第16話 ゴブリン狩り①
この街に来てから2週間が経った。この間、俺は薬草採取を繰り返した。俺の実力では魔物狩りを主軸にするのはリスクが大きいと考えたのだ。相変わらずぼっちだし。
幸い、この街では常設依頼の薬草が何種類かあって俺でも生活をすることができた。錬金術やポーション作成に使うそうだ。
でも、金はあまり貯まらない。1本あたりの単価が低いし、何より俺が魔物との戦闘を避けたから。
森の周辺部分でしか採取しないので最近は少し取りづらくなっている気もする。同業のベテランが森の奥で効率良く採取しているそうで、彼らとの成果の違いに落ち込んでいたりもする。
薬草を採取する間に、森でも戦闘をした。薬草の森では、ゴブリンとスライム、ボーンラビットぐらいしか出ないが、少しずつ狩ることで戦闘経験が溜まった。
今では、1対1なら普通にゴブリンを倒せる。1対2でも逃げることはできるようになった。
ちなみにホーンラビットではなくボーンラビットなのは、骨を煮込むと美味しいだしが取れるからだ。
この中世ヨーロッパ風世界でだしの話が聞けるとは思わなかった。しかも、ツノが生えているのにホーンではなくボーン。
なぜか過去の異世界人のだしへの執着心を感じた。まさか、ラーメンを追い求めるヤツでもいたんだろうか。
上田洋介 Lv.3
HP:14/14 MP:58/58
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.2
治癒魔法 Lv.3
剣術 Lv.2
観察術 Lv.2
ステータスは剣術がレベル2になり、身体レベルが3になった。剣のレベルアップは、魔物との戦闘のおかげだ。
経験値を得ているので身体レベルも上がった。剣をうまく振れるようになったことも、ゴブリンを相手にできる大きな要因だ。
だが、他のレベルはそのまま。異世界人の成長が早いといっても、チート的な強さではないようだ。残念。
また、宿「東」の人たちとも日常的に会話をしている。
女将さんとは相変わらず微笑ましく見守られている関係だ。この世界基準では俺は立派な大人のはずなんだが、若干、子供扱いされている。
でも、それを受け入れてしまっている俺がいるんだ。もう少しで新たな世界がひらけてしまいそうだ。
エレンちゃん(5歳)とは仲良くなった。俺がする奇抜なお話が大人気だ。桃太郎とか、シンデレラとか。いい子なのでついつい甘やかしてしまう。
一方で、父親の大将には警戒されている。俺が面白い話をすることで父親としてのハードルが上がっているらしい。
その上、俺にエレンちゃんがとても懐いているので娘を取られたように感じている(と女将さんから聞いた)。
俺とエレンちゃんが長話をするのを妨害しようとするが、それがかえってエレンちゃんの心を引き離している。
役に立つ話をしてくれるのは、同じ宿は泊まっている夫婦の冒険者だ。気ままに各地を旅していて、最近1か月はメルツィヒにいるそうだ。
2人ともベテランのDランク冒険者で、Cランクも近いという。いろんな帝国の冒険者の話を聞いて、俺にもイメージが浮かんできた。常識を埋めるという面でも助かった。
俺がなぜこのような回想をしているかというと、ある人たちを待っているからだ。おおよその集合時刻から、かれこれ1時間ほど。流石にそろそろ来るだろう。
俺がいる北門の詰所からハンスさんが出てきた。今日は北門の担当みたいだ。衛兵の人は、門番・街の巡回・訓練・休みという流れで動いている。4日に1回は休みだな。
「ヨースケさん、こんにちは。誰かを待ってるんですか?」
「ああ、待ち合わせでな」
ハンスさんともそれなりに話すようになった。ハンスさんは隣街の出身で、まだ知り合いが少ないらしい。だから、俺にも積極的に話しかけてくれる。
果物が好きで、どうやら街に好きな幼馴染がいるみたいだ。本人は「ぜ、ぜんぜん好きじゃありません」と隠しているつもりなのだろうが、バレバレだった。
「ヨースケ、ごめん、長く待たせちゃって」
「ヨースケ。ごめんなさい。マルクスが腹痛で」
マルクスたちとサラだ。この2人こそが今日の俺の待ち合わせ相手だ。俺たちはこれから森へゴブリン狩りに行く約束なのだ。
「腹痛って、大丈夫なのか?」
俺にはこの世界の健康関連のことはよくわからない。ポーションとかで治せないものなんだろうか。
「平気、平気。ちょっとしたやつだよ。こんなことで超高い、高ランクポーションなんて使っていられないし」
「そうそう。マルクスも少し休めばいけそうだったからね。ま、私たち庶民にはよくあることでしょ」
衛生環境は良さそうに見えても、風邪ぐらいの病気はよくあると。病気を治せるのは高ランクポーションだけで、それは高いのだろう。
つまり、治癒魔法でも高レベルにならないと、病気は治せない可能性が高いということか。
