもと同じ1時間の道のりだったが、大変だった。
ルイーゼは5分おきぐらいに後ろを振り返っては、俺のことを確認してきた。
そして、その度に早歩きになって間隔を開けようとしてくるのである。不自然にならないように一定の間隔を保つのはかなり疲れた。
まさに森に入ろうかとしたとき、ルイーゼがまたこちらを見てきた。大きく息を吸っている。
「尾行野郎、森ではぜーーーったいに、ついてくるなよ!」
大声で叫んだ後、小走りで森に入っていった。
なんというか。護衛をする気がなくなってきた。なんでこんなに嫌われている相手を守ってやらないといけないんだ。バカのお守りは疲れるぜ。
もしこれを聞いている人がいたら、とんだ風評被害だ。一度失った信用を取り戻すのがどれほど大変なことか知らないんだろう。
日本で失言から友達作りに失敗した俺がいうのだから間違いない。社会は失敗した者にはとことん冷たい。
ルイーゼは14歳という話だが、子供としかいようがない。これならマルクスとサラのほうがよっぽど大人だ。この世界では10歳で成人だから、危機的状態だ。
しかし、低ランク冒険者にとって、1日の収入ゼロ+依頼放棄の違約金の支払いでむしろ収支マイナス・ギルドからの評価低下というのは、まさに致命的だ。
しがないEランク冒険者である俺は、仕方なくルイーゼの痕跡を追った。
「うやー!」
俺は、少し離れた木の影からルイーゼの戦闘を見守っている。お馴染み、最弱の魔物であるスライムとの戦闘である。
森に入ってからもしきりに周りを見渡していたルイーゼ。しかし、初めての森で興奮していたのか、俺を発見できなかったからか、早々と薬草の採取を開始した。
自信があるだけのこともあり、薬草採取の腕前は上手だった。最近冒険者を始めた俺よりも手際よく、素材の状態も良いみたいだ。
このスライムとの遭遇は4回目。初めはあしらって逃げていたのだが、しつこく追いかけられて、やむなく戦闘を始めたのだ。
「やっと倒したぜ」
この世界の大人にスライムを倒せない人はいない。当然、大人(14歳)であるルイーゼも難なくスライムを倒している。
ただ、ここまでこっそり護衛してきて心配していることもある。それも、特大の心配である。
それは、戦闘や薬草採取の度に、やたら大きな声で喋ることだ。
森で、声を出して話す。
これは、日本の森にいるとは別次元の危険をもたらす。薬草の森にいるのは、ゴブリン・スライム・ボーンラビット程度だ。
しかし、ゴブリンのグループやボーンラビットの群れに囲まれれば、低ランク冒険者は死んでもおかしくない。冒険者は、命と引き換えに報酬を得ているのだ。
気は進まないが、注意してやるか。
俺は、隠れるのをやめて歩き出す。
「森で大声を出すのは感心しないな」
ルイーゼが剣を構えて振り返った。
「出たな、付き纏い男」
ストーカーと呼ばれたのは初めてだ。ちなみに、初経験の結果、もう2度と経験したくないということが判明した。嫌な初体験だ。
俺は腰につけた皮袋を取り、ルイーゼに見せる。
「近くで薬草を採ってたんだ。あんなでかい声を出してたから、お前の居場所は丸わかりだ」
こういう場合に備えて、ついでに薬草を採取して皮袋に薬草を入れておいた。一応、薬草採取のために来たことになっているからな。偽装しておかないといけない。
「おまえ、何しに来たんだよ」
なおもルイーゼは喧嘩腰だ。こいつの中では俺は不審者のままのようだ。
「最初に言っただろ。この森の先輩として忠告しに来たんだよ」
「新人。雑魚。助言なんて、何様だよ」
どちらも事実だが、ルイーゼに言われると腹が立つ。しかし、これは仕事だ。ここは年上として寛容路線を歩もう。
俺はルイーゼと問答を繰り返す。
「ゴブリンでも油断すると痛い思いをするぞ」
「おまえが雑魚だからだろ」
「森の奥は危険だ」
「この森にビビるとか、さすが雑魚」
「大声出すと魔物に気づかれるぞ」
「わたしはそれなりに鍛えてる。新人野郎と違って」
……。
この不毛なやり取りで分かったことは、ルイーゼに話を聞くつもりがないということだ。こればっかりは、自分で経験しないと危険度合いがわからないのかもしれない。
内心、結構苛立っていた俺は、捨て台詞を残して遠くから再びルイーゼを護衛することにした。
「俺の方がおまえより年上だからな。気をつけろよ」
年下の女の子に対して、年齢しか威張れる点がないとか、男として終わっている。
童貞の俺でもわかる悲しい事実は、俺の精神に確実にダメージを与えたのだった。
上田洋介 Lv.3
HP:16/16 MP:62/62
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.2
治癒魔法 Lv.3
剣術 Lv.2
観察術 Lv.2




