第14話 薬草採取②
目的地の森が見えてきた。その名も薬草の森。多くの種類の薬草が取れることからこの名前が付いたそうだ。メルツィヒの街にはこれらの薬草を扱う中級以下の錬金術師や薬師が多く住んでいるという。
森にいる魔物はゴブリン、コボルトなどの低ランクの魔物で数はそこまででもない。そいつらもあまり大きく群れてはいないから、囲まれることにだけ注意しておけばいいらしい。
全部ヒルデさんからの受け売りだ。受付嬢だけあってわかりやすく的確な説明をしてくれた。
俺は街道からの脇道から森に入った。今日の目当てであるヤン草を早速探し始める。
ヤン草はユキノシタみたいな草だ。日本でもよく見たし、この森にはヤン草に似ている草は生えていないので俺みたいな初心者にはうってつけだ。
「よし、初めての異世界での仕事。夢の冒険者生活の始まりだ。気合いを入れて頑張るぞ」
俺は魔物に遭遇しないように気をつけてヤン草を探した。採取できたのは平均すると10分に1本ほど。
この薬草は傷がついていると買い取り価格が下がるから丁寧に採取した。スコップは持っていないので採取は手作業。慣れない俺は12本取ったときにはでダラダラと汗を流していた。
ヤン草の買い取り価格は、状態が普通のもので1本あたり小銅貨2枚。これまでの作業で宿「東」一泊分をすでに稼いだことになる。
ただ、俺は昼食を買ったし、今後の装備代、もしもに備える貯蓄も含めればもっと稼ぎたいところだ。
「常連になってくれよ」
昼食のことを考えたからだろうか、串焼き屋のおじさんの言葉が浮かんだ。そうだよな、冒険者は命あっての商売。疲れたまま作業を続けるのは怪我の原因になる。
俺は休憩することにして、少し開けた場所で木に寄りかかった。
空を見上げると、木々の間から太陽が真上にあるのが確認できた。ということは、今は12時頃。もう2時間も作業していることになる。
ちょっと待てよ。10分に1本と考えれば、12本取っている時点で12時頃だとわかるはずだ。単純な計算だ。こんなことに気がつかないなんて、俺は初めての依頼に緊張していたようだ。
俺は休憩の大切さを心に刻んだ後、周りに人がいないことを確認した。
「いただきます」
この挨拶も、人前ではすることができないから一応だ。日本にいたときは食事の挨拶なんてどうでもよかったんだが、この世界に来てからは自然とやりたくなる。
そしてやるたびに日本が恋しくなってどうしようもない気持ちになる。日本には帰れないし、クラスメイト、いや、元クラスメイトたちにも会うことはできないのだ。
俺はアイテムボックスから1本だけ串焼きを取り出す。時間経過がないからアツアツのままだ。1番端にある肉にかじりつく。
ウサギの肉だしあまり期待していなかったのだが、タレが絡まっておいしい。どうやってこのタレを用意したんだろうか。このあたりはスパイスが取れる環境ではない。
考察を深めてもよくわからなかったが、俺は食べ終わるまでに決心していた。
「常連になる」
つい意思が固すぎて言葉に出てしまった。俺は慌てて周りを見渡すが、誰もいない。他人に聞かれていたら、またも黒歴史が誕生するところだった。
さらに少し休憩してから俺はヤン草採取を再開した。5分ほどで13本目のヤン草を見つけたときだった。何か音がする。人間という感じではない。もしかして魔物?
俺は剣を抜いて警戒度を高めた。
脇から出てきたのはボーンラビットだった。あの串焼きの肉の原料である。まさか同族の気配を感じて?
