第18話 ゴブリン狩り③
昼食を食べ終わった後、俺・マルクス・サラの3人はゴブリン探しを再開した。マルクスとサラの2人はやる気がみなぎっている。若いって、素晴らしい。おじさん(16歳)は敵わないよ。
「そろそろ、コボルトと戦いてぇな。ゴブリンばっかはつまんねぇ」
マルクスは午前中の疲れは完全になくなったらしい。俺にはその気持ちはわからない。戦わずに済めばそれに越したことはないと思う。その場合、討伐報酬は0だけど。
「マルクス、そんなこと言ってると、コボルトに囲まれちゃうよ」
サラがたしなめている。もしかして、この世界にもフラグという概念があるのだろうか。俺も一級フラグ建築士の称号を持ちたかった……。
サラが立ち止まった。フラグ解消?
「種族はコボルト。数は3匹」
雰囲気がガラッと変わる。戦闘モードだ。
コボルトは、人型・犬顔・小柄の魔物だ。またしてもテンプレに沿った魔物である。ゴブリンとよく似た魔物だが、違う点もある。
最大の違いは、種族が多くないことだ。ゴブリンのように、マジシャンやアーチャーはいない。その代わり、ほとんどの個体が盾を使う。
俺たちの前に姿を現したコボルトたちも盾と剣を持っていた。
「モブコボルトだ。1対1で問題ない!」
「わかった!」
俺はマルクスの声に反応した。マルクスは早速、コボルトに斬りかかっている。俺はサラに目配せしてから目の前のコボルトに剣を向けた。
初めてコボルトと戦う。盾を持った相手とやるのも初めてだ。俺の下手な剣術では、相手をするのは大変かもしれない。剣術Lv.2というのは駆け出しレベルだからな。
何度か攻撃してみる。鍔迫り合いは起こらない。コボルトは右手だけでもつ片手剣のスタイルだから、剣の攻撃は軽い。こちらが深手を負うという感じではない。ただ、盾で守られると、相手には攻撃が届きそうもない。どうしたものか。
コボルトの剣が来たので、半歩下がる。顔の近くを剣が通ったとき、少し変な気がした。俺はさらに1歩下がってから剣を構えて警戒する。そして、コボルトを観察する。
よし、思った通りだ。剣がかなりボロい。ところどころ錆びている。
この世界の剣は、あまり詳しくないが西洋式の剣だ。鍛冶スキルの力で作られていて非常に長持ちする。
俺の剣はこの2週間でもあまり使っていないし、習った方法で手入れしているから折れる気配はない。初心者にも使いやすい、良い剣だ。
しかも、この手の剣には都合の良い特徴がある。それは、人類にしか長持ちしないことだ。魔物が使うと、あっという間に弱っていく。
だから、ゴブリンなどが人間から奪って使う剣は、いつもボロいのだ。もともとスキルというのは、魔神の眷属である魔物に対抗するために、神々が人類に与えたものだからだといわれている。
それが真実かはわからないが、実際に魔物が持つ剣はボロいという事実が重要だ。
俺は、隙を出さない程度に剣に重さをつける。特にボロそうな剣の中腹あたりを狙う。コボルトはなぜ俺が攻撃スタイルを変えたのか、わかっていないようだった。
そこまでの知性はないのか?
