第20話 薬師の護衛①
「ここであってるよな……」
俺は、教えてもらったときのメモを見返しながら、小声でこぼす。
この荒れた小屋で本当に合っているのだろうか。人が住んでいるという感じではない。
でも、教えられた通りの道順で来たから本当のはず。
「こんにちはー。誰かいますか?」
ノックをしながら家の中に問いかける。特に物音はしていない。やっぱり家を間違えたか。それとも単に留守なのか。
よく見れば、庭には見たことあるような薬草も生えているし、扉の前までは草が伸びてきていない。人の出入りがあるからだろう。
俺は今日、ギルドで薬草採取の依頼を受注してきたが、いつもの薬草採取とは少し違う。
この依頼で行うのは、薬草を採取する薬師の護衛と手伝いだ。研究と調合ばかりの人が多い薬師が1人で森に入るのは危険というわけだ。
多くの護衛依頼では、推奨ランクが1人前とされるDランク以上になっている。
しかし、俺もお世話になっている薬草の森の難易度は低いので、Eランクの俺でも運よく依頼を受注できたのだ。
まあ、薬草の森を護衛してもらう必要がある人なんて滅多にいないし、護衛する側もちょっと馬鹿らしくなって受注しないので、珍しい依頼らしい。
そんな依頼でも、初めて護衛をする俺には貴重な経験になるはずだ。全てギルド嬢のヒルデさんの受け売りだけど。
「坊主、何かようかね」
「うわっ」
急に話しかけられたのでびっくりした。いつの間にか、俺のすぐ横にはローブを着たおばさんが立っていた。おばさんというより、おばあさんというぐらいの歳だ。
「あのー、ギルドの依頼で来たんですけど」
すると、おばあさんは納得した表情を浮かべた。
「ああ、あの依頼かい。それにしても、随分早く受注してくれたもんだね。ちょっとばかし、時間がかかるかもしれないって言われたんだけどねえ。まあ、家にお入り」
俺はおばあさんに続いて家の中に入った。案内されたのは、普通のリビングだった。
外の様子からもっと古めかしいものを予想してたんだけど、むしろ新しく感じる。俺がいつも泊まっている宿「東」並みの清潔さだ。
「ほれ、ジュースさね」
「あっ、ありがとうございます」
この国では、ジュース=アルコールが少ないワインである。俺はこの国の人には若く見えるらしく、初対面の人にほぼ必ずジュースを出される。
実のところ、ワインはまだ慣れないのでありがたかったりする。
「では遠慮なく」
うん、いつもの味だ。ってあれ。
「か。か。辛っーーい」
なんだこの辛さは。これは、日本で食べた激辛ラーメンに勝るとも劣らぬ辛さだ。
こんなに辛いのに冷静だということは、観察術のスキルが発動しているな。それほど辛いということか。
俺は脳内で「キュア」と唱えて、レベル2の治癒魔法を発動した。
「な、何とか治ってきた。はぁ」
くそ、まだ辛さが残ってるぞ。どんだけ辛かったんだよ」
「はい、水」
「どうも」
俺は水を一口で飲み切った。これで本当に落ち着いてきた。
「おい、ババア。これどういうことだよ」
こんなやつ、おばあさんって呼ぶ必要はない。ババアで十分だ。
「何、わしの可愛い孫娘を護衛する冒険者の実力を調べたくてな」
こいつ、完全に悪気がないな。水を出したから助けてやったとすら思ってそうだ。なんてやつだ。
「孫娘?」
どうも依頼に関係するようなのでしぶしぶ質問する。
「そう。孫娘が初めて森に1人で行くのをこっそり護衛して欲しいんじゃ」
俺の目は節穴ではないからな。危険なワードを見逃さなかった。
「こっそり、なのか?」
すると、ババアは当然と言わんばかりにうなずいた。
「あのじゃじゃ馬、わしが護衛を連れて行けと言っても無視するじゃろうからな。こっそりついていって欲しいのじゃよ」
じゃじゃ馬って。漫画にはよくいるけど、現実にそんなやつがいるとはな。でも、この祖母にして、じゃじゃ馬孫娘ありと思ってしまった。
それにこっそりということは、護衛なのに近づけないということだ。難易度が上がったな。だから、依頼の割に報酬が高かったのか。
「確認だが、薬草の森の奥には行かないだよな」
これだけは聞いておかないとな。奥側に行かれて魔物に囲まれれば、助けきれないだろう。
「あやつが扱える薬草に、森の奥で採れるものはない。安心せい」