いやいや、ふざけている場合ではない。ボーンラビットといえども立派な魔物。現にこちらをじっと見つめている。
俺は気を取り直して、剣で切りかかった。2回、いや、3回。
しかしなかなかウサギには当たらない。やつはすばしっこい。俺が少し苛立ち始めると、逆にウサギが突進してきた。慌てて避ける。危うく足をひねるところだった。
その後も俺は何度か剣を振るうが、ウサギに当たりそうもない。剣術Lv.1では素人レベルだから、当たり前ともいえる。
このままでは埒が開かない。ウサギに疲れた様子はないし、他の魔物が来れば形勢に一気に危うくなる。
俺は周りに誰もいないことを確認した。ウサギが何か来ると感じたのか、やや警戒しているみたいだ。剣を片手で持ち、左手を前に出した。まだ慣れていなくて剣を両手で握りながら魔法を使えないのだ。
「ボルト」
レベル2の雷魔法。ウサギに直撃した。ものすごい速さで飛んでいくので、魔法を使ってから敵がかわすのは無理だろう。
ウサギは重い怪我をしたという感じではないが、未経験の衝撃に動揺している(と思う)。
俺はすかさずウサギに斬りかかる。やつは避けようとするが、魔法のダメージが入っているようだ。先ほどのような機敏さはない。
ウサギは避けきれず、胴体に致命的な打撃が入った。数秒は耐えたが、それからピクリとも動かなくなった。討伐成功だ。
このわずか5分にも満たない戦闘からわかったことがある。
「俺の戦う力はとても低い」
低いというか、低すぎるかもしれない。ボーンラビットはFランク相当の魔物だ。ランクFは登録するだけでなることができるランク。
つまり、この世界に人たちは、素人でも狩ることができるということだ。異世界人の俺が手こずるべき相手ではない。
慎重さだ。今の俺には慎重さが求められている。他の人に馬鹿にされようと、慎重に行動すべきだ。その馬鹿にしてきた人が俺のことを守ってくれるわけでもない。
この世界では10歳で成人だから、俺だって大人。迷惑をかけているわけでもないから、むしろ文句を言う方がおかしいのだ。俺はひねりかけた足首にレベル2の治癒魔法をかけた。
ウサギとの戦いの後は、森の奥に深入りしないように注意して探した。魔物の足跡を見つけたり声を聞いたりしたときも場所を変えた。念には念を入れるべきだと考えたのだ。複数の魔物に囲まれるのは気をつけろって、ヒルデさんも言っていた。
その結果、午後の約2時間で見つけたヤン草は午前中の半分以下の5個。午前の稼ぎと合わせて最大で小銅貨34枚分になる。
今日かかった経費は小銅貨26枚分だ。この調子では暮らせはするが、家計は大変だ。午後の調子が1日続けば赤字ですらある。今使っている剣や防具が壊れた場合も大赤字だ。
この装備は新品だし、野営地跡で手に入れたお金もあるから、すぐには家計がどうこうって言う話ではない。
でも、危険の多い冒険者家業。怪我をするリスクもある。典型的日本人の俺として収支が赤字または貯金がないのは不安だ。両方だともっと不安だ。
そうはいっても、今日のところはこれで街に帰ろうと思う。ここで焦っても怪我のもとだし、日暮れまでには帰りたいからだ。
ここから街まで1時間はかかる。もう3時くらいだ。昨日は午後の5時くらいには日が沈んでいた。街でのあれこれも考えると、やっぱり帰るべきだ。
街道に戻るために俺は森の出口に向かった。そして街道までもう少しというところで、物音がした。森の奥からだ。音がした方向へと目を向ける。物音がさらに大きくなった。
「「ギャウー」」
魔物らしき声がしてきた。どこかで聞いたことがあるような気がする。俺の魔物に関する経験は数えるほどしかないからすぐに思い出せた。
ゴブリンだ。
聞こえたのは2匹の声だった。少なくとも2匹はいる。近づいているということは、誰かに追われているのか。はたまた誰かを追いかけているのか。
考えていると、森の奥側から人型が迫ってくるのが見えた。ゴブリンだと思って、俺は剣を抜いた。しかし、その人型は人間のものだった。
男の2人組。年はどちらも12歳ほど。日本ならランドセル背負ってそうだ。金髪。新人冒険者のような装い。2人とも剣を抜いている。
逃げてるのか?って、ゴブリンだよな。方向も同じだし。でも、冷静に考察している余裕は無くなった。
おい、こっちくるなよ。お前ら、ゴブリンとセットなんだろ。なんでくるのか。そこに街道があるから。予想ができてしまった。
いろいろ文句を言っているうちに、セットでこっちに来る。
いや、来た。
俺たちは目があった。2人のうち、気の強そうな方の子供が言った。(もう片方はおとなしそうだった)
「新入り、俺たちを助けろ!」
上田洋介 Lv.2
HP:12/12 MP:46/54
ジョブ:雷属性魔法使い
スキル:雷魔法 Lv.2
治癒魔法 Lv.3
剣術 Lv.1
観察術 Lv.2