3度目の攻撃で剣が中程から折れた。案外、早かった。コボルトは突然剣が折れたので、かなり動揺している。明らかに変な声をあげたからすぐにわかった。
相手は盾だけになり、攻めあぐねている。特殊な仕組みもない盾で攻撃するのは難しいだろう。防戦一方では、いつか俺に防御を突破されてしまう。
俺の剣を盾で防ぎ続けていたコボルトが、一気に攻めかかってきた。こいつ、思い切り良すぎ。
魔物であるコボルトが勢いよく迫ってくるのは正直、怖い。でも、立ちすくんだら死ぬだけだ。
俺は気力を出して、直前でコボルトを避けた。自分でも驚くぐらい、機敏な移動だった。
呆気に取られているコボルトが勢いを殺しきれないうちに、俺はその足を斬り付けた。盾しかないこいつの動きが遅くなれば、仕留めやすくなると考えたからだ。
コボルトは大きな悲鳴を出し、盛大に転んだ。
俺は後ずさる相手の足に再び剣をさして立ち上がれないようにした。異様に不快な悲鳴を出すコボルトを前に、俺は後ろに誰もいないことを確認してからトドメを刺した。声は、急速にしぼんですぐに聞こえなくなった。
俺は戦いの場へと振り返る。息を整えながら見ていると、戦況は、サラが一進一退、マルクスは勝利までもう少しといったところだ。実力からして、順当な結果だろう。
俺は、サラの方に助けに入った。
「助太刀致す」
「スケダチ?何かよくわからないけど、助けてくれるのならありがとう」
ええっ、助太刀通じないのか。この翻訳システム、妙なところで融通聞かないよな。俺の言ってみたい言葉ランキング第13位ぐらいだったのに。
コボルトは2人同時には対応できないようで、一気に形勢は俺たち有利になった。
そして、サラの攻撃を避けきれずにコボルトは右腕に攻撃を受けた。剣を投げて逃走しようとしたが、サラの追撃で背中からザクッとやられた。ピクリとも動かなくなった。
隣を見ると、マルクスもすでにコボルトを倒していた。まあ、3人とも危なげない勝利だ。
俺たち3人は討伐証明を取ってから少し離れて休憩する。コボルトの魔石はゴブリンのものと同じくらいの魔力を感じる、気がする。俺の観察スキルはまだまだだ。
「本命のゴブリンどもを見つけるべく、出発だ!」
マルクスの威勢のいい掛け声の下、俺たちはゴブリン探索者に復帰した。いい汗かいたぜと休憩中に元気に話していたマルクスと、それに流れ作業的に受け答えしていたサラの体力はさすがだ。
俺は昼過ぎからもう帰りたい気持ちだった。今も、継続中である。
それから、40分ほど経った。その間、1回スライムを見かけたが、面倒だから放っておいた。こういう気持ちがスライムが大量に生き残る理由かもしれない。
そして、俺たちはめずらしい場面に遭遇している。なんと、ゴブリンとコボルトが争い合っているのだ。
別に魔物たちは常に協力するわけではないが、こんな人里近く(この世界では1時間はかなり近い)で争うことはあまりない。人に弱みを見せることになるからだ。
それは魔物の存在意義、人類への対抗という点で問題がある。知性で判断するのではなく、魔物を作った魔神が本能にそうすり込んでいるのだ。
争っているのは、コボルトが4体とゴブリン5体だ。言葉は全くわからないから何を争っているのかはわからない。あっ、戦い始めたぞ。
俺は他の2人と一緒に遠くから事態を観察する。俺たちに気づかれれば一緒に襲ってきかねないし、他の魔物が来ることも想定されるからだ。
「ゴブリンたちが勝ったな」
マルクスの言った通り、ゴブリンたちが勝った。誰も死ななかったが、全員弱っている。構成はホブ、マジシャン2、アーチャー2。
こいつらを倒せば、周りのコボルトたちの死体も俺たちのものだ。勝てるか?
「奇襲で2体以上倒せれば、そのまま続行。1体以下なら、即撤収」
サラから簡潔な指示が出た。本当に、12歳とは思えないぐらい判断力がある。
静かに少しずつ近づいた俺たちは、木陰から一斉にゴブリンたちに襲いかかった。
奇襲で俺とサラの2人でアーチャー2体を討ち取った。マルクスが攻撃したホブは思ったより元気で、対応されてしまった。
ともかく、2体討ち取った以上、作戦続行だ。マルクスがそのままホブ、右のマジシャンは俺、左のがサラ。
先ほどの戦いでマジシャンたちはやはりMPを使い果たしていたようで、杖で攻撃を凌いでくる。
いくら俺が弱くても、魔法の使えないゴブリンマジシャンは敵ではない。30秒もしないうちに相手の体勢を崩して致命傷を与えた。
サラもほぼ同じタイミングだった。相手のマジシャンたちの杖はどちらも剣の攻撃に耐えられなかったのだ。3人でホブに攻めかかり、やつを討ち取った。
なんというか、楽勝だった。
「チョロい奴らだったぜ」
待て、マルクス。それは思ってもいいが、口に出すのはまずいんだ。そういうことを言うと、たいてい……。
「何か来るよ、それもかなりでかい!これはっ!」
サラの警戒を呼びかける言葉が終わって瞬間、俺たちの前に新たなゴブリンが現れた。
「ゴブリンリーダー」
マルクスの弱気な声が辺りに響いていた。聞いたことのない声音は、俺に事態の複雑さを予感させたのだった。
上田洋介 Lv.2
HP:14/14 MP:58/58
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法Lv.2
治癒魔法Lv.3
剣術Lv.2
観察術Lv.2




