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第19話 ゴブリン狩り④

 


 ゴブリンリーダー。


 俺の魔物に関する知識によると、ゴブリンの強さは、モブ(F)→ホブ・マジシャン・アーチャー・アサシン(E)→リーダー(C)→ジェネラル(B)→キング(A)という順番だ。(かっこの中は、冒険者ギルドの推奨ランク)


 ゴブリンリーダーはキングとジェネラルほどじゃないが、相当強い。ベテランのCランクが倒すような魔物だ。


 そして、EランクとCランクの間にはかなりの壁がある。冒険者歴でいえば、1年目の新人と10年目の歴戦のハンターぐらいの差。


 何が言いたいかというと、ふつうは俺たちだけでは戦えない。


 アイコンタクトで逃げようとしたとき、リーダーは急速に接近してきた。


 マルクスが攻撃を受ける。マルクスの動きは早いが、リーダーはそれ以上だ。図体が大きいくせに、動きも俊敏だ。


「剣が、重い」


 その表情も言葉も、とても重かった。そして、リーダーの動きは俺たちに逃げることを諦めさせるのに十分だった。


 逃げられない。


 自分よりも、自分たちよりも強い敵を前にして、逃げられない。


 暗い気持ちが心を覆う。


 俺はどうしてこんな目に。


 運なのか。


 不運だからか。


「戦う。戦うしかない」


 サラの小さな声がやけにくっきりと聞こえた。マルクスの戦闘音も大きいのに、不思議なことだ。


 でも、その言葉はすとんと心に落ちた。自分の境遇についてあれこれ不満をいっても仕方がない。


 そう、戦うしかない。戦うしかないんだ。


「3人で力を合わせよう!」


 俺は声に出してからサラに続いて戦いに参加した。


 3方向からリーダーに攻撃する。質が足りない分、量で勝負だ。技量が低くても、手数でカバーできる!




 体感時間では、1時間は経った。実際には、数分しか経過していないだろう。その間に、戦況は動かなかった。


 いや、むしろ徐々にリーダーが優勢を確保しつつあった。


 なぜか。


 俺たちは決め手にかけていたのだ。


 ステータスが低く、良いスキルも持っていない俺たちの攻撃力は低い。剣がゴブリンリーダーに当たっても、こいつには大きなダメージは入らない。


 一方、もしリーダーの攻撃が俺たちに1回でも直撃すれば、致命的なダメージを受けるのだ。


 俺もマルクスもサラも、最初の頃のような連打はできなくなり、自分たちの防御で手一杯だった。


 これは、いよいよまずい状況になった。相変わらず、リーダーからは逃げられそうにない。


 俺は()()を使う気になった。あれというほどのものではないけど。


 雷魔法である。


 この世界では、賢者ヒカリ以来、雷魔法は使われていない。だから当然、リーダーも雷魔法には慣れていないはずだ。


 リーダーが持っている剣は、俺の見る限り普通の鉄剣だ。ゴブリンたちは人類が作った剣を拾って使う。


 そして、魔物が持っている人造の剣は、人間が付与する特別な力を発揮できない。


 つまり、リーダーが使っている剣は電気を通す可能性があり、その場合、やつは初めての電気による衝撃で剣を落とすかもしれない、ということだ。


 剣さえなければ、3人で一気に攻めて討伐できるだろう。


 とはいえ、マルクスとサラの2人には、できるだけ雷魔法が使えるとバレたくない。


 俺は、ジリジリと負けが近づいてくるのを感じながら、2人の死角に入るのを待った。その間に集中力も高めて、いつでも魔法を発動できるようにした。


 よし、今だ。


「ボルト」


 小声にも関わらず、魔法はきちんと発動したようだ。電光がリーダーの剣まで走っていった。そして、リーダーは低い声で驚きを示し、剣を離れた場所まで投げた。予想通りだ。


 俺はすかさずマルクスとサラに向けて叫んだ。


「剣を落とした!今がチャンスだ!」


 言い切ってすぐに、リーダーに斬りかかる。何度も通用しないだろうというのは、俺が1番わかっている話だ。この機会に、このブサイク野郎を仕留めるんだ。性別なんて知らないが。


 俺の声で状況を理解したのか、本能的にチャンスだと察知したのか、マルクスが攻撃に参加してきた。サラもそれに続いて剣を振るう。


 3方向からの剣に、リーダーは避け切れずに傷を増やしている。運がいいことに、俺たちがリーダーを追い詰めていったのはやつの剣とは反対方向だった。


 いける、いけるぞ。


 リーダーも自分のピンチを理解できるのだろう、焦っている気配を感じる。乱戦中にもそんなことがわかるなんて、もしかして観察術のスキルが働いているのか?それなら、嬉しい誤算だ。