「なら、安心だ。それで、いつから依頼開始なんだ?」
すると、婆さんが急に黙った。俺が変だと思った瞬間には急接近された。そして胴体を掴まれ、近くにあったクローゼットの中に投げ込まれた。
ドスンという衝撃が体に走り、ばあさんにクローゼットの扉を閉められた。
「痛いな、これ。おい婆さん、急にどうしたんだよ」
というか、こんなに早く動けるなら、孫娘の護衛いらないでしょ。自分で護衛できるし、何だったら戦闘法を教えたっていいだろう。
「ばあちゃん、帰ったぞー」
この声は。そうか、孫娘が帰ってきたから急いで俺を隠したのか。
なるほど。なるほど。それなら仕方ないね。
いや、納得しないからね。俺はそんなに甘くないぞ。俺を投げる必要性なんて全くない。普通に言ってくれれば、俺だって隠れただろう。
それに、この婆さんどうやって孫娘が帰ってきたってわかったのか。さっきのことといい、謎が多い婆さんだ。
「ルイーゼかい。よく帰った」
これが孫娘か。年はサラよりも少し年上、14歳くらいだろう。くすんだ金髪に茶色の目。頬に少しそばかすがある。街の女の子というより、村の女の子という印象を受ける。
なお、俺の村の知識はラノベとRPGゲーム由来なので偏見しかない。
「ばあちゃん、誰か来てたの?」
ああ、コップはそのままだったな。激辛ジュースの方は片づけられているが、水の方はお変わりしてまだ中身が残っていた。
「ああ、いつも薬草の森に行っているという新人低ランク冒険者に来てもらったんじゃ」
確かに、俺は新人低ランクの底辺金欠ワケあり冒険者(そこまでは言ってない)だが、この婆さんに言われるとすごい腹立つな。
正しくても言ってはいけないことってあると思う。
「ふん、どうせそいつ、わたしより弱いんだろ。なーあ、わたしも森に行っていいだろ?」
中2の女の子に格下扱いされるのは、少し苛立つ。だが、なぜだろう。さっきの婆さんの発言のおかげでそこまで苛立たない。ちっとも嬉しくないけど。
「まあ、ヨースケを悪くいうな。あやつも苦労してるんじゃ」
婆さん、それじゃ全然フォローになってないからね。弱いってところを全く否定してないから。
「ぷ。変な名前」
いや、その反応が地味に傷つくんだ。この街に来てから、会う人会う人に名前の由来(嘘)を説明しているからな。
その度に「名前まで勇者さま風って。よっ、Eランク勇者さま」とかめちゃくちゃ煽られてるんだぜ。
俺がスルースキルを身につけたぼっちじゃなかったら、どこかで殺傷沙汰になっていたと思う。
「まあ、そうじゃな。ヨースケの話からしても森の奥に行かなければ大丈夫じゃろう」
「それじゃ」
ルイーゼの瞳はキラキラしている。
「気を付けて行ってくるんじゃぞ」
婆さんの発言を受けて飛び上がった少女は、奥の部屋から自分用の装備を引っ張り出して身につけると、意気揚々と駆け出していった。
俺はクローゼットから抜け出した。
「確かに、あれはじゃじゃ馬だな」
「うん、あのままじゃ夫になるやつなんて見つからんじゃろう」
うーん、中世ヨーロッパ風な世界ではちょっと異質な存在だろうな。いや、現代でもあんな女性は少ないだろうが。
「ええと、俺はあいつを追ったほうがいいのか?」
「そうじゃ。依頼は頼んだぞ、坊主」
やっぱりか。うーん、なんか嫌な予感がするんだけどな。なにか、厄介ごとに巻き込まれそうな。
でも、ここまできて依頼を放棄するわけにもいかないし。やるしかないか。
「最後に聞いていいか?」
俺はリビングを出る前に後ろに振り返った。
「婆さん。あんたの名前を教えてくれ」
「何かと思えば。せめて孫ことを聞かんかい。わしの名前はゲルダじゃ。ゲル婆と周りから呼ばれとる」
なるほど、ゲル婆か。言われてみれば、聞いたことのある名前だ。俺がギルドに収めた薬草の一部がこの婆さんに流れていたからだろう。
「じゃあ、ババア。行ってくるぜ」
後ろから「ゲル婆と呼ばんかい」という声が聞こえた気がしたが、俺は気にせず東門の方へと向かっていった。
上田洋介 Lv.3
HP:16/16 MP:62/62
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.2
治癒魔法 Lv.3
剣術 Lv.2
観察術 Lv.2