「ああ、そうだな。もう出発できるか」
太陽の位置と日の出からの時間感覚的には、10時近くだ。でも、この世界では時間を厳しく守るという考えはない。
時計は一般には普及していないから、日の出、日の入り、正午ぐらいの感覚しかない。地球でも時間が重視されるようになったのは、近代以降という話を聞いたことがある。
今2人に謝られたのは、単純に稼ぎが減るから。そして、稼ぎが減るのを謝るのは、俺がパーティメンバーではないからだ。
この世界では、パーティは教会で結成する。神職の人が特別なスキルを持っていて、最大6人までパーティにできる。パーティになるとメンバー間で経験値が均等に分割されるようになる。
それなりに金がかかり宗教上の意味もあるから、パーティをあまり変えることはない。マルクスとサラは同じパーティだ。
「ああ、ゴブリン狩りだ」
俺たちは今日、ゴブリン狩りをする予定だ。一昨日、マルクスから誘われた。食い過ぎで金が足りないと言われた。
本当は昨日のうちに行こうという話だったのだが、決心が出来なくて昨日ではなく今日になったというわけだ。
「では、出発しましょう」
サラの音頭で俺たち3人はゴブリン狩りのために出発した。
目的地は、薬草の森ではなく別の森だ。その名も、北の方にあるから、北の森。この世界の名付けは安直だな。いや、日本も似たようなものか。富士山が見えるから富士見みたいな。
北の森も基本は薬草の森と同じようだ。薬草の森は東門から歩いて約1時間。北の森は北門から歩いて約1時間。
地理的にもそれほど離れていないから、当然といえば当然だ。違うのは、薬草が少ないのとコボルトが出ることの2つ。
コボルトは人型の体に犬の顔で強さはゴブリン並み。まさにテンプレだ。昔からの伝承のコボルトではなく日本人のオタクが愛するコボルトに似ているというのは、結構不思議だな。
俺は、この討伐計画に関して自分なりに合理的に納得できた。まずは俺の状況。
1人では薬草の森以外に行くのは難しい。かといってこのままでは戦闘能力が上がる前に金がなくなってしまう。
そして、この2人以外に親しい冒険者はいない。この2週間でもギルドでは2人とはよく話したが、その他の人たちは挨拶をしたぐらいだ。
また、マルクスたちの状況。前回、薬草の森で手こずったのは楽ができると思っていたのに奇襲されたから。
今回、準備は万端。この話は嘘ではないと思う。実際、何回もゴブリンの討伐証明を納めているのを見ている。
結局、特に問題なく北の森に到着した。道中では最近の依頼やマルクスの友達の話をした。依頼の方は、ゴブリンがどうの、コボルトがどうのという話だ。
サラが話を盛らないようにちょくちょくツッコミをしていた。サラのツッコミは意外に面白くて、笑ってしまった。
今は生活面の話をしている。マルクスたちは友人たちと大部屋に泊まっているそうだ。友達で部屋を占領してしまえば、夜毎に楽しく会話できるので楽しいと言っている。
「でも、その友達も冒険者なんだろ。なんで違うパーティなんだ?」
同じ冒険者なら、幼馴染4人で一緒のパーティになればいいのに。
「それはねぇ」
サラが呆れ顔だ。何か途方もないことが理由なんだろうか。
「俺は、すごい冒険者になりたいんだ。Aランクでみんなに尊敬される英雄みたいな冒険者に。だから、安定志向のあいつらとは一緒のパーティにはなれない」
「若者はデカい夢を持つべきだ」
俺が即座にした返事が予想外だったのか、2人とも驚いている。そんなに変なことを言っただろうか。
「若者って、ヨースケも私たちと同い年くらいでしょう?」
「そうとも言えるが、3歳は大きな違いだと思う」
「「ええー」」
さっき以上にびっくりされた。どうも、俺の顔からして12歳ぐらいじゃないかって。今年16になるようには見えないらしい。
これは、日本人が西洋人より幼く見える説が、異世界でも確証されているぞ。帝国人を西洋人と分類すればの話だが。
俺は咳払いをして場を仕切り直した。
「とにかく、夢は人それぞれ。笑っていいものじゃない」
俺の言葉にマルクスは感動したようだった。
「そんな風に言ってくれたのは、2人目だ。ありがとう、ヨースケ」
「ちなみに、1人目は私でーす」
マルクスは少し潤んでいるが、サラはニコニコしている。2人の仲の良さを感じた。幼馴染は強い。
誰だ、幼馴染は負けキャラだとか言ったやつは。お似合いにしか見えないぞ。(フラグではないはず)
そして、俺たちの話はなおも続いたが、北の森はもう目の前に迫っていた。
上田洋介 Lv.3
HP:14/14 MP:58/58
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.2
治癒魔法 Lv.3
剣術 Lv.2
観察術 Lv.2