「よっしゃ」


 マルクスが喜びの声を上げた。リーダーの隙をついてマルクスが右目に剣を刺したのだ。これでなんとか倒せそうだ。


 俺の緊張が少し和らぎかけたそのとき、リーダーが途轍もない、大声を上げた。


 その声で別にダメージが入ったわけではなかった。ただ、俺たちはその声を聞いて、一瞬体が固まってしまった。


 それがリーダーの狙いだったのだろう、やつはサラを目掛けて突進してきたのだ。俺の体と心はますます固まってしまった。


 まずい、サラがやられる。それはだめだ。でも、どうしようもない。


 体は動かないままだった。


 しかし、俺の予想は杞憂だった。サラは、固まっている振りをしていたのだ。リーダーが近づきすぎて戻れなくなったのを見計らって、剣を鋭くその腹に突き刺した。


 リーダーは右目を刺されたとき以上の悲鳴を上げた。それが、やつの、ゴブリンリーダーの断末魔となった。


 マルクスはリーダーの死体に寄り掛かられたサラのところに駆け出した。死体をすぐにどかし、サラに抱きついた。


 あまりの高速移動に、それはさっきやっておけば……と思ったのは、ここだけの秘密だ。


「サラ、俺、サラが死んじまうと思って。そしたら、すごい胸が痛くなってさぁ」


 マルクスは泣きじゃくりながら、サラに話しかけている。


「マルクス、私が簡単に死ぬわけないじゃない」


 サラは泣いてこそいないが、涙目だ。


 その後も、「俺がもっとしっかりしておけば」「私がゴブリンたちに攻撃するって決めたんだから」というような会話が続いた。


 よく言えば、2人の絆の深さを知ることができた。さすが幼馴染ということだし、これを機会にますます2人の関係は深くなるだろう。


 悪く言えば、2人の甘い空気に俺のボッチ感は鰻登りだった。でも、不思議とそれを憎む気にはならなかった。


「そろそろいいか」


 俺は泣き止んできた2人に声をかける。魔物が出る森の中、しかも魔物の死体のすぐ側に長時間留まることは危険だからだ。


 2人は顔を真っ赤にして、返事をしてくれた。青春だなぁ。(なお、当方16歳)


 しきりに謝るマルクスとサラに気にしていないことを伝えた後、サラには無料のサプライズをしてみた。


「キュア」


 レベル3の治癒魔法だ。実は、リーダーの死体に寄り掛かられたときに足を怪我していたそうだ。マルクスと謝りあっている会話の中で知った。


「私、感激です。まさか無料でこんな治癒魔法をかけてくれるなんて……」


 これも気にしないように言ったのだが、サラから丁寧に説明されてしまった。


 教会の治癒魔法は高いということ。


 冒険者に治癒魔法使いはほとんどいないこと。


 無料で他人に奉仕できるのはまさにテバノラ教の教えそのものであるということ。


「わかった。わかったから」


 なおも不服そうなサラを宥める。すごいことは理解したが、ちょっと感動しすぎだろう。前回もやったし。


 それに、絆深めタイムを中断させた上に、サラが目をキラキラさせながらすごい笑顔で俺に感謝してきたので、マルクスが親の仇のごとく、俺を睨んでいるのだ。


 なんでサラはそういうとこに気がつかないんだろう。俺は強引に話題を変えることにした。


「今日の目的は達成できたわけだし、早いけど、街に帰らないか?」


 マルクスとサラはお互いの顔を見た。


「ヨースケがそういうなら」


「俺も賛成だぜ」


 満場一致で帰還ということになった。


 帰り道は今日の戦闘のことで盛り上がった。あのときの動きは俊敏だったとか、あそこはこうすればもっと早く倒せたとか、そういう話だ。


 死にかけたというのに、サラとマルクスの2人は元気で、俺は冒険者のメンタルの強さに驚いた。


 あと、ステータスを確認したら、身体レベルが3に上がっていた。


 今日はたくさん魔物を倒したからな。これまでの2週間の蓄積もあって、レベルが上がったのだろう。戦闘経験以上の成果があり、俺も大満足だった。




 街に着いて冒険者ギルドに入った。今日の成果を披露すると、受付にいたヒルデさんに驚かれた。


 まあ、Eランクの3人組がゴブリンリーダーを倒すのはすごいよな。あくまで常識の範疇だが。


 しかし、マルクスがヒルデさんにちょっと自慢してるな。早い時間ということもあり、いつもならいる先輩冒険者たちもいないから、ストップが効かないようだ。


 知り合いの綺麗な大人のお姉さんにかっこいいところを見せたいのだろう。ヒルデさんは近所のちびっ子の成長した姿に感動しているという感じだ。


 でもなマルクス、それはダメなんだよ。特に今日は。だって、ほら。サラがものすごい形相でマルクスを睨んでるからね。


 給料日のようなテンションだったサラの機嫌は、今となっては夏休み明けに宿題が終わっていない小学生並み。


 さっき森で俺に近づいていたという批判はダメだぞ。それはそれ。これはこれなのだ。女心は複雑怪奇と知るがいい。


 なお、これは年齢=彼女いない歴のこじらせ男子高校生の心からの助言である。


 現実に基づいていないとか、お前が言うと説得力が皆無だとかいう批判は一切受けつけないので悪しからず。


 俺はそういう意識により、ヒルデさんによく思われている(と信じている)。


 マルクスが理由もわからないまま、サラの機嫌を直すのを見届けてから。


「かんぱーい!」


「「かんぱーい」」


 俺は今、ギルドの隣の酒場で2人とエールを飲んでいる。この世界では10歳から酒が飲める。それ以下の子供は度数が低い酒を飲む。安全な生活用水が足りないからだ。


 酒場の看板娘はマルクスたちの知り合いで、よく遊んでくれたお姉さんなのだそうだ。


 ギルドでの失敗を踏まえて、マルクスは一定の距離を置いたままの対応だ。えらいえらい。


 酒場で、俺たちはよく飲んだ。よく遊んだ。よく楽しんだ。依頼の成功を祝い、今後の活躍を祈った。


 詳しいことは覚えていない。正直、安物の異世界エールはあまり美味しくなかった気もする。


 しかし、とても素晴らしい時間だったと記憶している。


 俺にはそれで、十分なのだった。




上田洋介 Lv.3

HP:16/16 MP:49/62

ジョブ:雷属性魔法使い

スキル:雷魔法Lv.2

    治癒魔法Lv.3

    剣術Lv.2 

    観察術Lv.2


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